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戦乱の絆 第二部 第四回

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戦乱の絆 第二部 第四回
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■大帝

 シャンバラ大荒野――
 そこでは、シャンバラとの交渉を終えた大帝の演説が行われていた。

『今、パラミタと地球。二つの世界は消滅の危機に瀕している!
 先の交渉において、シャンバラは我々の全面協力を受け入れ、我ら帝国は援軍を地球へ向かわせることとなった。
 数々の遺恨もあろうが、最早、我々は争い合っている時ではないのだ。

 しかし、このゾディアックの危機を乗り越えたとしても
 今、パラミタの大地は崩壊の危機に瀕している」

 大帝の後方、特設席に収まった波羅密多実業高等学校校長、石原肥満がふむふむと頷く。
「確かに、アトラスの寿命はもうそろっとだからねぇ。
 もう少しばか長持ちさせたいところじゃが……」
 老人の呟きを他所に、大帝の演説は続いていた。

『我は求めた……
 大陸の崩壊からパラミタの民を救う方法は何がある?
 地球への移住という名の侵略か?
 限られたシャンバラの土地を奪い合った末での地球融合か?
 どれも愚かしい!!

 約12000年前――
 パラミタに接近した大陸の存在を、汝らは知っているだろうか?
 ポータラカ人たちの故郷、ニルヴァーナ
 それは、今、パラミタの遙か上部、空の果てを超えた果てに存在していると考えられる。

 ポータラカ人たちはブライト オブ シリーズを集め、ニルヴァーナへ帰ろうとしていた。
 彼らの計算によれば、それだけでは『行く』ことしか出来ぬという。
 だが、ブライト オブ シリーズの力と、完全となった我の力を用いれば、双方向の“道”を作り出せることが分かった。

 そう――
 このパラミタを救う術がパラミタにも地球にも無いというのであれば、新たな大陸で希望を探すのだ!!

 12000年が経ち、今や未知の世界であるニルヴァーナへ向かい、希望を見つけ出すためには、
 パラミタに住まう者は力を合わなければなるまい。
 それは、シャンバラとて同じ。

