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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第1回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第1回/全3回)

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「随分と解除できていない水晶があるみたいだけど、どうしたの?」
「十二星華……」
 十二星華のパッフェル・シャウラと女王候補のミルザム・ツァンダ。妖しい笑みと、苦い笑みが視線と共に向き合った。
 その瞬間、パッフェルに斬りかかる者たちがいた。
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)の高周波ブレードをオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が妖刀村雨丸で防ぎ、同じくウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)の妖刀村雨丸の剣撃をトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が雅刀で防いだ。
 共にどちらも引かない為に、鍔迫り合うままにウィングが笑んで見せた。
「また彼女の味方をするとは、懲りないですね」
「へっ、姫さんが歩くなら、俺は姫さんの歩く道にカーペットを敷くんだぜ」
「意味が全く分かりません!!」
 語尾を強めて言ったのをきっかけに、パートナーの夕凪 あざみ(ゆうなぎ・あざみ)パッフェルの背後目掛けて跳び込んでいた。最短で直線な突進からリターニングダガーを振ったのだが、
「姫君の背後を護る者が居ないとでも思うたか? 青いのう」
 ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)の星のメイスに弾かれてしまった。
 あざみはすぐに隠れ身を発動させながら距離を取ったが、
「ダメだよ、隠れるのは」
 桐生 円(きりゅう・まどか)の殺気看破によって即座に無効化されてしまった。の放つ銃弾を避けるにつれ、あざみは自然と後退させられてしまっていた。
「アイツもか。全く、次から次へと」
「姫さんの魅力がみんな惹かれてんだよ、これも上に立つ者も資質、ってな!!」
「くっ」
 共に弾いて距離が生まれた。ウィングは視線をパッフェル
向けたが、既に数人が彼女の周りに立っていた。正にそう、彼女を護衛していた。
「… 村を水晶化したのは… パッフェル… お前なのか…」
「…………」
「… 剣の花嫁以外にも水晶化できるのか… 目的は何だ…」
「ちょっとぉ、よそ見しないのぉ」
 笑みながらのオリヴィアクルードに口を尖らせた時、宙に跳び出した高月 芳樹(たかつき・よしき)パッフェル目掛けて狙撃した。
 この狙撃に、パッフェルは当然気付いていたし、迎撃も十分可能だったが、動かなかった。芳樹に気付いた瞬間に、目の前に宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が駆けて来たのが見えたからである。そして彼女自身、祥子に自分への敵意が無い事をその動作だけで感じる事が出来るようになっていた。
 祥子芳樹の銃弾を高周波ブレードで弾くと、背の先のパッフェルに笑みかけた。
「捜しに行ったのに、村に戻ってきてるなんてズルイわよ」
「はっ!」
 薙ぎ払うように、詰めていた御風 黎次(みかぜ・れいじ)がカルスノウトを振ったが、祥子はこれにも反応して見せた。
「ちょっと、せっかく会えたのよ、邪魔しないで」
「邪魔は、そっちだ! パッフェル、今すぐヴァルキリーの水晶化を解除しろ!!」
「邪魔した上に… 無視するんじゃないわよっ!」
声を荒げて祥子は轟雷閃を放った。黎次は何とかカルスノウトを盾として防いだが、吹き飛ばされてしまった。
「くっ!」
 足の甲を削って勢いを消し、黎次は体勢を立て直した。アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)と視線を瞬かせると、すぐに再びに飛び出した。
「ふっ!」
 放ったソニックブレードが祥子の不意をついた。辛うじて高周波ブレードを体前に滑り込ませて防いだが、完全に動きを封じられてしまった。その瞬間に、黎次の背に重なるように駆けていたアメリアが宙に飛び出した。
 ヴァルキリー種特有の光の翼を広げて舞い上がり、ランチャーを構えたパッフェルの姿をその瞳に捉えた瞬間、その身を「赤い光」が貫いていた。
 剣の花嫁たちを水晶化していた「赤い光」。その時と同じように、アメリアの全身はタチマチ水晶化してしまっていた。
「アメリアっ!!」
 駆け寄る芳樹を横目に、クルードオリヴィアの妖刀村雨丸を捌き弾いた。
