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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

リアクション

     ◇

 神様がいるとするならば

 どうしてここまで無慈悲なのか。
 どうしてここまで酷いのか。
 どうして私を見捨てるのか。

 ただ、それだけを聞いてみたいものだ。



     ◆

 トラップを全て壊し、回避し、乗り越えて、やっとの事で海たちは地下一階に到着する。そしてそこで、息を呑むのだ。
「きゃっ――!?」
 そのきっかけは、雅羅の悲鳴だった。
「なんだよ……何で此処でラナロックさんが倒れてんだよ……」
 唖然とする一同。思わずそんな言葉を口にする海に、未散、衿栖、美羽とベアトリーチェが恐る恐るそれに近付いていく。
「……やっぱり。これ、偽物ですね」
「あぁ、ラナじゃあねぇ……」
「なんだろう、何処が違うかわからないけど、確かに違うと思うな。ねっ!? ベアちゃん」
「そうですね……何かが余分で、何かが足りない気がします」
 何かを見ながら、何かを確認しながら、四人はそう言い切った。レオンはゆっくりと、胴体と泣き別れた首を見つけると、開けたままの瞳をゆっくりと閉ざしてやる。
「幾ら偽物とは言え……命あるものの死は良い気分ではないな」
「でも……何が違うの? ラナ先輩じゃないって……」
 恐る恐る雅羅が尋ねると、衿栖が立ち上がって返事を返した。
「彼女、何故かはわかりませんけど常に持ち歩いている銃以外を携帯している事はありませんから」
「だな、私とやりあってた時もそうだ。どんだけピンチになっても、ぜってーあの銃だった。でもみろよ、これは全身武装って感じだな。鉈に、手榴弾……設置式のトラップに、それの起爆ユニット。あいつがこんな戦いかたすんなら、私はまたやりたいな、なんて思いはしないさ」
 「それに」と、レオンが呟いた。
「確か彼女、口もとにほくろがあったろう? だが彼女にはそれがない」
「あ、そうだ! それが足りないんだ! しかも、ラナさんの目、銀色だよね。これ」
「正気に戻っているのであれば、彼女が此処で立ちふさがる動機がないですものね」
 レオンに続けて美羽、ベアトリーチェが声を上げた。些細な事だが、それも立派な判別基準だ。
人工的に作られた表皮とはいえ、いちいち外観を変える必要のない物である。目的がない以上、無意味な事はおかしいと思うに限るのだ。
「行きましょう……」
 縮こまり、海と三月の陰に隠れていた柚に、心配そうな顔を浮かべて佑一が声を掛ける。
「……はい、すみません」
「しょうがないですよね」
 ミシェルとプリムラは彼の後ろに隠れたまま、そして柚は三月と海に隠れたままに、地下一階の最初のフロアを抜ける。
「待って皆、抜けたところのすぐ近く、トラップが新しく張ってある……」
 プリムラの言葉に反応した一同は足を止めた。と、朱里が何処からともなく手榴弾を取り出し、ピンを弾かないままにそれを適当に投げ込む。爆発が起こり、周囲に残されていたトラップが破損した。プリムラがしっかりと生き残ったトラップがないかを確認し、頷く。
「……朱里、一体どこからそんなものを」
「さっきのあれよ。拝借できるものは拝借して、使える物は使おうかなってだけ。だってそうでしょ? 言ったらあれ、さっきの。ラナちゃんの姉妹だよ? 多分。こっちが生半可な気持ちで入ってきて、彼女たちを殺してしまうなら、ならばせめて、こっちも全身全霊で相手しないと失礼じゃない。朱里はそう思うよ」
 にんまりと笑顔を浮かべていた彼女は、しかし真剣な顔なって衿栖へと答える。
 以降、彼等は数歩歩くごとにトラップに遭遇するが、その殆どを看破し、破壊して突き進むのだ。とある部屋の前で止まるまでは。
「ねぇ、ちょっと待って」
 一行が足を止めるきっかけになったのは、美羽の一言だった。
「此処、宿舎みたいじゃない? 研究者の宿舎ってことかな?」
 その言葉を聞いた一同が、徐に部屋の前にある何かに目をやった。看板らしきそれには
、それぞれの部屋に名前が降ってあり、それは恐らく個人の部屋の案内らしい。
「その様ですね……入ってみますか?」
「ま、情報が欲しいからきたんだからさ、入んなきゃ調べらんねぇよな」
 佑一の言葉に未散が返事を返す。
「にしても、様子が少しおかしくはないですか? 何かこう……部屋の並びと良い……。それに気になるのはそれだけではありません。此処に書いてある『寮長』と言う単語。此処がもし研究所で、各部署に分かれていたのであれば普通はもっと別の名称でしょう?」
「そうだな、局長やら室長やら、と言ったところが懸命だろうか。でも、古代だぞ? かろうじて読める程の年代だろうが……それなりの違いはあってもおかしくはないと思うが……」
「そもそも、これが本当に古代と言えるものなのかは定かじゃないですよね。古代兵器、とは名ばかりで、もっと近代的なもの、と言う線も考えられなくはないですよ」
 レオンの言葉に繋げて衿栖が深刻そうな顔で思考する。
「何にせよ、入ってみるのが一番だろ」
 海の言葉に頷いた一同は、未散を先頭に数ある部屋の一つに足を踏み入れた。
「……ベッドと机。後は本、か」
「随分とシンプルなんですね、中」
 レオンの言葉にミシェルが返事を返す。
「ちょっと調べてみるか」
「はい、わかりました」
「柚、なんなら下の方でも良いよ? 高い所は僕たちでやるから」
「ちょ、ちょっと! それどういう事ですか、三月ちゃん!」
「あはは、そんなに怒らないでよ」
「怒ってません!」
 二人のやり取りに、表情の硬かった一同の顔が綻ぶ。と――彼等の入った部屋のドアに、何かが当たる音がした。数発、銃弾の様な物が金属に衝突する音。
「おいでなすったわね! 未散!」
「わかってる!」
 朱里の言葉に返事を返した未散が部屋の扉の両サイドに飛びつき、壁に背を預けてタイミングを見計らった。このまま外に出れば、自分たちはおろか、射線上に入っている海たちも危ない。故にタイミングを見計らって出なくてはならないのだ。
「よし、止まった。今だ」
 未散が意を決して部屋の外へと飛び出す。それに続いて朱里も飛び出して行った。
「未散君! 朱里君! わたくしもお供しますぞ!」
 ハルも慌てて二人の後を追い、部屋の外に飛び出していく。
「よし、俺たちは早くこの部屋の中で必要な物を回収しよう!」
「そうね」
「はい!」
 頷いた一同は懸命に手分けをして必要な物を調べるべく、手を進めた。