 誇り高き龍騎士たちよ。
 地球へと赴き、我とパラミタの民に示すのだ。
 我らが一つとなった力は、どのような事態をも打破するのだということを!』


 演説を終えた大帝が魔法船へ戻ろうとしたその時。
「おい大帝よ!」
 夢野 久(ゆめの・ひさし)は、群衆を掻き分けながら、大帝へと叫んだ。
「良雄はどうなった!?
 意識も完全に混ざったのか!?
 それとも、その中にまだ居るのか!?」
 護衛の兵に押さえられる久の方など一瞥もくれず、大帝は通り過ぎていく。
「せっかく助けたのに何あっさりと吸収されてんのよこのおばかぁぁぁぁぁ!!!!」
 聖杭ブチコンダルを手に大帝の元へ向かおうとした伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、やはり護衛兵に必死に押し留められていた。
「離せぇ!!
 こいつで腹ブン殴って良雄吐き出させてやるんだから!!」
「……あー……コレでほんっとうに吐き出したら伝説になンな」
 明子の魔鎧に収まっているレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)は、若干、他人事のようにボヤいていた。
「しっかし――
 さっきの演説を聞くに、つまるとこ、ウチのチンピラと合体したのは別大陸への道を開くため、って事か」
「なるほど、それでパラミタは救われるのねー……で、納得で・き・る・か!」
 明子は護衛兵の顔面を足で踏み倒し、びしっ、とブチコンダルの先を大帝に向けた。
「アンタは知らないかもしれないけどねえ……っ!
 アイツは二年前の十一月から、シャンバラ全土の舎弟なのよっ!」
「……分離されて舎弟扱いと、融合したまんま大帝に収まんのとどっちが幸せかねぇ」
「っるさい!
 とにかく、勝手に人ん家の舎弟を持って行くんじゃぁないっ!!」
 と――
「これより手術を開始する……」
 いつの間にか大帝の進行方向に立っていた日下部 社(くさかべ・やしろ)が神妙に言う。
 その隣には望月 寺美(もちづき・てらみ)
 二人は、片手にパリッと雷術を走らせていた。
 社が、ゆっくりと歩み続ける大帝に笑みを向け。
「良雄、取り込まれたお前を助けるには獣医の心得を持った俺がやるしかないんや!」
「……獣医?」
 誰かが疑問を口にする。
 社は、そんなものなどお構い無く。
「行くでぇ! 電気ショックによる荒療治やが堪忍せぇや!」
「って、させるかァ!!」
 護衛兵たちが束で社たちに飛び掛って、人の山を成す。
 その横を過ぎ去っていく大帝に向けて、社の叫びが響く。
「良雄ぉ〜!!
 お前はそれで満足なんか!?
 お前は大帝でおさまる器か? もっと上を目指さんでどうすんねん!
 もっと! もっと熱くなれよ!!」
「あー……熱くなる必要があるかどうかは別として」
 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は、よっ、と人だかりの隙間から顔を出して大帝へと言った。
「ヨシコルドかアスオか……いや、ま、どっちでもいいけど。
 とにかく、大帝。
 今のまんまで本当に大丈夫だと思ってる?
 ウゲンは、肉体が滅びたくらいでくたばるとは思えないけど」
 大帝の足が止まる。
 スレヴィは続けた。
「ウゲンを、というかウゲンの超霊を完全に無能力化させたい。
 エリュシオンの魔法技術でどうにかならないもんか?
 例えば、あんたがウゲンの力を吸収するとかさ」
 大帝がクックと喉で笑う。
「確かにアレらは奴の肉体が滅んだ時、暴走する可能性が高い。
 しかし、奴が操るアレらは魔法とも我の持つ力とも性質が違う」
「どうしようもないって事か?」
「我が打てる手は、既に全て打ち尽くしてあるということだ」
「……龍騎士たちの派遣。
 もしもの時は、地球を戦場にして、ウゲンから解き放たれた超霊の力を抑えるつもりだってことか。
 そんな事になれば、地球は甚大な被害を――」
「仕方無い事であろうナ。
 今の状況ではこれ以上、我らに良い手は無い」
 言って、大帝が再び歩み始めようとした時。
「良雄くん、本当にアスコルドさんと一緒になったんだね」
 ふいに立川 るる(たちかわ・るる)の声が聞こえた。
 彼女は、大帝のために開かれていた道の真ん中で、両手を合わせ立っていた。
「文字通り身も心も一つになる……これがエリュシオン式の結婚なのね。ロマンチック!」
『結婚?』
 と、そこに居たほぼ全ての者が聞き直したが、るるの耳には届いていないようだった。
「話を聞いた時は、一応、御結婚御祝贈ったけど、本当は一緒に独身最後のお祝いとかしたかったね。
 でも、るる、受験中だったから……。
 うん――るるも早くイイ人見つけなきゃ!
 あ、でも安心して。アスコルドさんを横取りとかしないから!」
 るるが指先を大帝に向けながら、えへっ、とウィンクしてみせる。
「るるのタイプはどっちかっていうと、見た目はちょっととんがってるんだけど、本当はるるのことを優しくもふっと受け止めてくれるような……えへへっ。
 あ……そうだ、エメネアちゃんにも注意しておかなきゃだね。
 勝手にどこぞの馬の骨に引っかかって、そのせいでるるにまで変な噂立ったら困るもん!
 それでなくとも何か悔しいし」
「そんなことより、るるちゃん!」
 ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)がるるの言葉を遮る。
 それで、ハッと我に返った護衛兵がるる達を退けようと近づく中、ラピスが続けた。
「これって僕が聞いてた状況とやっぱり違うよ!
 良雄くんはアイリスっていう女性に口説かれて一緒に帝国に行ったって……」
「えっ――
 良雄くん、新婚早々連れ子に手を出したの?
 しかも胸の大きい……」
 るるが、くん、と大帝の方を見上げ。
「良雄くん……本当に別世界の人になっちゃったんだ。
 楽しくカツアゲされたりカップル狩りしてた良雄くんはもういないんだね……!」
 そして、彼女は護衛兵の手が届く前に感極まったように、大帝の前から走り去った。
「るるも大学生になったんだし、合コンとか参加してみるね!」
 そんな言葉を残して るるが姿を消した後。
 取り押さえられた久の横で佐野 豊実(さの・とよみ)は言った。
「本末転倒、というものだな。
 融合した程度で消えるようなショボい想いだったとは」
「そもそも良雄さん、目玉だらけの人を彼氏にしたいと思う人がいると本気で思ってるんですか?」
 アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)が少し憤慨したように言う。
 久が吠える。
「良雄、手前、大人しくしてんじゃねえ!
 根性見せろ!!
 お前にゃ残してきたモンが山ほどあるだろうが!!」
「――……ス」
 ふと、大帝の体がわずかに震える。
「る……」
「る?」
「――るるさんが参加するなら、俺もその合コンに参加したいッス!!!!」
 という大帝の心からの叫びが響き渡る。
 そして、暫くの間、シン……と辺りは静まり返っていた。
 ふいに大帝がすぅと己の面に手を当て、クックと笑みを零す。
「……これもまた、運命だと?」
 そして、大帝はスレヴィの方を見やってから、踵を返した。
 そばに控える者へ言う。
「テレポートの準備をしておけ」


