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五月のバカはただのバカ

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五月のバカはただのバカ

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第5章


「待ちなさい、ブレイズ君!!」
 と、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)はブレイズ・ブラスを呼び止めた。
「あ、クロセル先輩!! 大変なんスよ!! 影のカメリアの分身が暴れてて――」
 と、ブレイズはカメリアの上質紙フェイク『カメリア・シャドウ』を追っていることを説明しようとした。
 しかし。

「バカもーん!!」
 と、クロセルはブレイズの頭を一発はたいた。
「せ、先輩!?」
 ブレイズは戸惑いを見せる。
 だが、クロセルはそんなブレイズを前に、いつになく真剣な顔を見せた。
「ブレイズ君――まだ分からないのですか?」
「……?」
「確かに今、カメリアさんのシャドウとダーク正義マスクを始めとするフェイクが暴れている、という情報があちこちから入ってきています」

 そう、クロセルは既に街中から情報を集めていたのだ。

「そして、私はひとつの結論に至りました――キミこそがダーク正義マスクだったのです!!」
 

「な、なんだってーーーっ!?」
 

 律儀に驚くブレイズに、クロセルは畳みかける。
「キミは自分が正義マスクだと思っているでしょう? しかし違うのです。
 見なさい、キミがあちこちでカメリア・シャドウさんを悪者のように触れまわるものだから、彼女はすっかりやさぐれてしまっているではないですか!!」
 ブレイズはショックを受けた。そのカメリア・シャドウはブレイズの追撃を逃れて自由に飛びまわり、その辺の人々に襲いかかっている。
「……い、いやでもカメリア・シャドウは最初からあんな」

「言い訳はやめるんだーーーっ!!!」
 と、事情を説明しようとするブレイズに右パンチで突っ込んだのはフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)だ。
「お、お前誰だよっ!?」
 ブレイズは更なる人物の乱入に戸惑うが、クロセルもフィーアもそんなことには構ってはくれない。
 ここぞとばかりにフィーアはホラを吹きまくる。
「忘れたのかブレイズ!! 自分はこの間、街で君を偶然見かけたことがあるだけの君の親友だよ!!
 そこの仮面のヒーローが言う通りだぞ、君のせいでカメリアさんがやさぐれてしまったんだ!!
 ついでにダーク正義マスクが暴れているのも君のせいだ!! だってそこの仮面ヒーローが言うには君がダーク正義マスクなんだから!!
 さらに言えば街中でフェイクが暴れているのも君のせいなんだぞ、ブレイズ!!
 電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのもそこの仮面ヒーローが言うには全部君のせいだ!!」
 さすがのクロセルもこれには突っ込まざるを得ない。

「あの……さりげなく全部俺に責任かぶせようとしてません?」
「まあ気にするな!!」
 と、クロセルの背後から忍び寄ったもう一人のフィーア――上質紙フェイクだ――がクロセルに襲いかかった。
「おわぁっ!?」
 すんでのところでその攻撃をかわすと、クロセルはブレイズに目をやった。


「そ……そんな……電信柱も郵便ポストもカメリア・シャドウ全部俺のせいだったなんて……すまん郵便ポスト、そしてカメリア……」


 と、フィーアとクロセルの言葉を信じ切ったブレイズは、その場でうずくまってしまった。
「まあ、当初の目的は果たせたからよしとしますか……っと」
 クロセルは、両手に装備した超伝導ヨーヨーを駆使してフィーアのフェイクに攻撃した。

「――あぅっ!!」
 いかに上質紙のフェイクとはいえ、フィーアの実力はまだまだ駆け出しと言ったところ。
 外見や言動がふざけているとは言え、パラミタに来て長いクロセルの敵ではない。
 その一撃でフィーアのフェイクはもとの似顔絵に戻ってしまう。
「――ちっ」
 と、フィーアは舌打ち一つして、その場を去った。
 クロセルは自分の邪魔さえされなければ、特にそれを追う気もない。
「ふっふっふ……ブレイズ君は最近、新米ヒーローとして注目を浴びているようですからねぇ。
 ……ここはひとつ大きく株を下げてやろうじゃげふんげふん。
 先輩としては、新米ヒーローに世の中の厳しさも教えて差し上げなければいけませんからねぇ」

 だが、それを阻む一人のヒーロー!

