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図書館ボランティア

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 気まぐれながらこれも修業かと若松 未散(わかまつ・みちる)はボランティア活動で読み聞かせをすることに決めた。希望はすんなり通ったものの、“かわいすぎる落語家”として売れっ子の彼女にとっては、ひとつの挑戦でもあった。
 
 ── 子供は素直だからねぇ 面白くなかったら、泣き出されたって文句は言えないよ ──

 普段、聞き手となっている大人達とは違う。お金を払っているだけに、つまらなければ文句を言われるものの、『金を払ったんだから』とすぐに席を立つことも少ない。しかしボランティアであれば、文句を言われることも無い一方で、つまらなければ帰ってしまうだろう。いつもと違った緊張を持って図書館に向かう。
 そして今日ばかりは“かわいすぎる落語家”として大きなお友達を呼び寄せないように、地味目な着物を用意した。図書館側も配慮をしてくれたようで、絵本コーナーの片隅にパーテーションで区切ってコーナーを用意してくれた。これなら大きなお友達の目にも留まらないだろう。
 そんなネガティブ思考に包まれながら、掲示板に読み聞かせ会とあり、何人かの人が眺めているのを見て、一段と表情を引き締めた。
「ボランティアの読み聞かせ会かぁ、面白そうなことをやってますね。ミーナも行ってみようかな。フランカはどうする?」
「みーながいくなら、ふらんかもいくですー」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)は絵本のコーナーに向かった。 
 2人の言葉を耳にした未散は身を固くした。

 ── ますます失敗できないねぇ ──

 両の頬を軽く手のひらで叩いた。まずは落語の定番『寿限無(じゅげむ)』を手に、子供達の前に出た。
 
「おねーちゃん、これ読んでー!」
 『寿限無(じゅげむ)』が終わると、未散の周囲に子供達が駆け寄った。

 ── 私もやるもんだ ──

 十分な満足感に浸りながら、子供達の希望に次々と応えていく。しかし5冊目も過ぎる頃になると、さすがに声が出にくくなった。
 察した司書の人が「今日はこれくらいにしましょうね」と助け舟を出すものの。集まった子供達はなかなか離れない。
「どうやらここはミーナの出番のようですね!」
 ポーズを決めながら出てきたのがミーナ・リンドバーグ。傍らではパートナーのフランカ・マキャフリーもポーズを真似ている。
「良い子のみんな! 今度はミーナお姉さんが読んであげるよ!」
 子供達は一瞬ポカンとしていたものの、あっと言う間にミーナの周りに集まった。ミーナが未散にパチンとウインクする。解放された未散は、「お疲れ様」と司書が用意した椅子に腰を降ろした。

 ── 読んで聞かせる力は、私の方が上だねぇ でも魅せるって意味では、あの読み聞かせは面白いじゃないか ──

 ミーナは読みながらも大げさな身振り手振りで、時には立ち上がってまでして、子供達を楽しませていた。
 もちろん落語にも語るばかりではなく動作を入れることがある。例えば『時そば』であれば、扇子を箸のようにして蕎麦をすすったり、手ぬぐいを財布に見立ててお金を出したりもする。しかしミーナのようなオーバーアクションは落語には無縁のものだった。そのせいなのか自分の時よりも子供達の‘ノリ’が良いようにも思える。
 その後はミーナと未散が交互に読み聞かせを行った。

 若松 未散(わかまつ・みちる)ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)は揃って図書館から帰っていく。 
「私は話すのが本職だけど、お前さんも上手いもんだね」
 誉められたミーナがニッコリ笑う
「はい、好きこそものの上手なれ、だもんねー」
 ミーナに合わせて、フランカも「ねー」と笑う。
「ふぅん、本が好きなのかい? それとも読み聞かせが、かい?」
「んー残念ですけど違います。ミーナはかわいい子が好きなだけです」
 未散は一呼吸おいて「ああ」と納得する。自分もそんな覚えが無いわけでもない。それを敏感に察したのか、ミーナが未散の手を握る。
「ですから未散ちゃんも良いなぁって」
 握る手に熱がこもる。
「未散ちゃんって……こう見えても、私19なんだよ」
 小柄で童顔なせいもあって、幼く見られることも度々だったが、こんなアプローチがあるとは思ってもいなかった。
「じゃあ、そうですねぇ……未散お姉ちゃまって、呼んでも良いですか?」
 繋いだ手が離れたかと思うと、未散の腕にミーナの腕が組まれていた。フランカは意味も分からず「未散お姉ちゃまだー」と喜んでいる。
「ああ、まぁ……良いけど」
 未散は『我ながら何を言ってるのか』と思いながらも、ミーナの熱い視線を断れなかった。

