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あなたもわたしもスパイごっこ

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あなたもわたしもスパイごっこ

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 明確に調理師免状を持っているわけではないが、一家の料理人であるエオリアとしては魚介類の調達を人任せにはできなかった。
(というか、変なものを持っていったらダリルさんに何をされるやらわかりませんしね……!)
 実はダリル、エオリアの料理の師匠なのである。そんな男を相手に適当な食材を持っていった日には、間違いなくその場で特殊部隊所属のコックのように「料理」されてしまうだろう。
 それを避けるべく、エオリアは自身の知る限りで最もいい食材を扱っている市場へと足を向けた。
「すみません、イカ5匹とホタテ貝30枚いただきたいんですが」
「おう、普通の食材で大丈夫か?」
「……一番いい食材を頼みます。割とマジで」
 エオリアの本気さに刺激されたのか、市場の店員は冗談交じりの目を次第に「プロの目」に変えていった。
 だがプロの目だけを頼りにするようなエオリアではない。プロの意見はあくまでもプロの意見。最終的な判断を下すのは、やはり「自分の目」なのだ。そしてそこに妥協は無い。
 それから数分間、彼らの目利きによる食材探しが始まった……。

 酒の調達を任されたメシエが向かったのは、ヒラニプラにある酒屋だった。
「さて、まずは瓶ビールの調達だね。確かドイツの黒って言ってたけど……」
 自分が知る限り、地球ドイツ産の黒ビールでうまいものといえば「ティーゲル」という銘柄が一番である。メシエは立ち寄った酒屋でまずそれを探したら意外と簡単に見つかった。
「色んな国の人がパラミタに来てますからね。どの国の酒も売れるというものですよ」
「道理で地球産の酒が多いわけだ……」
 見渡せばどの棚にも地球で造られた酒ばかりが置かれてある。これはなかなかいい発見をしたかもしれないとメシエは内心で感心した。
「ではそれを1ダースもらおうかね」
「かしこまりました。なんでしたら、こちらでお運びいたしましょうか?」
「ありがたい申し出だが、自分でやるよ。ちょっと事情があってね……。ああ、それから日本酒はあるかな、できれば冷たいのがいいんだが?」
「よく冷えたのがありますよ」
 買った酒瓶を箱に詰め――箱それ自体は後日返却することとなる――メシエは店を出た。箱の表面を氷術で凍らせ、酒を冷やすと同時に簡単に割れないようにするのは忘れない。
「淵のために日本酒も買ったし、後はクマラのジュースか……」
 酒豪の淵は中国人の英霊だが、好んで飲む酒は実は日本酒なのである。
「まったく、私は本来杖より重い物は持たない主義なのだが……。後でゆっくりダリル君にはサービスしてもらわないといけないねぇ。私にこんな重労働をさせるなんて」
 酒ケースを運びながら、メシエはその足を近くのコンビニに向けた……。

 指令を受けたエースとクマラは1軒のスーパーマーケットに来ていた。ちょうどいいスイカとトウモロコシを調達するならこういった店がいいのである。
「さてと、まずはスイカかな」
 言いながら2人はスイカの棚へと足を向ける。
「まあ実が詰まっているスイカって、叩けばわかるんだけどな。だがその前に見た目で判断することが大事だ」
「え〜、そんなことしなくたってすぐ叩けばいいじゃん」
「駄目」
【園芸王子】としてのプライドがあるのか、エースは頑としてクマラの判別方法を許さなかった。
「まず皮だ、緑と黒のコントラストがはっきりしてるのがいい。次にヘタ部分、ちょっとへこんでいてその周りが盛り上がっていればよし。そして底の部分、花がついてたとこだな、ここが小さいものがいい。最後に音だ、ポンポンと澄んだ音がするものが最高だ。鈍い音がしたら空洞があって、甲高い音がしたら水を含んで身が固く、固くて高いような音がしたらまだ熟れてないということ」
「こ、細かすぎてオイラの豊富な経験でも追いつかないよ〜!」
 結局、細かい判別はエースが行い、いくつかの候補の中からクマラが選ぶということで決着がついた。農産物にはうるさいエースのことである。選んだスイカはおそらく非常にいいものだったであろう。
「さて次はトウモロコシだな。スーパーだからちょうど低温管理してくれてて嬉しいぜ」
 彼曰く、トウモロコシは鮮度が勝負であり、朝早くに収穫してすぐに茹でるか、あるいは低温保存しているものを買わなければならない。皮つきであれば低温保存1択である。
「確か10本だったな……」
 農産物に対する数多くの知識、そしてそれらを見極める計算能力を駆使し、エースは無事に10本のトウモロコシを買い込むことに成功した。
 さらに彼は低温で運ぶためと称して発泡スチロールの箱と保存用の氷を譲ってもらい、その上氷術で冷やしながらトウモロコシを箱に詰めた。
「さて、これで完璧。ダリルを是非旨さで唸らせてやりたいなぁ」
 ダリルといえば豆板醤の調達も頼まれていたが、もちろんそこは忘れていない。

