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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

リアクション

   第十二幕

「男装剣士仇討旅」は、予想以上の成功を収めた。昼の部に続き、夜の部も大入り満員だったのだ。
 評判も上々で、希望のシーンを【ソートグラフィー】で携帯電話やスマートフォンに念写をしたり、プリントアウトするサービス――と言っても、有料だが――が盛況だったことからも、それは窺える。
 担当した忍野 ポチの助のせいで、西田耀蔵を演じたフレンディスが二割増で恰好よく写っているのはご愛嬌だ。ちなみにポチの助はこのために、朝の部も夜の部も延々同じ芝居を見続けた。
 問題は、残りの日数もこのレベルを保たなければならないということだ。
 全日程を同じ芝居で通してもいいが、染之助は「期間限定」を敢えて打ち出した。それに釣られて訪れた客も少なくないはずだ。
 次の芝居は、既に決めてある。もう一つをどうするか、と染之助が部屋で考えていると、左源太が顔を覗かせた。
「太夫、お客さんです」
 通されたのは、オリュンポス一座の天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)とメビウス・クグサクスクルスだった。
「何かご用でしょうか?」
 脇腹を擦りながら、染之助は尋ねた。フレンディスの剣は寸止めにならず、幾度か彼女の体を本気で叩いていたのだ。それも仕方がないと染之助は思っていた。
「まずは公演成功、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「正直申し上げて、これほど大入りになるとは思っていませんでした」
「成功して困るのは、そちらでしょうからね」
 染之助の物言いに、十六凪は苦笑した。実のところ、オリュンポス劇団には他の一座を潰してまで公演を成功させる必要性は、全くない。
 肝心なのは、「悪」への賛美を浸透させることだ。もっともドクター・ハデスは競争に躍起になっているし、マネキ・ングは商売に重点を置いていることは否めない。
 しかし、それを言えば染之助はもっと怒るだろう。
「我々のような俄か劇団とは違う……底力ですね」
「あたしたちも、契約者の皆さんにお手伝い頂いてこそですがね」
 腹の探り合いのような二人の会話を、メビウスは首を傾げながら聞いていた。
「あの〜、合同公演の話はしないんですか?」
「合同……?」
 十六凪は一瞬、しまったというような顔をした。メビウスは分かっているだろうと思っていたのだが、この少女には駆け引きという概念が存在しないことを彼は失念していた。
 もう少しうまく話を進めるつもりだったが、こうなっては仕方がない。十六凪は、持参した台本を差し出した。
 それを読み進めていくうち、染之助の訝しげな表情が、困惑のそれへと変わっていく。
 読み終え、染之助はすっと十六凪へと台本を戻した。
「……で、どうしろと?」
「どう思われます?」
「どうもこうも、似たような話なんていくらでもあるでしょう。これを真似だと言われたら、どの一座も商売あがったりですよ」
「そうではありません」
 十六凪は温和な笑みを浮かべ、かぶりを振った。
「我がオリュンポス一座はこれを上演しようと思っていたのですが、人手が足りずに、諦めたのです」
「人手なら、十分足りていたようですけど?」
「芝居と殺陣が出来る人間となると、限られてくるのですよ」
 ハデスに至っては台本を無視し、好きなように暴走しかねない。――だがこれも、染之助を納得させる言い訳だ。
「そこで、です。どうです? 我らオリュンポス一座と合同公演をしませんか? これならば、お互いにメリットがあるかと思いますが」
 染之助は、まじまじと十六凪の顔を見つめている。十六凪は、裏などないことを証明――無論、いくらでも詭弁を弄するつもりだった――した上で誘う予定だったが、案の定、染之助は彼を疑っているらしい。
 しかし十六凪は、返事も待たずに続けた。
「祝言を上げた三日後に殺害された夫の仇を討つために旅をする未亡人の物語です。結末はまだ未定なのですが――、未亡人と仇とが心中するラストなどどうでしょうね?」
 がしゃん、と部屋の外で音がした。
「左源太?」
「す、すみません、湯呑を割っちまいました。すぐ淹れ直します……」
 左源太の足音が遠ざかっていく。染之助は嘆息し、十六凪に向き直った。
「返事は、いつまで?」
「稽古の期間もありますからね、なるべく早い方がいいでしょう」
 染之助は逡巡し、答えた。
「――四日後、『男装剣士仇討旅』が終わる日にお返事します」
「良い返事を期待してますよ」
 十六凪は、にっこりと笑った。

担当マスターより

▼担当マスター

泉 楽

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございます。泉 楽です。「仇討ちの仕方、教えます。(前編)」リアクションをお届けします。
以下ネタバレ部分も含みますので、リアクションを先に読まれることをお勧めします。


色々想定外のアクションもあり、一瞬どうしようかとも思ったのですが、これもゲームの醍醐味ということで、当初の予定と流れが大分変わりました。
後編は、それらを踏まえたガイドになると思われます。



今回のリアクション終了時点での、NPC情報まとめです。
▼野木坂千夏:PCの斎藤ハツネさんたちに誘拐されました。理由は不明。居場所も分かりません。
▼野木坂健吾:千夏を誘拐したのは、立花十内(の手下)だと思っています。おそらく、彼を見つけたら問答無用で斬りかかるでしょう。なお、健吾たちは十内が「繁華街にいた」「染之助一座の小屋の近くにいた」程度の情報しか持っていません。
▼堀田卓兵衛:重症。甲斐家にて養生中です。しかし、どうにかして仇討ちを見届けようとしています。契約者をあまり信頼していないようです。

▼左源太:正体が立花十内であることが判明しましたが、現時点で知っているのは仁科耀助とベルク・ウェルナートさんの二名のみです。また左源太は、自分の正体が知られたとは気づいていません。
▼染之助太夫:ライバルであるオリュンポス一座から合同公演を持ちかけられました。相手の考えも分からないため、引き受けるか迷っています。五日後の二作目は既に何を上演するか決まっています。

なお、刈谷典膳は「闇に潜む影」に出てくるNPCです。


後編のガイド公開は、二月下旬を予定しております。しばらくお待ちください。それでは、そのときまでしばしの休息を……。