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年忘れ恋活祭2022 ~絆~

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年忘れ恋活祭2022 ~絆~
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■午後 〜露店グルメ大食いファイト〜
 午後になり、露店目当てのお客達もさらに増えていく。『にゃあカフェ』やクレープ屋『天使の羽』、そして他の露店の忙しさもさらに高まりつつある中、特設ステージでは『露店グルメ大食い大会』が開催されようとしていた。ルールは簡単で相手より露店グルメを多く食べた方が勝ちというもので今年は去年より進化しており単独・複数の部が用意されている。当然様々な露店が提供し、クレープ屋『天使の羽』も名を連ねていた。

「もう時間も午後を回りましたか。催し物が始まったみたいですね。人も大勢集まって」
 狐樹廊は熱狂する大食い大会を静かに眺めていた。
 ふと視線をまだ青い空に向けた。
「……もう少しすればこの色も変わりますね」
 青い空もいずれは茜色に変わり闇に変わる。それに伴って賑やかな祭りも少しずつ収束していくのだろう。その事に対して狐樹廊はそれほど名残惜しいなどとは思っていない。ただ静かに様子を見ているだけ。

 町の入り口。

「これが恋活祭ですか」
「あぁ、賑やかだろう。展望台から見る夜景が綺麗らしいぜ」
 大岡 永谷(おおおか・とと)小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)を誘って祭りに来ていた。
 二人は適当に歩き回り中央広場に向かった。

 中央広場。

 『露店グルメ大食い大会』に遭遇した。
「大食い大会をしているみたいだぜ。どうする?」
「夜まで時間がありますから見て行きましょう」
 夜までの暇潰しにと永谷と秀幸は様子を見てみる事にした。

 商店街。

「さぁ、陽一楽しむわよ」
 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は連れて来てくれた酒杜 陽一(さかもり・よういち)に振り返った。せっかちな理子は早く楽しまないとこの時間が逃げるとでも言うように歩く速度が速い。
「理子さん」
 陽一は急いで追いかける。胸の内では想い人である理子と自分の関係が今どうなっているのか気になっていた。だからと言って自分から聞くのは少々怖くて出来ない。告白はもう済ませており結ばれたいと思い頑張って来たのは確かなのだが。
「うーん」
 陽一が駆けつけた時、理子は魔法製モップを片手に購買を考えていた。
「理子さん?」
「いや、これがあれば部屋が一瞬にして綺麗になるとあるんだけど」
 どうしたのか訊ねる陽一に理子は値札に付いている宣伝文句を見せながら答えた。実は理子は掃除が下手だったりする。
「確かにそう書いてあるけど……まぁ、便利そうだし」
 陽一は宣伝文句を確認した後、品が入っている壺から一本引き抜き、勘定を済ませた。
「……ありがとう」
 満足そうに礼を言う理子。
「どういたしまして」
 陽一は笑顔で答えた。内心、モップが自分との思い出の品になるのかと苦笑い。とりあえず、理子との関係に対しての不安は表には出さない事にした。
 買い物が終わると理子が興味を向けた『露店グルメ大食い大会』に複数の部で参加する事にした。その前にベルを持つ陽一と理子は吹雪達に遭遇するが、陽一は『行動予測』でいち早く動き、『大帝の目』でイングラハムを畏怖させてその隙に『逮捕術』で捕縛してから逃亡した。

 『露店グルメ大食い大会』の複数の部は単独の部が終わってから始まった。陽一と理子は順調にライバルを打ち倒し、同じように男女の二人組のカップルと決勝戦を対決する事に。接戦の勝負にステージは熱くなっていた。

「……あのモップは何だ?」
 永谷は勝負よりも理子の近くに立て掛けているモップが気になっていた。明らかに場違い。
「かなりの接戦ですね」
 秀幸は陽一と理子の勝負をそれなりに楽しんでいた。
「……見えるのか? 眼鏡が曇っているぞ」
 永谷が少々言いにくそうにツッコミを入れた。
「100%問題ありません。眼鏡装着者故、慣れていますので」
 そう言うなり秀幸は眼鏡拭きで丁寧にレンズを拭いて掛け直した。寒い所から人が密集してプチホットスポットとなっている場所に移動し、温度差が起きたため曇ったらしい。
 勝負の方は、理子はせっかちなせいか勝負を急ぎ、次々と食べ物を休みなく放り込んでいき陽一は一定のペースで食べ物を放り込み、絶妙なタイミングで水で流し込む。理子はすぐにギブアップをしてしまい、陽一がたった一人で二人を相手しなければならなくなった。対戦相手達は相手は一人、勝負を着けてやるとばかりに勢いよく食べ物を押し込み続けていく。

