空京

校長室

戦乱の絆 第二部 第四回

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戦乱の絆 第二部 第四回
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リアクション


■ゾディアック停止装置作動

そのころ、ゾディアック停止装置の制御室では。

荒井 雅香(あらい・もとか)が、
ポータラカ人に、停止装置の操作の手伝いを申し出ていた。
パートナーのイワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)は、
警護を行う。
いろいろと装置について質問をする雅香だが、
ポータラカ製の装置は雅香にとって、ブラックボックスであった。
それでも、契約者が近くにいて手伝った方が、
良い結果が出るかもしれないと、許可されたのだった。
「私の二度目の学生生活の邪魔しないでよね。
まだまだやりたい事がいっぱいあるんだから」
雅香の想いもまた、装置に吸収され、ゾディアック停止の力となる。

多くの者達の想いが、停止装置へと送り込まれていく。



 地球。
 その何処か。
「……なんだこれ?」
 少年の携帯の画面には多くの人の他愛もない呟きが映し出されていた。
 その中にポツリと『RT』の文字と『信じる信じないは貴様ら次第だ』というメッセージ。
「世界の終わり?」
『生きたいか死にたいか』
「想いが必要? 世界を終わらせたくないなら、祈れって?」
『貴様らで選択しやがれ』

 海京――
 椎名 真(しいな・まこと)に憑依した椎葉 諒(しいば・りょう)は携帯にメッセージを打ち込み続けていた。
 彼は海京からインターネットを通じて、契約者以外の地球人からも想いを集めるべく現状を発信していた。
「正確な情報は規制されてるみてぇだが……
 東京から避難してる連中の発信がある分、こっちの言葉を信じる奴も多いな。
 まあ、ほとんどが異常事態を利用してハシャぐカルト扱いだが」
 いきなり、世界が終わるかもしれない、と告げられて信じる者は少ないだろうことは初めから分かっていたことだ。
 それでも、信じた旨を示すメッセージは幾つもあった。
 装置の範囲のこともあるから、これがどれほどの効果を持っているかは未知だが――
「多くの連中は意識し始めた。
 自分と世界の繋がり。世界は決して他人なんかじゃないってことをよ。
 だから、こいつらの想いはゾディアックと皆に届くんじゃねぇか……なんてな」
 と。
 諒は、ふと画面に妙なメッセージが溢れていることに気づき、吹いた。
 携帯を握り、ワナワナと震える。
「あんの、鬼子……」


 シャンバラのインターネット上。
『空京なう』
『どうせなら、この愛しき世界に想いを告げてみないか?』
『例え直接届かなかったとしても、想う権利は君達にもある筈だ』
『僕と、彼と、この世界に在る者らの「愛の歌」よ』
『どうか世界に響けよ』

 空京――
 とあるネットカフェ。
「しっかし、男二人でペアブースってのはゾッとしないねぇ」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)の軽口に、東條 葵(とうじょう・あおい)が微笑む。
「こんな時でも変わらないな」
「こんな時こそでしょうよ」
 カガチが画面に次々に現れる文字を追いながら言う。
 そこにはシャンバラに住まい、インターネットに触れることが出来る者のメッセージが溢れていた。
 葵の呼びかけに応えた者たちのものだ。
 シャンバラは地球と違って、インターネットがそれほど整備されていないため、これを目にする絶対数が少ないが――
 女王とゾディアックがウゲンに奪われたことを知っている者が多いため、彼の言葉を信じる者は多かった。
「葵ちゃーん」
「なんだ?」
「なんつーか……
 俺、今まで全力で適当に生きてきて……
 そんで沢山出会って、凄ぇ楽しかった」
 カガチは集まる想いのメッセージに目を走らせ続けていた。
「結果がどうだろうと俺ぁ後悔しねえ。
 ただ、やっぱりこの世界に暮らすこいつ等にだって、世界の命運を左右する権利はあるよなぁ。絶対にある。
 もし、権利はあっても効果がないのが現実ったって――
 それでも。
 この世界に居る全ての存在の『愛の歌』が、この世界の運命を動かすって俺も信じたいねえ」
 そこで、カガチはフッと息を抜いて、「ところで」とカガチは別の画面をトンッと指でつついた。
「地味に椎葉さんと、こういうのやってたんだな」
「ああ。毎度、楽しませてもらってる」
 葵が楽しそうに言う。
 カガチの指先が触れたそこには――
 ウン百回RTされるたびに諒が一枚服を抜いで、その様を撮った写真をネットワークにアップするとかなんとか……
 葵によって書かれたそんな悪戯が、想いの呼びかけと共に世界に蔓延しつつあった。



