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リアクション
「お待ちしておりました、ミルザム様」
道明寺 玲(どうみょうじ・れい)とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が出迎え、現状の報告をした。フリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)はビデオカメラで撮影していた映像を一同に見せながら、ヴァルキリーたちが全身を水晶化させられている事、現時点では水晶が襲い掛かってくるといった現象は起きていないこと、またパッフェル・シャウラを含めた不審者は発見できていない事などを報告した。
「皆さん、ご苦労様です。少し休まれてください」
ミルザムはそう言って笑顔を見せると、青龍鱗を取り出して歩みを始めた。
「さぁ、ヴァルキリーたちを助けましょう」
「あぁ、待ってください」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がミルザムの前に立って両手を広げた。
「あたし達が周りを確認しますから、動くのは、それからにして下さい」
「その通りだ、まずは任せてもらおうか」
「水晶化したヴァルキリーたちは、どこに居るんだ?」
歩に続いて、大野木 市井(おおのぎ・いちい)がエヴァルトにヴァルキリーたちの場所を訊いていた。現場保存と、水晶化したヴァルキリーを傷つけない事を目的として、小隊はヴァルキリーたちを移動させずに居た。エヴァルトは家屋の先を曲がれば見えるはずだ、と言いながらに先導した。
「マリオン」
「了解です」
パートナーのマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)はヴァルキリーたちを見つけると、ヒールを唱え始めた。
「行くのですか?」
「あぁ、思ってた以上にヴァルキリーの数が多いからな、飛空艇を持ってくる」
「えぇ、気をつけて下さい。無茶はしないで下さいね」
「飛空艇を持ってくるだけで、どうやって無茶するんだ? 大丈夫だ」
笑みを残して市井は村外へと引き返した。ミルザムが解除したヴァルキリーたちを村の外へ非難させようと考えていたのだが、その数が多かったこと、そして同じような場所に集まっていることを確認すると、一度に運べるものが必要だ、と判断したようだった。残されたマリオンは寂しそうな表情を見せたが、すぐ横でどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)が、水晶化したヴァルキリーから瞳をそむけていた。
「話には聞いてたけど…… ひどい ……」
動けなくなったヴァルキリーたちは、涙すらも流れていない。それでもどりーむには、今は誰もが涙を流しているように見えていた。
「これ、みんなパッフェルがやったの?」
「水晶化させられるのは、今の所、パッフェルしか居ない」
ふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)も、村の惨状に唇を噛み締めていた。
「だからきっと… 犯人は… パッフェル…」
「決めつけるのは、危険ですよ」
どりーむとふぇいとの瞳がつりあがり始めたとき、ミルザムがそれを言葉で制した。
「犯人が誰であろうと、今は彼女たちを助けるのが先です。始めましょう」
ミルザムは胸の前でしっかりと青龍鱗を握り締めると、瞳を閉じた。
青龍鱗が輝きを帯びると、次第にその光りがヴァルキリーの体を包んでいった。
光りは波打ち、まるで水に包まれ溶かれているようである。光りが輝きを増し、弾けると、水晶化が解除されたヴァルキリーの姿が現れた。
膝から倒れ落ちるヴァルキリーを、歩が抱きかかえた。マリオンと共に横たえると、歩はヴァルキリーの胸に耳を当てて心臓の鼓動を聞き取った。
「生きてる! ミルザム様、生きています」
「よかった。治療を続けましょう
「はい、お願いします!」
ミルザムが青龍鱗から放った光り、そしてヴァルキリーを包む方法を見て、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は違和感を覚えていた。
「大きい、随分と大袈裟だな」
「ん? 何が?」
パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は怪獣の口から顔を覗かせて垂に問いた。ライゼはお気に入りの怪獣のきぐるみを着て来ていた。
「何が大袈裟なの?」
「水晶化を解除するのに、パッフェルはあんな光りを出してはいなかったはずだ」
「そういえば、左肩に青龍鱗を当てて、少し光らせただけ、だったよね」
「そう、それだけだった。全身の水晶化を解除するには、あれだけの光りが必要という事なのか…。朔、撮っているか?」
「もちろんです」
夜霧 朔(よぎり・さく)はメモリープロジェクターに触れる指を立てて応えた。
「街の様子も録画します。任せてください」
