|
|
リアクション
4-02 ジャレイラ死のあと
ジャレイラ戦死が伝えられる乱戦のなか、綺羅瑠璃(きら・るー)はジャレイラの指揮を引き継いで、レオンハルトと互角の勝負をするほどの采配を発揮し前線を何とか立て直した。その後、ジャレイラの死を聞いた後陣のシャトムラが前線に移動してくることになった。
テング山、テント山も取られ、こちらに残った指揮官クラスは瑠璃、メニエス、シャトムラのみとなった。あとは、義勇軍の各部族長がいる。
瑠璃は、策を述べた。
「あたしが陽動ね。いいわ」
メニエスはさらりと策を受け入れる。とにかく、その驚異的な魔力で教導団を打ちのめせればいい。そういうふしがある。自信もあるようだし、メニエスには実際それだけの実力もある。心配ないだろう。瑠璃はシャトムラを見た。
「ふむう……」
ジャレイラを除いて黒羊教における最高の地位にある仕官でもある。鍛錬を積んで腕の方もそれなりだと見えるし、思慮深そうでもある。意志の強さも見受けられるが策を聞き入れてもらえるか?
「瑠璃殿の策でよろしかろうと思う。ではわしが正面にあたろう、最後の一兵まで戦う所存だ」
「……」
「ふん」メニエスはどうでもいい、といったふうだ。
兵隊長が入ってくる。
「あの、失礼致します。……よろしいでしょうか。
兵どもの間に些か、懸念すべき空気が感じられまして」
「何か?」
「はい。よろしいでしょうか……」
「鏖殺寺院?」
鏖殺寺院が裏で糸を引いている。
鏖殺寺院は邪魔になる黒羊軍や盛況な国々、部族などにわざと損害が出るように裏で手を回している。
そういったことがささやかれているらしいのである。
実際のところ、今回の戦いにおいてはもともと基本的に武力をもたなかった黒羊郷に、教導団と戦わせるべく兵を入れさせ軍を作ったりしていったことには、寺院が裏で手を回していた。黒羊側の将の多くも、寺院関係から送られてきた者たちであった(寺院所属者だけではない)。しかしそのことは、黒羊教では高位のこのシャトムラなどは知らなかったりする。国家や勢力としての欲望や個人の野望が複雑に絡み合い、実際どこからどこまでが誰の欲望であり、また誰が誰を利用し利用されていたのか、光のあて方によっても変わるであろうし、そこに真相というものはないのかもしれない。
「他には?」
「ジャレイラが戦って負けるはずがない。卑怯な手を、なんて言われているが、黒羊の神である彼女がそんな手で負けるだろうか? などとも」
「それは、わしも信じ難いのだが。しかし……」
それが鏖殺寺院が呪いなどと言われていることにはシャトムラはさっぱりわからないと首を傾げた。
「呪い? 撲殺寺院ではないのか。しかし、そのようなものある筈はない」
ともあれ、そういった噂による不安が広まっているのだという。
「うぬう。このような決戦の前に。まあよい、前線には我ら信者の兵のみ出る。我らにゆるぎはない」
「あたしは兵なんて要らないけどね。放っておけばいいんじゃない?」
「……」瑠璃にはしかし、これはおそらく教導団の策略であろうと理解できた。相手方にはその手の能力に秀でた者が幾人かは心当たりがある。しかしともあれ広まった不安をおさめるのは容易ではない。
厳しい戦いになるだろうなとは瑠璃は思った。
だが、瑠璃は兵の前に立つ。
「ジャレイラ様は教導団の卑劣な策略によって身罷られた!
我々は最後の一兵になろうと仇をとらねばならぬ!!」
*
天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)は、教導団の陣地から離れたところで、同じ東の谷に流れる雲を見ていた。
近くに、付近の住民の村がある。
「噂は、上手く流れたかな」
敵陣への情報撹乱を行ってきた。敵にも獣人がついているのでパートナーの内、
天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)に潜入させたのだ。その後は華嵐は周辺の勢力を回り、教導団からの和平交渉の打診を進めるべく動き始めたところだ。直に敵陣に加わっている義勇軍には鋼鉄の獅子から手が打たれてる。なので天霊院はその他の協力的な勢力を回る。
戦の趨勢は見えていた。そろそろ、黒羊側についていても芽がなさそうだが理由なく離れられない……そういうふうに思っているような連中にきっかけを与えるための一押しを与えるときである。そう華嵐は判断していた。
オルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)が飛んでくる。
「華嵐。あの村も大丈夫そうだね。行こう?」
「ああ」
「村の人は、戦で奥地に避難していたらしいけど、戻り始めているらしいね。テング山にもテングが帰ってきたらしいとも言っていた、戦の終焉が近いのを感じとったみたいだね」
「行こう」
あと一戦で勝負はつくだろう。華嵐は思った。無論、激しい戦いになるだろうけど……鋼鉄の獅子の皆なら。
華嵐は自らの役目を果たそうと歩き出した。