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リアクション
第三章:騎沙良 詩穂
同日 某時刻 海京某所
海京の一角、一人の少女がビル建造予定地となっている空き地へと入っていく。ゆっくりとした足取りで歩く彼女は、傍目にはただぶらぶらと歩いているように見えるが、その実、数多くの敵に背後から追跡されているのだ。
それでもなお、戦闘に適した場所を冷静な思考で割り出し、落ち着いた足取りでその場所へ向けて歩いていくのは流石というべきだろう。
中華風のシニヨンが印象的な銀色のショートヘアに白色の制服。その後姿は佐野 実里(さの・みのり)と思しきものだ。
彼女が空き地の中心まで到達して足を止めると、その瞬間を待っていたかのように、付かず離れずの距離を保って追いかけてきていたキメラーメンが一斉に彼女へと近付き、数に任せて彼女を取り囲む。
「さっきから随分と慎重なのね」
空き地の中心で、彼女は集まってきたキメラーメンに向けて口火を切った。
「まさかとは思ったけど、やっぱり実里を狙ってきたね。うん、予想通り。でも――」
楕円形に陣形を組むように並び、自分を取り囲むキメラーメンたちに背を向けたまま、彼女はおどけたような声音で言う。
「待ち伸びちゃった☆」
その言葉とともに勢い良く振り返ると、彼女は銀髪ショートヘアのウィッグを取った。その下から現れた茶髪に、感情の見て取れないキメラーメンたちの間に、心なしか動揺が走ったようにも感じられる。
実里を狙って追跡してきたつもりだったキメラーメンたちが追ってきた者、それは実里の影武者として彼女に変装した騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だったのだ。
しかし、だからといって用済みとばかりにキメラーメンが退散するわけではない。その場に集まったキメラーメンたちは、早々に標的を詩穂へと変更すると、一斉に襲い掛かる。
それに対し、詩穂は服のポケットから大量の飴玉を取り出すと、襲い来るキメラーメンの群れを見据える。そして、四方八方から大量の麺が自分に向かって伸びるよりも早く、飴玉を無数にばら撒いた。
ばら撒かれた飴玉はキメラーメンの群れに炸裂し、そのことごとくがキメラーメンたちに取り込まれていく。その光景を見ながら、詩穂は口火を切った。
「詩穂はね、予め『とんこつラーメン』を食べてきたの――」
詩穂がそう前置きしたのと同時、キメラーメンたちがぴたりと動きを止める。
「――だから、それはタダの飴玉じゃあない。『とんこつ麺能力』で発現した、詩穂の能力だよ」
そうとは知らずに、うっかり取り込んでしまったことに、さしものキメラーメンも色めきたっているようだ。
「それを食べるとね、色々な効果が発動するの。もっとも、どんな効果が発現するかは詩穂にもわからないけど」
その時だった。動きを止めていたキメラーメンが突如として震えだす。
「――阿片な飴玉(カラフル・キャンディーボックス)。詩穂はそう名付けて、呼んでるけどね」
次の瞬間、キメラーメンは大量の麺を互いに向けて伸ばし、くんずほぐれつしながら互いを取り込みあって、同士討ちを始める。そして、最後の一体となった後、自らに麺を巻きつけ、自分で自分を取り込むことによって消滅した。
「なるほど――食欲増進剤の効果が発現したみたいだね」
彼女の見立て通り、食欲増進効果がもたらされたキメラーメンたちは、最も身近にあった食料――他ならぬキメラーメンそのものを標的とし、捕食を開始したのだ。
増進された食欲に抗うすべは無く、同士討ちを終えた彼らは、最後の一体となった後、残った最も身近なな食料――即ち、自分自身を捕食したのだった。
「ちょっと味見してみようと思ったけど、やめといて正解だったよ。それはそうと、実里はどうしてるかな」
手の平に握った飴玉を見ながら、詩穂は呟いた。
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