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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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 砦の首領――ボス・ギロンゾはたっぷり、それこそ煙草を2、3服は味わえるだろう時間、瞑目していた。君達が盗んだ行商人の姉妹と積み荷を取り返す手伝いをしてほしい。そういう依頼が各校に入った。言づてに来たのは年端もいかぬ青年だ。おそらく自分より2周りは年が下だろう。名を国頭 武尊(くにがみ・たける)と言ったか。波羅密多実業高等学校の生徒だと言う。
「それで」
 瞼を押し上げると、目の前の青年の実直そうな顔に不可解な表情が浮かんだ。
「俺にどうしろって言いたいんだ」
「さっきも言ったが、各校へ討伐依頼が出ている。このままじゃ危険だ」
「あー、何だったか、名前、あんた、わかってんだろうが、俺ァ世間じゃあ悪党だ。俺達は分かってんだよ。これが正義だなんて思っちゃいねえさ。だからやってんだ、分かるか。俺たちは悪い事がしたいんだよ」
 武尊は口をつぐんだ。ただしっかりと相手と目を合わせ、その内から、説得に応じる糸口を探り出そうとしていた。
「その悪党にお前さんは手を差し伸べようって訳だ」
「オレは同胞だと思ってる」
「ハッ、そらどうも」
 緩く撫でつけていた金髪を無造作にかきむしる。若いな、とギロンゾは思った。この荒れ果てた大地で生き残っているにしては、まだ靴が草臥れていない。
「せっかくのご忠告だがな、俺は逃げねえよ。ここに居る奴らもきっとそうだ。俺がここに居る限りあいつらもここにいる。あいつらがここに居るなら俺もここに居る。それが筋ってもんだ。こんなでも俺はボスだからな。ここまでデカくすんのにどれだけ掛かったと思ってんだ。そう易々と手放せねえよ」
 ようやく本音が出たな。大きく切り取った窓から遠くを眺めていた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は、当たり障りの無いギロンゾの固執に胸焼けにも似た苛立ちを覚えた。大荒野を一望できる。砂地と蒼い空のコントラストが窓一杯に広がる。
「しっかし、人質なんて面倒なもん抱えやがって。ンなの首ぶった切って門前に晒しときゃいいんだよ。見せしめでよ。何なら俺がやってやろうか?」
「あれは商品だ」
 視線だけ動かしてギロンゾは言い捨てる。竜造は唾を吐くように舌を打った。
「用事はそれだけか? だったら帰ってくれ。この後客が来る」
 しばらく武尊は首領を見詰めていた。ギロンゾもまた慈悲深い学生を検分していたが本能の訴えにより顔を背けた。大きく嘆息し、武尊が席を立つ。階段を下るとちょうど猫井 又吉(ねこい・またきち)が戻ってきた。
「武尊、どうだった」
「駄目だった」
 又吉は意外そうに目を丸くした。そうなのだ。武尊は友情のフラワシを持って説得を試みていた。それでもギロンゾは意見を曲げなかった。
「へえ、フラワシ使っても駄目だったのか。俺はそこら中にトラップ張ってやったぜ」
 ギロンゾと武尊が話をしている間、又吉は砦中の部屋に片っ端からトラップを仕掛けて回っていた。どこから攻めてくるかシュミレーションをし、積み荷のある所へは徹底して罠を掛けた。防衛策を練ってもいた。ただ、蛮族達は武尊の話をまともに取り合っておらず、「どうせ来やしねえよ」と又吉の助言ごと笑い飛ばした。下品な笑いを思い出し又吉は顔をしかめる。
「これからどうする?」
「もうここに居ても仕方がないからな」
 収穫が何もない、というのは骨折り損だ。腹いせに奴隷の1人でも奪って帰ろうか。つらつら考えていると声をかけられた。
「帰んのかよ」
「話しても無駄だったからな」
 振り返れば、階上に竜造がいた。驚いたと言えば自分の他にも蛮族側に荷担する生徒がいたことだ。それも1人ではない。
「おまえも残れって。こんな遊べる依頼もそう無いだろうが」
 武尊は揺れていた。自分1人が味方についただけでは到底勝ち目はなかっただろうが――あるいは。そんな考えが過ぎってしまうのだ。

 アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)はギロンゾの言う「商品」の元へ向かうように竜造から言いつけられた。出撃までの時間、見張りも兼ねてのことだろう。周りは怖い人たちばかりで、あまり砦の中をうろうろしたくは無いのだが、文句は言えない。言う理由もない。
「こんな所でトモちゃんの事が……わかる、のかな……」
 でも、ほかにアテもないからしょうがない。
 そうだ、もしかしたら、その「商品さん」はトモちゃんの事を知っているかも。顔を合わせたらさっそく訊ねてみるとしよう。「私のトモちゃんのこと、知りませんか?」と。
 アユナの足取りは少しだけ軽くなった。