 買い物を終えて、スーパーの近くにある公園に2人はやってきていた。遊びに来たのではなく、単に小休止を取ろうと思っただけである。
「さすがに吟味するのに力が入っちゃったからな。ま、少しくらい休憩したって罰は当たらないだろ」
「う〜ん、食べるの楽しみだね〜」
 公園のベンチに座り、2人はしばらくのんびりと体を休めていた。特にエースは農産物の吟味に頭を使いすぎてしまい、それらしい技術を使わなかったクマラよりも多少疲れていた。
 そう、ここで数分休憩したらルカルカの家に行き、調達した食材でバーベキューを楽しむ。そうなるはずだった。
 唐突といってもいいタイミングでアタッシュケースを持った一般人が、2人が休憩するベンチに腰掛ける。
「ん?」
 眼鏡をかけたどこにでもいそうな風体の――それにしては妙にスタイルがよかった――その女は、アタッシュケースを足元に置き、その中身がエースとクマラに見えるように蓋を開けた。
「なぁっ!? ま、まさか、これはっ!?」
 驚きのあまり硬直するエースとクマラを尻目に、女はその場からそそくさと立ち去ってしまった。
「え、エース。これってどう見ても……」
「『指令』、だよな……」
 恐る恐るといった風に、エースはアタッシュケースの中身――ビデオデッキと小型モニターを起動する。
 それはビデオレターの体裁をとった「スパイ小作戦ごっこ」の「指令」だった。
『おはようラグランツ君。元気にしているかな〜?』
『早速だが、君に指令を与える』
 画面に映っていたのは1組の男女。雰囲気としては「軽薄そうだが腹に一物抱えていそうな若社長の男」と「その社長の秘書的な少女」といったところだった。最初に声を発したのは少女の方である。
『ああ、もしかしたらそっちは私のことを知らないかもしれない。というわけで自己紹介をしておこう。私はシャンバラ教導団所属の佐野 和輝(さの・かずき)。こちらはパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ』
『よろしくね〜』
 少なくともこれで指令を出したのが佐野和輝という男とアニス・パラスという少女であることはわかった。だがなぜこの2人が自分に指令を出すのか、いた、それ以前になぜこの男が自分のことを知っているのか、エースにはまったく心当たりが無かった。もしかしたらどこかで会っており、自分が覚えていないだけかもしれないが……。
『指令の内容だが……』
 もちろんそんなエースの思惑など知らず、アニスが指令内容を発表する。
『エリュシオンとの戦争が終わって、ひとまずは平和になった。我々は言ってみれば、それを記念して心ばかりのパーティでも開こうかと思っているわけだ。その材料を調達したいのだが、ちょうどいいことに君がいるであろう公園の近くのスーパーにて、30分後に「1ゴルダタイムセール」が行われることになっている』
 そう前置きして、いよいよ本題に入る。
『そこで君の使命だが、そのタイムセールにて、バーベキューで使用する肉、ウィンナー、タマネギ、キャベツの4つを手にいれ、タイムセール終了の20分後、公園の近くにレンタカーでやってくる女性と共にこちらに来ることにある』
『ちなみにその女性とは、君にアタッシュケースを届けた彼女、自分のパートナーであるスノー・クライム(すのー・くらいむ)のことだ』
 アニスの説明に和輝が補足を入れる。
『資金については、そのアタッシュケースの中に入っている「がま口の財布」を使用したまえ』
 言われてエースはケースから財布を取り出す。タイムセール用の資金だからか、小銭ばかりが入っていた。
『言うまでもないことだが、この任務において君もしくは君のメンバーがいかなる事態に陥ろうとも、当局は一切関知しないのでよろしく〜』
 アニスのその言葉でビデオレターは終わろうとしていたが、ふと思い出したように和輝が口を開く。
『……おっと言い忘れていた。このビデオデッキとモニターは、テープが終わり次第「物理的な消去」が自動でされるから逃げてくれたまえ』
『それじゃあ、成功を祈っているよ、ラグランツ君!』
 そこでモニターの電源が勝手に切れる。エースとクマラはその忠告に素直に従い、アタッシュケースから離れる。そして次の瞬間、

 どっか〜ん!!!

