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リアクション
私の豆を喰らいなさい
開会式後参加者は『青鬼』と『赤鬼』のチームに別れて、行動を開始した。
まずはフラッグユニットの設置位置を決めなければならない。浮遊するフラッグを引き歩いても構わないのだが、移動防衛はリスクが大き過ぎる。ここはやはり狙われにくい場所にフラッグを設置して防衛線を張るのが得策といえる。
その点で言えば、『青鬼』たちは周到に準備を進めていた。ワザワザ窓のない教室を選びそこにダミーのフラッグユニットを複数設置した。ダミーフラッグ自体の耐久性は低いものの、本物と見分けるのは困難な作りをしていた。
更に、この教室へと至る廊下には大量のトラップが睦月、加夜、信長の手によって仕掛けられている。スキル《破壊工作》《ピッキング》を持つ生徒ではないと容易には辿りつけないだろう。
遠距離からのスナイピングも不可能だ。教室に窓がないために、外からフラッグの位置を確認しようがなく、攻撃もできない。
一方、『赤鬼』たちはダミーの用意をしていたわけではない。また、フラッグの位置も分かりやすい場所にあった。
屋上だ。
しかし、高低差を生かせる配置としては申し分ない、いい場所である。
『豆』を使うとはいえ、銃撃戦に代わりはないこの豆撒き大会において、高いところにポジショニングを取れるのは圧倒的に有利だ。防衛が逐一敵の動きを知ることができ、スナイプもしやすい。
襲撃が来るのは屋上に上るための階段のみで迎撃もしやすい。場所が割れやすい分、押しかけてくる敵陣を一網打尽にする事だって可能だ。誘導性にも長けていると言える。
尤も、この場所は祥子が陽太に提唱した場所ではない。彼女が提唱する場所に設置するには多少時間がかかるために、仮設としてフラッグの設置をここに決められた。
各人準備が着々と進めていく。
だが、準備意外にもやらねばならないことがある生徒もいた。
霜月がその生徒だ。共に参加したパートナーもとい子供たちに豆撒きを教えなければならない。豆撒きという行事に馴染みのない彼らにとってこれは未知の遊びだったからだ。
「鬼は外、福は内、と豆を投げるものだと本で読んだことがあります……。でもそれでは鬼さんがかわいそうです」
と言ってアイリスは練習がてらにダミーフラッグに向かって「鬼は内、福も内」と豆を投げた。
「そうだねアイリス。でも、鬼ってのは病気や災いの揶揄だよ。昔は病気や災いは妖怪や鬼の仕業と考えられていたんだ。それを払うために豆を撒くんだよ」
そもそも節分とは立春・立夏・立秋・立冬の前日のこと。つまり季節の変わり目だ。そういった時期には風邪をひきやすく、昔の人は季節の変わり目に邪気、つまり鬼が生じると考えていた。それを払うための行事が豆撒きという習慣として今も残っている。
「でもなんで豆を投げるの?」
霜月の服を握って怖がっているアレクサンダーが問いかけた。
「それはね、鬼たちは豆が嫌いなんだ。ゲーム的に言えば効果はバツグンだからね」
詳しく言えば豆は「魔滅」に通じ、鬼などの魔物を払う力があるとされている。炒った大豆などを使うのはこのためだ。しかし、今回使用する豆は全て炒られてはいない。
「そんなことよりも、今日はサバゲーだろう? こっちは『青鬼』だけど向こうは『赤鬼』。鬼は退治しなくっちゃだ!」
狙撃手たるメイが張り切りエアーガンを構え引き金を引いた。装弾されていないが、撃鉄の降りる音にアレクサンダーがビクつく。
「よし、それじゃ敵が来るまでダミーフラッグを使って豆撒きの練習をしましょう」
「「「はーい」」」
霜月の合図で三人がダミーフラッグに向かって一斉に豆を投げ始める。
「……間違って本物壊すなよおまえら……」
防衛に一分の不安を抱いた洋介が注意したが、彼の声は届いた様子がなかった。その後ろで孫市が微笑えんだ。
『皆さん、準備はいいですか? それでは試合開始です!』
校内のスピーカーからマリエルの声が響く。いよいよ戦闘開始だ。
『現状は逐一、あたしマリエルと解説の二人が報告します』
『加能 シズル(かのう・しずる)です』
『レティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)ですわ』
マイク越しに二人の解説がマリエルの隣に座った。
彼女たちの眼の前にはモニターが用意されており、学校中に仕掛けられたあらゆるカメラの映像が画面に映し出される。そして、彼女たちの選んだカメラの映像は観客用のスクリーンへと投影されるようになっている。
『さて、両陣営が早速動き始めました。まずは相手のフラッグを捜索する所からでしょうか』
マリエルの言うとおり、まずは攻撃する場所を知らなければならない。
『でも、もう『赤鬼』のフラッグは見つかったみたいよ』
シズルはそう言ってスクリーンの画面を屋上の映像に切り替えた。『赤鬼』の防衛は早速『青鬼』のスナイパーたちに攻撃を受けていた。
半対校舎の窓から身を隠し、孫市、信長の両英霊が【エアーガン/パ
「ハンドガンを選んだ俺には立場がないな。どうだ信長、うまくいきそッフェルカスタム】による狙撃を試みていた。その他の生徒も、各所から狙撃を始めるも、身を乗り出して『青鬼』のスナイパーに返り討ちに合っていた。
「うつけが。敵に弱点を晒しよって」
早々に敗退する見方を信長が詰る。かつて大うつけと言われていた者にそうは言われたくないものだ。しかし、知略と武勇に長ける彼――今は彼女だが――の過去を考えれば、罵倒を言い返せる者は多くない。うか?」
物陰から忍が様子を伺う。信長がメインマーカーを後頭部に張ったせいで、彼は迂闊に動けないでいた。
「種子島よりは精度がマシじゃが、《スナイプ》も《シャープシューター》もないから上手くいかん。そっちはどうじゃ雑賀衆」
信長が孫市に問うた時、孫市の放った『豆』に当たり、一人が脱落したとアナウンスが入った。
「ウフフ……すないぱーらいふると言うものは素晴らしい便利ですわ。しかし、ふらっぐを撃ち落とすには場が悪いかと」
孫市の言うとおり彼女らのいる場所からでは『赤鬼』のフラッグは狙いにくい。更に、上方への射撃は重力により弾道が難しくなる。正確にフラッグ狙うには高低差を無くすために、敵と同じように屋上へと上がるしかない。
「本願寺で私を手こずらせた雑賀の腕がそんなものか」
「でも、孫市の言うとおりここからじゃ、旗を狙えないぞ。第六天魔王さんよ」
《超感覚》で索敵しつつ孫市をカバーリングしている洋介が反論した。
「直接旗を落としに行くしか無いようじゃな」
「どうする? 旗を落としに行くと言っても、信長お前作戦かんがえてあるのか?」
大会の開始前から信長は忍に『旗を取る』と意気込んで言っていた。
「フッ、あたりまえじゃ! おまえらも私に加勢せい」
是非も問わせず、信長は洋介と孫市を自分の作戦に巻き込んだ。
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