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古代の悪遺

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 9:Collapses  



 中央制御室で最後の戦いが行われている折、ロビーでもまた、戦闘は大詰めを迎えていた。


「今だ、レーザーをっ」
「ああ……!」

 
 センサーは、リオや静麻、ガトリングをグラキエスやエヴァルトが潰していき、白竜や和輝、乱世によって足も既に四本にまで削がれ、その分薄くなったレーザー周りの障害は減っている。白竜と淋が残る二本の足をワイアクローで一瞬その動きを阻害すると、敬一、コンスタンティヌスが守護者の下へを潜り抜けざまレーザーを狙い撃つ。そんな連携も数度目。ついにレーザーは破壊され、ドンッという爆発音と共に沈黙した。
「よしっ、これで残るはセンサー、ガトリングとも一つきりだな」
 エヴァルトが、ようやく見えてきた勝利の兆しに声を上げる。
 武器と目が一対であれば、この人数だ。その装甲から勝ったも同然とは言えないが優位であるのは間違いない。
 そして、この瞬間をこそ待っていた、と言わんばかりに飛び出したのは、唯斗の絶影だ。
「行くぞッ」
「シフ、援護を頼む!」
 唯斗とエクスの声に応えるようにして、上空を旋回していたアイオーンが一気に降下して守護者のセンサーの前へと躍り出た。
「待ちくたびれましたよ、紫月さん……っ」
 今までエネルギーの温存のために、戦線を見ているばかりだった鬱憤を晴らすべく、滑降と同時にライフルがセンサーに向けて火を噴く。続けざま火花を散らしたセンサーが、アイオーンの機影をセンターに捉えたときには、その絶影に次ぐ機動力に物を言わせて距離を詰めた新式ビームサーベルが、その中心に深々と突き立てられていた。
「今だよ!」
 ミネシアが声を上げる。
 瞬間、センサーが爆発するのとほぼ同時に離脱したアイオーンと切り替わるように、絶影が守護者との距離を詰めると、ガシっとその足を掴んだ。センサーを失ったために敵影を見失った守護者が攻撃に移る前に、絶影の補陀落山おろしが発動した。
「お、おいおい……!?」
 それを見ていた周囲が驚きに目を見開く中、豪快に振り回された守護者は、その手が放された瞬間に投げ飛ばされ、ロビーの端――非常階段とは逆の位置に設置された機材運搬用のエレベーターシャフトへと、轟音と共に落下した。だが、その大きな吹き抜け状のシャフトも、守護者の大きさには足りない。
「ち、下へ落とすのは無理か――ん?」
 目論見が外れて、唯斗が舌打ちした、その時だ。
 守護者とは全く関係のないはずの天井近くの位置から、爆発音が響き渡った。
「こ、これで一本……っ」
 誌穂が荒い息で呟く。ついにSpace Sonicが柱を断つことに成功したのだ。
「ですが、このままでは、全ての柱を落とすのに、エネルギーが足りません」
 セルフィーナが焦ったように言うが、問題はもう一つある。上部を壁と切り離した程度では、頑強な柱はどうにもなりそうに無かったのだ。だが。
「あと一撃、いけないか!?」
 そんな誌穂たちに、唯斗の声がかかった。どう言う事か問うより先に、その言葉は続く。
「下だ。その柱の足元を、全力でやってくれ」
「わ、わかったよ」
 意図は判らなかったが、何か目論見があるのだろうと察して、誌穂は機体を旋回させて、空裂刀を構えなおすと、一気に地上すれすれまで降下する。その推進力を攻撃に上乗せする形で、誌穂は再び柱へと斬りつけた。今度もやはり、柱の装甲に阻まれえて中々その剣は通ろうとしない。斬る、というより押し込むような形で、残る全エネルギーを叩き込んだ。
 ギシ、ギシ、と軋んでいるのは柱なのか機体なのか、それすらも区別が付かない中、しかし、上部の支えを既に失っている柱の方が、足元を揺さぶられてぐらり、と傾いた、その時だ。
「な……っ」
 今度こそ、皆が絶句する。
 柱の傾いたタイミングにあわせ、絶影が跳躍したかと思うと、柱の上部へ蹴りを放ったのだ。そしてその足を柱にかけたまま、全推力をそこへと集約させる。
 あたかも、嵐に抵抗しているところを土砂にへし折られる木のように、なぎ倒された巨大な柱が、絶影に加速させられながら守護者にぶち当たった。

「落ちろおおおお……ッ!」



 

