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【十二の星の華】エメネアと五獣の女王器

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【十二の星の華】エメネアと五獣の女王器

リアクション

「あら、気付かれてしまいましたの?」
 柱の影から現れたのは銀の髪に大きなリボンと花があしらわれた髪留めをしている女性だ。手には、大きな剣を持っている。
「ティセラ、さん……」
 エメネアは彼女を見るなり、その名をぽつと呟いた。
「エメネアの言う『悪い人』は、そちらでしたか」
 目の前のゴブリンを切りつけて、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は宝箱の傍へと駆けた。
「たった1人で、わたくしに敵うとでも思っていますの?」
 ティセラが手にした巨大な剣を振るう。
「ぐあっ!?」
 彼女と宝箱の間に立ち塞がろうとした、イレブンはその一撃に、倒れていく。
「や、やめてくださいーーー!!!」
 護衛の学生たちの間を抜けて、エメネアがティセラに向かって駆け出す。
「エメネア!!」
「エメネアさんっ!?」
 レロシャンや道明寺 玲(どうみょうじ・れい)など護衛に徹していた学生は彼女のあとを追う。
「やはり彼女らか」
 手紙の差出人は『十二星華』と名乗る剣の花嫁たちなのではないかと踏んでいたレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、現れたティセラの姿に納得しながら、エメネアの後を追う学生たちに続く。
「持ち逃げは厳禁だ。みんなが努力したものを奪うのがお前たちか?」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が問いかける。目の前のゴブリンが彼女を逃すはずがなく、近付こうにも近付いていけない。
「別に、宝箱の中身には興味はありませんわ。私が必要としているのは、彼女ですもの」
 ティセラは微笑むと、近付いてきたエメネアの手を取って、己の下へと引き寄せる。
「!!」
 エメネアと捕らわれてしまい、皆、息を飲んだ。
 近付こうにもあっという間に無数のゴブリンたちがティセラたちと学生たちの間に入ってきて、近付くことができない。
「エメネアさん、助けに来ましたよ」
 ヒーローは遅れて登場するもの。
 エメネアのピンチに駆けつけたのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だ。
 部屋の入り口に現れた彼にもまた、ゴブリンの壁が立ちはだかるのだが。
 ライトブレードを構えて、ゴブリンへと対峙する。
「彼女を危険な目に合わすわけにはいかないのです!」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はライトブレードを振るう。剣圧を纏った攻撃は、2度ゴブリンに当たった。
 それでも倒れる気配のないゴブリンは、クリスへと一撃、棍棒を振り下ろす。
「きゃっ!」
 打たれ、思わず声を上げた。
「大丈夫だ。俺が治すから」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がその患部へと手を翳す。痛みは徐々に退いていった。
「退けてはくれないんどすか」
 エンシャントワンドを構えなおし、イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)は声を上げた。ワンドの先から放たれるのは、雷だ。近くのゴブリン1体へと落ちるけれど、倒れはしない。
「邪魔だ!」
 トミーガンを構えたエヴァルトは、機関銃の如く弾を発して、ゴブリンへと痛みを与えていく。
 エメネアの背を護っていたというのに、肝心なところで、護れぬとは。
 少しでも彼女へと近付いて、ティセラから引き離さねば。
「エメネアちゃん、助けなきゃ!」
 ロートラウトは両腕に付けたカタールから爆炎を放つ。
 勇人が手にしたアサルトカービンからばら撒くように放つ弾に、ゴブリンの一部が倒れた。
 幾人かの学生たちがそこからティセラとエメネアに向かって駆ける。
 女王器を手にしたい、グループ女王の器の学生たちも宝箱目掛けて、駆けた。
「わたくしに10人如きのあなたたちで敵うと思ってますの?」
 エメネアの首に腕を回したティセラは、反対の手に持つ巨大な剣を彼女たちを取り囲んだ学生たちに向ける。
「どうだか。おまえたちの目的が何かは興味はないが、それにエメネアを利用するのは止めてもらいたい」
 告げて、レンはアーミーショットガンを構える。
「エメネアに触れるのはそれまでにしていただきたいですな」
 玲もカタールを構え、隙さえあればティセラに斬りかかる勢いだ。
 目の前に、先日の女王候補宣言の舞台を乱した相手が居る。クイーンヴァンガードの一員として同行した美羽もベアトリーチェも、ティセラの隙を窺っている。
 学生たちとティセラ、どちらが先に手を出すのか、緊迫した空気が辺りを覆う。
 その間に、宝箱の方へと駆けていた学生たちが、宝箱へと触れていた。
 宝箱の蓋は硬く開きそうにない。
(貴方の選択を教えて……)
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、宝箱のまま、蓋に触れて、心の中で問いかける。
 けれども、所詮はただの箱なのか。
 何も言葉は返ってこない。宝箱にも変化はない。
 身に着けるのは純白のドレスと光条兵器。
 剣の花嫁として造られたままの姿で、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は宝箱に触れた。
「熱血系女王にあたしはなる! 料理が美味しい国を作るよ!」
 そう告げてもやはり宝箱に変化はない。
(宝箱を開けるには、やはりエメネアが必要なのか?)
 特殊なフィルターを貼った布と、身を隠しながらの行動で、宝箱の傍の柱の影まで移動してきていた強盗 ヘル(ごうとう・へる)は白の剣の柄を手にした。
 幸か不幸か、ティセラは己の方に背を向けている。
 背に、一太刀でも浴びせることが出来れば、隙が出来て、対峙する皆も攻撃するタイミングが出来るだろう。
 そう思ったヘルは、白の剣を抜くと、ティセラへと斬りかかった。
「くっ!!」
 うめき声を上げたのは、ヘルだ。
 後方からの攻撃だというのに、ティセラは巨大な剣を一振りすると、ヘルを斬り付ける。
「ヘルさん!?」
 彼のパートナーであるザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は驚き、声を上げた。魔法的な力場を使用した高速ダッシュで、ティセラに近付き、カタールを装着した腕を振るう。
 けれどもその一撃も止められ、逆に、一振り、傷を受ける。
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が小さな光を呼び出すと、それを明るく照らさせた。目くらましのつもりだ。
 相手が眩んでいると見て、ダリルが左手の甲に形成されたカタール状の光条兵器を振るう。
 だが、居るはずの場所にティセラの姿はない。同時にダリルは背中に痛みを覚える。
 いつの間にか、背後にエメネアごとティセラが回っており、斬りつけられていたのだ。
「皆さん、傷口を見せてください!!」
 フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)が、傷を負った仲間たちを見て回る。傷口に手を翳し、癒そうと試みるけれど、傷はなかなかふさがりそうにない。
「敵わないのは分かりましたでしょう? 道を開けてもらいますわ」
 それぞれの武器を構えたレンや玲に向かって、ティセラが巨大な剣――星剣ビックディッパーを振るった。
 強大な力に、防ぎきれない。
 ティセラはエメネアを連れ、ゴブリンたちに取り囲まれたままの他の学生たちを目にも止めず、部屋を出て行く。