「… やはり… 花嫁以外も水晶化できるのか…」
 クルードパッフェルへ視線を向けた時、彼女のランチャーが自分に向いている事に気付いた。
 やられる。
 そう思った瞬間が、その状況がしばし続いた。パッフェルクルードの間に、両手を広げたミルザムが立っていた。
「お止めなさい、これ以上は」
「…… あなたを水晶する…… それで、終わってしまうわね」 
 クルードを含め、ヴァンガード隊員たちも全員が目を見開いた。一同の動揺を一度に鎮めるように、ミルザムは笑んだ声で応えてみせた。
「それは、剣の花嫁やヴァルキリー以外も水晶化できる、という事ですか? ではなぜ今までそれをしなかったのでしょう」
「…………」
「あなたや、十二星華の行動には一貫した意思が見られません。そのような人たちが女王器を手に入れた所で、何を成せるというのです」
「…… 何も考えずに踊らされているだけのあなたに言われても、ね……」
 パッフェルが、より一層に笑みを見せた時、ミルザムの盾となるべく、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が彼女を囲んだ。
「ミルザム様、お下がりください。アルっ」
 アルゲオミルザムに添いたのを確認すると、イーオンセルウィーと共に一歩前に出てパッフェルに対した。
「久しいな、懲りる事なく青龍鱗を狙ってくるとは」
「…… 大人しく渡せば、私もティセラも楽が出来る」
「そんな訳に行くか。今のティセラは只のテロリストだ、テロリストが女王になるのを誰が指を加えて見ているものか。力で奪った所で、ティセラの悪評が増すばかりだぞ」
「…… それはお互い様でしょう」
 パッフェルのランチャーが「赤い光」を放った。しかし、その光りが水晶化したのはセルウィーが宙に放った「小人の小鞄」の小人であった。
「あなたの好きにはさせません」
 右腕を肩の高さまで上げて、静かに言った。
「機晶姫に水晶化の光りは効かないでしょう?」
「さぁ? 試してみる?」
 一般的な毒は効かない、しかし水晶化はどうであろうか。
 セルウィーが反応するより速く、「赤い光」が耳の横を過ぎていった。
 光りに貫かれ、全身を水晶化されたのはアルゲオであった。
「アルっ!!」
「青龍鱗を渡すなら、解除してあげても良いわ」
「なっ、何を馬鹿な!おまえに頼まなくても、ミルザム様が居る」
「ふふっ、どうぞ」
「ミルザム様!」
 頬を強張らせたまま、青龍鱗をセルウィーに向けた。ミルザムの手は、小さく震えていた。
 青龍鱗の光りがセルウィーを包む、そして、弾けた時、セルウィーは水晶化したままだった。
「そんな、ミルザム様!」
「もう一度、やらせて下さい」
 同じに光りがセルウィーを包み、同じに弾けて、結果も同じだった。
「どうして……」
「ミルザム様、アメリアも、お願いします」
 芳樹が、水晶化されたアメリアを引いてきた。ミルザムは再び瞳に力を込めると、先と同じに青龍鱗を、そして、結果も同じに。アメリアの水晶化も解除する事は出来なかった。
「くっ!」
 何度も、何度も何度も何度も息つく間もなく、すがるように、ミルザムは2人に光りを向け願った。
「どうして! どうしてどうしてどうして!! どうして解除できないの………」
 心は既に泣いている、立っていられずに膝を着きながら。それでもミルザムは青龍鱗をセルウィーに、アメリアに向けていた。
「私では…… 私には……」
「そう、出来ない。村の全ての水晶化を1度に解除できる、それが青龍鱗本来の力。私なら出来る、でもあなたは出来ない。その程度の水晶化も解除できない、あなたには」
 ミルザムが崩れた。青龍鱗を持つ手にも力が入っていない、今なら幼児でも簡単に奪えた事だろう。ミルザムの瞳から、涙が1粒だけ滑り流れた。
「青龍鱗を持ってくれば、いつでも私が解除してあげるわ」
「待て! どこへ行く!」
 イーオンの言葉が届いていないように。パッフェルが振り向き、その背が見えるといった時だった。
 2つの銃弾が迫っていた、それも光りの如き速さをして。雷属性を得た銃弾の1つを迎撃するのに成功した、もう1弾は、ランチャーで受け止めた。
 機関銃を構えている、鬼崎 朔(きざき・さく)は、刺すような視線でパッフェルに向いていた。
「水晶化を解除しろ… 今すぐにだ」
 銃弾の衝撃を受けたランチャーを静かに構え戻して、パッフェルは笑んでみせた。
「あなたも、見た事がある」
「あぁ、覚悟しろ、今度こそーーー」
「聞こえる?」
「…???」
 が耳を澄ました時、上空から大野木 市井(おおのぎ・いちい)の声がした。
「大変だ、何かが迫ってくる!!」
 小型飛空艇に乗って戻り来た市井が、岩山を指さして叫んでいた。岩山の側面から、次々に巨大な影が出てきた上に、その影は土埃りと共に村へ向かっていた。
「護らないと、水晶、壊れちゃうわよ」
 満面に笑んでからパッフェルが、そして彼女に協力する者たちが岩山に向けて去るを始めた。
 村に迫る巨大な影は、三槍蠍の大群だった。