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カラーゴーレムゲーム

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《1・人生の迷路は楽しむ方向でいこう》

 ヒラニプラの迷路工場。
 今回ゲームの知らせを聞いた生徒達は、既にそれぞれ集まってきてはいるが。
 入口は全部で20、工場をぐるりと周る形で各所に設置されているので。いきなりの衝突を避けるため、だいたいのチームはバラバラの場所に陣取っていた。
 冷たい鉄製の扉を前に、ゲーム開始前のなんともいえない緊張感がそれぞれの場所でそれぞれの生徒を包みこむ。
 そんなとき、扉の横に設置されたモニターに、くたびれた白衣を着た青年が映し出された。後ろには助手であるメイド服姿の機晶姫も控えている。
『ようこそ生徒諸君。私のゲームにこれほどの参加者が来てくれるとは、感謝感激だよ。といっても、実際何チーム何人が参加しているかは秘密にしておくよ。そのほうがゲームは盛り上がるからね、がんばって素敵な称号をGETしてくれたまへ』

 8番と刻まれた扉の前にいるエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、心底趣味嗜好にしか興味のなさそうな雰囲気の主催者を見つつ、
「称号か……なにやら嫌な予感がしないでもないが、貰えるものは貰っておくか」
 賞品について疑惑50%、期待5%、なんでもいいか45%、くらいの心構えでいくことにして、
「にしても。改めて独りなのを実感するとさびしいものがあるな」
 面倒がってついてきてくれなかったパートナー達に思いをはせるのだった。

『それからこれは補足説明だけどね。最初に決めたチームから抜けて、途中から単独になるのはルール違反だけど。途中で遭遇した知人とチームを組み直すのはアリだからね』
 19番扉の前にいる小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、チームを組んだ夜月 鴉(やづき・からす)御剣 渚(みつるぎ・なぎさ)白羽 凪(しろばね・なぎ)たちは、
「じゃあ誰か知り合いに会えたら、チームに入って貰うのもいいかもね」
「そうだな。人数が多いに越したことはないだろうし」
「人員が増えるだけ、苦労も増えるかもしれないがな。そのあたり、私は関知しないが」
「ワタシも一杯壊せるのならなんでもいいだけだから」
 四人は全員なにかと我が強そうな面々が組んでおり、先行きが気にかかるところで。
 特に凪は、戦闘であることに合わせて黒羽 和の人格になっており。事情を知らない美羽はわずかに疑問顔だった。

『新しくチームを組む場合は近くのモニターに申告すればいいから。あ、でもあまりに強い人同士で組むのとかはNGね。あくまでもゲームを面白くするための措置と考えといて』
 やがて博士はさらにニッコリと音がしそうな笑顔を近づけてきて。
『こんな風に、ルールについて質問があれば大体のことは追加で教えてあげるから。聞きたいことがある人はどうぞー』
 唐突に提案され。ほとんどの参加者はざわざわとするだけだったが。
 5番の扉前にいるチーム【ワンコ隊】の橘 カオル(たちばな・かおる)は、いちはやく律儀に手をあげて発言をしていく。
「質問だ。コピーゴーレムは核が中に残ってさえいれば、色が変化するのか? 例えば頭や手足が吹き飛んでも」
『変化するよ。破壊の度合いにもよるけど、基本的にはゴーレムのなかに核が残っていれば色は変わりつづけるから』
「なるほど。これで攻略の方策も増えるというものだな」
「コミュニティのみんなは、どうしていくつもりなのかな……」
 カオルと同じチームの月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)は今から作戦について思案し。このゲームに参加している、コミュニティ【鋼鉄の獅子】の他メンバーのことを思うのだった。

『質問は以上かな? まあ後々聞きたいことができたらモニターのほうに頼むよ。じゃああんまり待たせるのもなんだから、これよりきっかり5分後にゲームをスタートするので。皆さん、検討を祈ってるよ』
 それ以上の発言がないのを見て、博士は言うべきことだけ言ってモニターから外れて。電源も切れた。
 モニターの映像が消えた後、15番扉前の前にいるランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)ティーレ・セイラギエン(てぃーれ・せいらぎえん)は、さきほどのカオルと博士の会話を反芻し。ぽつりと言葉をもらす。
「気になる言い方でしたね」
「え? なにが?」
 わかっていない様子のティーレに、ランツェレットは説明を足していく。
「あの方は、ルールについて大体のことは教えると仰っていました。つまり提示されていたルールにはプレーヤーに教えると面白くなくなる、考察して発見するべき事柄があるかもしれないということです」
 丁寧に解説したつもりだったが。
 ティーレは結局わかったのかわかってないのか微妙な表情をするばかりで、ランツェレットとしてはほんのすこしやるせない気持ちになった。

