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★第二章・1★


 遺跡の入り口を塞いでいたドラゴンキャンサーを誘導し、無事に探索組が中へと入ったのを確認する。
「では改めて皆さん、この度の任務どうぞ宜しくお願い致します」
 戦場の緊迫した空気の中折り目正しく挨拶を交わしたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、不安そうな顔のパートナーたちを振り返る。
「マスター、ポチ。ご心配なさらずとも私は大丈夫ですので……私、お二人、そして皆様方を信じておりますよ?」
「あのあの、ご主人様! 何とぞ気をつけて下さいね? 僕、いっぱい遠くからご支援しますので!
 ……エロ吸血鬼、ご主人様に怪我をさせたら許しませんよ?」
「はぁっやれやれ。あんまフレイに危険な事はして貰いたくねぇが、やると言うのなら止めても無駄だし、その分俺らが全力でカバーしねぇとな。
 つー訳でさっさとぶっ倒して終わらせるぞ」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は心配であると全身で語りながらも、フレンディスを止めようとはしない。ようするに、守ればいいのだ。
 フレンディスはそんな2人に微笑んでから、戦場へ飛び出して行った。
「移動式住居が使えるようになると、これから先楽になるだろう。そして使えるようにするためにはドラゴンキャンサーのハサミが必要……ならば狩るしかないじゃないか」
 これから先のことを思い、マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)はそう決意を固めていた。マグナもまた、自分にできることをと、ドラゴンキャンサーへと向かって行った。
 目をつむり、静かに祈りをささげていたグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)も、皆を守る盾となるべく飛び出す。
 改めて見上げたドラゴンキャンサーの姿は、とても大きい。それでいて中々素早く動く。さらには身体中から兵器を出して攻撃してくる。
 厄介きわまりない。
 それでも
「さて、ドラゴンキャンサーさんには暫し私と遊んで頂きたく……参りますよ?」
「うむ。俺たちが相手だ」
「こっちだ! かかって来いや蟹野郎!」
 やるしかないのだ。
 フレンディスが敵の周囲をその速度でかきまわし、グラハムが後衛へと向かう攻撃を弾く。マグナは2人の動きを見ながら時にはフレンディスを庇い、時にはグラハムが守りきれない範囲に入る。
 ただハサミや足、尻尾で殴られただけでも一撃一撃は重く、ひるんだすきにレーザーやミサイルなどの銃火器が襲ってくる。
「さあっ皆さんがひきつけてくれている間に、作るのでふ」
 周囲の地形を素早く把握したリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が、施工管理技士たちに命令して壁を作っていた。遠距離攻撃者が少しでも安全に狙いをつけられるように、簡素でありながら丈夫である壁を、狙いが定めやすいだろう場所に。
「賞金首と聞けば黙ってられないだろ」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は迷彩塗装を施した装備を身にまとい、チャンスを窺っていた。その時、ドラゴンキャンサーが口を開けた。
 ブレスだ。
 宵一が笑う。これを待っていた。
 凄まじいスピードで接近。口の奥に見える赤い炎に向かって二世代パイルバンカーを放つ。そしてあらかじめ式神化していた機晶爆弾が、命令通りドラゴンキャンサーの口の中へと飛び込む。
 前に、気づいたドラゴンキャンサーが翼を広げ、上空へと逃げてしまった。パイルバンカー、機晶爆弾ともに甲羅にはじかれる。
「ちっ。そう簡単にいかないか」
 しかしそこで終わりではない。開かれたままの口が、宵一へと向けられた。
「おっとそうはさせないぜ」
 ベルクが放たれた炎に双翼蛇の杖を振りかざして威力を半減させ、さらには耐性を高めているグラハムが代わりにブレスを受ける。
「大丈夫か?」
「悪い。助かった」
 なんとかブレスをしのいだ3人だったが、そこへさらに尾が迫る。
「させませんわよ! 天のいかづち」
 ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)の攻撃でドラゴンキャンサーが地に落ちていく。落ちた衝撃で大きな口が開いた。
「さあて、今度こそ」
 宵一がもう一度パイルバンカーを撃ち込む。今度は見事に命中。杭の先からさらに散弾がドラゴンキャンサーの内部を壊す。
「ぎりゅりゅりゅりゅりゅりゅ」
 奇妙な声と共にドラゴンキャンサーが暴れ、パイルバンカーを吐きだす。その際に身体の上に乗っていたフレンディスが大きく吹き飛ばされた。
「フレイっ!」
 地面にたたきつけられる前に、ベルクがなんとか抱きとめる。
「はぁはぁ……すみません、マスター」
「いや。怪我はねぇか?」
 誰もがホッと一息をつき、マグナがフレンディスの代わりといわんばかりに前へ出る。
「これ以上は暴れさせん!」
 レーザーを放とうとした左のハサミを押さえつける。力は強いが、負けじと踏ん張った。
 さらに復活したフレンディスも、カニの目が自分に向くように動き回る。
「私はこちらですよ」
 間近で放たれたミサイルを軽く避けた。
「後ろは俺に任せろ!」
 そしてグラハムも全体をしっかり把握しつつ、守りを固める。全員を守ると言うのは難しい。しかしだからこそやりがいがある。