 シャンバラ大荒野――
 乾いた風が強く大地を擦っていく風景にリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は佇んでいた。
「――ゾディアックを止めるために、女王の力に向ける想い」
 その話はカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)からの連絡で知ったことだった。
「魔族たる吸血鬼の女王……それでも確かに加護はありましたわ。
 ならば、あの人は確かに女王なのでしょう」
 手を組み、目を閉じ、空を仰ぎ、届くとも分からない祈りを。
(世界を消し去るなんて、不毛な事は止めて下さい。
 確かにあなたの治める、国と民があるのですから……)



 マホロバ――
「事はシャンバラのみならず、世界全体に及ぶものです」
 樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)は彼女の声が届く者たちに呼びかけ、マホロバの民らと共に祈っていた。
「この世界にいる、皆の大事な方の笑顔を守るために祈るのでございます。
 さぁ、皆も共に大切な人を守りたいと想ってくださいませ」
「ううー、ご主人様や白継様の未来の為に、世界が終わるなんてダメです!」
 静かに祈る人々の中で、忍犬の音々と呼々をギュゥっと抱いた土雲 葉莉(つちくも・はり)が人一倍熱心に祈り続けていた。



 空京放送局――
『――先に述べたように、今、世界は危機に瀕しています』
 デュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)に見守られながら、マイクに語りかける夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)の言葉が放送に乗って流れていく。
『私には以前から考えていた事があります。
 シャンバラに住まう方々は、何の為に女王という存在を求めていたのか、と』

『国として繁栄させる為の国家神という役割に当て嵌める為。
 女王の加護を受け、その庇護の下で暮らす為』

『でも、それだけで良いのでしょうか。
 ……私は違うと思います。
 国の在り方、国の未来を案じるのは、本来、女王や契約者だけでなく、この地に住む全ての人達でなければならない。
 そう、思っています』

『――どうか考えて下さい。
 今、自分に何が出来るか、何をすべきか。
 何を想うべきか』



各地で紡がれる想い。
無数の、人々の声。
地球と、パラミタ、二つの世界の人々の。

グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が。
「俺達は……見続けたいんだ……この世界を……」

曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が。
「良い人たちも、面白い事も、沢山あるから……この世界に生まれて良かった。
これからも色々楽しみたいねぇ」

水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が。
「何も知らないまま、壊れていくだけは嫌です」

五月葉 終夏(さつきば・おりが)が。
「私はこの世界でまだ音楽を……想いを奏でたいんだ」

葛葉 翔(くずのは・しょう)が。
「まだやりたい事も見つかっていないのにこんな所で終われない!」

瓜生 コウ(うりゅう・こう)が。
「この世界には、オレが手に入れるのを待っている『力』がある!」

御凪 真人(みなぎ・まこと)が。
「最後まで諦めなければどんな苦難も乗り越えれます!」

ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が。
「私はこの世界か好きです。
アイシャ女王、貴方も貴方が愛する者達の為に、どうか負けないで!」

秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が。
「地球ごとき滅んでもらっても構いませんが、
マホロバには貞継様も貞嗣もいます……それにシズルも……
おかしいですね意外と大切なものが増えていました、
私の大切なものがある世界……絶対に滅亡なんてさせませんっ!」

ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)のパートナー、
ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)が。
「一度は生を終え契約で甦ったこの身、我がことでは未練など最早ない。
だが、この世界、ジーナ達の生きる場所であるからな。
なくしてもらっては困るのだよ」