 一息ついたアトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)のカウンターにルカルカ・ルー(るかるか・るー)が来る。
「お疲れ様です。お時間良いですか?」
「ああ、どうぞ」
「盛況ですね。アドバイスが巧だとかで話が伝わってます」
 自分達が検索システムの改善に取り組んでいることを話した。特に複合検索やイメージ検索について。
「うーん、雰囲気なんだよね」
「そこをなんとか活かせないかと思って……」
「なら私の頭ごと繋いでみるかい?」
 思わず2人の間に笑い声が起きたが、周囲の視線に声と頭を低くした。
「表情や視線を読み取れれば良いんだけどね。そうだ! 選択肢を3つくらいに絞ってみたらどう?」
「3つですか?」
 ルカルカ・ルーは首を傾げるが、アトゥは自信をもってうなずく。
「1つじゃ押し付けがましくなるし、多すぎれば迷うものさ。3つくらいにすれば、押し付けがましくなく、本人の好みも加わると思うがね」
 アトゥのアドバイスをルカルカ・ルーが書き留めた。
「ありがとうございます。悩んだらまた相談に来ますね」
「いつでもどうぞ」とアトゥは手を振った。


「拝見しました。リストも本も」
 判断役の少し頑固そうな初老の司書を前にして、いつになく緊張するイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)。戦闘であればお手の物の彼も、さすがに今回ばかりは舞台が異なる。横ではパートナーのセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が顔色一つ変えずに立っていた。
「個人的な感想を言わせて貰えばさすがだ。魔術に対して広く深く研鑽してきたのが分かるよ」
「そうか」
 わずかにイーオンの唇の端が上がる。しかし次の瞬間、再び戻った。
「でもね。初歩的な本は、既に所蔵されているものばかりなんだよ」
「……当然と言えば、当然だな」
「いくつかの上級の参考書は、ぜひ欲しいのだが。他の本は、君の後輩にでも譲ってはどうかな?」
 無言でうなずくと立ち上がったイーオンを、司書が呼びとどめる。そしてセルウィーに『魔導書の歴史 入門』を取りださせた。
「ここのところの記述だが、これはもちろん君が書いたのだろう」
 もう一度無言でうなずいた。わずかに目が細くなったのは、書き込みを見落としていた自分のうかつさに気付いてだ。
「なかなか面白いと思ってね。これをまとめてみては?」
「……?」
「言うなれば『魔導書の歴史 入門 イーオン・アルカヌム解説』くらいか。それならぜひ図書館にも置かせて欲しいね」
 司書の勧められるままに、紹介された編集者の連絡先を受け取った。
「セル、帰ったら連絡しておけ」
「イエス、マイロード」
 セルウィーはイーオンの心が高ぶっているのを見て取ると、なぜか自身も気分が高揚するの感じた。



 ほぼ1日がかりで開かずの書庫では大きなスペースが出来あがった。5体のゴーレムも良い感じでスペースにおびき出されている。
「これなら少々暴れても問題ないぜ」
 再び調査役を中心に突入メンバーが構成される。
 そんな一行を遠くから覗く影が2人。ミント・ノアール(みんと・のあーる)ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)だ。
「ゴーレムだって、どうしようか」
「加夜に教えてあげようか」
 精神感応火村 加夜(ひむら・かや)に伝える。
「えっ? そう……ゴーレムさんは危険なのでダメですよ」
 加夜は急いで開かずの書庫に向かう。ミントとノアの指差す先には、開かずの書庫に対応するメンバーがいた。
「私達も参加させてもらえませんか?」



 集まったアイデアを6人が回し見る。ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もパラパラとめくった。
「細かな点で役に立ちそうなアドバイスがあったわ。でも特に大きな変更はなさそうね。強いてあげれば携帯HCへの対応くらい……」
「そのくらいであれば問題ない」
 言い終わる前に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)から力強い言葉が返ってくる。 
 ただ6人の中で、羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)が暗い顔をしていた。ルカルカ・ルーが「何かあった?」と声をかける。まゆりに代わってシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)が返事をする。
「心配するな。企画がひとつ駄目になったので、落ち込んでいるだけじゃ」 
「企画って?」
「問題点があるのなら言ってくれ、俺の能力が及ばないことなのか?」
 ルカルカ・ルーやダリルの問いかけに、まゆりがあわてて首を振る。
「違う違う! ほら、開かずの書庫ってあったでしょ」
 ルカルカ・ルー達がうなずく。ゴーレムが暴走していて、利用できなくなっている書庫のことだ。
「そこの戦闘シーンを中継しようと思ったんだけど、どうもきな臭くなってきたみたいで、許可がでなかったのよ」
 まゆりは「せっかくのチャンスだったのに」と机に突っ伏した。
「まぁ、気にするな。フリーライターの企画など、10出して1つ通れば良いくらいなのじゃ。ここのところ焼きそばパンやら駄菓子屋やらと採用が続いて、浮かれておった面もあるからな」
「きっついなぁ。慰めてくれたって良いじゃない」
「そうか? ふむ……」
 シニィは、まゆりの頭をナデナデした。
「焼きそばパン……駄菓子屋…………。あっ、思い出した! その放送見たことあるよ! 面白かった!」
 ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)の言葉を聞いて、まゆりが勢い良く起き上がる。
「そう? どんなトコ?」
「お店の中継がおいしそうだったよ。焼きそばパンの時も露店の時も。思い出したらお腹が空いてきちゃった。ダリル、焼き肉が食べたいよぉ」
 暗くなりかかっていた空気が、一変に明るくなった