リアクション
第I部 第1章 最終決戦前(1) 今、シャンバラ教導団第四師団とそれに味方する軍勢は、敵の本拠地・黒羊郷へと、各方面から攻め上がりつつあった。 黒羊郷正面に達したのはハルモニアからの進攻軍。つい先日まで黒羊郷に占領されていたハルモニアにとってはまさに、反撃である。正面の守りは固い。しかし、 「勇敢なる兵(ツワモノ)達よ! この戦いがこの長きに渡った戦いの終止符だ。この戦いはその中で最も厳しい戦いとなるだろう!」 ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)が出陣前の兵達に、呼びかける。 数が数ゆえに劣勢なのは否めないが……ユウも、そうわかってはいる。だが……「やるしかない!」 メイドナイト・ユウ。武装したメイド兵がユウの両脇に付き侍る。 「我々はこれまで勝利を持って進んできた! そして勇敢な先遣として向かった者たちの活躍で敵の指揮は乱れている……今が好機! 我々の手を持って……この戦いを終わらせるのだ! 武器を持て! 声を上げよ! 勝利を手にし平和を得るために、出陣ッ!」 今回、ユウの軍師にはルゥ・ヴェルニア(るぅ・う゛ぇるにあ)が付いている。メイド軍師である。 ルゥは、陣形を指示を出した。本体は魚鱗の陣、奇襲のルミナには鋒矢の陣で攻める。 ハルモニアの勇敢なヴァルキリー達、そして共に戦ってきたぶちぬこ達。 ヴァルキリーはユウの副官ルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)が、ぶちぬこはナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が率いる。 「ひなが団子じゃから、実質的なぶちぬこの指揮は妾が行うのじゃ」 そして、ユウの武装メイド隊である。武装メイド隊は……「ボクも今や、完全武装メイド剣士に。……」その先頭に立つ歯柳生 三厳(やぎゅう・みつよし)、苦笑い。「でも、この格好けっこう気に入……。……。さあ、柳生十兵衛三厳、推してまいるんだよ!」 更に、ユウ、ルミナ、ナリュキらに遅れて、ハルモニアからは月島 悠(つきしま・ゆう)が後詰を一手に率いて、進軍していた。 国境警備にあてていたぶちねこの多くも、脅威の去ったと思われる国境から黒羊郷における最終決戦に向け、月島に従軍する。ハルモニア本城には、我らがぶちぬこ隊長の御凪 真人(みなぎ・まこと)がいるので、背後は安心してよいだろう。 月島は前線に到達すると、とある噂を耳にすることになる。東の谷で戦っていた鋼鉄の獅子隊長のレオンとイリーナの噂である。今はこうして離れているが自らも獅子に所属する月島としては、獅子たちのもとへ駆けつけたい、とも思う。だが、東の谷の噂が入ってくるくらいに、月島たちも、いよいよこの戦の中心(全てが結集する決戦の地)に移動してきた、とも言える。今は、自身に出来ることを全力でやるのみだ、と月島は決意を固くした。 後詰の主力は、ハルモニアで味方に付けた義勇軍であった。 彼らもこの最終決戦に参加を表明した者たちだ。義勇軍は、ハルモニアの獣人たちである(ネル・ライトが第1回で彼らの住居を訪れている)。部族長の一人は、ネル・ライト(ねる・らいと)の父である南部地域の部族の長とは馴染みの仲であった。そのことでとくに意気投合するところもあったのだ。 「大丈夫、私達には教導団と聖地ヴァシャからの精鋭が付いてますわ。この機を逃せば黒羊郷、黒羊軍の影響を取り除くチャンスは二度と来ないかもしれませんわよ。 今ここで立ち上がり、我ら獣人族の自由と平和を勝ち取るのですわ!」 そして黒羊郷内地においても…… * 「何? それは本当か」 黒羊郷郊外にあるとあるキャバクラ。経営者の男は、内地で黒羊側の食糧庫の一つが襲撃された、という事態に些か驚き、また不安をよぎらせていた。 「むう。この時期に。 一体誰なのか見当は付かないが……これまで、黒羊郷の内地でこのようなことが起こることはなかったな。(イレブンらによる最初の要塞襲撃以降。) よほど隠密に優れた者か……我々の仲間が入り込んでいるのかもしれない。 しかし、何れにしてもこちらからコンタクトを取ることは難しいし、危険だな」 経営者の男が髭をさすると、それが取れかかった。「おっと……」その顔には教導団ノイエ・シュテルンのナンパ男の面影があった。彼は続ける。 「だがあるいは、これは前触れなのかもしれぬ。我々以外にも……各地で準備が整いつつあるのかもしれんな。 幹部たちの話でも、楽観視している者がいる一方で、我らが教導団と湖賊の連合水軍は東河を北上しすでに水上砦を包囲していると聞くし、それにまた、東の谷においてはこの黒羊郷の神とされたあのジャレイラが討たれたという……これは大きい。 我々はその最も内側にいることになる。 彼らが外側から、我らが内側から攻めれば、おそらく事は成るぞ……! もう少しだ」 |
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