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リアクション
足をぶらぶら体はふらふら首をぐるぐる。傍目から見て、その少女はなんの疑いもなく暇を持て余していた。
彼女は一人だった。そこに魔術師の姿はない。契約者たちはほっと一息ついた。
彼女がゆっくりと視線を動かす。夢見るような目で契約者たちを眺めて、頬を緩めた。
口を開いた。
「はじめまして。あなたたちが、」
不自然に言葉を切る。顔をしかめて、それから実に嫌そうにケホケホ咳払いをした。
「ごめんなさい。話すの、久しぶりだから」
上手く声が出なくって、そう言って「願いの魔精」はまるっきり人間の少女のように恥らって顔をうつむけた。
ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は少女の仕草に微笑んで、膝をついて目線を合わせた。
「はじめまして、こんにちは。無理して話さなくってもいいからね」
少女はおずおずと顔を上げて、もう一度咳払い。やり直し、と前置きして、
「はじめまして。あなたたちが、わたしのお願いを聞き届けてくれる人?」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がまかせとけ、と言わんばかりに自身の胸を叩いて答えた。
「そうよ。絶対に、救ってみせるから」
「あぁ、今、仲間がお前さんを解放する術を探ってるからな、大船に乗った気でいろよ」
ルカルカのパートナー、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が重ねた言葉に、少女はわずかに首を傾げた。
「解放、って?」
「もちろん、君の制約のことよ。君を『願いの魔精』であることから解放すれば、もう願いを叶えるなんてしなくっていいでしょ? 大丈夫よ、絶対に見つかる」
ルカルカが笑顔で太鼓判を押した。
少女はというと、不満を隠そうともしなかった。
「解放って、ないよそんなの。わたし、知らない」
口を尖らせにらむ。
「カードが揃っていないのは認める」
レン・オズワルド(れん・おずわるど)が言った。
「今の時点では、だ。俺たちの手元に揃うのに時間がかかるかもしれないが、ドロップにはまだ早い。カードを揃えるための時間くらい、俺たちが作ってみせよう」
ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)がレンの背中からひょっこりと顔を出し、少女へと手を差し出した。
「レンさんも、みなさんも、私も、みんなであなたを守ります。救うための方法が分かるまでの間は、私たちとおしゃべりでもしませんか? 友達になれればいいな、って思うんです」
少女はノアの手をじっと見つめた。差し出された手をとろうと、恐る恐る手を上げるが、結局、目を伏せて引っ込めた。
「やっぱり、無理だと思う」
ぽつりとこぼす。
「なぜそう思うんだい?」
ヴィナが尋ねてから、少女の次の言葉が出るまでに少しかかった。言葉を探すように考えこんで、顔を上げて口を開いて、上手く言葉を紡げないのか声は出ず、また閉じる。三度繰り返した後、ようやく少女は声を出した。
「わたしじゃ、ないから」
続く声も辛抱強く待った。
「人の願いを叶えるっていうのがわたしで、それをしないわたしっていうのは、わたしじゃなくって、それはありえないことだから」
次の声はすっと出た。
「だから、人の願いなんか叶えたくなかったら、消え去るしかないの」
要領を得ない言葉だった。言葉足らずもいいところだった。それも当たり前のことだった。彼女は、今の今までこうして自分の気持ちを言葉に出すようなことがなかったに違いない。
人の願いを叶えることしかしてこなかった。そういう道具だから。道具だから使われる以外にありえない。使われたくなければ、ぶち壊してもらってゴミ箱にポイしてもらうしかない。それ以外に考えられない。
そう願った彼女を、ヴィナは悲しいと思う。
少女の肩を抱き、染みこませるように言葉をかけた。
「君は君で、道具じゃないんだ。道具じゃなくていいんだ。願いを叶える力がなくなったって、君であることに変わりわないし、君にいてほしいと思う人だっているんだ」
レンとノアも頷いた。
「その通りだ。力があろうとなかろうと、俺はノアと友達になってほしいと思っている」
「はい、私が友達になりたいと思ったのは、力なんて関係ありません」
「だから、ね、ルカたちに任せて」
「お前さんは、自由になれるんだぜ」
ルカルカとカルキノスが続けた。
少女はうつむく。
「でも……」
言葉が続かない。
「まぁ、難しい話なんていらないよ。生きてりゃ美味しい食べ物が食べられる、美味しいもん食べないのは勿体ないからねぇ」
あっけらかんと言い放った月谷 要(つきたに・かなめ)の言葉に、周囲は苦笑した。
「美味しいもの?」
「あぁ、世界には美味しいものはいっぱいあるんだよねぇ。それを食べられるのは楽しいことだよ」
少女は少し考えて言った。
「よくわかんない」
「最初に言ったろ? 無理して話さなくてもいいと」
「お前が考えるだけの時間を稼ぐ、ともな」
「じっくり考えて答えを出して」
「一緒に美味しいもの食べるってのはどうかなぁ」
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