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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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第2章
最終決戦前(2)


 教導団・湖賊らの連合水軍は、黒羊郷に至る一歩手前で最後の水上砦を包囲していた。
 前回において、ブトレバ沖の戦いに勝利し敵水軍戦力は撃滅させたと言っていい。
「もう、相手水軍の力はまったく残っていない……」
 残るは、
「水上砦」
 第四師団の水軍を現在統括する立場のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は河上を見やる。「水上砦を抜けば、直進で黒羊郷中心の要塞に攻め込めるわ」
 早く片を付けたいところだ。
 水上砦にはすでに、ローザマリア麾下はじめ幾らかの戦力が攻めにかかっている。唯一残る突破口となる工事箇所を守る黒トロル。シルヴィア、ルクレツィア姉妹はそれを排除に向かい半数の四匹を水底に沈めたが、襲いかかるトロルの鉄球の凄まじさに、一旦離脱した。
「こ、これ、妾を置いて行くでない! 待てと言っておろうに」
 水中ゲリラの様子を隠れ潜む上階から窺っていたグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)
 だが……姉妹は行ってしまった。
「……」
 肩を落とすグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー。
「致し方あるまい。引き続き破壊工作を行うとしよう……」彼女はトボトボと、砦の中へと戻っていった。
 だがこうして水上砦攻略は最終段階に入りつつある。その後、決戦はそのまま攻め上がる黒羊郷へと集約されることになるだろう。
 
 
2-01 水上砦を抜けて

 ただ、黒羊郷の同盟列強国であり前回降伏したブトレバとの戦後の交渉も、ローザマリアにとっては置いておけない問題としてあった。使者のジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)がすでに訪れているが、独立勢力化したプリモやミューレリアも未だブトレバ領内から軍を退いておらず、問題は複雑化している。ローザマリア自身もこの混迷するブトレバに向かうことになる。
 
 ローザマリア不在のまま、教導団・湖賊の連合水軍はいよいよ水上砦を包囲した。
 彼らにとって心強いこととして、水軍の始めに協力した比島 真紀(ひしま・まき)少尉も最終決戦に際し、自らのにゃんこ兵を連れ、この地に参じた。
「いよいよ、水上砦攻略が始まったと聞いて駆けつけたんだ」民兵を募っていたサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)もすでに彼女と合流している。
「水軍としての能力は残念ながら訓練もあまり行えておりませんので、陸上戦に特化した戦力として参戦します。
 水上戦闘は教導団はこのままローザマリアさん等の部隊が主力となり、湖賊と共に攻めて頂き、私たちはブトレバ経由で陸路より水上砦へ進攻するであります!」
 比島は早速、陸路より兵を進めた。ブトレバ領内の通過についてはすでに交渉が成っている。
 教導団の船は、上杉 菊(うえすぎ・きく)がローザマリアの水軍指揮を代行する。
 湖賊には、頭領シェルダメルダ(しぇるだめるだ)樹月 刀真(きづき・とうま)と一緒にブトレバからすでに戻ってきている。
 菊は、彼女らとの連絡役も受け持つこととなる。
 菊は今回の作戦についての見通しを伝える。
「最終的には、敵地への上陸作戦になると予想されます。おそらく、多くの犠牲を伴うことに……」
 水上砦包囲はすでに、湖賊も同意し作戦を開始している。上陸作戦については、菊はそう述べ、湖賊には参加・不参加の自由があると前置きの上で改めて助力を要請した。
 これに対しシェルダメルダは、湖賊も最後まで共に戦うことを述べた。
「水上砦を抜いて、黒羊郷に攻め込む際、どこまで件の工事が完成しているものか……
 場合によっては、そこに船を突っ込ませて無理矢理こじ開けるしかないかもしれないですな。なるべく、船は犠牲にしたくありませんが」
 そう言うセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)に、シェルダメルダは、「仕方ないだろう、そのときは湖賊の船を派手にぶちかましてやるしかない」と豪快に笑って応えた。
 湖賊船では、
「わー。火が出てるね。まさにここが攻め時よね、うん!」
 夏野 夢見(なつの・ゆめみ)は、湖賊の先陣を任されている。今シリーズの初回に間違って湖賊に就職して以来今やその影番にまでなった、と噂される。
 同じ船には、湖賊に協力し戦ってきた刀真も乗り込んでいる。
 刀真は船縁で、少々物思いに耽る。「もう少しこの戦いが続けば……何を言っているんだ俺は」
 長く続いた黒羊郷との争いもここで決着が付く、……つまりシェルダメルダとの別れも近付いているという事だ。彼女には素性の知れない自分の我が儘を随分聞いて貰った。敵(ラス・アル・ハマル)を討ち取り湖賊の手で決着をつける事で恩を返そう、と。
「刀真」
「頭(かしら)……作戦会議は、済みましたか。俺は、またこの剣で、最後まで戦うのみですが」
「ああ、頼むよ。心配はもうしないでいいだろう。
 ……何か考え込んでたのかい?」
「いえ、……」
 刀真は、この戦いの終りを予感している。「三日月湖に争いが起きればそこに湖賊が現れそれを収める……格好良くありませんか?」その言葉は、戦の後にとっておこうかと、刀真は押し黙った。郷愁は後に、今はこの剣で。この地に死神として名を残そうとも。