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第5章  Landscaper その2


「古いお城ってドキドキするね!」
「そうだな」

 鳥丘 ヨル(とりおか・よる)は、心躍らせながら花園を歩いている。
 隣のカティ・レイ(かてぃ・れい)も、心なしか楽しそう。

「実は庭師がいた!
 なんてね〜足跡に謎のしかけ、手入れの跡とかないかなぁ」
「モンスターにやられるだろう」
「じゃあ花園にはモンスターが出ないから綺麗なのかな?」
「出ないわけないと思うぞ?」
「そしたらさ、魔法みたいな、なんらかの技術で守られているのかな?」
「やっと気があったな。
 あたしも、古代の魔法あたりだと思うけどね」

 ボケているつもりはないのだが、言うたびにレイからつっこまれるヨル。
 絶妙な間を保ちながらのかけあいは、場の空気を和ませてくれた……と。

「ん?」
「どうしたのだ?」

 そのとき、ヨルの【トレジャーセンス】になにかがひっかかった。
 背の低い樹が生えている、まさにその場所に、反応しているらしい。

「ここに、なにかありそうなのかな?
 どれ……」

 駆けよってきた四条 輪廻(しじょう・りんね)が、樹の前に片膝をついた。
 まずは植物を調べ、地面へと手を伸ばす。

「「ぁっ!」」

 刹那、ヨルと輪廻の手が触れた。
 恥ずかしさのあまり、真っ赤になってショートする輪廻。
 数秒間、固まったままだった。

「ぁ、すみません、ヨルさん」
「いえ、ボクこそ……」
「なにしてるんだよ、さっさと調べようぜ!」

 輪廻とヨルを余所に、カティが土へ触れる。
 すると、そこに細い溝を発見。

「これこれっ!
 反応したのってこれだろ!?」
「おぉっ!」

 指でたどれば、地面が正方形に切りとれた。
 そしてその部分は、持ち上げれば地下への入り口へと変貌する。

「行くしかないねっ!」

 腰に下げていた懐中電灯を、ぎゅっと握りしめたヨル。
 先陣きって、下りていった。

「こういった場合、何者かが誰にも気づかれずに手入れをしているか、お化けなどのモノのセイというのがセオリーですが。
 さて、どういった感じでしょうかね」

 ついて下りてゆく集団のなかには、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)の姿も。
 ロマンを追い求めて、こんな森の奥までやってきたのだから、行かないなんて選択肢はなかった。

「貴仁様、お待ちください」
(はぁ……貴仁様のいつもの物臭がはじまりましたわね。
 まぁ、花園の安全確認にもなるのでよいのですが……)

 常闇 夜月(とこやみ・よづき)も、やはり貴仁についていく。
 内心では、少しだけあきれながらも。

「お茶会のう……」
(エロイことがないのも、まぁたまにはよいかの)

 医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)も、夜月のうしろから階段を下っていく。
 今日はなんということもなかろうと、安心しきっていたのだが。。。

「ん?
 なんかあっちに感じるものがあるような気が……行ってみようよ!?」
「っきゃっ!」
「あっ、エロ本、ごめんよっ!」

 段が終わった瞬間、走り出した鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)に突き飛ばされた。
 倒れ込んだらまぁ、マントがめくれて可愛いビキニ姿があらわになる。
 立ち上がろうと動くさまが、なぜか今日もエロかった。

「貴仁様、ここからはわたくしが先導いたしますわ。
 モンスターや、それでなくとも危ないものがないとはかぎりませんので……」
「お、あぁ、ありがとう」
「お茶会楽しみだよね。
 でも、みんなのお手伝いしなくてもいいのかな?」
「子どもには分かるまい。
 ここを見て回るのも立派な仕事じゃ」

 まっすぐになった地下は、1人でとおるのが限界。
 夜月、貴仁、房内、白羽の順に進み、数分で扉にぶちあたった。

「この向こうになにかあるような気がしますわ。
 こんこんこん、誰かいらっしゃいませんか〜?」

 泉 美緒(いずみ・みお)が、丁寧に扉をノックする。
 すると、なかから麦わら帽子をかぶった男性が現れた。

「どなたですか?
 こんな地下までいらっしゃった方は、初めてです……」

 エリックと名乗った男性と一緒に、皆は地上へと戻る。
 参加者すべてが、花園へと集まった。

「さて……どこからお話ししましょうか」

 一呼吸置いて、エリックは口を開く。
 自分は機晶姫であり、花園の手入れはもちろん、リルエールの部屋を整理していたのも、自分であると。
 リルエールが生きた証を、リルエールとの想い出を、消したくなかったのだ。

「彼女は、早くに両親を失いました。
 そのせいか誰にたいしても心を閉ざしてしまい、最初は私にも近寄ってくれませんでした。
 両親からの贈り物を直したのが、きっかけだったのかも知れませんね」

 贈り物とは、書庫で見つかったオルゴールのこと。
 桐箱のふたが開けられず、リルエールが亡くなったのちはエリックも聴けなかったメロディが今宵、蘇る。

「彼女は叔父の勧めを受け、嫁いでいってしまいました。
 ですが晩年、この城へと戻ってきてくれたのです」

 互いの想いも打ち明けた2人は、わずか数年間だけだったが、幸せに暮らすことができたのだという。

「そうですか、この花園でお茶会を……もちろん構いませんよ。
 きっとリルエールも喜ぶでしょう」

 そう言うと、エリックは花園の中心にある石碑へと歩み寄る。
 リルエールの墓石へ静かに、祈りを捧げるのだった。