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リアクション
第2章
「よっし、突撃魔法少女リリカルあおい、全力全開で行くよっ!!」
秋月 葵(あきづき・あおい)は気合を入れた。
「……」
その傍らで無口ながらやる気になっているのは、葵のフェイク。カメリアと遭遇し、事情を説明された葵は自分のフェイクと共に『似顔絵ペーパー』の回収を買って出たのだ。
葵のフェイクも魔法少女だが、本物と違って無口で大人しい。見分けがつかないと混乱するからと、出会った後で葵がリボンを黒く色違いのものに取り替えた。
「さっ、行くよ!!」
「……」
葵のフェイクは普通紙のフェイクなので特に強いわけではないが、葵とて実力のあるコントラクター。そのフェイクとなれば普通紙フェイク相手ならば充分に撃退できる能力を持っている。
カメリアが描いた似顔絵はコントラクターのものばかりではない。一般人のフェイクを含めた似顔絵ペーパーを回収すべく、突撃魔法少女リリカルあおいと突撃魔法少女リリカルあおいブラックは飛び立っていく。
「……たのむぞ……」
それを見送るカメリア。その横でもう一人、自分のフェイクと対峙している女性がいた。
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)である。
「私と契約して魔法少女にむぐ」
「そのネタはもういい。そもそも私のフェイクだったら地球人とは契約できないでしょ」
こちらも特に他人に危害を加えるフェイクではなかったようだ。だがカメリアの説明と、体重が軽いことからこのフェイクも普通紙のものであることがわかる。
「というわけで、私は魔法少女だから!! さあ、街の正義と秩序を守りに行くよっ!!」
と、本物よりもちょっと元気のいいフェイク祥子は本物の祥子に向かって宣言した。
「ふむ……それも面白いわね。ほんの一時のことだけど……私と私が力を合わせる時が来たわ!!」
本物はちょっと物陰でフェイクの着ていた軍服を着替えさせる。このままではやはり混乱を招いてしまうことに配慮してのことである。
そして。
「魔法憲兵少女、えむぴぃレッド!!」
「魔法憲兵少女、えむぴぃブルー!!」
「えーと……どっちがどっち?」
と、カメリアは突っ込んだ。
「赤い上着を着た私が、えむぴぃレッド」
と、本物の祥子は言った。赤い上着と黒い制服を着込んでいる。
「そして葵上着の私がえむぴぃブルーよ!!」
フェイクの祥子も胸を張った。こちらは青い上着に白い制服だ。
「えーと……赤と白と黒と青で……いまいち分かりにくいのぅ」
「まあまあ、細かいことは気にしないで」
「そうそう、そんなことよりフェイク回収、行ってくるよっ!!」
かえって混乱するカメリアを尻目に、二人の魔法憲兵少女えむぴぃサッチーズは街を走って行く。
それを見送ったカメリアは、一人呟くのだった。
「……まあいい……あれならば頼りにはなるじゃろう……さて……儂もブレイズのフェイクを探さねば……」
☆
そのうち、カメリアはとりあえずツァンダにいる知り合いにメールを送ることを思いついた。
当たり前だが、フェイクの数は自分が似顔絵を描いた相手にのみ限定される。その中でもメールアドレスを知っている人物の数は少ないが、それでもしないよりはマシだろう。
「……麻羅のフェイクが……!!」
水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)もそのメールを受け取った者の一人だ。メールによると、とりあえずパートナーである天津 麻羅(あまつ・まら)のフェイクを作った、ということしか分からない。多くの人間に説明している暇がないので、最低限の説明に止めたのであろう。
「まあ……他の連中に聞いているところによると、ちょい悪設定で暴れておる者が多いようじゃ。
紅椿の考えることじゃ、『邪神・天目一箇神』といったところかの?」
麻羅はカメリアとは茶飲み友達として仲がいい。カタカナ文字がちょっと苦手な麻羅はカメリアのことを『紅椿』と呼ぶのだった。
自分とそっくりの者が暴れておるとは、これは腕が鳴るわい、と内心ほくそ笑む麻羅。
だが、その数十秒後にその考えが全く的外れであると知る。
「ふえ……ココ、どこぉ……?」
その少女は、控えめな眼差しを涙で潤ませて道行く人々を眺めていた。
どうやら迷子らしいが、自分がどこから来たのかよく分かっていないらしい。周囲の親切な人が声をかけてくれているが、不安に泣きじゃくるばかりでどうにも要領を得ない。
そのことがまた悲しいのか、自分はどこに行けばいいのか、更に可憐な瞳が涙に濡れた。
そんな庇護欲をそそる可愛らしくも大人しく可憐な美少女生命体――それが天津 麻羅のフェイクであった。
「紅椿ーーーっっっ!!!
