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リアクション
商店街。
「美緒、せっかくだから記念ベルを貰いに行きましょうか」
「はい。どのようなベルか楽しみですわ」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は恋人の泉 美緒(いずみ・みお)を連れて記念品の金銀のベルを貰いに行った。小夜子は銀、美緒は金だった。狙う者がいるという事だが小夜子は『イナンナの加護』で警戒するだけにとどめた。ベルの攻防で時間を消費するよりも美緒を楽しませるために時間を使う方がずっと大切だから。
「お祭りですから何か食べて歩きましょうか。ちょうど、カップル向けの商品を販売している店が幾つかありますし」
小夜子は美緒が来る前に情報は全てチェック済みだ。
「……素敵ですわね」
美緒は手を叩き、すっかり祭りの雰囲気にやられている。
「では、行きましょう」
小夜子は人混みで美緒がはぐれないようにと手を繋ぎ、クレープ屋『天使の羽』に向かった。
そして、クレープを買った後は食べ歩きながらあれこれ露店を見て回って夜景が見られる時間まで散策を楽しだ。
町の入り口。
「んー、このお祭りの空気いいなぁ。よし、昼はお買い物をして夜はクレープを食べるよ」
ネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)は賑やかな祭りの空気にウキウキしていた。
「……何で俺がお前に付き合わないといけないんだ? 別の奴らと行けよ!! しかも昼から夜までって!」
強引に連れて来られたマダラ・グレスウェル(まだら・ぐれすうぇる)ネスティと正反対で帰りたくて堪らない様子。
「何でってマダラこういうイベント参加した事無かったでしょ」
マダラの文句にもあっけらかんと答えるネスティ。
「だとしても何でお前に振り回されなきゃならねぇんだよ」
「ほら、行くよ。クレープを食べるまでは帰さないからね」
マダラの文句を受け流し、ネスティは商店街に向かった。
商店街、ゲームソフト販売店。
「はぁ、買い物ってゲームかよ。もっと、こう」
ゲームソフトを漁るネスティを眺めながらため息をつくマダラ。全くお祭りのおの字も感じない。
「……」
ピキっときたネスティは常備している鞭を取り出し、マダラをねめ付けた。
「何でもねぇよ。さっさと鞭をしまえよ。どうせならホラー系にしろよ。俺もするから」
嫌な予感を感じたマダラ慌てて話を逸らした。
「じゃ、これにする。そうそう、お祭りだからクレープは奢ってね」
ネスティはマダラの意見も取り入れ、ホラー系のRPGに決めた。
「はあ? 何で俺がお前に奢らなきゃならねぇんだよ。だいたい俺らの金を握ってるのはお前じゃねーか! むしろ俺に奢れ!!」
ネスティの自由な発言に文句を口にするマダラ。早く帰りたいのを我慢しているのにその上、奢れとは堪らない。
「……今日はお祭りだよ」
「誘ったのはお前だろ。俺は仕方無く付き合ってるだけで」
ネスティは祭りを盾にマダラは不満を剣にしてやり合った後、友人割引で勘定をしてから店を出た。結局、クレープはネスティが買った。ネスティはチョコ系とガレットにマダラはプチロールクレープ詰めだ。マダラに買ったのは新商品を食べたかったネスティが食べるためだったりする。
ベンチ。
「ん〜、美味しい。これもいいけど、新商品のこれも美味しい」
ネスティはチョコ系とガレットをそれぞれ一口ずつ食べて味を楽しんでいた。
「……悪くないな」
マダラはバナナチョコ味のプチロールクレープを口に放り込んでいた。
それからも黙々と食べるネスティとマダラ。
「……」
ガレットを食べ終わったネスティが物欲しそうにじっとプチロールクレープ詰めを見つめる。