■エメネア

「ここも違うでござる! さっさと抜け出すでござるよ!」
 坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)が吐き捨てるように言って霧深い街並みで出来た空間を駆けていく。
 彼はエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)の神騎を探していた。
(とうとう、ジークリンデ殿をさしおいて……)
 姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)は、鹿次郎の後を追いながら心中で嘆息した。
「とはいえ――これも人々とアムリアナ様の為とあらば、このヘンタイの行動も認めざるを得ないですわね」
「自分のパートナーをヘンタイ、ですか」
 同じくエメネアを探すのを目的とした笹野 朔夜(ささの・さくや)が、はは、と口元を崩す。
 彼らとは先ほど合流した。
「事実ですわ」
 言って、雪は朔夜をチラリと見やってから、冷えた視線を鹿次郎の背へと返した。
「だが、坂下の言い分は正しいと思う」
 笹野 冬月(ささの・ふゆつき)の軽い感心のこもった言葉が聞こえる。
 鹿次郎は『エメネアの記憶が反映されている空間』を探していた。
 必ず、そこに彼女の神騎があるはずだと。
 確かにそれは有り得ない話ではなかった。
「阿呆な暴走も、たまには役に立ってもらいませんと、付き合うこちらの身が持ちませんわ」
 呟いたその先では、
「うぉおおおお、エメネアさん! 今行くでござるよーー!!」
 鹿次郎が思いっきり扉を蹴り開けていた。