 その少し前、上空。
「作戦目標はドラゴンキャンサー。問題は可能な限り素体にダメージを与えずに撃破すること。
 全機、陣形はバックショット! 降下するので支援しろ!」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)率いる部隊が、今か今かとチャンスを狙っている。
 ドラゴンキャンサーの口にパイルバンカーが決まり、さらにマグナが押さえつけた。わずかな隙を、洋は逃さない。
 小型飛空艇でドラゴンキャンサーへと一気に近寄る。ぎょろりと洋たちへ目玉が向き、背中から現れた銃が火を噴く。
 銃の相手は部下たちに任せ、洋は真っすぐに進む。そして背に降り立つ。ドラゴンキャンサーが振り落とそうと空へ飛び立つ。
「くっ。みと、砲撃支援! 私ごとブリザード連射! 私もブチ込む」
「砲爆撃許可確認しました。死なない程度で耐えてくださいね。最近魔力が充実しているんです。龍カニだかなんだか知りませんが、凍え死んでください」
 洋の声を聞き、乃木坂 みと(のぎさか・みと)が躊躇なくブリザードをドラゴンキャンサーの背に放つ。
 一発二発では凍らなかった甲羅が、何度も同じ場所へ放たれることにより徐々に凍りついていく。洋の寒さを通り越した痛みに耐えながら、ブリザードをお見舞いする。
 カニのハサミが背へと向けられる。ダメージをくらってでも落とそうと考えたらしい。
「今日のお仕事はミサイルインターセプト〜!」
 リイムの壁に隠れつつカニのハサミへ狙いを定めているのは相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)。ハサミから洋に向けてミサイルが放たれたのを見て
「へえ、本当にミサイルだ。でもね。ミサイルの誘導性能って結局、機械任せ……こうすればいいじゃない? 超高電圧で誘爆、最低でも誘導機能無力化ってね」
 にっと笑った洋孝が、雷を纏った一撃をミサイルへと撃ち込み、無効化する。風に洋があおられていたが、多少の爆風は勘弁してほしいところだ。
「今回の獲物は龍カニ……古来より龍は神秘の素材ですし、カニは定番の高級食材……もっとも今回のは組み合わさったことにより、あまり美味しい食材とは言えないでしょう。以上」
 これまた冗談か本気か分からないことを呟くのはエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)
「火器管制機構、多重照準合わせ、ミサイル、順次発射。目標、龍カニの腕の接合部」
 凍りついている左のハサミを狙ってミサイルを一斉発射。
 しかし直前で凍りつきを解いたドラゴンキャンサーがレーザーでミサイルを焼き払う。
「ふう、楽しいですわねえ。あら? ブリザードを弾いてしまったのですか? いけない子ですね」
 魔法防御力も高いらしいドラゴンキャンサーを見つつ、みとの顔に変化はない。洋が狙っている翼の付け根と魔力を集中させた。

