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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 1

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 1

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第1章 ベルが鳴り終わる前に特別教室へ!

 世の中、物質に興味を持たず干渉しない魔性だけでなく、時には人や物に憑き、悪さをする者もいる。
 今までの祓う方法やスキルでは、対処しきれないやつらも存在するため、イルミンスールでもエクソシストの育成を行う事になった。
 その育成は以前からアーデルハイトが水面下で進めていたのだが…。
 今回からエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が引き継ぎ、生徒たちを呼び集める。
 エクソシスト育成のために雇った、講師のラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)と共に魔道具の使い方の特別授業を行う。
 普段使われている教室の黒板に、校長自ら授業時間割を書き込む。
「備考に、持ち物も書いておきましょう〜♪」
「校長も忘れ物しないでね」
「前日から持ち物チェックしてしますからぁ、大丈夫ですぅう!」
「ラスコット先生!ちょっとだけお話してもいい?」
 イルミンスール魔法学校の校長をからかい、へらっと笑う講師にフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が駆け寄る。
「ん、何かな?」
「私もエクソシストとして経験を積むと、このニーベルングリングで、祓魔術を扱えるようになる?」
「本来の能力以上の術を発揮できるほどの、効力が備わっているかによるんだよね」
「もしも…その要素がないとしたら?」
「仕組みも祓魔とは関係ないなら、いくら修練を積んでも無理かな。自分に合った能力なら、身につけることが出来るかもしれないけど」
「―……そ、…そうですか」
「あ…諦めてしまうんですか!?フリッカらしくありませんっ!!」
 魔法貴族の誇りはないのかとルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が叱咤する。
 俯いたまま彼女の言葉にかぶりを振り、“まだ望みはあるわ”と自分に言い聞かせるようにリングを指で撫でる。
「私に向いていると思う授業を受けさせて!」
 顔を上げたフレデリカは、自分に相応の授業を受けるべく、講師に聞く。
「エレメンタルケイジの授業なんかどう?攻撃というよりも、仲間のサポートが主になるかもしれないけどね」
「深夜の授業でもらったこれのことね」
「サポートってことは…。魔性の攻撃を受けて倒れないように、気をつけなきゃいけないんですよ、フリッカ」
 ペンダントを扱う者は時に、アタッカーのスペルブック使いや、使い魔を使役する者よりも、まっさきに狙われかねない。
 それでも厳しい茨の道を歩むのかと問う。
「だったらサポートしながら戦える術者になればいいのよ」
 講師の口ぶりからすると、祓う力を得られないとは決まったわけではない。
 少しでも望みがあるなら、自分のスタイルに合った道を究めようと進む。
 ルイーザは彼女の精神力が尽きなければよいが…と思いつつ、他者と協力することが必要不可欠なのだから、あまり正面から挑まなければ、敵前で力を使い果たすような不安要素も減るだろう。
「そうと決まれば、1時間目の授業に参加するわよ!」
「フリッカ、廊下を走ってはいけませんよーっ」
「ぁ、うん。…そうよね、焦らずゆっくりとね」
 パートナーの声にフレデリカはいつもの落ち着きを取り戻し、魔法貴族として優雅に廊下を進む。



「黒板に貼ってあった地図だと、この辺のはずなんだよな」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は地図の図柄を思い出しながら、特別教室を探し歩く。
「マスター、どのような授業を受けるんですか?」
「まー、なんてぇか。俺みてぇに闇系の魔術が得意なヤツは、真逆な気もするけどな。白いイメージと黒いイメージって全然違うだろ?」
「黒でも悪い使い方ばかりではないかと…。あの、マスター…」
 なんだか嫌な予感がし、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の声のボリュームが、だんだんと小さくなっていく。
「エクソシストを目指すっていうか、その知識を学びにいく感じだな」
「”えくそしすと”って…祓魔師ですか?ようするに私の里でいう破邪の力ですよね!」
「どの辺まで似てるかは分からないけどな」
「私、術は不得手な方ですが…」
 相手によっては通常の武器ではまるで攻撃が通らず、いつもベルクに頼りきっている。
「分かりました、マスター…」
 少しでも彼の助けになれればと、共に授業を受けると承諾した。
「んで、教室はどこだ?」
「人がたくさん進んでいる方向に行ってみてはいかがでしょう?」
「あー、その方が早いかもな」
 校内を彷徨う前に、教室へ向かうフレデリカたちについていく。



