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★第一章・1★

 暗いはずの地下空間を、人工的な明かりが照らし出している。
 あちこちから聞こえてくる工事の音は、反響して現状以上の活気を生み出していた。
 とはいえまだ作り始めたばかりで、ほとんど建物はできていない。そんな中、唯一と言って良い建物の中でハーリーは訪問者と応対していた。
「こちらが店の設計図です。ホスト喫茶はアルコール類は全く出さない普通の喫茶ですが、特色としてホストを指名して一緒におしゃべりをしながらお茶ができます。
 ホストと言っても、疑似恋人のような要素はなくあくまでお喋りの相手ですけれど」
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が、出店したい店の概要について説明していた。
 これからはニルヴァーナの時代! 新天地に新店舗、版図の拡大をしたい。とはいえ、純粋に『日々の労働で疲れている人たち』に甘いお菓子と美味しいお茶、他愛ないお喋りで寛いでもらいたいという思いもある。
「これからパラミタや地球から渡る人々も増えるだろう。急成長するニルヴァーナの文化的な発展に貢献したい」
 そしてこちらは早川 呼雪(はやかわ・こゆき)。楽器店併設のギャラリーを作りたいと考えていた。
「ギャラリーか。もう飾る絵は用意しているのか?」
「ああ。ニルヴァーナをテーマとしたのがいくつか……後々はニルヴァーナで見つかったものも展示したいと思っている」
「どんなのか見せてもらっても?」
「構わない。これだ」
「ちょ、呼雪。その絵は……」
 見本にと呼雪が持ってきていた絵画。写実的なものから抽象画まで。作者のニルヴァーナに向ける希望が見える作品たち……の中にあった一枚の絵に、呼雪のパートナーヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が顔をひきつらせた。
 それは呼雪が描いた絵だった。
(呼雪の絵は芸術が大爆発し過ぎてジェイダス理事長くらいしか理解出来る人がいないんだよね)
「普通の人がずっと見てるとSAN値が削れ……あ。いやいや、とりあえずこれは……奥の個室に飾ろう。ね!」
「奥の個室……そうか。わかった」
 設計図を見ながらなんとかギャラリーに飾らせまいとヘルが焦った絵。それは……ちらと覗いただけのハーリーを数秒固まらせるに至るほどだった。詳細は聞かないことをお勧めする。
「あー、とにかくですね。こちらのギャラリーと並んで出店させていただきたいのですが、デザインも統一する予定です」
「あ、ああ。そうだな。店の内容は問題なさそうだし、問題は場所だが……規模的にもここなら2店舗いけるだろう。いいか?」
 エメが話を戻し、ハーリーが街の完成図を示しながら確認してくる。中央の噴水よりやや南東だ。大通りからすぐのところなので便利もよさそうだ。
 エメも呼雪も問題ないと頷いた。
「なら……ああそうそう。このメニューのところにニルヴァーナ産の飲み物と書いてあるんだが、何か見つかったのか?」
「それはまだですね。実は仲間が探索に出てまして」
「そうか。じゃあ何か見つかったら教えてくれ。この街中で見つかったものなら特にな。大々的に宣伝させてもらいたい……無理にとは言わないけどな」
「なるほど、特産品ですか」
「たくさん街ができたら、ただ地下にあるってだけじゃ弱いからな。じゃ、がんばってくれ」
「ありがとう」
 部屋を退出して与えられた土地に向かう途中。ナージャがエメに尋ねた。
「さっきのって天音のことだよね。楽器持ってたからてっきり新しい曲でも作るのかと」
「どうでしょう。もしかしたら今も楽器を弾きながら探索しているかもしれませんよ」
「帰ってきたら皆でお茶にしよう」
 それまでになんとか飲めるスペースは確保せねば、と3人は張り切って店づくりへと向かった。
 ギャラリーの1Fは楽器店。2F以上にはアトリエや練習室、事務所等をおき、奥は回廊形式にして豊富な水で池と小川のある中庭を造り、憩いの場を演出する予定だ。
「外装は白を基調とした石造り。中はゴシック調で。それと」
 エメはエメで、さっそく施工管理技士と話し合っている。そう。やることはたくさんあるのだ。
「でも人も物もニルヴァーナに入ってくるようになって、この広ーい洞窟に町が出来るんだ。
 どんな町になるのか楽しみだね」
「ああ、そうだな」

