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【十二 残る者、進む者】

 電脳空間内では、ルカルカ、真、左之助の三人が、再び窮地に陥ろうとしていた。
 真のタイムウォーカーでスカルバンカーの追撃から辛うじて逃げ延びた三人であったが、今度は河童の群れに周囲を埋め尽くされてしまっていた。
 宙空に浮き、自在に電脳空間内を飛び回る河童の大集団は、身構えるルカルカ、真、左之助達に、今にも襲いかかろうとしている。
 陽気なルカルカも、流石に今回ばかりは生きた心地がしなかった。
 ところが、そんなルカルカを庇うようにして、左之助が不意にタイムウォーカーを飛び降りて、河童の群れの前に自ら立ちはだかった。
「に、兄さん、何を!」
 慌てたのは真である。まさか、という思いが、彼の胸中を激しく刺激した。
「ここで三人揃ってぐだぐだしてる場合じゃねぇだろう。真はルカ嬢ちゃんを連れて、早くスパダイナの中枢に向かえ」
「で、でも!」
 更に何かいおうとする真を、左之助は背を向けたまま一喝した。
「馬鹿野郎! お前のいう覚悟ってやつは、この程度のことで簡単にぐらつくものだったのか!?」
 真は、答えられなかった。左之助のこの叫びが、胸にぐさっと突き刺さるような衝撃を持って、真の精神を激しく動揺させていた。
 だが――。
 真は沈痛な面持ちではあったが、奥歯を噛み鳴らしつつ、小さく頷いた。
「分かった、兄さん……後で必ず拾いにくる。それまではどうか、無事で」
「おう。さっさと行ってこい」
 真はタイムウォーカーを浮上させた。隣でルカルカが、青ざめた表情で見詰めてくる。
「ねぇ……良いの!?」
「兄さんなら大丈夫。それより、俺達も急ごう! 飛ばすから、掴まって!」
 かくして、真とルカルカは、左之助が河童どもを引きつけている間に、スパダイナ中枢部への接近を急ぎに急いだ。

     * * *

 実は同じような光景が、現実世界でも生じている。
 最後に遺跡へと到達した本隊は、その大人数の利を活かして、別働隊とは異なるルートながら次々と罠を突破していったのだが、途中、スパダイナのあるエリア程ではないのだが、これまた随分と広い空間へと飛び出したのである。
 そこで、マーダーブレインが待ち受けていた。
「俺のパートナー達を、どこへ連れ去ったのですか!」
 唯斗が問答無用の勢いで、マーダーブレインへと殺到する。
 既にエージェント・ギブソンが帯域変更済みの印加反転粒子を散布して、マーダーブレインの透明化対策を施してはいるのだが、いかんせんあのスピードである。
 唯斗の攻撃はまるで命中しない。
 ところが、唯斗と同じくパートナーを全員連れ去られた刹那が、こちらも怒り心頭の勢いでマーダーブレインに攻撃を仕掛けていった。
「皆を、返して!」
 必死にマーダーブレインのスピードに喰らいつこうとしているのだが、悲しい程に、刹那のクレイモアは空を切るばかりである。
 だが、戦いに身を投じるのは唯斗と刹那だけではない。
「えぇい! 見てらんないぜ!」
 勇刃が咲夜、要と共に加勢に入った。勿論、セレアとリディアが歌で支援するものの、どれ程の効果があるのかは、全く分からない。
「今度こそ、通過点にしてやるさ!」
 要の気合は、これまでの比ではない。ここが勝負どころであると、理解しているのだろう。
 だが、これだけの人数を投入しても尚、マーダーブレインにはかすり傷ひとつ負わせることが出来ない状況が続いている。
 次に参戦したのは、トマス、テノーリオ、ミカエラの三人であった。勿論子敬はいつものように、後方から指示を出す役割に徹している。
「先生! ちょっと乱戦気味だけど、ひとつ宜しく!」
 後方に叫びながら、トマスはテノーリオとミカエラを従える格好で、勇刃や要達とは別の侵入角度から攻撃を仕掛けていった。
「よぅし、僕達も行くよ!」
 リアトリスがベアトリスとメアトリスに呼びかけた。圧倒的な速度差がある以上、夢幻神楽が通用するとは思っていない。だが、ここでのんびり見物する為に、今回の捜索隊に参加した訳ではないのである。
 であれば、やるべきことはひとつ。他の面々と協力して、マーダーブレインと戦う。もう、それ以外には無かった。
 戦闘に参加する者の数が多ければ多い程、ミルディアと真奈の仕事量は格段に跳ね上がる。しかし、それを覚悟の上で今回の捜索隊に参加した以上、文句をいうつもりは毛頭無かった。
「よし、行くよ! あたしが皆の楯になる!」
 無謀といえばそれまでだが、ミルディアの小さな体躯は自身の能力によって防御を固めに固め尽くし、咲夜と並ぶ程の頑強さを発揮するようになっていた。
 問題は、どこまで耐えられるか、である。

