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第六章 ゴーレム撃破

 アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の平面図と照らし合わせて、疑わしい該当箇所を一箇所に絞り込んだ。
「ここは開かずの書庫の真横じゃな。何か関係があるのかもしれん」
 アレーティアは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)に連絡をとる。
「真司、ちょっと距離があるが、E−20に行ってくれんか? そこに何かあるはずじゃ」
「了解!」
 返事を待つアーティア、ヴェルリア、アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)に、真司の声が聞こえた。
「こいつか?」
 同時に映像が送られてくる。せいぜい10センチ四方の箱ながら、明らかに違和感のある物体だ。アレーティアは「当たったのぉ」と満足げにうなずいた。
「ぶち壊せ! と言いたいところじゃが、機能停止にできぬか?」
「やってみる。しかしゴーレムとの戦闘は厳しい状況だぜ」
 真司はダクトを覗く。開かずの書庫に向かったボランティアのメンバーが、ゴーレムに対応していた。苦戦しているわけではないが、あたり構わず暴れまわろうとするゴーレムに、書庫や本を守るのが精一杯になっている。
「そやつがゴーレムに関係があるやもしれん。早々になんとかせい!」
「了解! やってみよう」
 数分の後、「解体終了」の言葉が聞こえると、3人はそれぞれに安堵の表情を浮かべた。 
 帰ってきた真司の手から箱を受け取ったアレーティアは、監視プログラムと照らし合わせて、同一目的の者による工作であることを立証した。
「誰かやったのかも、何が目的かも分からんが、図書館関係者はもちろん蒼空の校長にも知らせた方が良いかもしれんな」


 開かずの書庫に対応しているメンバーの突入回数は既に100回を越えている。ゴーレムの脅威は減らないものの、回を重ねるごとに“コツ”をつかんできた。
「やっぱり何かに操られている感じが濃厚です。それもごく近くから」
 霧島 春美(きりしま・はるみ)の推理は、他の調査役とも一致した。
「でも怪しいものは見つかりませんでした」
 飛行翼で上空からゴーレムなどを調べた火村 加夜(ひむら・かや)が説明する。レビテートを使ったミント・ノアール(みんと・のあーる)ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)もコクコクとうなずく。
「この中でゴーレムに詳しいのは誰?」と火村加夜に聞かれて、メイガス(賢人)で魔法関係の得意な神代 明日香(かみしろ・あすか)、ゴーレムと少なからぬ縁のあったリネン・エルフト(りねん・えるふと)、ウィザード(魔法使い)の犬養 進一(いぬかい・しんいち)が手を挙げた。
「ゴーレムを操作するのって、難しいのかしら?」
 3人は頭をつき合わせて話し合うが、明確な答えは出てこなかった。
「状況にもよるので、何とも言えないですぅ」
 明日香が首を振った。
「簡単な操縦なら、それこそ呪文一つでできますけどー、複雑な操作でも条件次第では簡単に設定できるかもー」
「ケースバイケースってことね」
 沈黙が支配しかけたところで小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、「そろそろ良いんじゃない?」と言いかける。
「これ以上調べてもらちが明かないんなら、思い切って攻撃に集中しても良いと思うよ」
 うずうずしていた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)も賛成した。
「幸い大き目の場所ができたんだしさ、一体ずつ狙ってけば、短時間で倒せるかも」
 皆も同じように考えていたのか、反対意見は出なかった。腕自慢の者、戦闘が得意な者を中心に、一番近くにあるゴーレムがターゲットとなった。

「いくぞ!」
 一体のゴーレムにメンバーの大半が飛び掛かっていった。
「まず足止めさせなくっちゃね」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がゴーレムの足をめがけて蹴り技を放つ。
「あたしも!」
「お手伝いします!」
 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)氷術でゴーレムの足元を凍結。そこに火村加夜がサンダークラップで足の関節部分を削った。
 ゴーレムがよろめいたところで、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が左拳の疾風突きを叩き込む。いくらかこらえたものの、ついにゴーレムが尻餅をついた。
「可憐! 右手に気をつけて!」
「了解です!」
 リベル・ミラビリス(りべる・みらびりす)の指示を受けながら、葉月 可憐(はづき・かれん)は魔道銃の一撃を放った。
「止まったか? よし一旦、撤退だ!」
 マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)の合図で全員が扉の外に退避する。こっそり掃除をしていた八塚 くらら(やつか・くらら)緋田 琥太郎(あけだ・こたろう)も掃除用具を手に戻ってきた。