言葉と一緒にガッツポーズをしたものだから、きっと映像は大きく揺れている事だろう。それでも朔は気付く事なく、撮影を再開させた。
「水晶化の解除… そしてこれが水晶…」
ミルザムがヴァルキリーの水晶化を解除したのを見て、思った者が、ここにも一人。篠宮 悠(しのみや・ゆう)は重そうに垂らしていた瞼を次第に生き生きと上げていった。
「おい、レイオール、俺たちも調査するぞ!」
「お、おぉ、調査を ……?」
「何だよ、はっきりしねぇなぁ。ボーっとしてる暇はないぜ!」
パートナーであるレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)は呆気に取られてしまった。
どうしたというのだ、急に。明らかに違う。今すぐにでも帰りたいと、今さっきまでダルそうにしていた悠の言葉、姿からは明らかに違っていた。
「チャンスじゃないか! アンタの誕生経緯が分かるかもしれないんだぜ!」
かつて、巨大な水晶の中で眠っていたレイオールを、悠が発見し、契約した事で解放された。それ故に自身の何処でどういう目的で作られたのかを知るチャンスと考え、今回の調査に同行したのだが、水晶化したヴァルキリーたちにより強く興味を示したのは悠のようだった。
「ほら、行くぞ!」
「まっ、待たれよ」
目を輝かせた悠を、戸惑いながらも嬉しそうなレイオールが追っていた。
「ミルザム… 様。1つだけ、訊いても良い… ですか?」
青龍鱗の力を使い、次々にヴァルキリーたちの水晶化を解除しているミルザムに、垂は遠慮がちに訊くべき内容を、無機質な声で訊き訊ねた。
「青龍鱗は良いとして、なぜ朱雀の女王器を自分の物のように扱っている、のか。あれは皆で発見した物のはずだ、それをなぜ」
「し、垂、そんな失礼な言い方ーーー」
「構わないわ。そう見えるのなら、それは私の説明が足りていないという証ですから」
慌てて垂に駆け寄った朔に、ミルザムは手を止める事無く、応えた。
「朱雀鉞はシャンバラ女王に即位するのに必要なアイテムです、そしてそれを狙う者が居る。ですから女王器は、十二星華から護るという事も含めて今は、私が預かっているという状態です。そしてそれは女王候補宣言をした者の務めだと考えています」
「………… では、なぜ女王候補に立候補した、のです?」
「それは僕も聞きたいな。どうして女王になろうと思ったのです?」
凶司も加わり、ミルザムに問いた。彼女は、光りの中のヴァルキリーを見つめたままに、何かを思い出しているように口を塞いでから、静かに応えた。
「誰かが起たなければ、シャンバラ王国は復活しません」
「つまりつまり! シャンバラ王国を復活させる為に、危険を承知で自らが先頭に立ったという事ですねっ」
拡大解釈であるのか、感化されやすいのか。エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)は、キラキラと輝かせた瞳でミルザムを見つめていた。
「クイーン・ヴァンガードの設立も、王国が復活した時の体制作りの一環なのですねっ」
「あ、いえ、そこまで大袈裟な話に考えてはいません」
「…………? 王国の復活に、どんな意味が?」
「それは、国が統一されていなければ来る脅威から民を護る事がーーー」
ミルザムが瞳を見開いて、硬直した。青龍鱗の光りが弾けても、光りに包まれていたヴァルキリーは全身を水晶化したままであった。ユイードの時と同じように、水晶化を解除する事ができなかったのである。
「そんな……」
「あっ、ミルザム様っ」
エクスが慌ててミルザムを追った。ミルザムは目の色を変えて、別のヴァルキリーに青龍鱗を向けていた。
光りに包まれたヴァルキリー、その光りが弾けると、またしてもヴァルキリーの水晶化は解除されていなかった。
すぐ隣のヴァルキリーに青龍鱗を向ける。そして祈るように。光りが弾けても、ヴァルキリーは水晶と化したまま、哀しげな表情のままに固まっていた。
「そんな…………」
震える手で木々や草木にも青龍鱗を。しかしそれでも、すがるようなミルザムの願いも、弾けて消えた。水晶化したままの木々と草木を前に、ミルザムは崩れ、膝を付いた。
「どうして…… どうして解除できないの……」
ユイードの時は違う。今回は解除できない例が数多に存在する、しかも、木々や草木でさえも解除できない例が目の前に現れていた。解除できない水晶化には、現状、手の打ちようがなかった、つまり、あのヴァルキリーたちは水晶のまま、という事になるのだ。
「私では、彼女たちは救えないの? …… 私では……」
涙を堪える声が震えていた。哀しみに、悔しさも滲んでいる。
「ミルザム様……」
エクスがミルザムの背に手を添えようとした時、
「思った通りね」
と聞こえた声に、一同は瞬時に顔を上げた。以前に聞いている者は恐怖と共に、初めて聞く者は不気味さと共に見上げていた。声の主は、水晶化した家屋の屋根から見下ろしていた。
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