「師母殿! 私達も行きましょう!」
 シズルが刀身を鞘から引き抜いて、今にも駆け出さんとする勢いで呼びかけたのだが、しかしつかさは、渋い表情のまま、動こうとはしない。
 何かを警戒している――そんな様子が、ありありと見て取れた。
「師母殿、どうしたのですか!? 敵は目の前に……」
「お待ちなさい。目の前に居る者だけが、敵なのですか?」
 一瞬、シズルはつかさが何をいっているのか、まるで理解出来ない様子だった。が、そこへマクスウェルが助け舟を出してきた。
「もう一体、いや、二体かな……敵は、マーダーブレインだけじゃない、ってことさ」
 その台詞が終わるか終わらないかという、その瞬間。まさに噂をすれば影というやつで、マーダーブレインへの攻撃に専念しているコントラクター達の背後から、バスターフィストが奇襲を仕掛けようとしていた。
 が、その前に立ちはだかる影が四つ。リカイン、アストライト、ヴィゼント、そしてシルフィスティ達であった。
「やっぱり、来たわね」
 自らの読みが的中したことに、しかしリカインは、然程嬉しそうな表情を見せてはいなかった。むしろ、自身の読みが外れることを期待していたかのような口ぶりであった。
「マーダーブレインだけでも手一杯って時に、本当、良いタイミングで突っ込んでくるわよね」
 バスターフィストへの対処は、リカイン達だけではなく、つかさ、シズル、マクスウェルらも参戦する形となった。
「俺達も、手を貸すぜ!」
 忍と信長も、対バスターフィスト戦に加わってきた。人数的には申し分無い。後は、オブジェクティブのスピードに、どこまで対処出来るか、だ。
 一方、直接マーダーブレインやバスターフィストとの戦いに加わっていない者達は、既に三人のエージェント達が姿を消していることに気づいていた。
「やっぱり、この混乱に乗じて、先にスパダイナを確保しようという魂胆ですね」
 真人が渋い表情で冷静に分析するのに対し、カイが奥歯を噛み鳴らしながら唸るように答えた。
「よし、追いかけよう! あのまま彼らに好き勝手させたら、どうなるか分かったものじゃない!」
 こうして、本隊からは一部の者達がスパダイナを目指す、ということになった。

 実は別働隊側でも、スナイプフィンガーに対処する者と、スパダイナ担当という具合に、役割分担が自然発生的に為されていた。
 スパダイナ前では正子達前衛がスナイプフィンガーに戦いを挑んでいるが、凶司、エクス、セラフ、セシル、恋、ドクター・バベル、武尊といった面々は、早々に戦線を離脱し、直接スパダイナへと向かっていったのである。
 ところが。
「うおっ、何だこれは……まるで迷路ではないか」
 武尊がいうように、スパダイナの内部は、これまた機械の群れがびっしりと詰まっており、更に複雑な迷路状の通路が上下左右へと伸びているという有様であった。
 だが、凶司とドクター・バベルにとっては、如何に複雑な迷路状の機械群であろうとも、スパダイナ内に侵入する分には、まるで気に留める要素にはなり得なかった。
「ようし、では始めるぞ!」
 手近のコンソールに飛びつき、早速スパダイナへの侵入を始めようとしたドクター・バベルだったが、突然一同の目の前に、思いがけない姿がぼうっと陽炎のように浮かび上がった。
「きゃあ! ど、どなた!?」
 セシルが声を裏返して叫びながら身構える。
 いきなり現れたふたつの人影に、ほとんどの者達が恐怖に引きつりながら警戒心をあらわにした。
 ところがこの中でひとりだけ、冷静に対処する者が居る。武尊であった。
「はて、貴殿は……ルカルカ殿ではないか!」
『あ、良かった! 武尊さんが居てくれた!』
 スパダイナのホログラフシステムを利用して現実空間に自分達の姿を投影してきたのは、ルカルカと真のふたりであった。