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学園に潜む闇

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学園に潜む闇

リアクション


第一章

「おはよー!」
「おはよう」
 教室に入るセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)にクラスの皆が次々に挨拶の声をかける。
「今日も二人の漫才楽しみだなー」
「だから漫才じゃないって!!」
 二人は2週間ほど前から、学校間交流の一環として教導団から山ノ葉学園へ派遣されていた。
 他校でも自由に振る舞うセレンフィリティに、セレアナが要所要所で冷静にツッコミを入れ落ち着かせていたのだが、いつの間にやらそのやり取りがクラスメイトに漫才として定着してしまった。
 毎日妙な期待をされてしまうことに、セレアナは一人こっそりため息をつく。
 だが、いわゆる普通の高校生活を送り、クラスメイトと楽しそうにじゃれる恋人の姿を見るのもなかなか悪くない。
 そんなことを考えながらクラスメイトとのやり取りを見つめていると、ふと振り返ったセレンフィリティと目が合い、思わず二人で笑ってしまう。
「あ、そういえばさー。転入生、いっぱい来るらしいよー。二人で充分面白いのに、楽しみだね」
 だから別に面白いことをやるために来たわけではないのだが、と思いつつもセレアナは首を傾げる。
「そんなに転入生多いものなの?」
「そだねー。うちマンモスだし」
「ま、いーんじゃない? みんなで学園ライフを満喫すれば」
 セレンフィリティの言葉にかぶさるように教室の扉が開くと、蒼空学園の制服を来た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が教室に入ってきた。
「蒼空学園から来ました。みんな、よろしくね!」
「同じく、蒼空学園から来ました。どうぞよろしくお願いいたします」
「うっそ!!」
「すげえ! オレの隣空いてますよ!!」
「お前の隣俺いるよ、うわっ、どけんなって!」
 テレビで見たことのある蒼空学園の有名人の転入に、教室が大きくざわめく。
「蒼空学園も学校間交流始めたのかしら?」
「美羽とベアトリーチェなら確かに交流向きよね」
 二人がこそこそ話していると、開いたままの扉から新たに数人が入ってくる。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の3人がずらりと並ぶ。
「御凪真人です。よろしくお願いします」
「ティー・ティーです。ヒャッハー!」
 教室がざわめいた。
「イコナ・ユア・クックブックですわ」
 高校生とは思えない外見に、クラスが一瞬微妙な空気になる。
「年齢は下ですけれど、天才なので高等部ですの!」
 飛び級も稀に見られるため、その言葉を聞くと皆合点がいったように頷き、拍手で迎える。
 それぞれの所属校ではなく、地球にある適当な学校からの転入生を名乗った3人に、セレンフィリティとセレアナは訝しげに顔を見合わせるのだった。
 
