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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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   第五幕

 小七郎の紹介で柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)がやってきたのは、小ぢんまりとした料亭だった。遠された離れで待っていると、編笠を被った侍が現れた。障子を閉め、誰にも見られていないことを確認した上で、その人物はようやく顔を見せた。
 刈谷 典膳(かりや・てんぜん)――と侍は名乗った。同じ葦原藩に仕える某家の家臣である。家の名は内密にしてほしいと言われた。
久利生(くりう)藩と取引のある商人――それも名は勘弁してもらいたいのだが、そこから頼まれたのだ」
「自分の家も商人の名前も言えないのか?」
「察してほしい」
 大方、借金でもあるのだろうと恭也は思った。単に巻き込まれたくないだけかもしれないが。
 立花 十内を見かけたのは、久利生藩士の一人だった。何でも、養生のために葦原島内にある温泉に一月ほど滞在していたらしい。そこで見かけたのだが、すぐ人込みに紛れてしまった。藩に戻って報告したが、生憎、葦原島について久利生藩は不案内だった。
「そこでその商人を介して当家が調査を頼まれたのだが、当家としてもどう調べたらよいかお手上げでな――諏訪(すわ)家には忍びがいるという話を聞いていたので、先日、その旨を頼んだのだ」
 小七郎は、諏訪家から甲斐家に養子に入ったのである。跡を継いだ頃、典膳の主人に世話になった小七郎は快く引き受けてくれた。
 そして調査の結果、城下町に程近い町でやはり似た人物を見かけたのだが、足取りはそこで途絶えてしまった。
「正直言えば」
と、典膳はそこで言葉を切った。「野木坂家には同情もする。あの健吾という若者は、気持ちのいい人物のようだからな。だが、当家も甲斐家もこれ以上、首を突っ込むべきではないと考えている」
「またどうして?」
 最近になって、殺された琢磨という男の人となりが分かってきた。
「野木坂琢磨は、非常に優秀で仕事も出来た。だが、内と外での顔があまりにも違っていたそうだ」
 後になって商人からもたらされた情報によれば、琢磨は部下や同僚に陰湿な苛めを繰り返し、泣かされた女も多数いたらしい。そんな男が唯一惚れに惚れぬいたのが、千夏だった。千夏の親戚や、父親の上司にも手を回し、遂に妻とすることに成功した。
「それだけに、千夏の幼馴染である立花が気に食わなかったらしい。元々、反りが合わなかったようでもあるが」
「相当苛められていた?」
「おそらく」
「なるほどねえ」
 推理は得意ではないが、ここまで聞けば恭也にも大方の想像はつく。宴席でその話を持ち出し、口論、逃げた十内を追って返り討ちに遭った――そんなところだろう。
「どうにもやる気の失せる話だなあ」
「だが、健吾殿には罪もない。お母上も気の毒ではある」
 健吾は、家族には優しかった。母にも弟にも、おそらく千夏にも。それを見殺しにするのは酷だと典膳は言った。
「だけど、それってつまり、俺たち契約者に丸投げだろ? 無責任で酷い話だと思うけどな、あんたも甲斐家も」
「あ、いや、小七郎様は何も知らんのだ。殿がお伝えすべきではないと仰せでな」
「何で?」
「人の好いお方だからな。自力で何とかしてしまうだろう。だが、もしこの先このことが久利生藩で問題となったら、どうなる? 幕府より、葦原藩にもお咎めがあるやもしれぬと、殿はそこまで案じておられるのだ」
「俺たち契約者なら、大事にはならないと?」
 典膳は頷いた。
「どう転んでも、然程問題にはなるまい。それ故、そなたらを巻き込むことにしたのだ。無責任で酷い話というのは重々承知、その上で頼む」
 典膳は深々と頭を下げた。
 一介の生徒に過ぎない自分に、典膳は一人で会いに来た。そして腹を割って話をしている――少なくともそう見える――ことに、恭也は好感を覚えた。
「つまり話を纏めると、甲斐家をこれ以上巻き込まず、葦原藩に行く行く迷惑がかからないような形で、出来れば仇討ちを成就させたいと、そういうことだな?」
「その通り」
「あっさり言うなあ」
 恭也は腕組みして考え込んだ。まずはこの話を、仲間に伝えなければならない。
 だが、皆が恭也と同じように感じるかは分からない。恭也自身、納得していない部分もある。
 どうすれば、丸く収まるか――。
「ああもう、面倒なことに首突っ込んじまったな!」
 恭也はがしがしと頭を掻いた。