「何だよ? もしかして食べたいとか言うんじゃねぇだろうな。まだ一つあるだろう」
マダラはネスティが何を企んでいるのか知り、さっさと容器ごと避難させようとするがネスティの行動の方が早かった。
「……マダラ、少しちょうだい」
そう言ってネスティは手早く数個掴んで次々と口に放り込む。ほぼ半分以上、ネスティの胃の中へ。
「……てか、取り過ぎだろ」
容器に残ったほんの一塊を見てマダラは文句を言った。
「……買ったのは私だよ」
ネスティは口をもぐもぐしながら笑顔で言った。
「……ったく、来るんじゃなかったぜ」
マダラは少なくなったプチロールクレープ詰めを見つめながらぼやくも心なしか楽しんでいるようでもあった。
とにもかくにもネスティとマダラは祭りを楽しんでいた。
中央広場。
「なかなか盛況ですね」
アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)は賑やかな祭りを見回すもその目は楽しむと言うより悪は無いかとパトロールする目だった。人々の平和のために日頃魔法少女としてパトロールをしているためだろう。
「だな。今日は係員もいるからパトロールの事は少し忘れて息抜きをしたらどうだ?」
アイリを誘った柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はすぐに視線の色を察し、笑みを含みながら言った。
「……そうですね。たまにはいいかもしれません」
恭也に言われ、自分が無意識のうちにパトロールの目で見ていた事にアイリは思わず笑ってしまった。
「そうだ。楽しまなきゃ、損だろう? 何か食べたい物か欲しい物は無いか?」
恭也は祭りを楽しむ第一歩にとアイリにリクエストを聞いた。
「……一番人気のクレープを食べたりカフェでゆっくりするのも良いですね。割引も使えますから何か買い物もしてもいいかもしれません」
アイリはやりたい事を次々に並べた。
「そうか。だったら全部付き合うぜ」
恭也はニッと笑った。せっかくの祭り、やりたい事は全部しないともったいない。
「では、たっぷりと振り回しますね」
「あぁ」
アイリは少し悪戯っ子のように笑み、恭也と一緒にクレープ屋『天使の羽』に向かった。
クレープ購入後、ベンチに座って
「……甘くて美味しいです」
アイリは苺のクレープをはむはむと美味しそうに食べている。
「これも色んな味が楽しめて美味しいぞ。アイリ、一つ食べていいぞ。これだけあるからな」
恭也はプチロールクレープ詰めをつまみながら容器をアイリに差し出した。
「では、アップルシナモンを貰いますね」
アイリは一つ貰って食べた。
「どうだ?」
「美味しいです。ありがとうございます……楽しいですね。やはり次は恭也さんの行きたい所にしましょう」
味を聞く恭也にアイリは嬉しそうに答え、自分は楽しんだから次は恭也の番だと伝えた。
「いや、俺はいい。こうやってアイリと一緒にいるのが楽しいから」
プチロールクレープを口に放り込みながら答えた。今回はアイリの息抜きがメインなので。
「そうですか。ではお言葉に甘えて『にゃあカフェ』に行きましょうか」
アイリはにっこり笑い、再び恭也を振り回す事にした。
この後、『にゃあカフェ』に行ったり友人割引で買い物をしたりと楽しく過ごした。
町の入り口。
「しかし、酷い人混みだな。大丈夫か?」
家族割引目当てでやって来た守凪 那月(かみなぎ・なつき)は酷い人混みに少し眉を寄せ、隣にいる妹守凪 夕緋(かみなぎ・ゆうひ)に言葉をかけた。
「大丈夫。せっかく来たから楽しみたい。クレープ食べたりいろんなお店を見て歩いたり空飛ぶ箒にも乗りたい」
夕緋は那月を見上げ、必死な顔で訴える。自分が病弱である事は自覚しているが今日だけは倒れて迷惑をかけてでも祭りに参加したいのだ。
「……そうは言ってもなぁ。あんまりはしゃぐと倒れるぞ」