 一体何を仕込んでいたのか、デッキとモニターはその場で大爆発を起こした。

「ねえ、エース。このゲームってさ、確か『2つ以上の指令は受けちゃいけない』んだよね?」
「ああ、そのはずなんだけど……、これ、どうしようかな」
 ゲームのルールに従うのであれば、2つ以上の指令を受け取ってしまったエースは、和輝の指令を破棄し、最初に受けたルカルカの指令を破棄するべきである。
「気になることを言ってたな。バーベキューをするとか……」
 だがエースはここで、指令を破棄するのではない別の方法を取った。ルカルカにヘルプコールを入れたのである。
『はぁいルカでーす』
「ようルカ。悪いけど、ちょっとトラブルが発生した」
 携帯電話でエースは一部始終を報告した。指令遂行中に別の指令が届いたこと。自分は指令者を知らないが、指令者の方は自分を知っているらしいこと。内容はルカルカと同じくバーベキューの材料を買うこと――もっとも、ルカルカの指令が明確に「バーベキューの材料を買うこと」とはまだ判明していない。エースが勝手に「バーベキューを行うもの」と断定しているのである。その予想は当たっていたわけだが……。
『ははぁ、なるほど。つまりルカの方からその佐野和輝って人に連絡入れて、相談すればいいのね?』
「ああ、同じ教導団のルカなら何とかなるだろ。時間が時間だし、ちょっと急いでくれないか?」
『オッケー! 超高速通信飛ばして連絡するね!』
 どんな通信だと思いつつ、エースは電話を切った。

 通話を終えたルカルカの行動は早かった。まず教導団本校に連絡し、事情を説明して佐野和輝の連絡先を突き止める。続いて和輝の携帯電話に通話をかけた。
「もしもし、こちらはシャンバラ教導団中尉のルカルカ・ルーだけど、佐野和輝、で会ってるよね?」
『中尉……? ええ、こちらは教導団の士官候補生、佐野和輝ですが……』
 電話越しに話す和輝は、ビデオレターに映っていたような若社長というイメージを持っておらず、どちらかといえば物静かな男という印象をルカルカに与えた。
「じゃ、和輝ね。ねえ和輝、『ミッション・ポッシブルゲーム』の指令のことなんだけど、エースに指令出したんだよね?」
『ええ、知ってる人の中で指令を出せそうなのが彼くらいだったので……』
「あー、悪いんだけど、実はルカも同じ指令を出してたのよね」
『……同じ、とは?』
「要するにバーベキューの食材を買うってこと」
『な……!?』
 それを聞いた和輝は思わず驚愕した。まさかこんな偶然があろうとは思いもよらなかった。
 元々はパートナーのアニスがやりたがっていたからそれに乗っただけだった――最初は別に乗り気ではなかったが、役を演じている内に楽しくなってきたのは内緒である。誰かの邪魔をしようとは考えもしなかった。だが今、現実問題として「指令が重なる」という事態に陥っている。さてこの場合どうすればいいのか。最も楽に解決できる方法といえば自分の指令を無かったことにすることだが……。
 一応和輝のプランとしては「他に似たようなものを報酬に与えることを考えているものがいれば、そちらと合流するのもいいかもしれない」というのがあった。それをルカルカに伝えたところ、
「ん〜……、だったらそれでいいんじゃない?」
『それで、とは?』
「つまりそっちもバーベキューすること考えてたんでしょ? だったら和輝のプラン通り、こっちと合流して遊べばいいじゃない」
『ですが中尉、本来ならば指令は破棄するものですし――』
「セコいことは言いっこなしよ。同じ教導団の仲間なんだし、この際組んだ方が、そっちの指令も無駄にならずに済むわ」
 第一、このゲームに明確な「審判員」はいない。誰がどのように処理しようともとがめに来る者はいないのだ。もちろんいないからといって何でもやっていいわけではないが、これくらいは許してもらえるだろう。
 結局、和輝はその案に乗った。エースにはさらなる労働を強いることとなってしまうが、その分バーベキューを楽しんでもらうことにしよう。