 轟音が地下へ鳴り響いた。

 間一髪のところで、地上からの警戒を受け取った動力室の面々は、ある者は自力で、ある者はネフィリム三姉妹たちに抱えられながら退避して事なきを得たが、柱と守護者に押しつぶされて破壊された機材が、バチバチと火花を飛ばしている。危うく粉塵爆発を起こしかねなかった状況に肝が冷える。
「こりゃあ、危ないな」
 そうしている間にも、守護者を追ってイコン達が地下へ降りて来ようとしている。生身でこの場に留まるには危険が大きすぎる、と、ツライッツ達は退避を開始した。
「ここは制御室の動力炉もあるんだ、あんまり無茶はしないでくださいよ……!」
 去り際の浩一の声も虚しく。
 落下した守護者を追いかけて地下へと降り立ったイコン搭乗者たちは、動力室の奥へ向かわないようにと阻むような並びで陣取ったが、沈黙したかと思われてた守護者は、落下の衝撃で更にもう一本足を失いながらも、瓦礫の下から再びその体を重たげに持ち上げた。
「まだ動けるのかよ……!」
 エヴァルトが苦い声を吐き出した。三本足になりながらも、バランスさえ取れていれば体を支えることが出来るのが、多脚構造の真価とも言えるだろう。
 そして、エヴァルトが指摘したとおり、全ての認識能力を失った守護者は、最後の武器であるガトリングを無差別に乱射し始めた。広く障害物の少ないロビーであるならまだしも、同じ広さがあっても動力炉などの機材で埋め尽くされた地下では、イコンの機動が生かせない。尚悪いことに、迂闊に避ければ、流れ弾が動力炉や、最悪中央制御室を破壊しかねないのだ。行動パターンを見切ろうにも、優先順位を失った守護者は、殆ど暴走に近い有様でランダムに射撃を繰り返している。
 比較的装甲の硬いイコンたちで、バリケードの代わりを務めているものの、そう長くは持たなだろう。逆に、守護者の方はこれだけ攻撃を繰り返しつつもまだエネルギーを切らす様子は無い。
「発射はまだ止められないのか……?」
 焦りがそんな言葉をついて出させるが、信頼とはまた別にそれをただ待つわけにもいかない。
「レーザーを先に破壊できたのは僥倖だったな」
 敬一が呟いて苦く笑う。すると、その言葉を拾って通信が入った。
「そうね、少なくとも武装がガトリングひとつで助かったわ」
 これならまだ防ぎようがあるもの、とフィーニクス・ストライカー/Fに乗る、イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は続ける。
 今までの対守護者の戦闘データから、守護者の行動パターンにはある規則性があるようだ、とイーリャは感じていた。それは、製作者の意図か、それとも施設の持つ性質がそうさせているのかわからないが、根底にある意思――盾としての守りではなく、破壊による矛。壁ではなく、この性質は地雷にも似ている。
「そんな性質を持つからには、うかつに武器を全て潰せば、何をしてくるか――」
 センサーが潰れたことで、乱射してくるところから見ても、武器が無くなれば最後に残った手段は、一つしかない。だからこそ、残ったのがガトリング一つで良かった、とは言える。
「けど、このままだとジリ貧ね」
「レーザーの辺りは、破壊した衝撃でちょっとは装甲が甘いと思うが……」
「それを早く言いなさいよ」
 どうにかできないものか、と思考を巡らせる二人の間に、高圧的に会話に割り込んだのは、イーリャのパートナージヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)だ。軽く虚を突かれた二人を他所に、ふん、と鼻を鳴らすと、その機体が吹き抜けから天井まですいっと上昇する。
「ジヴァ……? ちょっと、何するつもり!?」
 突然の行動に、イーリャは困惑したように尋ねたが、ジヴァは「決まってるわ」と不敵に口元を上げるた。
「下が甘いって言うなら、潜り込むまでよ」
 言うが早いか、上昇を終えた途端、飛行形態に変形すると、その機動力に任せて一気に降下を開始した。
「潜り込む、って、ちょっと! やめなさい、無茶よ!」
「黙ってなさい劣等種。あたしに不可能はないのよ!」
 慌てて制止する声も聞かず、機体は更に加速する。
 その行きがけの駄賃とばかりに、火力に任せてガトリングを潰してしまうと、イーリャが予測した通りに、守護者は自爆シークエンスに移ろうとする。が。
「そんな暇、与えるわけ無いでしょう、が!」
 地上すれすれで旋回したフィーニクス・ストライカー/Fは、守護者の下腹部にもぐりこむや否や、再度変形すると、その重装備の火力全てを、破壊されて脆くなっていたレーザーの接合部分へと零距離で叩き込んだ。

 瞬間。

 予想に反して派手な爆発などをすることは無く、その硬い装甲の内側で、鈍い爆発音が連続したかと思うと、センサーやガトリングの隙間から煙を吐き出しながら、守護者はズズン、と重たい音を施設に響き渡らせ、その巨大な胴体を地に堕とすと、ついに沈黙した。


「やった……!」

 勝利の瞬間に、歓声が上がる。
 だが、状況はまだ終わったわけではなかった。

 守護者の沈黙から数秒。
 今度はフレイム・オブ・ゴモラが、急に低い警告音を鳴らし始めたのだ。

『発射シークエンス、緊急停止。自爆シークエンスヘ移行シマス。繰リ返シマス。発射シークエンス、緊急停止。自爆シークエンスヘ移行シマス』


「どう言う事!?」
 イーリャが驚愕の声を上げたが、答える者は無い。皆、突然の事態に戸惑いと恐怖に顔色を変えている者ばかりだ。ただ、一人を除いては。
「ッ、まさか!」
 弾かれるように、ルカルカが振り返ると、衝撃に固まっているうちに皆の間をすり抜け、中央制御室のドアの前に彩羽とスベシアが立っていた。
「悪いわね。兵器は破壊させてもらうわ」
 にこりともせず言って、銃口を今にも飛び掛ろうとしていたルカルカへと向けて動きを制す。
「大丈夫、守護者もワームも倒して危険は無いし、避難の時間はたっぷり設定してあるわ」
 自爆を解除しようとしなければ、十二分に逃げるのには間に合うわよ、と続けるのに、セレンフィリティが眉を寄せる。
「命令系統を乗っ取って、セキュリティを書き換えたのね……っ」
 その言葉にはさてね、と彩羽は肩を竦め、同時、煙幕ファンデーションを使って姿を隠すと、ベルフラマントを羽織って身を翻す。
「無駄なことはしないで、命を大事にしてちょうだいね」

 去り際にそんな一言を残し、彩羽はロビーの向こうへと消えていった。