「はろー。ひさしぶりに、にほんに帰ってきました。よろしくね」
 数日を経て、妙な設定と共に転入してきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)の自己紹介を聞いたとたん、セレンフィリティとセレアナは思わず噴き出した。
「あれ? 二人とも知り合い??」
 不思議そうなクラスメイトに、慌てて首を振る。
「ちょっと派手な子だなって思っただけよ。ね、セレン?」
「そ、そうそう。ルカルカって言ったっけ? ちょっと時間ある?」
「はへ? タイムイズマネー」
「よくわかんないけどちょっと来て!!」 
 謎の帰国子女ぶるルカルカを半ば引き摺るようにして、セレンフィリティは廊下の影へと移動する。
「なんかやたら知ってる顔が転入してくるんだけどどういうこと?? 交換留学にしては人が多すぎるし」
「あれ? セレンフィリティも調査で来てるんじゃないの?」
「調査?」
 ルカルカからひととおりの説明を聞き二人で教室に戻ると、教室は「先輩転入生が後輩転入生をシメにいった」という話で盛り上がっているところだった。
「学園内で行方不明者が複数出ているわりには、揃って明るいですね」
 真人が首を傾げる。
「そうやって無理にでも皆で笑っていないと、不安になるのかもしれませんね」
 廊下で富永 佐那(とみなが・さな)がぼそりと呟いた。
 そのまま教室の中に入るとパンパンと手を叩く。
「富永佐那です。この度、新しく教育実習生としてブラジルから来ました。担当は保健体育です。よろしくお願いします」
 教室のあちこちから「よろしくお願いしまーす」という声が上がる。
「今日はこのクラスは校庭が使えないので、教室内でできる簡単なストレッチをやりましょう」
 そう言うと、明るいトーンの音楽を流し、汗をかかない程度のリフレッシュ向きのストレッチをはじめた。
 佐那の見本を見ながら、生徒たちが身体を動かしていく。
 難しくはないけれど、普段あまり動かさない筋肉を使うためか、不自然な動きになる生徒が多く、お互いに顔を見合わせては笑っている。
「うん、みんなだいぶ慣れてきましたね。時間があったら少しずつでも毎日やってみてください。あ、あと、放課後屋上で特別に護身術の課外授業をやらせてもらえることになっています。興味がある人は是非参加してくださいね。途中からの参加や途中抜けも全然大丈夫なので、気軽に参加してもらえたら嬉しいです。じゃあ、この授業はここまでにしましょう」
 佐那がそう言うのとほぼ同時に授業終了を知らせるチャイムが鳴った。
 放課後になってみると、屋上は生徒たちで溢れ返っていた。
「やっぱり皆、元気そうにしていても不安なんですね……」
 佐那は事件のことを思い出し、悔しそうに唇をかみ締めると、すぐに顔を上げ生徒たちを見回した。
「今日は基本的な型をやります。それぞれ体型や体力によって使いやすい技は違うと思います。あくまで自分の身を守るということを最優先でお伝えしますね。なので、全部を覚えようとしなくて大丈夫。ひととおり試してみて、やりやすいと思ったものや、自分に合っていると思ったものを練習してください」
 そう言うと、体格が一番大きい、武道の心得がある生徒を一人、相手役に選抜し、様々な格闘技や武道から、護身に適した技を次々と見せていく。
「絶対無理はしないこと。それから、今の時点ではまだ自己流のアレンジはしないようにしてください。怪我のもとになります。護身術の稽古で怪我をしたら、色々残念ですからね」
 屋上を動き回り、生徒たち一人ひとりに手取り足取りで丁寧に技を伝えていく。
 後ろを取られた場合に向う脛を蹴り付け怯んだ所に投げを打つ、若しくは倒れている間に逃げるといった基本的な護身術と共に、柔術やサンボの基本中の基本、テコの原理を用いた大きなガタイの者も投げる方法もレクチャーしていく。
 その技のキレと、幅広さに生徒たちから思わず拍手が上がった。
「私、ブラジル生まれで母はロシア人ですから。こう見えて、柔術、サンボ、カポエイラ、どれも有段者ですよ? あとはグレシュを少々……格闘技大国育ちは伊達じゃないのです」
 そんな佐那の人柄もあって、生徒たちは少しずつ行方不明事件に関する噂話を不安そうに佐那に話しはじめる。
 佐那は記憶術でその話を記憶しつつ、その代り安心を与える様にそうした噂を否定し打消し生徒たちを安心させていった。

「潜入任務よ。潜入といえば変装、ということで和輝は女装しないとね」
 空京大学から山学に向かいながらスノー・クライム(すのー・くらいむ)が微笑む。
「潜入任務は別に問題ない……ないが……なんで女装しないとなんだよ!?」
 無理やり女子生徒の制服を渡された佐野 和輝(さの・かずき)が絶叫する。
「大丈夫、絶対に似合うから安心して」 
「似合うから? ふざけるな!! ……ぐっ、そりゃ女子生徒なら動きやすい場面もあるだろうが……ああっ、分かったよ!! 女装して潜入すれば良いんだろう!!」
「何だか、スパイみたいで面白いね。和k……じゃなくて和美」
 無邪気なアニス・パラス(あにす・ぱらす)の言葉に撃沈した和輝は佐野和美と名乗って山学の高等部に転入した。
 同じクラスに転入した3人だったが、転入当日から完全にクラスの注目の的になってしまう。
 自己紹介の拍手の音に驚き、和輝の後ろに隠れたアニスの姿に一部男子が完全にノックアウト。
 気配りと面倒見の良さを発揮した和輝は一部女子から「お姉様」と呼ばれ、親衛隊までできてしまった。
 女子生徒たちは和輝の気を引こうと、次々に席を訪れては「不安なことがあって」と涙目で切り出し、失踪事件について語るのだった。
「ほら、女装が功を奏したわ」
「確かにそうかもしれないけど、釈然としない……」
 満足げなスノーの言葉に和輝は微妙な表情を浮かべる。
「あの二人って、もしかして……」
 そんな二人の様子を見た親衛隊女子たちが、二人の親密さに妙な噂を立て始めた。
  