「ブレイズ君、騙されてはいけません!!」
 そこに現れたのは、クロセルの普通紙フェイク『シャイで奥ゆかしい超絶イケメン爽やか好青年ヒーローのクロセル・ラインツァート』!!
「せ、先輩が二人? ってそうかひとつはフェイクか」
 と、フェイクの口上に耳を傾けるブレイズ。
「そこの本物の俺の言っていることは出鱈目です!! 君が、君こそが本物の正義マスくべぼっ!?」

 だが、その口上も本物のクロセルの速攻ドラゴンアーツで阻まれる。

 あくまでも普通紙のフェイクだったフェイク・クロセルは、一撃で元の似顔絵に戻ってしまった。
「全く……まるで俺がシャイでも奥ゆかしくもなくて爽やかでも好青年でもイケメンでもないみたいじゃないですか」
 その似顔絵を破り捨てて、クロセルは愚痴るのだった。


                              ☆


 そこにやってきたのは、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)である。
 すでにカメリアに接触したコトノハは、どうも自分のフェイクが暴れているらしいという噂を聞いてやって来たのだ。
 ちなみに、慌てるカメリアの口に雲海わたあめを突っ込んで落ち着かせる、という荒業を駆使したため、かなり正確な情報を掴んでいるコトノハである。

「ブレイズさんっ!」
 カメリアは、一人打ちひしがれるブレイズに声をかける。
「ああ……コトノハか……そんな身重の身体で激しく動いちゃいけねえよ……」
 そう、コトノハはそろそろ臨月、かなり大きくなってきたお腹を抱えている。しかし自分達の偽者が出たと聞いては黙っていられなかったのである。
「そんなこと言ってる場合じゃありませんっ!! 事情はカメリアさんから聞きました!!
 悪気はなかったとはいえ、あなた達が作ったフェイクが暴れているんですから、せめて自分達のフェイク自分達で片付けないとダメですよ!!
 じきにカメリアさんも自分のフェイクを片付けに来るでしょうから、ブレイズさんも自分のフェイクを始末しに行って下さい!!」
 その言葉にハッとするブレイズ。
「そ……そうか、俺はなんとか事件を解決することだけを考えて、自分の責任のことを考えていなかった……!
 クロセル先輩もそういうことを言いたかったんだな、ありがとうコトノハ!! 俺は頑張るよ!!」
 バカは騙されるのも早いが、立ち直るのも早い。
 コトノハの言葉に一瞬で勇気付けられたブレイズは、自分のフェイク『ダーク正義マスク』を探して走って行った。

「さてと……じゃあこちらも……ってルオシンさん?」
 コトノハは驚いた。そこにいたのはパートナーのルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)の姿だ。
 ただそこにいただけなら驚きはしない。だが、そのルオシンは明らかに異常であった。


 そう、ツヤツヤと黒光りする自らの光条兵器『エターナルディバイダー』を股間から生やしてコトノハに迫ってきたのである!!


「え……ちょっとルオシンさん? あ、光条兵器の色が違う……そうか、カメリアさんはルオシンさんのフェイクを作ったのね」
 てっきり自分のフェイクが暴れているのだと思っていたコトノハは戸惑った。何しろ、パートナーのルオシンは自分の夫でもある。
 やはりフェイクと分かっていても、愛しい人と同じ顔をしている相手は攻撃しにくいものだ。
 だが、フェイク・ルオシンは黒光りする暗黒兵器をぶら下げて、コトノハに迫った。

「ふむ……我は紙から生まれた存在……分かっているぞ、コトノハ達が毎晩毎晩ティッシュの無駄遣いをしているということを!!」
 かなり論点が違った。
「だ……だって……そろそろ赤ちゃん産まれるから……時間とか取れなくなると寂しくなるし……つい……」
 こちらも大分論点が違う。
「ふ……しかたのないヤツだ……だが、そんなコトノハも可愛いな……」
 ドサクサに紛れて何言ってんだお前。
「え……ダメよ、私にはルオシンさんが……ああ、でも悪っぽいルオシンさんもちょっと好みかも……」
 コトノハさん、そいつの股間見て、股間。

「んぅ……あん……はぁ……」
 何しろ顔だけはすっかり本物と同じ黒光りルオシン。
 あっという間にコトノハに取り入って、その唇を奪ってしまった。

 そこに全力で走って来てランスバレストによる突っ込みを入れたのが本物のルオシンであった。


「我の姿で何をしているかーーーっっっ!!!」


 さすがに、自分と同じ顔をしている男が、股間から光条兵器を生やして、自分の妻と唇を重ねている状態を見ては平静ではいられない。
 怒りに任せて放たれた攻撃は確実に黒光りルオシンを捉え、フェイクはすぐに似顔絵に戻った。

「だ、大丈夫かコトノハ……」
「え、ええ……ごめんなさい。やっぱり同じ顔だと殴れなくて……」
 そう言われてしまえば、ルオシンも追求はできない。
 そんなルオシンを尻目に、コトノハはぼそりと呟くのだった。


「あ、でもルオシンさんが二人っていうのも惜しかったかな……色々楽しめたかも」
「え」


                              ☆