 エクソシスト・訓練生の免許を、ドアノブの傍に当てると、ガチャリと開錠された音が聞こえた。
「免許がないと入れない、開かずの間ですか…」
 水神 樹(みなかみ・いつき)が手前にノブを引くとその先は…。
「ぇ…っ。魔法学校の通常の教室と、あまり変わりないような?」
 期待していた様子とは異なり、木をベースにした小奇麗な雰囲気の室内だ。
「窓の近くに、お人形がいっぱいあるね…」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の方も予想と違ったのか、魔道書や魔鎧でなく、大量の人形を目にした。
「まぁ、図書室じゃないですからね。魔鎧などよりも、そっちのほうがよいのでは?」
「まさかこれ全部を…」
「がぉおおー、食べちゃいますよぉおお!」
「ひやぁああぁあ!?―…エ、エリザベート校長!?いつの間に…」
「ビックリしちゃいましたかぁ?」
 気配を消すようにそっと忍び寄り、イタズラを仕掛けてきた幼い校長が、どや顔をする。
「生徒をいきなり脅かすなんて…っ」
「あの…、校長。その辺の小さな子供でもないでしょう?」
 悪ふざけをするエリザベートに樹が嘆息する。
「お教室での定番のいたずらですしぃ。たとえいたずらだとしても、相手が私じゃなく、魔性だった場合を想定した訓練ですぅ♪」
 訓練という名の、ただのいたずらにしか見えないが…。
 ちょっと気を抜いただけで、大変なことにもなりかねないのかな…。
 ―…と、樹たちは思っておくことにした。
「そろそろ時間ですから、席についてください♪」
 いたずらを成功させた校長は、さっさと教壇の方へ言ってしまった。
「うぅ、でもなんか悔しい…」
「まだ幼いんですし、授業が始まりますから。席にいきましょう」
 口をへの字にする彼氏にそう言い、樹は長椅子を指差す。
「へぇ〜、結構人がいますね!」
 賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書なのだが、“召喚師は魔道書のエリート”という噂を、本気にしてしまった。
 その結果、魔法にも興味を持ち、イルミンスールでエクソシストを育成する授業が行われると聞きつけた。
 弥十郎に頼み、この特別教室へ連れてきてもらったのだ。
「2人共、このテーブルが空いてますよっ」
 黒板が見やすい位置を見つけ、テーブルにノートを並べて3人分の席を取る。
「斉民、気合入っているね」
「もうすぐ時間だね!」
 ペンダントを握り、壁に立て掛けてある時計の針をじっと眺める。



「ペンダントも宝石も、中にあるはずですけど…。チェックしておきましょう」
 忘れ物をしないように、前日に靴なども確かめていたが、火村 加夜(ひむら・かや)はカバンの中を覗き込み、もう1度確認する。
「ふぅ、ちゃんとありますね」
「実技の指名もあるみたいよ」
 黒板に書かれている各授業についての内容を、蓮花・ウォーティア(れんか・うぉーてぃあ)が見る。
「指名ってことは、皆の前で…ってことですよね」
「失敗しないためにも、きちんと聞かなきゃ!」
「そうね…。えっと、別の教室よね?」
「えぇ、特別教室の方よ。もうすぐで始まるみたいね」
 すぐ入れるように免許書をカバンから出し、エクソシストの特別教室へ向かう。
 ベルの音色が校内に鳴り響き、生徒たちは教室内へ駆け込んでいく。