何でわしのフェイクはあんな人畜無害系なんじゃーっっっ!!
他にあるじゃろ他にーーーっっっ!!!」
麻羅はそれを見た瞬間、携帯電話を取り出してカメリアに直通のクレーム電話を入れた。
その電話を受けたカメリアはさらっと答えた。
「いやあ、せっかくお主の嘘設定を考えるのにありきたりの設定なのもつまらんじゃろ?
まあ、あれじゃ。親友ならではの――気遣いってヤツかの?」
「電話で見えぬがイイ顔して言っとる場面と違うわーっ!!
友情の使い方を間違えておるぞーーーっっっ!!!」
電話に向かって全力で咆哮する麻羅。だが、まだ彼女には本当の脅威が訪れてはいなかった。
ちなみに、緋雨は日頃から外見的には12歳の可愛い女の子である麻羅に、色んな服を着せ替えて遊ぶのが趣味の一つである。
だが英霊である麻羅は内面的にはかなり成熟した精神性を持っているので、そこまで可愛い趣味は持っていない。
しかし、その目の前に内面的にも少女である麻羅が現れたのだ。
ある意味で、そのフェイク麻羅は緋雨の理想の一つを叶える存在であった。
「か、かわいい……」
緋雨はというと、そのフェイク麻羅の可愛らしさに逆にどうすることもできずにいた。
フェイク麻羅は、そんな緋雨を人通りの中に見つける戸、ててて、と小走りに走ってきて、一言。
「えへ、ひさめお姉ちゃん、みっけ♪」
と、天使のような笑顔を見せて、その手をぎゅっと握った。
そこが、緋雨の限界であった。
「いやあぁぁぁーん、かわいすぎるぅ〜!!!
カメリアさんグッジョブぅぅぅ〜っ!!!
妹属性の麻羅なんて素敵すぎるわぁぁぁ〜っ、この娘持って帰るーっっっ!!!」
もう全ての理性が軽く吹き飛んだ緋雨は、フェイク麻羅をその全ての力で抱き締めて押し倒して抱擁したままゴロゴロと転がった。
――ぼぅん。
「――あ……」
その衝撃がちょっとばかり強かったのだろう、フェイク麻羅は元の似顔絵ペーパーに戻ってしまった。
「ま、まだ可愛い服を着せてないのにぃ……」
と、あからさまに肩を落として落胆する緋雨。
「この欲求不満……どこで晴らしてくれよう……」
そこでふと、振り向くとそこには携帯電話で文句を言うパートナーの姿。
いるじゃあないか、ちょっとくらい強めに扱っても大丈夫な少女が。
「だいたい紅椿は――え?」
麻羅がただならぬ気配に振り向くと、すっかり顔を紅潮させた緋雨の姿が。
「わ、こら緋雨、何をする!! べ、紅椿のせいで緋雨がおかしくなってしまったではないか!!
責任とって助けに来ぬか――」
ぶつ。
と、通話が切れてしまった携帯電話をしまって、カメリアは先を急いだ。
「さてと……まあ、ほっといても何とかなるじゃろ」
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