 扉を抜けた先には、夜空があった。
「ここは……」
 朔夜が呟きかけた瞬間、光が咲いた。
 次いでドッと音と振動が振り落ちる
 周囲に溢れていた幻影の人々は楽しげに空を見上げていた。
 人々の周りにあるのは、様々な趣向の屋台。
「ここ、知ってますよ。僕」
 朔夜が改めて言う。
「サルヴィン川での花火大会です。あの時、エメネアさんも居ました」
「朔夜の記憶を反映した、というわけでもなさそうだな」
 冬月が向こうの方を見やりながら言う。
 そこには何故か唐突に『夏物一斉SALE』の幟がはためいており、その下では大勢の淑女の方々が戦場を作り上げていた。
 雪が自身のこめかみに指先を当てながら。
「……この節操の無い感じは……」
「間違いなく、エメネアさんでござるな」
 鹿次郎は確信を持って駆けた。
「この空間の中から神騎を探すでござるよ!」
「承知」
 朔夜が鹿次郎の横へと滑りこむ。
 そして、彼は人混みの中から鹿次郎へ襲いかかろうとしていた吸血鬼の足を思いっきり踏みつけ、
「こちらの方は僕と冬月が引き受けます。鹿次郎さんたちは探索に専念を」
 吸血鬼の腕を取った。
 スッ、と彼が腰を入れた時には、既に吸血鬼の身体は空を舞っていた。
 そのまま、その身は一本背負いの要領で地面へと叩きつけられる。
 吸血鬼は一瞬身悶えた後、朔夜へ苦し紛れの反撃を行おうとしたが――
 冬月によって氷術のギロチンを耳のそばへと落とされ、ヒッ、と息を詰めたまま固まった。
 パン、と手を払った朔夜が、やんわりと微笑んで仰向けに倒れたままの吸血鬼を見やる。
「邪魔をしないで頂けますか?
 あの日、この夏祭りの風景の中で笑っていた女の子が居たんです。
 ……その笑顔が二度と見られなくなるなんて、僕は絶対に嫌なんですよ」
 そして、その後、鹿次郎たちはエメネアの神騎を発見する。


 プログラムにより呼び出された身体を鹿次郎が抱き留める。
 しかし、雪はすぐに違和感に気付いた。
「……エメネア殿……?」
 エメネア(?)の姿は、鹿次郎たちが知っている彼女の姿とは違っていた。
 顔つきや髪の色などエメネアの面影を色濃く残しているものの、その身体は、すらりとした線の細い大人の女性のものだった。
「どういうことですの?」
 雪は、内心でやや混乱しながらも至極冷静な調子で呟いた。
 と、しばしの間、じっとエメネアを抱き留めたまま顔を見つめていた鹿次郎が。
「拙者のために巫女装束が最も似合う体型へと進化したでござるかな」
 ガスッと間髪入れずに鹿次郎の眉間に手刀を叩き込んでから、雪は、フッと息を吐いた。
「冷静に考えてみれば――
 エメネア殿のパートナーである御人良雄がアスコルド大帝と融合したとの話なのですから、彼女の姿が大帝のパートナーとして相応しい姿へと変化し始めているというのが妥当なところですわね」
「つまり、大帝の大切な者の姿……亡くなった奥方、アイリスさんの母上の姿になろうとしているでござるか」
 と、鹿次郎の腕の中でエメネアが、ボヤボヤと目を覚ます。
「……ふぉ? あなたは……」
「覚えておられるか判らんでござるが、拙者、坂下鹿次郎と申す者」
「鹿次郎、さん……?」
 ピンと来ていないようなエメネアの反応に、鹿次郎がめげた様子はなかった。
「今まで、どんな時も助けに現れたでござろう?
 洗脳されていようが国家の敵になっておろうが……拙者何度でもこうして助けに参るでござるよ」
 鹿次郎の身体から離れ、なんとなく不慣れな感じで自立し、軽くよろけたエメネアが、けとりと小首を傾げ、彼を見つめる。
「それはとても嬉しいですけどー、えと、なんで、その、また?」
「どんな時や場所でも助け求める乙女あらば、助けの手を差し伸べる……其れが拙者の武士道でござる。特に巫女さんなら!」
「巫女さんなら……」
「そう、巫女さんでござる。
 しかし、ただ巫女装束を着ているだけでは駄目でござるよ。
 相応しい魂と心の内を揃え、拙者の心の琴線を震わせる者……それこそが真の巫女さんなのでござる!」
「ぉ、おおお……なにか分からないですけれど、すさまじい精神の叫びを感じますよぅ……!」
 鹿次郎の熱い宣言にエメネアが、おそらく一つも意味を理解できないままフルフルと感動している。
 雪は、はぁ……、と心底から溜め息を零して。
「時間はございません。
 感傷的な事は外に逃げ果せてからにして下さいませ」
 と――。
 エメネアの携帯が鳴った。
 携帯の画面には良雄からの着信であることが示されていた。