「何かおかしく感じたのだが……」
「うむ、朕もだ」
 戦闘に加わらなかった犬養 進一(いぬかい・しんいち)トゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)が浮かない顔をしている。
「何と言うのか、ゴーレムの動きが、これまでと違っていたような……」
「それはオレも思ったぜ」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)もうなずいた。
「ゴーレムのヤツが本や本棚に攻撃しないかと待ってたんだが、全然向かって来ねぇ。なんつーか、これまでの滅茶苦茶な攻撃とは違うみたいだ」
 それを確認するためにも調査をしてみようと、霧島春美や神代明日香が言ったものの、倒せるうちがチャンスと小鳥遊美羽や霧雨透乃の言に従い、総攻撃をかけることになった。
「ありったけでいくぜ!」
 開かずの書庫を担当する全員が残り4体のゴーレムに戦いを挑むことになる。
「分かってると思うが、本なんかに危険が及ぶようなら、引くんだぜ! いくぞ!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の合図でメンバー全員が部屋に飛び込んだ。
 先ほどと同じように美羽、ユーベル、加夜がゴーレムを足止めする。元々スローモーなゴーレムの挙動が、もっと遅くなったところで4つのグループに分かれて、各個撃破に挑む。
「本を探しに来て、ゴーレム退治たぁ、思わなかったぜ」
 ラルクはゴーレムの一撃をギリギリで受け止めると、お返しだとばかりに拳を打ち込む。
「これで珍しい本でも見つからなかったら、キレるぜ俺は」
 それまで頭脳労働に徹してきた明日香も、この時ばかりは戦闘に参加する。
「私、か弱い女の子なんですぅ」
 そう言いつつも、これまで十分に観察してきただけに、余裕をもってゴーレムに魔法を放っていく。
 ユーベルに援護されたリネンもアクセルブレスを起動、光条兵器ユーベルキャリバーでピンポイント攻撃を加えた。
「やっぱり俺の使ってくれねえんだ。そりゃ光条兵器の方が取り回し良いのはわかるけどさー」
 いじけるフェイミィに、リネンの削ったゴーレムの欠片が飛んでくる。まともに額にぶち当たる。
「あ、愛が痛てぇ……」
「いっけぇ!」
 またしても霧雨透乃の左拳による疾風突きがゴーレムを襲う。反撃したゴーレムが透乃に拳を浴びせかけるが、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)奈落の鉄鎖によって重量負荷をかけられ重くなった透乃が正面から受け止める。
「では私も」と、陽子も光条兵器でゴーレムに殴りかかる。
「リベル! 次はこっちよ!」
「ふぅ、これで終わり……て、えぇ!? 向こうで暴れてるのにも行くんですか!? ふぇ……た、体力が持たないです……」
 よろよろしながら、リベル・ミラビリスは葉月可憐とアリス・テスタインについていく。
「リベル・ミラビリス……その禁じられた言葉を開放です」
「禁じられた言葉……うん、いきますよ――!」
『319頁より1節。ゴーレムは斯く在らん』
 可憐は魔弾にそっと言葉を囁き、キスする。それを魔道銃に込めて必殺の一撃を放った。
 メンバーの攻撃を受けて、4体のゴーレムも動かなくなる。それでも攻撃をやめない者もいる。
「わはははは! くたばれー!」
「ちょっと、彼方!」
「うるせー!」
 テティス・レジャが止めるのも聞かず、皇彼方は倒れたゴーレムに打ち込んでいた。
「彼方!」
 美羽のミニスカかかと落としが、彼方の脳天にヒットする。あっけなく崩れ落ちる彼方をテティスが抱きかかえた。

