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第4章  一輪の花の物語 その2


「ちょ、ノア!
 広いからって走っちゃ危ないですよ!」
「あはははは〜あ!
 こっち入ってみようよ〜!」

 火村 加夜(ひむら・かや)の手を引き、廊下を駆けまわるノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)
 皆が探索中の大部屋をとおりこして、隣の書庫へと入り込んだ。

「お宝とかないかな〜?」
「もう、荒らさないでください!
 うわあぁ、壊れるから、ちょっと……待って!」
(お姉さんというよりはお母さんになった気分です……)

 加夜が、カーテンを開け、窓を解放している隙に。
 ばっさばっさと本を横倒し、ノアは本棚の裏を覗いていく。
 【トレジャーセンス】を発揮しながら本を戻す加夜が、ひときわ大きな声を出した。

「ノア、これ!」

 見つけたのは、小さな桐の箱。
 持ち上げればことんと音が鳴り、なにか入っていることだけは分かった。

「鍵がかかってて……開きませんね……」
「こんなときはボクにお任せ〜!」
「優しく持ってくださいよ!」
「はいは〜い」

 桐箱を受けとると、ノアは【ピッキング】を試し始める。
 あぁでもないこうでもないと、しばらく悩んだのち……解錠。
 なかから出てきたのは、細かい彫刻のオルゴールであった。

「モンスターがたくさんいるくらい長いあいだ棄てられたお城。
 最近まで誰も近づかなかったですのに、花園が綺麗というのは気になるですぅ」
「オレも最初は、パラミタならそういうこともあるのかな、とか思ったんだけど。
 野草じゃねえんだし、モンスターが棲み着くようなところなのに花園は無事って変だよな?」

 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)も、城を彷徨う冒険組。
 ともに目的は、花園の謎を解明することだ。

「兄貴が花好きでいろいろ育ててたけど、ちゃんと世話しないとすぐ萎れたりするんだって言ってたし。
 特に花園なんて絶対景観崩れてるって!
 なにかありそうな気がすんだよなあ。
「モンスターが花園を管理してたとは思えないですし。
 そうなると花園を整えいてたのは、一体なんなのでしょう?
 まさかっ……お化けでも出るですかね!?」
「どっちかっていうと、古城に住んでた人の幽霊とか、モンスターが花好きで世話してたってオチが笑えるんだけど。
 現実的じゃねぇから……城のなかになにかねえかな?
 花園を管理するためのシステムとか、魔法のアイテムとか、そんなの」
「俺は普通に、この城に以前いた者か、庭師の縁者が手入れしに来ているだけだと思うが」
(ヴァイスは妙に花園を気にしているな。
 確かに花園のような、毎日庭師の手入れが必要になる場所がいまだ綺麗なのはおかしい)

 ヴァイスは、過去の経験からして不審な点を分析する。
 腕組み考えたあげく、自身が発した言葉にどぎまぎするルーシェリア。
 セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)も見解を述べるが、花園と匹敵するくらい、パートナーのことの方が気になっていた。

「ふふふ……」
(古城に姫はつきものであろう、この俺様がゲット!)
「む、いまの音は?」

 そんな3名の背後で、突然の物音。
 セリカを先頭に歩けば、扉の前で立ち止まる。

「むっ……誰か寝てる?
 ならば眠り姫を俺様のキスで起こしてやるまでだ。
 しかし、随分と耳の尖ったお姫様だな……なんか臭いし。
 こん棒持って寝るなんて変わった趣味〜おはようございまーす!」

 室内にいたのは、変熊 仮面(へんくま・かめん)だ。
 いつもどおり、全裸に薔薇学マントという破廉恥な姿。
 暗がりのなかで、ナニカに接吻けた。

「って、ゴブリンじゃん!?」
 おえ〜」
「モンスター、ですかね。
 茶会前の運動といこうか!」

 『ホーリーメイス』を振るい、仮面へと迫るセリカ。
 眼、殺気がっ。

「俺様はちがーう!」

 仮面はなぜか、ゴブリンとともに逃げ惑うはめに。
 とにかくも疑いを晴らすため、陽光を入れようとカーテンを引く……と。

「うぉっ、本気でタイムっ!」
「なにごとじゃ!?
 ってよっと!」

 殺られるかと、覚悟を決めた瞬間。
 どたばたを聞きつけて入室したミア・マハ(みあ・まは)のおかげで、攻撃がやんだ。
 ついでに、ゴブリンを【ブリザード】で凍らせる。
 爆発系のスキルでは古城が耐えられないかも知れないと考え、選んだ結果。

「これ、ここ!
 俺様が見つけたのだよ?」
「どれどれ……おや、鍵がかかっておるではないか。
 レキ、開けておくれ!」
「了解だよ」

 仮面の指さすは、これまた隠し戸棚のようだ。
 力ずくでは開かぬと、ミアはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)を呼ぶ。

「こんなのお安い御用だね!」

 【ピッキング】で錠を解除すれば、そこには。

「日記……かのう?」
「そうみたいだね、表紙に年月日が書いてあるよ。
 それに、よくよく見ればこの部屋って、姫さんの寝室っぽくね?」

 天蓋の垂れる大きなベッドに、たくさんのクローゼットが並んでいる。
 6名はそれぞれ、日記へと手を伸ばした。