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第4章  一輪の花の物語 その3


「ふぅん……城は荒れ放題なのに、花園は手入れされているのかい?
 なぜなのか気になるね」
「綺麗ということはやはり、誰かが管理をしているのでしょうか?
 手入れしませんと、雑草が伸び放題になって酷い事になりますよね」
「ロザリンドの言うとおり、毎日の手入れが必要だろうし、管理者がいないと無理だろう。
 だが、モンスターがうろついている城の花畑を綺麗に保つことのできる管理者って……誰だ?」 

 朝のうち、そんな会話をかわしていた3名は、それぞれ別行動にて情報収集をおこなっていた。
 太陽が頂点に昇り、約束の時間を迎える。

「古城についての情報を、4点入手しました。
 前の所有者の名が『リールエル』さんだということ。
 そのリールエルさんは数年前に亡くなり、子孫もいないということ。
 ゆえに、現在は所有者のない状態であるということ。
 定期的に出入りしているような人はいない、ということ。
 ひょっとしたら、なにか物語が隠されているかも知れませんね」

 役所や図書館から戻ったロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、まずは口を開いた。
 公式に残っていた記録だけではなく、訪ねた先々で聴いた話も交えて、確実なことだけを伝える。

「俺達は書斎で花について調べたのだが……月夜」
「うん。
 ここに咲いているお花って、どれも花言葉が恋愛に関係するものだったのよね。
 アイリスや薔薇、ストックみたいに、積極的な意味のモノばかり。
 ただ、ひっそりと隅っこにだけど、クロッカスとかシオンみたいに少し哀しい意味のモノも混ざっていたわ。
 まぁこれが偶然なのか、計られたものなのかは、分からないけど……」
「しかもこの図鑑によると、これらの花のなかには手入れが難しいものも多くてな。
 素人では枯らしてしまう危険性が高いことも分かった」
「これは書斎にあった本です〜あ!
 痛んでいた本は、ちゃんと直して読めるようにしておいたよ!
 本は読まれるためにあるんだもの」

 樹月 刀真(きづき・とうま)の呼びかけに、調査結果を述べた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)
 『タブレット型端末KANNA』と【資料検索】を駆使して、花園の花について調べていたのである。
 たいして刀真は、植物図鑑をめくったり本の修理をしたりと、月夜のサポートに徹していた。

「僕らはとりあえず、お城をくるっとまわってみたんだ。
 最初に行ったのは台所で、使用した形跡はなく、食糧が荒らされていた。
 つづいて書斎と寝室では、ほかのみんな肖像画や日記を見つけていたので、見せてもらったよ。
 そこまででタイムアップだった」
「天音、正直に言っとけ。
 モンスターも倒したが、あと始末もせずほっぽってきたのだと。
 我がどれだけ苦労したことか……お前達、散らかすだけではいかんぞ」

 黒崎 天音(くろさき・あまね)へ、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が小言を垂れる。
 皆、苦笑しつつブルーズにうなずき返した。

「とりあえず、分かったことをみなさんへ報せましょう。
 花園の調査をしているはずですよね?」

 ロザリンドの言葉に、5名は庭を歩きだしたのだった。