 そして件の天音もとい黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と共に探索中だった。
 新たな発見を求めてさまよう。広大なニルヴァーナの土地。まだまだ知らないものがたくさんあるだろう。だが同時に、その広さゆえに新しいものを発見するのも一苦労だ。
「む……ぅ」
 そんな中、ブルーズが小型コンロと鍋で何かを煮ていた。鍋の中にあるのは赤い草。レッドキュアラルリーフだ。
 根に消毒薬の成分がある植物だが、葉の部分を煮たらお茶になるのではと思って実験中。一口飲んだブルーズの顔は梅干しを食べた後のようだった。
「これは少々すっぱすぎるだろう、寝起きに飲めば目はさめるかも知れんが」
 天音が興味深そうに横からその汁を救って飲む。
「たしかに酸っぱいけど、ブルーズは大げさだねぇ」
「いや、酸っぱいぞ」
「で根っこの方は……やっぱり苦いねぇ。すりおろすと苦味が増すみたいだ」
 1つ1つ確かめながら、それらの詳細を紙に書き留めていく天音。他にも化学変化に対する反応なども調べる。レポートは後々、然るべき機関へ提出するつもりだ。
「中々見つからんものだな」
「ま、簡単に見つかるようだったら、誰も苦労しないからねぇ」
 笑いながら天音は立ち上がり一度街へ帰ることにした。
 地下街へ戻ってきた2人は、エメ、呼雪、ヘルの姿を探しながら歩いていた。その時、むき出しの地面に割れ目がはいっているのを発見。気になった天音はしゃがんで……その植物を引っこ抜いた。
「黒い……花?」
「へぇ。面白いね。後でいろいろ調べてみよう」