 別の場所でも、ルールのほころびに気がつき、かつ真剣に考える参加者は他にもいた。
 特に、1番扉の近辺には多数のチームが密集していて。
「もう少しルールを読み返してみたほうがいい気がしてきたな。アニス、ルールを書いた紙をとってく――あれ? アニス?」
 そこで考え込んでいるのは佐野 和輝(さの・かずき)。そんな彼と対照的に、
 彼のパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)は、無邪気な笑顔で挨拶をしていた。
「みなさん、お手柔らかによろしくおねがいしますねっ♪」
 相手は鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)常闇 夜月(とこやみ・よづき)鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の四人。
「これはこれはご丁寧に。こちらこそよろしく」
「お互い全力をつくしましょう」
「よーっし! ボクもがんばっちゃうよー!」
「ふむ。それで、そちらのそなたらは個別に参戦するんじゃな?」
 その隣にいるのは、なんかノリ気でなさそうなリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と、やけにノリノリなシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)
「うん、そうなのよ。私のパートナーがすごくやる気になってて」
「いいじゃない。リカインと真剣に勝負するっていうのも、新鮮で」
 テンションに差がありまくりのふたりに、和輝はすこし苦笑しつつ。あらかた挨拶をしてきたアニスと向かい合って。
「えっとそれで、アニス。まだ俺たちが気づいてないルールの抜け道があるかもしれない。気がついたことがあったら教えてくれ」
「うん! わかったよ〜っ」
 返事のあと、にゃは〜っ、とほほえみながらルールの紙を見直すアニス。
 どうみても期待薄ではあるが、自分も顔がほころんでいる和輝であった。
「たしかに、開始直前になってわざわざ補足説明なんてしていったことといい、あの主催者はけっこう底意地が悪いみたいですからね」
 と、そこに貴仁が口を挟んできた。
「なにか気づいたことでも?」
「ん、ああ……さっきの発言を聞いていて思ったことがあって」
 貴仁は説明するのが心底めんどくさそうだったが、言いかけてやめるのもどうかということで結局続ける。
「申告をしていない場合は協力してもチームとは認められない。ということは、例えば単独でゲームに挑んだ参加者が、偶然別の誰かと協力する形になったとしても、そのチームに加入したということにはならない。だとしたら……」
 くいくい、とふいに服を引っ張られる感触があり。
 見れば夜月が『あまりペラペラと情報を話しすぎるのは、どうかと思います』と言いたげな視線を向けていて。
「貴仁。そなた、ちっちゃい子の前だからといってイイ格好しようとするのは感心せんぞ」
 房内のほうはにやにや笑いでちゃかしてきていた。
「え? いや、べつにそんなつもりは」
 と言いながら、貴仁の視線はアニスのほうに向いていたりいなかったりするのだった。

 その後もわいわいと喧騒が続く1番扉前。
 そことはちょうど反対側あたりに位置する12番扉前では、
 チーム【龍雷連隊】のリーダーを任されている松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が、なにやら熱い思いのままに宣言を行なっていた。
「龍雷連隊の諸君、我が部隊もこのゲームに参加して勝利をつかみ取るぞ、獅子や新星に負けない力を見せるぞ!」
「うむ! わしも腕がなるでござるよ!」
 彼のパートナーの武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)も、開始が待ちきれないとばかりに鼻息を荒くしている。
 そしてこのチームの他メンバーはというと、
「僕はゲーム感覚で楽しめればいいんだけど。ま、熱いノリも嫌いじゃないけどね」
 それなりにはやる気を抱いている様子のトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)
「私は私の役目をきっちりと果たすだけだわ」
 ピシリと張り詰めた空気が伝わってきそうなミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)
「俺も楽しいのがいいな。誰かと争うのとかちっと苦手だから」
 あんまり深く考えず笑っているテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)
「私たちの力が合わされば、優勝も夢ではないと思いますよ」
 ほほえみながらサポートに徹するつもりの魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)
 彼らもまた個性的な面々が揃っているようで、どう戦っていくか期待が高まるところである。