 一方で、ドラゴンキャンサーは地上へと氷や炎のブレスをランダムに放っていた。それをベルクが相反する属性をぶつけ、威力を減らし、前衛であるマグナやグラハムが受け止める。
 傷を負った2人に命のうねりを使用し、またブレスを受け止め……なんとか耐える。
「まだ落ちんか」
 魔力、銃弾すべてを翼に叩き込んだ洋は、パワースーツで殴りつける。何度も、何度も。
「ぐりりあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 ごきりと生々しい音が響き、ドラゴンキャンサーが地上へ落ちていく。翼は付け根から折れ、もう飛行は困難だろう。
 洋は途中で近付いてきたみとに救出される。
「さあっ今度は私が相手よ!」
 わざと大きな声を上げながらリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)が、ドラゴンキャンサーへと接近する。
(私の影に隠れて)
(分かった)
 小さく声をかけたのは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)。恭也は頷いて影に隠れ、光学迷彩も使用する。
「たあああああああああっ」
 リーシャの大声により恭也の足音は完全にかき消され、気づかれることなく左のハサミ(レーザー)へとたどり着いた。
「ありがとよ。後はこれをただ斬り抉るのみ!」
(狙うは関節部分。どうしても曲げる必要がある為に関節は装甲が薄い筈だ)
 思い切りハーモニックカッターを突き刺す。
 そして彼のパートナーであるエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)もまた、動いていた。
「このタイミング、貰った! マシーナリーソード、出力最大!」
 2本のマシーナリーソードを右ハサミ(ミサイル)へとなぎ払う。関節部分にしかと当たる。
「っ! 浅いですか」
「ちっ。関節も結構かてぇな」
「ぐりゅりゅりゅ」
 両ハサミの関節からは血があふれているが、切断には至っていない。もう一度、と2人が身を乗り出した時、美しい声が響く。
「離れて!」
 ディーヴァのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。恭也たちだけでなく、彼女の意図を理解した前衛も一度後ろに下がった。
「――――っ!」
 ビリビリと空気を振るわせる咆哮が、距離を置いて尚鼓膜を揺さぶる。
 そして地へと大きな塊、左ハサミが落ちた。さすがに外と内、両方の攻撃には耐えられなかったようだ。
「ふふん!
 この(自称)優秀なハイテク忍犬の僕が支援してやるのです。下等生物の皆さんは存分に働くと良いのですよ!」
 リイムの壁に隠れていたポチがドラゴンの背に乗って急接近し、痛みで暴れるドラゴンキャンサーに狙いを定める。
「ポチ様、腹を狙ってください」
「仕方ありませんね。従ってあげましょう」
 じっと、離れた場所から弱点を探していたヨルディアの声に、ポチが目を撃ち抜いた。巨大腹にたくさんの弾が当たり、ほとんどが弾かれる。
「なるほどね。そこよっ」
 振り回される足や、飛び交うミサイルをかいくぐり、ヨルディアの意図を察したセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が腹のすぐ近くで弓を構え、矢を放つ。外すはずのない攻撃は、しかし突き刺さることなく、少し腹を焦がした。
 セシルはそれだけでは諦めず、何度も弓を至近距離で放った。そしてついに一本の矢が腹に突きささる。そこはポチの銃弾が突き刺さった場所の近く。
「やっぱり弱いところもあったわね」
 背中などは硬い甲羅で覆われているが、腹には硬度にムラがあるらしい。
 矢が突き刺さった場所へ魔力をたたき込み、さらにダメージを与える。
「させないのでふ」
 攻撃をして体勢を少し崩したセシルへ向かうミサイルを、リイルが撃ち落とす。セシルはその爆風の中で体勢を整えいったん下がり、逆に爆風に乗ってリカインがまたドラゴンキャンサーへと迫る。
 再び咆哮。
 セシルが傷つけた場所からさらに血があふれだした。
「ぐりゅりゅりゅりゅ」
 しかしドラゴンキャンサーも黙っていない。リカインを尾で掴み、そのまま体を地面にたたきつける。地面に転がったリカインへ追撃しようとしたドラゴンキャンサーの前にセシルが入り込んで、尾を受け止める。
「ぐぅ、何やってんの。早く下がって」
 強い口調ながら心配そうな目を受け、痛みをこらえつつリカインは後ろへ下がって治療を受ける。
 ドラゴンキャンサーの背が盛り上がり、大砲のようなものが顔をのぞかせた。尾を受け止めたまま身動きできないセシルへ砲弾が当たる。
 前に、立ち塞がったグラハムの身体に直撃する。なんとか無事のようだが、ダメージは大きい。
「大丈夫? 今回復を……ヒール」
 素早く駆け寄ってきたリーシャがリカインとグラハムをいやす。
「ありがとう」
「わりぃな。助かる」

「腹の一部が柔らかかったということは、尻尾にもあるはず」
 何度も尾を攻撃していた幸田 恋(こうだ・れん)は、内側……尾の裏は柔らかいのでは、と巨体の下に入りこみ、急所を探す。
 ドラゴンスレイヤーを持ってして何度もはじかれるが、とある個所に傷がついた。
「なるほど。そこですか」
 同じ個所を何度も狙い、剣を振るう。時に攻撃の手が恋へと向けられるが、仲間たちが身を呈して守ってくれた。
「手伝うぜ。おらおら。どこ見てんだよ甲殻類? 敵は一人じゃねぇぞ」
「助かります!」

 そしてついに、尻尾を切り落とすことに成功した。
 
 レーザーに尻尾と、これで攻撃力は半減。体力もだいぶ削れただろう。
「でもまだ元気そうですね」
「あとはどちらの持久力が持つか、といったところかしら」
 フレンディス、リカインが肩で息をしながら言った。
 いや、2人だけでなく。みんなすでにぼろぼろだ。それでも全員の目から闘志は消えない。
「やっぱ中と外から攻撃するしかねぇな」
「じゃあ俺は中からいこう。リカインさんもいける?」
「ええ。なるべく私からは離れてね」
「私は外からいかせてもらうよ。ドジはすんなよ」
 恭也、宵一がにやりと笑い、セシルは怒ったそぶりで心配を現した。ツンデレですね、分かります。

 こうして全員、傷だらけ泥だらけになりながらもドラゴンキャンサーと戦い続け、日が落ちようという頃。ようやくドラゴンキャンサーが動きを止めたのだった。
 右のハサミはやや破損してしまったが、上出来だろう。

 体力の限界からほぼ全員が座りこんでしまったが、その顔は晴れやかで、仲間と顔を合わせて笑いあったのだった。

 大勢の手によって集められた素材は、壱号の元へと持ち込まれ、住居部分、肝心のシステムの修理ともにかなり進んだようだ。
 この住居に、再び住民ができるのはそう遠い未来の話ではないだろう。