 ── ストライプ? いやボーダーか ──
 ── 囚人服? ──
 ── シマシマかぁ ──
 ── 白と青だったな ──

 チラリと見えた布切れを誰もが見て見ぬふりをした。

 もう一人、霧雨透乃の攻撃も止まなかったが、こちらはラルク・クローディスが抱えあげる。
「それぐらいにしとけ」
「トラブル起こしたんだから、半端に直すよりは新調した方が良いのよ」
「そりゃ構わんが、基本は備品だ。安くはないぜ。金を出すってんなら構わんが。それに掃除をする手間を考えろ」
「あはは、…………止めとく」
 大人しくなった透乃をラルクは下ろす。
「ねぇ、重くなかった?」
 重量負荷をかけられていた透乃の質問に「男は女を持ち上げる時には、無限の力が出るもんだ」とラルクは答える。
「かぁっこいいねぇ。お前さんの恋人は、さぞ幸せなんだろうね」
「……男だがな」
 その言葉を透乃も一瞬で理解する。
「私も……彼女なんだ」と少し離れたところで心配そうに見ている陽子を指差した。

 倒れたゴーレム達を、霧島春美や神代明日香達が中心になって再調査。またマクスウェル・ウォーバーグ、火村加夜らで修復に取り掛かろうとしたところで、司書が駆けつける。
「そうか、片付けることができたのね。こっちでも別な報告があって……」
 司書は空調設備の点検をしていた柊 真司(ひいらぎ・しんじ)達が見つけた不審物について語った。
「すると故障などではなく、誰かが仕掛けたものってことですね。ますます謎が深まります」
 霧島春美が天眼鏡でゴーレムを覗き込む。結局、ゴーレムはそのままに、書庫の整理と掃除を行うことになる。
「やっと俺達の出番だな」
「そうですね。では皆さん、掃除を致しましょう」
 当初から掃除用具を持っていた八塚くらら緋田琥太郎の指示で、開かずの書庫の掃除が始まった。



 目にも止まらぬ速さで作業を続けているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)は、少し離れた椅子に腰掛け、『空京居酒屋百選』をパラパラと眺めていた。
「どうじゃ、一息入れぬか?」
 目の前に突き出されたワイングラスに「うおっ!」とダリルが立ち上がる。
「水分はよしてくれ! 万一のことがあったらどうするんだ!」
「そうじゃったな。すまぬ」
 などと言いながらも「絶品じゃのう」とグラスを傾けた。
「そなたもそんな表情ができるんじゃな。すました顔ばかりで面白みがないと思っておったぞ。何が楽しみで生きておる?」
「楽しみ……、知識の追求に分析と思索くらいか」
「ほほぅ、‘知識’を‘酒’に換えれば、わらわと同じじゃな」
 ダリルは『何を強引な』と思ったが、『案外そんなものか』と反論はしなかった。むしろシニィの年が気になる。外見は明らかに未成年だが、それを感じさせない雰囲気がある。
「吸血鬼……だよな。俺よりはるかに生きてそうだな」
「レディの年を聞くとは、野暮じゃのぉ。そんなことでは、おなごの心の機微を感じ取ることはできぬぞ」
 少し痛いところを突かれて、ダリルの手が止まった。脳裏に浮かぶ顔がある。赤毛の三つ編みで笑顔の可愛らしい女性の。
「そうなの……か?」
「まぁ、気にすることもあるまい。そなたが努力しておることが伝われば十分じゃろうて。これは700と1年、生きておる者からのアドバイスじゃ」
 言うだけ言うと「何かつまみがないものか」とシニィは部屋から出て行った。
 ふーっと一息入れて、再び手を動かし始める。肩の余分な力が抜けたのか、一段と作業効率がアップした。 



「わらわが行かねばなんとする!! わらわの写本を寄贈しに行くのじゃ!!」
 強引に主張する医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)に引っ張られる形で、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)常闇 夜月(とこやみ・よづき)鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)の3人も図書館についてくる。
「医学的、歴史的、学術的に貴重な価値があるのじゃよ!さらには、一時期、天皇家の門外不出の宝にもなっておったしの。写本といえども、わらわを参考書として、わらわ自身を研究したいものもおると思うのじゃよ。そんなものにわらわから、プレゼントなのじゃ! ……わらわの名も広まるしの」
 3人とも最後の一言はどうかと思ったが、言っていることには間違いない。いつも‘エロ神’‘エロ本’などと呼ばれていた医心方房内にしては、まともな理由にも思えた。
 司書による審査はあっさり通った。
 ただし内容が内容だけに閉架書庫への預かりとなる。
「今、開かずの書庫を対応してもらってるの。それが落ち着けば、そこに入ることになると思うわ」
 それを聞いた医心方房内は開かずの書庫へ、貴仁と夜月は調理本のコーナーへ、白羽はボランティアの手伝いへと向かった。