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第1章  古城内は魔物の巣窟!? その3


「こちらマリカです。
 はい……はい……えぇ、順調にはこんでおります。
 なるほど……かしこまりました、そのように。
 ほかの方のお城ですから、傷はつけないようにしたいですね。
 それでは失礼いたします」

 マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)は、通話終了のボタンを押した。
 司令部にいるパートナーと、携帯電話で情報を交換していたのだ。
 戦況を伝え、また示された策を現場の皆に伝えることが、マリカに課せられた任務である。

「次はこの部屋ですね。
 よろしくお願いいたします」
「おっけ〜。
 美味しいお茶やお菓子の前に、もうちょっと働きますか!」

 マリカの指示を受け、天禰 薫(あまね・かおる)は部屋の前へ足を止めた。

「孝高」
「おう」
「又兵衛」
「ん」
「お掃除開始、だねっ」

 熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)にも呼びかけ、敵を見据える。
 『カムイ・クー』に、【雷術】を宿らせた矢をつがえた。

「毒は怖いけれど、これなら大丈夫だよね……ごめんね」
「茶会成功のためだ、悪いな」

 そうして離した矢は、スライムを正確に射止める。
 続けざま【超感覚】で熊の耳と尾を生やした孝高が、『イヨマンテ』でスライムを斬り捨てた。

「面倒だ、茶会でもなんでもいいから休みたい……」
「働けよ!」
「んー」
「あ、おい、うしろ!」
「んん?」
「あっ、又兵衛、危ないのだ!」
「又兵衛ー!
 うしろうしろ!」
「掃除したぞ」
「それ掃除とは言わないだろ、又兵衛……かわいそうだよ……ゴブリン……」
「無駄に命を奪うよりいいだろ。
 向こうにも生活があるだろうし」
「そうかもしれないけど……投げるのは……」

 2人のうしろで、手にしていた槍にもたれかかり、あくびをしていた又兵衛。
 孝高と薫のつっこみに、応えてかせずか。
 槍の柄で殴り飛ばしたゴブリンを、城の外へと投げ捨てた。

「全軍、前へ。
 何者にも成れない哀れな者達を楽にしてあげなさい」
「エリザベータ・ブリュメール、参る!
 全軍、私に続けぇー!
 敵を逃がすな、退路を断ち、囲み込めっ!」

 腕を前方へ、班員とともに部屋へと飛びこむセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)
 一方エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)は、みずから先陣を切って武器を振るう。
 セフィーもエリザベータも、ともに班を率いる班長として作戦を遂行していた。

「久し振りの勝負、腕がなるな」
「負ける気はないがな…… たまにはあの頃のように、少し本気を出してみるか……」
「レノア!
 俺が勝ったら、今夜は俺につきあえ。
 心配するな、酒ぐらいは俺が用意してやるから……今夜は女同士で楽しい夜を過ごすぞ!」
「ふむ、構わないが……戦場では少しの油断が命とりになるぞ……」
「分かってるさ、行くぞっ!」

 オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)の声で、勝負は幕を開ける。
 仕留めては次を討ちに、せわしなく動くレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)
 古王国時代に戦場で一緒に戦ったなかであり、今回も撃破数を競い合っていた。

「オルフィナとレノアだけで、あたし達の班の持ち場のモンスターをすべて排除してしまいそうね。
 まっ、楽でいいけど」

 2人の激しさに、セフィーは余裕の笑みをこぼす。

「相手はモンスターですから、気兼ねなく撃てるのであります」
「む〜その代わり、わたくしは暇ですけれども」

 部屋の扉を開けるなり、機関銃をぶっ放す大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)
 ソフィアの持つリュックから弾薬をとりだして装填すれば、速攻で攻撃を再開する。
 ちなみに弾薬は、事前に200発づつでリンク詰めしたものだ。
 おかげで、後方に待機するソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)にまでモンスターがまわってこない。

「はぁ……」
(別に荷物持ちでもいいのですけれど、多少は女の子あつかいもして欲しいものですわ。
 それにしても、退屈すぎますわ。
 あら、あちらのイケメンさんとでもお話しましょ)
「あの、殿方……」
「はい?」

 イケメン好きのソフィアが眼をつけたのは、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)である。
 剛太郎が掃討している隣の部屋から、二刀を携えて出てきたところだ。

「わたくしはソフィア。
 ソフィア・クレメントと申しますの。
 よろしくお願いいたします」
「俺は十文字宵一だ、よろしく……危ないっ!」
「きゃっ!」

 『賢狼』の異変に気づき、ソフィアを退けた宵一。
 刹那、ゴブリンが地に伏せる。

「危なかったね」
「あ、ありがとう、ございましたってまぶしいですわっ!」
「ヨルディア、やめないか。
 ごめんね、ソフィア君」
「だってぇ〜」

 手をとり、宵一はソフィアを助け起こした。
 その様子に、いわゆるやきもちを焼いたヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)
 【光術】の光を、ソフィアに向けてみる。

「宵一ったら、わたくしを置き去りにして楽しそうにしているなんてひどいですわっ!」
「ごめんごめん、許せ、な?」
「う〜ん。
 じゃあ帰ったら、美味しいお夕食をお願いしますわ」
「了解」

 なだめようと、宵一はヨルディアの頭をなでなで。
 その温かさと優しさに、すべてを許したヨルディアだった。