「……凄いですわ」
「……すごい戦いでございます。一人対二人。通常考えれば二人の方が勝つでございますが、これは分からないでございますよ」
 ユーリカとアルティアは接戦に盛り上がっている。
「なかなかの勝負だな。決着ももうそろそろだ」
 イグナは両者を観察し、戦局を読んでいる。
「……いろんな食べ物が出てきますね。あんなに甘い物ばかり食べたら胸焼けしそうですけど」
 近遠は15皿続けて出て来た甘系に眉を寄せていた。

 接戦はしばらく続き、先に女性が撃沈し、陽一は男性との一騎打ち。
 一騎打ちは思いのほか長く続くも勝負は収束し始める。
「もうそろそろ勝負が着きそうですね」
「……終わったみたいだな」
 秀幸と永谷。
 秀幸の言葉通りすぐに勝負は陽一・理子ペアの勝利で終わり、係員からトロフィーと副賞として吸収消化を助け胃もたれ、胸焼けからも助ける効果を持つ『お腹スッキリ君』という魔法薬の入った瓶を手渡されていた。理子は陽一に肩を貸して貰いながら退場した。しっかりと買って貰ったモップを握って。
「……あれ、プレゼントなのか」
 しっかりとモップを握り締めている理子の様子から永谷がぽつり。
 この後、またぶらぶらして夜になり次第、展望台に直行した。

 陽一・理子ペアの勝利を見届けた後、
「……楽しかったですね」
「そうでございますね」
 近遠とアルティア。
「まだまだ時間はありますわ。もっと楽しみますわよ」
「では、行こうか」
 ユーリカの言葉でぶらぶらと散策を開始、イグナもまた保護者としての役目に戻った。
 近遠達はたっぷりと祭りを楽しんだ。

 栄誉ある『露店グルメ大食い大会』の勝利者である陽一と理子は近くのベンチで休憩していた。もちろん隣に買って貰ったモップを立て掛けて。
「ふぅ〜、お腹がヤバイわ。陽一のおかげで勝てたけど真っ先に撃沈してごめんね」
 理子はベンチでふくれたお腹をさすっていた。
「いや、理子さんも頑張ったよ。それより早速これが役に立ちそうだね」
 陽一は近くの店から貰って来た水と副賞の魔法薬を錠剤一つ理子に手渡した。
「……ありがとう」
 受け取るなり理子は一気に錠剤を水で流し込んだ。
「……副賞に薬はどうかと思ったけど、効き目は抜群ね。だいぶ楽になったわ」
「それなら良かった。本当にアフターケアが行き届いている副賞だよ」
 陽一は魔法薬の瓶のラベルを見て一言。優勝と言うから豪華な物と思いきやなんと実用的な物か。ちなみに陽一は余裕である。
「……陽一、今日はありがとうね。楽しかったわ。また、二人で楽しみたいわね。これからも色々あると思うけど、よろしくね」
 理子はお腹が落ち着いたところでおもむろに手を出して握手を求めた。
「あぁ、もちろんだ」
 陽一はしっかりと握った。
「ベルも奪われずに済んで良かったわ。陽一、ベルを出して。共鳴させてみない。どんな音か気になってたのよ」
 ふとベルの事を思い出し、理子は金のベルを取り出した。実はベルの音が聞きたくて陽一に金銀ベルを貰う事を提案したのだ。陽一は理子が望むのならと銀ベルを受け取ったのだ。
「いいよ」
 陽一は銀のベルを取り出した。
「……綺麗ねぇ」
「あぁ」
 不思議で美しく澄んだベルの音を二人は楽しんだ。
「……まぁ、いいか」
 陽一はベルの音を楽しむ理子の顔を見ながら今はこれでいいかと思っていた。いずれ、理子との関係については答えが出るから。それまでこうして理子の笑顔が見られたら十分だと思った。