校長室
【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第1回/全3回)
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地鳴りの様な足音は、すぐそこにまで。三槍蠍の大群が迫っていた。 「待ちなさいっ!」 一行が混乱する中、背を見せたパッフェルにどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)が呼び叫んだ。 「水晶化を解きなさい! 今すぐ! 出来るんでしょ!」 「どりーむ、待って!!」 跳びかかろうとしていたどりーむを、ふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)が小さな体で腕を一杯に伸ばして抱き止めた。 「待ってよ! どりーむ、今はパッフェルが言った通り、水晶化した人たちを避難させるのが先です。この地響きは尋常ではありません!」 地震が起きたような、地面が揺れている感覚は、きっと間違いではない。 パッフェルの一行が姿を消したのと、行き違いの様に、岩山から迫りくる三槍蠍の大群を確認できた。 「ってかデカ過ぎるだろ!」 三槍蠍の巨体を見た篠宮 悠(しのみや・ゆう)が声を上げたのを聞いて、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は笑みながら歩み始めていた。 「あれ? 怖気づいたなら、来ない方が良いよ!」 「誰が! 見てろよっ!」 「あっ、ちょっと、待ちなさいよ!」 駆け出した悠、そしてその後ろに歩が続いた。 迫り来る蠍のその一体に、悠はランスを構えて跳びかかった。 上空からの突き落としに、三槍蠍の皮膚は傷一つ付かずに、逆に弾かれてしまった。無論、相手も走り駆けている事は考慮する必要はあるが、歩が渾身の力でヘキサハンマーを叩き打っても、一瞬、勢いを止めるのに成功したが、それも一瞬だけ、ダメージも期待できなかった。 体勢を崩し、再び駆け出した蠍に吹き飛ばされそうになった2人を、鬼崎 朔(きざき・さく)のライトニングブラストが救った。動き出しの三槍蠍に呻き声を上げさせ、少しだけに押し出していた。 「… 電雷属性の魔法は通じるか… 連発は厳しいが… やるしかない」 朔は意を決して再び機関銃を構えた。 「ミルザム様も、早くこちらへ」 「しかし… 私は…」 水晶化を解除できなかった事が、彼女の覇気を奪ってしまったようだ。日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、淡い瞳をしたミルザムの手を取った。 「ここは危険です、下がりましょう」 「でも、私が解除しなければ…」 「待て!」 皐月のパートナーである雨宮 七日(あめみや・なのか)もミルザムの手を取った時、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が2人に声を投げつけた。 「ミルザム・ツァンダを何処へ連れて行くつもりだ」 「どこ? 安全な所に決まってます」 七日の声が不機嫌そうなのは、そう、いつもの事である。 「この方はヴァンガードの希望ですから」 「では、見せて下さい」 小次郎の後方から、パートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)の、こちらは芯のある声が七日に向かっていた。 「ヴァンガードのエンブレムを、見せて下さい。していない、ですよね」 七日は、そして皐月も動く事を止めていた。眉の1つも動かない。 「時間が無いのはこちらも同じです。携帯しているのでしょう?」 一間。いや、二間と言った所であるか。皐月が左手を上げると、小次郎の右足が狙撃された。 「ぐっ」 「小次郎さん」 小次郎が呻き声をあげたのと同時に、七日がミルザムの腕を押さえ、皐月が青龍鱗を奪取した。 小次郎の足を狙撃した如月 夜空(きさらぎ・よぞら)が、リースの左足を狙撃した。 銃声と彼女の悲鳴をきっかけに、メニエス・レイン(めにえす・れいん)が煙幕ファンデーションにて、また七日がアシッドミストを唱えて、場の視界を封じた。 三槍蠍に気を取られていたヴァンガード隊員たちも、さすがに異変に気付いたようだが、煙幕とミストが範囲を拡大させている上に、ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)のブラインドナイブスが混乱を助長させていた。死角から攻撃されては姿を消す、視界が悪い事で攻撃対象を確認する事もままならない。 メニエスが光術を放った事が撤退の合図であった。 巨大蠍の大群が迫る、ミルザムと青龍鱗が襲撃にあっている。 ガラクの村の混乱は、始まったばかりであった。 「魔法の効果を底上げする薬を作るのは…… 無理だねぇ」 「一体それは。どうしてですの?」 イルミンスール魔法学校、ノーム教諭の研究室で、吹雪 小夜(ふぶき・さよ)は教諭をじっと見上げていた。見上げたまま、ふと呟くように訊かれるものだから、そしてその瞳は張り付いたように教諭に向けられたままだったから。 はぐらかそうとしていたが、それは出来ずに息を吐いた。 「前に私とアリシアもやろうとしたんだけどね、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)氏にそれはもう、怒られたねぇ。禁術に触れかねないし、それに薬は魔法と違って体への負担を考えずに使えてしまうからダメだってね。だから、無理なんだよ」 「でも今は、そんな事を言っている『場合』ではーーー」 言葉がきっかけとなる事がある。 その言葉を聞く事で、自らに課せられた命が心と体を縛り上げる。 チェスナー・ローズの瞳が赤く染まってゆく。 無言のまま、全身の力は抜けたままに、一脚の椅子を両手で持つと、チェスナーはユイード・リントワーグ目掛けてその椅子を振り下した。 「つっっ!!」 椅子がユイードに当たる直前に、葉月 ショウ(はづき・しょう)が椅子を受け止めた。 「何してんだ、チェスナー!」 腕力で椅子を奪い取った。その勢いでチェスナーは、よろけたが、机に腰をぶつけて、ようやく止まった。 一同の視線が集まる中、チェスナーは別の椅子を持ち上げてはユイード目掛けて投げつけた。1つ、2つ、3つと投げた。 「なっ、バカ野郎!} ショウは、1つ、2つ、3つと飛び来る椅子を高周波ブレードで斬る事でユイードを護った。全身を水晶化されているユイードは、小さな傷を負う事も許されないのである。 チェスナーが部屋を飛び出した時、微かに鈴の音が聴こえた気がした。 ノーム教諭の研究室、その壁一枚を隔てた外で一部始終を見ていた影が一つ。 「目覚めたか」 影はゆっくりと口元を上げていった。 ガラクの滝が生ずる道。岩山に空いた水の出口が滝の始まり。 洞窟の中央を水が流れ、そのまま外へ飛び出して滝となる。 流れの道の左右を崩して、水の流れを制限していた。 外へ落ちる水は勢いを失い、滝壺の中央へ落ちていない。 ガラクの村が見えている。慌てふためく様子が見える。 村の中へ、三槍蠍の大群が突き進んでいるのが見えた。 「どうするつもりだぃ? これから」 桐生 円(きりゅう・まどか)が訊いた時、パッフェルは、 「大きな、大きな泉を作るの」 と、笑みて零して応えたのだった。
▼担当マスター
古戝 正規
▼マスターコメント
こんにちは、古戝正規です。 いかがだったでしょうか。 【十二の星の華】におきまして、私のシナリオでは 後編に当たるシナリオの第1回(全3回)となっております。 パッフェルが意図した事や、していない事。 各地で起こる事件の数々が、残り2回でどう収束するのか、 私も非常に楽しみです。 次回作のシナリオガイドは近日公開予定です。 再びに、お会いできる事を祈っております。 また今回、リアクションの公開が遅れてしまいました。 ご迷惑をおかけしてしまった事をお詫び致します。 誠に申し訳ありませんでした。