 またべつの一角、10番扉前ではチーム【GUN・DOG】のレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)が、
「こうして組むのは久しぶりだな、よろしく頼むぞルース」
「ああ。やるからには優勝狙いでいこうぜ、レーゼマン」
 チームを結成したルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)ソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)と話している。
「ルース共々、よろしくおねがいしますね」
「あぁ、ソフィアもよろしく頼む」
 三人としてはこのゲームへの意気込みや、愛用する銃についてなど。話しておきたいことは数多くあるところだが、そろそろ時間が差し迫っていることもあって戦闘の準備を優先することにした。

 開始まであと1分。
 ほとんどの生徒は武器を再確認し、いつでも動けるようにしている一方で、なにも気にしてないどころか先ほどの説明をろくに来ていない上に、準備もまるでできていない参加者もいた。
 7番扉前にいるチーム【酒乱】の朝霧 垂(あさぎり・しづり)がそれに該当する。
 垂はパートナーの朝霧 栞(あさぎり・しおり)がちょっと目を離した隙に、
「終わった後の宴会用に酒持ってきてるんですよ〜。少しだけ味見しないか?」
 などと鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)に提案して持参した超有名銘柄の日本酒を飲み始め、すでにほろ酔いになってしまっていた。
「垂。もうゲームがはじまるぞ、わかってるのか?」
「わぁかってるわかってるってぇ、栞〜。任せておきなさいっての」
「九州男児の俺もついてるし、心配ないですよ」
 いや、九州男児関係なくないか? と思いつつ、まだ飲んでいるふたりに頭を抱える栞。
 そこへ突然モニターに博士の姿が映しだされる。
『おやおや。なんだか開始前から、ちょっとお困りみたいだね』
「ん。ああ、さすがにちょっとマズいよなこれ」
『ゲームとはいえ、もうちょっと真剣になってもらえると私も嬉しいところだしね』
「まさかなにか罰があったりするのか?」
『ん、それはだいじょうぶだよ、ちょっと教導団のほうに報告するだけだから』
「いやそれそこそこの罰になってないか!?」
『まあ真面目な話をすると。飲酒がメインの話でもない限り、冒頭からいきなり宴会はじめちゃうと、目的から外れることになるからね。そういうキャラクターの性格だとしても、なるべく避けるべきだよ』
「そ、そうか」
『ともあれ、そのへんはいま論じてもしょうがないとして。いよいよスタートだからがんばってね』
 博士がそう告げるのと同時に、ついに鉄の扉が重々しく開かれた。
 すると、垂がいきなりすっくと立ち上がる。
「そ〜いえば、特殊なゴーレムを識別する為に博士か助手が持ってるメガネが必要なんだよな〜? ちっと探して来るぁ〜」
「え? お、おい待」
 栞の呼びかけもむなしく、垂はいつのまにか装備したダッシュローラーを起動し、時折壁にぶつかりながらひとりで勝手に走っていってしまった。
 残されたふたりはしばらく呆然としていたが。
「これだから酔っ払いは……鷹村、垂が戻って来るまで、核は集めるだけで壊すのは止めておこうぜ」
「んー。それより、もうすこし飲みませんか?」
「いやいやいや! 俺まだ未成年だし! なによりゲームはもうはじまってるんだぜ!? はやく中に入らないと!」
「なに? 未成年? それは残念」
「ほらもう酒のくだりはいいから行くぞ!」
 こうして栞と真一郎も、ようやく迷路工場内へと走っていった。
 なにはともあれ。
 ゲームの幕は、切って落とさ――

『ああ。それからね、パートナーと別々でこのゲームに参加するのってダブルアクションじゃない? って思う人もいるかもだけど。その行動がちゃんと相棒のためになっていたり、競争することでお互いに高めあっているのなら、ある意味パートナーと一緒に頑張っていることになりますので、セーフとなりますので。あしからず』

 ……改めて。ゲームの幕は、切って落とされた。