『というわけでエース、和輝の指令、受けちゃいなさい』
「おいおいマジかよ。まあそっちで話が決まったんなら俺は別に文句は言わないけどさ……」
『まあ、その代わりと言っちゃあなんだけど、荷物持ちとしてうちのカルキノス送っとくわね』
「は? 何でカルキノスを?」
『仕事サボった罰ね』
 彼女たちの間に何があったのかを知ることは叶わなかったが、少なくともカルキノスが何かしらヘマをやらかしてルカルカの怒りを買ったのであろうことは予想がついた。

 それからしばらくの後に、指令されたタイムセールの時間がやってきた。その直前にやってきたカルキノスにトウモロコシとスイカの運搬を任せ、自らは戦場と化したスーパーへと飛び込む。その様子を細かく実況することは不可能だったが、彼が必死の思いで食材を集めているであろうことは誰の目にも明らかだった。
「それにしてもカニさー、一体ルカ相手に何やらかしたの?」
「毎回言ってるがカニ言うな。……いや、ちょっとかまど作りとかサボって木の上で昼寝してて、見つかったら怒られた」
「あー、そりゃルカのことだから怒るよね」
「軽いアイアンクローだけで済んでよかった……。ここで『スネーク・ファング』とか『ドラゴン・タイガー・ラッシュ』とかが飛び出してたら間違いなく俺は死んでる……」
「何その技名?」
「似たようなのをちょっとぼかして言っただけだ」
 などという会話を交わしている間にエースが戻ってきた。その両手には溢れんばかりの食材の詰まった買い物袋が握られていた。
「はっはっはっはっは! 見ろ、やってやったぜ!」
 買い物袋が男のたった1つの勲章、と言わんばかりに両手を突き出すエース。これで和輝の指令も達成したこととなる。
「さて、問題は時間なんだよな。ルカは『大至急急いで』つってたから、そうなると2つ目の指令はどうすれば――」
 和輝の指令はタイムセール終了の20分後に指定場所でスノー・クライムと待ち合わせるように、とのことだった。だがそれではルカルカの方には間に合わなくなってしまうだろう。
 そうエースが考えていると、彼らの元に1人の女性が近づいてきた。先ほどアタッシュケースを置いたのと同じ女性――スノーである。
「お疲れ様。怪我とかはしなかった?」
「全然。見事に無傷で生還したよ、お嬢さん。……両手がふさがってるから花を出してあげられなくてごめんね」
「それは別にどうでもいいから」
 女性は全て尊重すべきというエースのいつもの癖が発動しかけたが、両手にぶら下がった袋のせいで、得意の「花プレゼント」ができなかった。
「さて、そんなことより中尉さんの家に行くんでしょ? 荷物半分持つわ」
 言いながらスノーはエースから袋を1つ受け取る。
「え、いや、そんな悪いよ……。っていうか車で来たんじゃないの?」
「車借りようと思ったんだけど、目的地が変わったんじゃさすがに運転は難しいわ。だから徒歩で迎えに来たのよ」
 それにパラミタでは自動車の類は贅沢品として扱われている。いくら輸送用トラックや出虎斗羅が登場したとはいえ、地球で足のように扱うにはまだまだ数が少ない。仮にレンタカーが存在していたとしても、それをいち教導団員が気軽に借りられるかどうかは、また別問題だった。
 エース、クマラ、カルキノス、スノーの4人は、カルキノスの主導でルカルカの家に歩いていくこととなった。

