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★第一章・4★


 どこからか悲鳴が聞こえた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が足を止めた。
「今人の悲鳴が聞こえなかったか?」
「悲鳴? いや、わらわは聞こえなんだが」
「ワタシも聞こえなかったですよ」
「……聞こえませんね」
「そうか」
 パートナーである草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は首を横に振った。
 気のせいだろうか。
「ミミズに蜂……こんなものが補強材とか、いったい何でできているんじゃろぅ? あの住居は」
「ミミズの肉からは燃料がとれるらしいな。皮はわからんが、蜂はそのままガラスなんじゃないか?」
 指示を受けた素材からは、一体どうやって補修するのかあまり想像しづらい。
「甚五郎、ワタシ思ったんですけど……、今から集めるのは建築材料ですよね? 食べられるのは居ないんでしょうか?」
「うむ。そうだな。今のところ食べられそうなものは見つかってないな」
「街の名物的に美味しいのが居ないんですかね? ね、探してみませんか?」
 提案してきたのはホリイだ。硝子蜂を袋にしまっていた甚五郎が顎に手を当てて考える。
「そうだな。特に狩ってはいけないやつもいないそうだし、探すのもいいかもしれん」
「とはいうがの。食べられそうな生き物はこの一覧には載っておらんが」
「蜂……蜂蜜が思い浮かびましたが、この蜂が集めているかは解りませんね。蜜を持つ植物がいることが前提条件ですし」
 話し合った後、素材を探しつつ食べられそうなものを探す、ということで落ち着いた。
 道中、軟体生物なども狩って牙や爪、毛皮なども手に入れて、一度休憩しようと羽純が壊れた階段に腰掛けた時。階段がぐにゃりと歪んでミミズへと変貌した。
「これが巨岩ミミズか! みんな、行くぞ!」
「やれやれ。休憩を邪魔しおって」
「ホリイ。これは」
「食べたくないです」
 4人で力を合わせてミミズを狩った後、今度こそ休憩する。横には分断されたミミズがいる。
「とにかくこのミミズを置きにいったん戻るか。蜂や他の食べられる物についてはその時に聞けばいいだろう」
「分かりました」
 壱号の元へと集めた素材を置きに行った甚五郎たちは、蜂の巣や食べられる物について尋ねた。
「硝子蜂の巣がどこかにあるのはたしかじゃろうが、わしは知らん。他に食べられる物と言われてもな。わしも長く眠っとったからのぉ……」
 壱号も詳しくは知らないらしい。
 となれば自分たちで見つけるしかない。
 素材を狩りつつ探した甚五郎たちだが、巣は見つからなかった。

「残念です」
「ま、そう簡単にはいかぬか」
「気合いが足りなかったんだな」
「甚五郎。そう言う問題ではないと思われます」



 そうしてみんなが素材集めに精を出している中。上守 流(かみもり・ながれ)はひたすらに魔物を狩り続けていた。
 強くなるために。
 赤い瞳には強い思いが浮かんでいた。
 瀬乃 和深(せの・かずみ)は、流が倒した魔物から素材を集めつつ、微笑んで彼女を見守っている。強くなろうという意思を尊重していた。
「ハァってやぁっ」
 しかし段々と流の動きに変化が表れ始め、頬笑みが消える。飛んできた硝子蜂をたたき割ろうとしたその手を掴み、もう片方の手で銃を撃って蜂を仕留める。
 硝子蜂。割ってしまえば素材がとれない。
 それでも流は前へ進み、一撃で魔物を仕留めることにだけ意識を置く。焦っているように見える流に、さすがに和深が声をかけた。
「流! どうしてそこまで」
「負けられないですから」
 最後まで言わせず、呟くように返した流は、再び魔物を狩り始める。
 彼女には迷いがあった。
 この先の戦いだけでなく、自分がこれから先も和深を守れるのか。
 そんな迷いに負けたくなくて、彼女はひたすらに魔物に勝ち続けることでそれを証明しようとしていた。
「私はっ負けられないんです」
「……流」
 ただ前へ。前へと進む流に、和深はもう言葉をかけられなかった。今和深にできるのは、見守ることだ。
(私はもっと強くならなくてはいけないんです。もっと。もっと強く)
 前しか見ていない流には、後ろにいる和深の表情は見えない。
(今の俺に出来るのは……見守るだけ、か)



「さあ、墓荒らしですよ〜」
 と、口に出しながら嬉々として遺跡探索しているのはベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)
 機械の破片などもあったら集めて欲しい、と言われれば動かざるを得ない。
 そんなベスティアの傍には、レオパルド・クマ(れおぱるど・くま)もいる。当たりの警戒は主にクマがしていた。
「機械のことはお任せアレ」
 とはいえ、はるかに高度な文明を持っていたと言われるニルヴァーナ。どんなものがあるかと楽しみだった。
「んん? っとこれは……足?」
 その時見つけたのは獣の足のような形をしたもの。配線コードのようなものが中見える。辺りを見回すが、これがついていたと思われる本体は見えない。
「ほおほおこれは動物型の機械……アヴァターラのようなものでしょうか」
 ベスティアの目がキランと光った。
「ベスティア殿っ危ない」
 レオパルドの声でベスティアがジャンプしてその場を離れた。そこに噛みついていたのは、軟体オオカミ。
「喧嘩上等じゃき!」
 オオカミの頭をレオパルドが思い切り殴りつけ、そこへベスティアが帯電したショットガンを撃ち込んでしとめる。
「さあどんどん行きますよ。もっとここにはいろいろありそうです」
 オオカミに襲われたことなどなかったのようにベスティアは、意気揚々と遺跡探索へと戻っていったのだった。