水神 樹(みなかみ・いつき)が。
「イルミンスールに入って、大切な人ができて……。
シャンバラも地球も大好きなんです。終わってほしくない!」

清泉 北都(いずみ・ほくと)が。
「自分の望みをしっかりと持って」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)が。
「愛が世界を救う。夢物語ではなく、今はその力を私は信じています」

風森 巽(かぜもり・たつみ)のパートナー、
ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が。
「どんな世界だってそこで生きてる人が居るんだ!
最後の最後まで生きる事を諦めないよ!」

遠野 歌菜(とおの・かな)が。
「私はこの世界が、大切で大好き! だから、守るんだ!」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)が。
「歌菜が居るこの世界を、失って堪るか! 頼む、守らせてくれ……」

赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が。
「新しい命がこの世界に生まれてくる前に終わらせる」
アレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)が。
「お兄ちゃんになるんだ、だから負けない!!!」

瑞江 響(みずえ・ひびき)が。
「大切な人と会わせてくれたこの世界を、俺は守りたい」
アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)が。
「俺様と響が生きる、この素晴らしい世界を……終わらせて堪るか!」

弁天屋 菊(べんてんや・きく)のパートナー、
ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が。
「楽しかった思い出はないのか? 思い出してそれを胸に頑張れよ」

御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が。
「あたいはね、まだまだ生きて、バカな真似やってたいのさ!」
フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が。
「まだまだオレには知りたいことがある!
記憶の中の過去も! チエ達と築く未来も! まだ十分に知っちゃいないんだ!」

ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)のパートナー、
強盗 ヘル(ごうとう・へる)が。
「孤児院にいるガキどもを泣かせる訳にゃいかねえんだよ!」

葦原 めい(あしわら・めい)のパートナー、
八薙 かりん(やなぎ・かりん)が。
「人の価値は、どのように生まれたかではなく……どのように生きたかで決まります!」

シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)のパートナー、
アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が。
「守りたい人達がいる、迎えたい方がいる世界を失いたくないのです」

須藤 雷華(すとう・らいか)が。
「何から何まで仕掛けられていたとして、はいそうですか、なんて言える訳ないでしょう」

ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が。
「おっぱいは俺様が守る!」

久我内 椋(くがうち・りょう)が。
「この世界には、まだ色んな可能性がある。それをどうか、摘み取らないで欲しい」

渕上 裕(ふちがみ・ゆたか)のパートナー、
フレデリカ・シーゲル(ふれでりか・しーげる)が。
「私の記憶は殆どが白紙ですが……これから、沢山思い出を作っていきたいんです。
お兄様と、皆様と一緒に」



色とりどりの光が舞って、停止装置に吸い込まれていく。
雅香にも、世界中から想いが集まってくるのが、はっきりと理解できた。

(地球人やシャンバラ人、契約者は、
我々の予想を上回る、非合理的な力をしばしば発揮する。これほどまでとは)
ポータラカ人の技師は、
停止装置に集まってくる想いの質量とスピードに驚いて言った。
テレパシーだが、感情の震えが伝わってくる。
「非合理的? あなた方にも故郷や仲間への愛はあるでしょう?」
雅香の問いに、ポータラカ人が言う。
(一般的な生物の本能は、個体の生存を最優先するのが常だ。
このように、生命を懸けて、戦ったりはしないものだ。
君たちのしばしば言う、
「愛」や、「友情」、「信念」、「誇り」
……「大切なものへの気持ち」といったものの力は、
私たちには、よほど不可思議に見える)
真面目くさって言うポータラカ人に、雅香は思わず吹き出した。
「不可思議? 技術者の台詞じゃないでしょう?
……まったく、こんなにも高度な文明を築いている、
あなた方の発言とは思えないわ」
(……まったくだな)
「まったくだ。ガッハッハッハ!」
ポータラカ人も、なんとなく微笑したように感じられ、
イワンも一緒に明るく笑ったのだった。