「えー、本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます! まあ堅苦しい挨拶は抜きにして、早速やっちゃいましょうか! それじゃあみんな、乾杯!」
「乾杯!!」
 それぞれの親しんだ公用語で乾杯の声を挙げ、手に持ったグラスをぶつけ合う。庭に集まった総勢11人の大所帯はそれぞれ行き渡った皿を手に、次々に焼かれる肉と野菜、そして酒を楽しみ始めた。
「僕らを含めて8人だったはずが、まさか3人増えて11人になるとは思いもしませんでした」
「いやー、ゴメンねー。アニスもまさかこうなるとは想定の範囲外ってやつでさー」
「なんにせよ、人手が増えるのはありがたいことだ。存分に楽しんでいってくれ」
 金網の前では調理の技術を持つエオリア、アニス、ダリルの3人が次々と肉と野菜を焼いていく。焼くものを串に刺すのは主にエオリアだった。
「それにしても、今日は本当にすみませんでした。適当に指令を出そうと思っていたらまさかこうなるとは……」
「まあそれなりに楽しいし、今はいいんじゃないか?」
「そうそう、結果オーライってやつよ。今日はガンガン飲み食いしちゃいなさいな」
「中尉どの……、俺、未成年ですから……」
 近くでは指令をブッキングさせてしまった和輝がエースとルカルカに謝り倒しているところだった。
 そこに、自分の皿に焼かれた肉と野菜を盛り付けたカルキノスがやってくる。
「そうそう、こういう日は何も考えずに食うのが一番ってもんよ。同じ教導団員なんだ、遠慮せずに食えよ。ほれなかなかうまそうだろ? 今日は俺も食いまくるぜ?」
「今日『は』? 今日『も』の間違いであろうが」
「なっはっは! まあ細かいことは気にするな!」
 本当に遠慮というものを知らないのか、人よりも料理を口に放り込むカルキノスは、淵の細かいツッコミを聞き流した。
「にしても、こりゃまるでキャンプ場の焼き場みてぇだな。いやあ豪快豪快!」
「まったく、誰が一番食べてると思ってるのよ」
「ルカよ、俺ぁガタイがでかいんだから仕方ねぇだろ、っておいこらクマラ! そいつはまだ生焼けだろうが!」
「えー、そんなー!」
 早くも酔っているのか、集まった面々の声は大きい――ジュースのクマラは酔うことは無いのだが。そんな光景を眺める者たちもまたいるのだ。
「随分と騒がしいわね。いつもこんな感じなの?」
「まあ、あの連中が顔を合わせたら大抵こうなるかな。地球人にしてもパラミタ人にしても、気忙しい上に騒々しくて、私としては実に困るね」
「へぇ、見た目紳士で貴族っぽいあなた自身はどうなのかしら?」
「私自身か? 私は私なりに楽しんでいるとも。そういう見た目一般人で雰囲気はそうでもないそちらは?」
「それなりに楽しんでいるわよ。……って、どうしてあなたも私を一般人と見ないわけ?」
「何か不満でも?」
「ゲームの遂行者に指令を渡すのに『変装していけ』って言われたのよ。それで地味な服で一般人に化けたつもりなのに、なぜか視線を浴びるのよね。メガネをかけて、全体図をショーウィンドウで確認しても変なところは見つからないし、どうしてかしら?」
「そりゃお嬢さん、それだけスタイルが良かったら誰だって見るって」
 静かに飲み食いするメシエとスノーの会話にエースが割り込んでくる。
「ところでダリル君、重労働させてくれた私へのサービスは忘れていないだろうね?」
「そのサービス分、肉焼いてるから待ってろ」
「そういえばダリルさん、調達したホタテとイカ、どうでした?」
「エオリアの持ってくる物が悪いわけが無いだろう」
「そうだダリル、俺の買ったトウモロコシはどうだ?」
「ああ、さすが園芸王子、なかなかいいものを揃えて来てくれたな」
「おいダリル、もっと肉焼け」
「今焼いてる最中だろうが!」
「ダリルー、ビールお代わりー!」
「ルカ、瓶は近くにあるだろう!?」
「ダリルー、日本酒はどこだっけ?」
「目の前にある!」
「ダリルー、スイカー!」
「スイカは後だ! デザートだ!」
「ダリルー」
「ダリルー」
「ええい、一辺に言うな!」
 集まった面々の声全てに反応するダリルは内心で毒づいた。まったく、今日は普段やってる研究の手を休めて、たまにはゆっくりしようと考えていたというのに、これでは普段以上に忙しいではないか!
 そしてふと気づけばアニスが調理の手を休めている。サボりかと思ってそちらを見ると、彼女は自分が連れている使い魔たちに焼いた肉やウィンナーを与えているところだった。普段から使役している分と、本日の指令の偵察・監視を行ってくれたことに対するご褒美らしい。
「……これは、明日は筋肉痛かな……?」
 もはやそれ以外の結末が見えないダリルであった。

 それからというもの、普段以上に食べたカルキノスが庭の真ん中で気楽に大の字に寝ているのを横目に、ルカルカと淵が持ち出した花火による騒動を繰り広げ、軽く冷やしたスイカを味わう面々の姿がそこにあった……。