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★第一章・2★

 ハーリーは、地下街を見回っていた。
「ふむ。順調か」
 多少の問題は出てきているが、街づくりはおおむね順調に進んでいた。
「ハーリーさんじゃないデスカ。何か問題ありましたカ?」
「いやそうじゃないんだ。ちょっと見回りにな」
 声をかけてきたのはディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)。建設中の店の前でパートナーのトゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)と何か話し合っていたのだが、ディンスはちょうどよかったと笑った。
「ちょうどいい? 俺に用か?」
「ハイ。実は『夜』の時間を作ってほしいのデス」
 今現在、地下街はほぼ常に人工的な光がともされていて明るい。だがそこにわざと夜を作ってほしいというのだ。各家の照明が、まるで地下に広がる星空になるような……そんな景色を作りたい、と。
「時間感覚が狂うから元々夜は作る予定だったが、夜景のことは考えてなかったな。……観光の目玉にもなりそうだな、それ。上から街を見下ろせる展望台でも作るか」
「それはいいデスネ」
「良い意見ありがとな。っとそうだ。お前らの店の前に俺の系列でガラス細工の店出すことになった。硝子蜂から良いのが作れるみたいでな……ま、そっちも頼むわ」
 言いたかったことを言い終えたディンスは、商品について考え始めた。冒険に役立ち、土産物にもなる照明器具。それをどう魅せるか。ディンスの腕の見せ所。正面にガラス細工が来ると言うことは、店頭でつり下げていればランプの光が反射されてより美しく見えるだろう。
 しかし、ただ美しいだけでは足りない。
「ルーン文字をいれるのはどうです? あとはお守りと一緒に販売すればニルヴァーナの旅を照らし、安全を願うお守りにもなるでしょうし」
 何が起こるか分からないニルヴァーナ。ただ便利なだけでなく。ただ美しいだけでなく。安全を願う心というのは、誰にとっても嬉しいものだろう。
「あとハーリーさん。自作のアロマも販売したいのですが、よければ小瓶をそちらで作っていただいても?」
「ん、構わない。あとでどんなサイズや形のがいいか、提出してくれ」
「ありがとうございます。はい、分かりました」
 


「ちょっと吹雪! そんなにたくさん食材買ってきてどうするのよ」
 どこか和の雰囲気な建築中の建物の近くに建てられたプレハブ小屋。怒りの声はそこから聞こえた。
 眼鏡をかけて、片手に帳簿を手にした女性。コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が、大量の食材を抱えた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)に詰め寄っていた。
 まだ店は建築中。大量の食材を買っても腐らしてしまうだけだ。無駄遣いは許さない、と目をつリアがさせるコルセア。
 それに対して吹雪は、
「ニルヴァーナ産の怪しい食材をアドリブで調理するチャレンジ精神溢れる日替わり料理の練習であります」
 と淡々と告げ、仮設の台所でマイペースに料理をし始めた。袋から出される食材は、黒い肉? 何かの骨? 赤い葉っぱ? 目玉っぽい球体……などなどで、まさしく怪しい食材だった。
 あまり食欲が進まなさそうな食材たちだが、普通の料理も出すので安心してほしい。吹雪がやろうとしているのは大衆食堂。冒険者向け、というよりは住民向けの誰にでも気楽に入れる食堂なのだ。
 じゃあなぜチャレンジ料理を……とは疑問だが、それは吹雪にしか分からない。
「やはりここは畳だな。それで開き戸のところに暖簾を、とやはりツボをここに置いて花を生けよう」
 一方で建築している男たちに色々と注文をしているのは、着物の男、上田 重安(うえだ・しげやす)。彼は日本の英霊であり、生前は武人としてだけでなく茶人、造園家としても名を残した文化人。その注文は細かい。和風の落ち着く店ができあがることだろう。
 台所からはゴンゴンゴンっと料理らしからぬ音もする。
 コルセアは小屋の窓からそんな様子を眺めてからため息をついた。こだわるのはいいのだが、こだわるとお金がかかるのも事実。そして吹雪も重安も経理には向かない。
「はぁ。私がやるしかないのね」
 いつどこに行っても、コルセアの苦労は絶えないのだった。