 その後調べた結果、花弁、茎、葉っぱ、根。すべてが黒い花から作られるお茶は独特の渋みを持ち、街の特産品の一つになるのだが、それはもう少し後の話。

 兎にも角にも、花を手に歩いていた天音は、一段と広い空間に出た。そこには噴水予定地と書かれた立て札があった。
「噴水のある所が休憩場所だったらいいなって……お店の人やお客さん達の賑やかな声から離れて、ホッと一息つけるような」
 噴水予定地で集まっている面々の1人、五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)が「専門的なことは分からないけれど」と前置きしたうえでそう言うと林田 樹(はやしだ・いつき)がうむと頷いた。
「噴水といっても、ただのモニュメントにしただけでは勿体ないからな。休憩場所……良い案だと思う」
「じゃあ他にもベンチとか、緑とかあった方がいいかもねぇ」
 続いて笠置 生駒(かさぎ・いこま)も同調する声を上げたことで、噴水の方向性としては『誰もがホッと息をつける休憩場所』として固まった。
 樹と生駒が早速、噴水の設計について話し始める。東雲にはそこへ口をはさめないので、何かほかに手伝えることはないかと見渡す。
「よーし、イッツァオレ様ターイム!
 自称建築工兵新谷衛様が、特技『土木建築』を生かして噴水及びそれに付随する水回りの整備をカマしてやるぜこんちきしょ〜!」
「マモパパ、コンクリとかどうするんスか?」
「あ、たいっちー、そのコンクリはとりあえず練っといて、頼むわ」
「うぇ〜い、了解したっス」
 資材の発注や運搬をしているのは新谷 衛(しんたに・まもる)緒方 太壱(おがた・たいち)だ。太壱はパワードスーツを着用してコンクリートを練っている。衛は浄水・配布システムについて樹や生駒と話しつつ、設計図を作り上げていく。
(すごいなぁ。俺も何か……)
「と言っても力仕事は難し……三郎さん? 何して」
 さて何をしようかと頭をひねりだした東雲の目に、上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)のおかしな行動が飛び込んできた。特戦隊に向かって、何か言っている。
「東雲に力仕事をさせるわけにはいかない。さあ、代わりに働くのだ……まさかできないなんて言わないな?」
 三郎景虎の迫力ある声にこくこくこくと頷く特戦隊。戦い専門ではあるものの、一応力仕事もやってくれるらしい。
 衛の元へ行き、せっせと資材を運び始めた。
「特戦隊の人達は戦闘専門で、建設のお手伝いは出来ないと思ってたけど……力仕事やってくれるんだ」
「のようだな。さあ、力仕事はあいつらに任せ、東雲は別のことを」
「噴水のデザインとな? ならば我の愛くるしい姿をそのまま建造するが良いのである!」
 いたわりの言葉を遮ったのはンガイ・ウッド(んがい・うっど)だ。三郎景虎が「あの物の怪」と肩を震わせている。
「あー、ピラミッド型はどうかなと思ってたけど、その上に猫もいいかも」
「そうだろうそうだろ。癒しにもなるしインパクトもあろう? これで猫愛好家を増やすのである!」
「休憩所ならそういうのもありか。ふむ……こんなところか」
「お、設計図できたか?」
 樹がさささっと書き込み、噴水の設計図が出来上がる。衛と生駒がそれを覗き込む。
「そうだな。これだったら底部分に、光触媒は使えば」
「猫とピラミッドの繋ぎは弱くなりそうだから、こうした方が」
 互いが意見を出し合い、最終稿が決定。本格的な工事にとりかかる。ンガイはその間、ずっとポージングをしている。 
「ちなみに、我はにゃんこなので手伝わぬぞ。肉球マークまみれになって良いなら手伝わんでもないがな!」
 きりっと言い放ったンガイだったが、わざと肉球マークをつけるのも可愛いのでは、と噴水周辺の石畳に肉球をつける仕事を与えられたのだった。
「ジョージ。ちょっと木材もらってきてくれない? 量はこれだけ。あと釘とトンカチも」
「む、わかった」
 生駒はベンチ作りのための材料をジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)に頼んだ。木材はかなりの量だが、眉1つ動かさないところを見ると力に自信があるのだろう。
「中々良いデザインに……どうしたバカ息子、手が止まっているぞ」
 樹はデザイン画を眺めた後、少しぼーっとしている太壱に声をかけた。太壱は胸の前で振った。
「あ、いや、サボってたわけじゃねぇんだ、お袋。
 俺、この時代で何やってるんだろうって思っちゃってさ……余りにも平和すぎてお袋の事まもれ、あ、イヤ、なんでも」
 その慌てている様子に樹は笑い「お前がこの時代に来たのは、私達を護る為なんだろう?」と言った。どうしてそれを、と目を丸くする太壱に「分かるさ」と返す。
「お前の行動や持っている物を見ればすぐに……な。それと、この噴水に名前を付けたがっている事も」
「何でそんな事まで知ってるんだよぉ……まあ俺、水とか開拓地は色々思い出しちまってなんかこう、やりたくなるんス」
 太壱は照れたのか。そっぽを向きながら頭の後ろをかき、小さく呟いた。樹が笑う。そして他のメンバーを呼んで、太壱の考えた名前を告げた。
「凄くいいと思います」
 東雲を始め、誰も反対者はおらず。太壱の考えた名を噴水につけることになった。

『L’Esperanza』

 希望を意味する名がつけられた噴水は、この街のシンボルとして皆に愛されるものとなるだろう。

「じゃあ俺は周りに配置する植物についてハーリーさんに聞いて来るね」
「む、東雲。1人で大丈夫か?」
「土とか運ぶならジョージに言ってくれていいよ」
「大丈夫だって。うん。ありがとう」
 特戦隊を見張っている三郎景虎が心配そうに言ってくるのに苦笑を返し、生駒の申し出に礼を述べつつ、東雲は自分にできることをし始める。
「えーっと材料は……」
 生駒は資材の確認。
「噴水から水路を蜘蛛の巣のように街を巡るように作って、各店舗に給水できるようにするからここを」
 衛は噴水だけでなく、街の給水についてまでを考えて水の流れを作っていく。
「バカ息子、ジョージ。ここにコンクリの型を」
「バカは余計だよお袋! へ〜い、出撃いたしますよってんだ!」
「分かった」
 樹、太壱、ジョージが噴水を作っていく。
「我の愛くるしい姿を存分に見て作ると良い!」
 そんなンガイの声が響く噴水現場は、希望の名の通り、明るい光に満ちていた。