 同じ頃。
「優等生のお嬢様として、高等部に潜入しましょう」
「手伝いで潜入すんのはいいが、何で女装なんだ!? ウィッグまであるし!?」
 依頼を受けた御剣 渚(みつるぎ・なぎさ)が冷静に話す隣で、夜月 鴉(やづき・からす)も絶叫していた。
「えてして女学生のほうが情報を持っているものです。女子生徒が相手のほうが話しやすいでしょう」
「……わかったよ、やれば良いんだろ、女装!」
「では参りましょう」
「一応、名前も変えて、十香(とおか)って名乗ろっと」
 間髪入れずに歩き始めた渚を、女装した鴉が追う。
 山学に転入すると、早速その女装を活かした調査を開始した。
「う〜ん、兎に角良い情報が欲しい所だけど……」
「え、なんで鴉は女装してるの? 何か、喋り方まで変えてノリノリ……」
 渚の手伝いで合流したユベール トゥーナ(ゆべーる・とぅーな)は鴉の姿を見るなり唖然として呟く。
「この気配は……アニス? 安否確認が必要です。パトロールにすぐ行きましょう」
「渚? え、安否確認の為のパトロール? って、ちょっと! どこ行くの!」
 突然早足で歩き始めた渚の後を、鴉とユベールが追う。

「……ぇ、この感じ……渚、お姉ちゃん?」
「ん? アニス、どうかし……」
「こっちからお姉ちゃんの気配がする!!」
「って、どこに行くんだアニス!」
 昼休みに廊下を歩いていると、アニスが突然走り出した。

「あれは……佐野の所の……おチビちゃん? って事は、あの美少女が……佐野?」
「あ、アニスが……その隣にいる女装癖の変態は……佐野和輝?」
「あっ、やっぱり渚お姉ちゃんだ〜!!」
 同時に呟いた鴉たちの姿を見つけるなり、アニスが渚にタックルする。
「アニス、危険です。下がってください」
 そう言うと、渚はアニスを庇うように立つ。
「ふぇ? なんかお姉ちゃん、変だよ? どしたの?」
「何を言ってるのですか? 私はいつもと同じですよ? それよりアニスが変態の毒牙に掛かってないか心配です。何かあったら話してください、あの変態を抹殺します」
 アニスと渚が話している横で、女装二人が立ち尽くした。
「っ!! お前……もしかして、か、鴉か?」
「あんたも、なんだ……」
「そうか、お前も……お互い大変だな」
 互いの姿を見ながら憐みの視線を交わす和輝と鴉。
「十香さんは何をイチャついているんでしょうか? 仕事と言うのを忘れているんでしょうか?」
 そんな様子を見ながら、渚が不機嫌そうに呟く。
「そうだ。ここで会ったのも何かの縁だろう」
「そうね。別口で転入なんだとしても目的は同じでしょうし、情報交換でも」
 和輝と鴉は互いが得た情報の交換を始めた。
「ふぅ、やっと追いついた……って、あれ、和輝……君? え、君も……女装? 何か、流行ってるのかな……?」
 追って合流したユベールは二人を見比べながら不思議そうに首をかしげた。
「ねえ、スノー。女装、流行ってるのかなあ??」
「あら? 久しぶりね、トゥーナ。流行ってるのはここ一帯だけじゃないかしら。それより、どう? 最近は素直になってる?」
「なっ、何が!?」
「決まってるじゃない、あそこにいる女装少……」
「べっ、別に関係ないし」
「ふふっ、本当にアナタは素直じゃないんだから」
 早速スノーはトゥーナをからかいはじめた。
「この際だからくっ付いて行動すれば? 外見は女同士なのだから、問題はないわよ?」
「えっ、えっと……」
「ほらほら、思い立ったら即行動よ」
「だから、そんなんじゃないってば!!」
 微笑ながら背中を押すスノーに、トゥーナがわたわたと慌てる。
 そんな様子を見守っていた鴉はトゥーナの髪にゴミがついていることに気づいた。
「仕方ないなぁ、とってあげよっと」
 呟きながら近づくと優しく髪に触れ、ゴミを取る。
「ちょ、ちょ、ちょ……!!」
「ちょ待って!? どうして怒ってるの!? それに一応今は同じ女同士って設定だから!? だ、だからその物騒な足を下ろして……」
 突然の接触に照れて顔を赤くしたトゥーナは咄嗟に足を上げる。
「な、何してんのよ!」
「ふびゃ!?」
 と、そのまま鴉を踏みつけた。
「ふふっ。可愛いんだから」
 そのまま走っていってしまったトゥーナの姿に、スノーが笑みをこぼす。
「お姉ちゃん? トゥーナどうしたのかな??」
「感情が高ぶっただけでしょう。心配はいりません」
「そっか!」
 心配そうなアニスに、渚が淡々と答える。
「だ、大丈夫か?」
 床でのびている鴉に、和輝が手を差し伸べた途端、廊下の角から黄色い悲鳴が上がった。
 「お姉様素敵」「格好良い」「私も助け起こしてほしい」という声にまざり「お姉様と十香さんお似合いだわ」という声まで上がり始め、和輝と鴉は苦笑いを浮かべる。
 そんな様子を見てさらにギャラリーが盛り上がってしまう。
「いったん解散しましょうか」
「仕方がないね……」 
 そう言うと、それぞれの教室に戻るのだった。