「ドゥーエ! そう簡単にいろんなものを持ってくるな。罠があったらどうする」
 遺跡内に説教の声が響く。
 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)を叱る声だ。
「別にいいじゃねぇか。何もなかったんだし」
 だが怒られている張本人に、反省は見えない。
 さらに何か言いたそうとしたウルディカだったが、ロアがふと眼をそらしたことで口をつぐんだ。ロアはそのまま何かを掴んだ。
「ほっと……おーい、グラキエスー。なんか変な蜂捕まえた」
「ロア何か見つけ……ほんとだな。透明な蜂だ」
 捕まえた透明の蜂をグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に見せるロア。綺麗だな、と喜ぶグラキエスに、ロアは満足そうな顔をした。
 その蜂を見たロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は「おそらくそれが硝子蜂なんでしょうね」と冷静に言う。
 声は冷静だが、グラキエスたちを見る目はとても温かい。
(遺跡。なんだか心惹かれる響きだな)
(やはり遺跡が好きなんですね)
 グラキエスは心の底から遺跡探索を楽しんでいるようで、それが嬉しいのだ。
「これは……壺、と言うより何かの容器か? 家具の欠片らしい物も幾つかあるな」
「おい、エンドロア。不用意に何でも手に取るな。特に生物は気をつけろ。まずよく観察し、周囲に仲間が」
「ウォークライ、大丈夫ですよ。危ない時はドゥーエが守ってくれます」
 やさしく見守るキープセイクに対し、何かと口出しするウルディカ。ここは自分がしっかりせねばと気を引き締め
「それと」
「なんだ?」
「今何か頭に乗せられましたよ」
 さらりと言われて頭の上へ手をやれば、硬い何か……さきほどグラキエスが持っていたつぼが置かれていた。目を動かせば、ロアがお腹を押さえて笑い、グラキエスも堪えているのが見えた。
「ドゥーエ! エンドロア!」
「よーし、次はあっちに行こうぜ。なんかありそうな気がする」
「分かった。何があるのか楽しみだな」
「勝手に動くな」
 どたどた騒がしい3人を微笑ましく思いながら、キープセイクは地図の作成や発見物の場所などをしっかりと書きこんでいた。
「っと、この部屋鍵かかってんな。……壊すか」
「ちょっと待ってくれ」
 頑丈そうな扉の前にかがみ、グラキエスが鍵を外す。
 部屋には窓もなく密閉状態だったためか。埃こそひどかったが、破損個所がほとんどなかった。
(なんかグラキエスが喜びそうなもんねぇかなぁ)
 ロアは部屋の中をきょろきょろと見回す。彼の中では補修材集めより、グラキエスに喜んでもらう方が優先順位が高いのだ。
(ま、他の物集めたらダメとか言われてねえしな。
 てかグラキエスがあんだけ楽しみにしてるんだ。根こそぎ見つけ出してやるぜ!)
 机の傍に置かれた椅子。その椅子の上に何かが乗っているのが見えた。少し黄色がかった白色で、丸く少し平べったい。
「なんだこれ、うおっ」
 触ってみると、ぷにょっと指が沈む。そしてひんやり冷たい。
「ん? ロア、何か見つけたのか。……不思議な触感」
 グラキエスが驚くロアに気づき、それを触る。初めての感触に目が輝く。
「2人とも、だから無闇に触るなと言っているだろう!」
「ウルディカもどうだ? 気持ちいいぞ」
 また説教をしようとしたウルディカだったが、笑顔のグラキエスに「う」とつまる。にやにやと笑うロアを睨みつつ、仕方なくそれを触った。
「ドゥーエ、これどこにあったんですか?」
「ん? 椅子の上に乗ってた」
「椅子の上……もしかしてクッションのようなものかもしれませんね」
「なるほど。たしかにこれは座り心地よさそうだ」
 キープセイクの言葉に納得したグラキエスは、ぐるりと部屋を見渡す。
「この部屋を参考にして、移動式住居に当時のインテリアを復元させるのも面白そうだな」
「たしかにそれは面白そうですね。では細かく写真に収めておきましょう」
 その後もロアとグラキエスは好奇心の赴くままに探索をし、2人をウルディカが叱り、それをキープセイクが見守るという光景が続いたのだった。

 こうして集められた素材は、住居部分や駆動部分などに使われた。
 すむべき住民を失った移動式住居であったが、新たな住民と共に生まれ変わろうとしていた。