 今現在、地下街は賑わっているが、実際の営業を始めている店はほとんどない。今だ建設中なのだ。
 そんな中、ぽつんと建っている小さな店があった。
 いや、店と言って良いのだろうか。何やら沢山の呪符が張られまくった石造りの建物は、とても……怪しい。店の看板には【全然怪しくない八卦術師の便利屋さん】とあるが、怪しい。怪しすぎる。
「……意外と、お店の宣伝は難しいですね。お客が来ません」
 呟くのは東 朱鷺(あずま・とき)
 朱鷺が開いたこの店には商品がない。というのも売りに出しているのは朱鷺自身――いわゆるなんでも屋だった。
 しかし朱鷺さん。宣伝の前に外装を変えた方が……。
「おっいたな。依頼したいことがあるんだが」
 どうしたものかと悩み始めた朱鷺のもとへ、ハーリーがやってきた。何でも地上に街の目印となる看板を作っているそうなのだが、そこに魔物が現れて工事が進まないのだとか。
 魔物を追い払う。工事完成までの警備を頼まれた。
 元々いろんな体験ができるだろうと始めたなんでも屋だ。断る理由はない。
 朱鷺は頷き、彼女のおかげもあって看板は無事に完成したのだった。

「あー、魔物と言えば、なんか別の依頼も基地に出てたな」

 依頼をしたハーリーはふとそんな話を思い出し、あちらはどうなったのだろうかと基地の方角へと目をやった。
 移動式住居の存在は、彼としても気になるところだ。



 以前はさぞかし賑わっていたのだろうと思われるその遺跡は、長い年月に風化しつつも、その威光を今なお放っていた。
 土星くん壱号の話によると、ここも以前はたくさんの人が住む街であったというが、今は魔物の住処となっていた。
 ブンっと微かに聞こえる虫の羽音。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はその音を聞き逃さず、ブリザードの魔法でソレを凍らせた。そして地面に落ちたソレをコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が拾い、2人はソレを覗き込んだ。
「わぁ……硝子蜂ってよく見ると、すごくきれいだね!」
「そうだね。本当に透き通っててキラキラしてる」
 美羽とコハクの楽しそうな様子を微笑みつつ見守っているのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。美羽は綺麗よりも可愛い。コハクもカッコイイより可愛いタイプなので、見ていて微笑ましい。
 ベアトリーチェは温かな気持ちになりながらも、もう一匹見つけた硝子蜂を手際よく仕留めて回収していた。
「さて、そろそろいったん戻りましょうか」
 持ってきた籠にはすでにたくさんの硝子蜂が入っている。ベアトリーチェの言葉に美羽もコハクも頷き、壱号の元へと向かうことにした。
 3人が帰ると、丸い球体――土星のような輪が周囲で回転している――が振り返った。球体には小さな手足のような突起と、ビー玉のような目がついている。
 これが土星くん壱号(どこかの代王命名)、ことコーン・スーだ。
「いっちー、これどうするの?」
「いっ……まず熱で溶かす。こっちに入れろ」
 指示に従って硝子蜂を溶かす。そしてドロドロになったそれを型に流し込む。
「これを冷やしたら、そっちの砂をまぶして、磨くんや」
「磨く?」
「機械内部にも使うんやけどな。お前らが持ってきたのは住居の窓に使う。じゃがそんままやと透明度が低い。この砂で磨くと綺麗になるんや」
 まずはお手本、と壱号が周辺の機会を動かす。ガラスに砂を少量まぶし、その上から布でこする。
「わっ綺麗になった」
「すごい」
 純粋に感激した美羽とコハクに、壱号はふふんと鼻を鳴らした。
「じゃ、わしは他の作業あるからこっちは頼んだで」
 説明するだけすると、壱号は再び別の作業に戻っていった。
 ということで窓ガラスの作成をし始めた3人だが、美羽が手を止めて言った。
「ね、ガラスに色とかいれちゃだめかな?」
 移動式住居は、駆動部分だけでなく住居の部分もひどく破損している。だからこそガラスを作ったり家具を作ったりしているわけだが
「これからみんなで使うことになるわけだし、窓を見て少しでも楽しんでもらえたらいいなって」
「美羽さん……」
「うん。それいいね!」
 笑顔で賛同したコハクに、ベアトリーチェも頷いた。
「ふふ、そうですね。ではコハクくん、持ってきてもらいたい物があるのですが」
「ベアトリーチェ、私は何したらいい?」
「美羽さんは窓枠を……せっかくですしいろんな形を作りましょう」
「賛成! あ、コハク」
「はい。ノコギリ。気をつけてね」
「ありがとう!」
 こうして仲良く3人が作ったさまざまな窓は、どこか武骨な印象のあった移動式住居を柔らかい雰囲気へと変えたのだった。