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リアクション
●愛の囁き
ぱっと桃色の花が、蕾から開花したかのようだった。
大胆に胸元の開いた浴衣で、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が姿を見せたのだ。
あどけなさの残る顔で、彼女はきょろきょろと会場を見回した。
仔猫が母猫を、探す仕草を彷彿とさせる動きだった。
いやあるいは、つかさが母猫のほうだろうか。
間もなく彼女は見つけた。
求める恋人の姿を。
はじめて見せる浴衣が照れくさいのか、恥じらうように歩んでくる加能 シズル(かのう・しずる)を。
「約束通り、浴衣で来てくれましたね……」
やや内股気味になって歩くシズルは、
「うん」
と小声で言った。
「着物を着るときのたしなみについても、お教えした通りにしたくれたでしょうか……?」
これにはシズルは言葉をもちいず、ただ、こくりと小さく頷いてみせた。
「シズル、あなたのそういう、真面目なところ、好きですよ……」
つかさは手を伸ばした。シズルは、甲斐甲斐しくその腕に自分の腕をからめる。
シズルの甘い香りと、つかさの香りがひとつになった。
笹のひとつにたどりつき、つかさは顔を上げた。
「あら、短冊がかけるようですよ……」
笹からすずなりに、たくさんの短冊が下がっている。
「そうですね……黒を選びますか……」
「私は、黄色を」
と言ってシズルが書いたのは、『フリューネさんのように気高く強くなりたい』という、彼女らしい真っ直ぐな望みだった。
つかさは、シズルが見えないようにさっと書き上げて、なるべく目立たない場所につるしておいた。
「なんて書いたの?」
するとつかさは、シズルの耳に唇を寄せ、
「秘密です……」
と囁くにとどめた。。
そして伸ばした手でシズルの右腕をとり、するすると引っ張る。
「え?」
「いいから……私に任せて……」
有無を言わせずつかさは、シズルを会場外の茂みに誘い込んだのだった。
ここからだと、祭の音や光は届けども、こちらの姿は会場から見えまい。
「さて、ではチェックさせてもらいましょうか……」
シズルの胸を、とん、と両手で圧して、彼女の背を木に押しつける。
シズルの方がずっと、つかさより長身だ。二十センチ近い差がある。
それでも、二人きりだといつも、リードするのはつかさのほうなのだ。
シズルは目を閉じた。キスしてくれると思ったのだろう。
「ふふっ、まだ気が早いですよ。チェックさせていただく、って言ったでしょう……?」
つかさは艶然と微笑み、ぽんぽんと彼女の頬に触れた。
「着物のときは下着をつけないのがたしなみ、そう教えましたよね……? 本当にそうしているか、調べさせてもらうんです……」
きゅ、とシズルがますます内股になったように見えた。十中八九、彼女は言いつけに従っただろう。
しかしつかさは、自分の目で確かめないと気が済まない性質だ。
「捲られる方がいいですか? そっと差し込んだ方がいいですか?」
「そんな……」
恥ずかしさのあまりシズルは紅潮した。
「私、ちゃんとつけてないから……」
「だめ」
つかさは首を振った。
「選んで下さい。捲られるか、差し込まれるか」
ますます頬を桜色に染めつつ、シズルは言う。
「……つ、つかさの好きな方にしていいよ……」
「私の好きな方? それなら……」
真っ赤な舌を出し、ぺろりと唇を舐めて彼女は言ったのだった。
「自分で捲って、見せて下さい……」
「それだけは……!」
「あら、約束どおり他人に迷惑になることはしていませんよ。シズル……貴女は他人ではないのですから」
いまのシズルはまるで、破裂寸前の風船のようだった。軽い刺激があれば、もう弾け飛んでしまいそうになっていた。耳まで紅潮し、目には涙すら浮かんでいる。これほど恥ずかしい要求があるとは思ってもみなかったのだろう。
このあたりでやめておきましょうか、そんな理性の声がつかさの頭の中に聞こえた。
もういいです、とつかさが言うべく唇を開きかけた、そのとき、
「わかった……」
涙のにじむ顔を真横に向け、膝を震わせ、それでもそろそろと、シズルは自分の浴衣の裾に手を伸ばしたのである。
そしてゆっくりと、
それを捲り上げた。
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