那月は困ったようにため息をついた。遊びたいという夕緋の意志は尊重したいが体の方も心配だ。
「そう渋るな、那月よ。夕緋の言葉通りせっかくの祭りだ。倒れるまで楽しめばいいのではないか?」
ユリハ・アマギリ(ゆりは・あまぎり)が夕緋の味方として意見した。
「あのなー、後で看病するのは誰だと思ってるんだ」
那月はすかさずジト目でユリハをにらみ夕緋の訴えるような目をもう一度見てから大きなため息を吐き出してから決めた。
「分かった。少しでも疲れたら言えよ」
夕緋の必死のお願いを聞く事にした。
「……はい」
夕緋はしっかりとうなずいた。
早速、祭りを楽しむ事に。
「……何か」
夕緋が腕を絡めてきたり必要以上に体をくっつけてきたりと、いつも以上に甘えてくる事に疑問を感じる那月。しかし、深く考えずただ祭りのためテンションが高いのだろうと思っていた。
「……カップルが多いね」
そう言いつつ自分達もそう見られて欲しいと期待する夕緋。那月に対して兄以上の感情を抱いているが、那月にはただの妹にしか見て貰えず寂しかったり。
「……ふむ」
ユリハ那月と夕緋の様子を我が子のように見守っている。二人の気持ちは了承済みだ。
三人は『にゃあカフェ』に入った。
『にゃあカフェ』。
「……(カップルケーキ、兄さんと食べたいな。でもカップルに見えるかな)」
「さて、どれにするかな」
メニューとにらめっこをする夕緋と那月。
「……我は少し猫と戯れて来る」
ユリハはそっと席を立った。
しかし、向かうは猫ではなく、二人の店員の所。
「すまんが、あの客達にカップルケーキを食べさせたいのだが、よかろうか。もしよければ、注文するように勧めてくれないか。少しでも良い思い出を作ってやりたいんだ。カップルかどうかと言えば少々事情はあるのだが」
ユリハの優しい願いはむげにされる事無く受け入れられた。
「任せてくれ。見事に注文を取ってくるよ。何より、女性の頼みは断れない」
エースは挨拶代わりの一輪の薔薇をユリハに渡して那月達のテーブルへ急いだ。
「……夕緋、決まったか?」
「……えと」
那月の言葉に止まる夕緋。まだカップルケーキが頭から離れない。
「お困りでしたら恋人同士のお客様に提供させて頂いていますこのケーキはいかがでしょうか? お二人で食べれば一層絆が深まりますよ」
エースがユリハに託された任務を遂行すべくさりげなくカップルケーキを勧める。
「……あ、あの私達」
「俺達はカップルじゃ」
戸惑い、エースの言葉を否定しようとする夕緋と那月。
「お味の方は心配いりませんよ。一度食べてはどうですか? 今日の素敵な思い出になりますよ!」
エースはなおも押す。
「……それを頼む」
那月はエースに負けて否定する事を諦め、注文した。
「兄さん、ごめんね」
夕緋はエースが行ってから申し訳なさそうに謝った。自分のせいで兄に嫌な思いをさせてしまったのではと。
「気にするな。今のは仕方無いだろう。向こうが勝手に勘違いしたんだから」
那月は笑って答えた。自分は気にしていないと。
「もう、注文は済んだか? なかなか猫が離してくれなくてな」
ユリハが何でもない風に席に戻って来た。
仕組まれて注文させられたカップルケーキを夕緋は月那と嬉しそうに食べていた。
その様子を見守りながらユリハは思わず苦笑していた。女であるためどうしても心情としては夕緋の方へ加担してしまう自身の心に。
この後、クレープ屋『天使の羽』でも同じ手を使った。
「そのお願い。叶えるよ!」
アップルが快諾してカップルさんに渡している物ですと言って『天使の羽』オリジナルベルを渡した。夕緋はとても喜び那月は首を傾げるも喜ぶ夕緋の姿を見て満足していた。
ユリハはそんな二人の様子を優しく見守っていた。
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