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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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   第八幕

 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)は、十内の似顔絵を手に、町のあちこちを探った。
 特に宿屋を重点的に回った。葦原の町は、観光を含め長期滞在する者が少なくないため、宿屋の数は多い。身体的特徴とされる細い目を強調した似顔絵を見せたが、生憎、全員が首を横に振った。
 次に短期滞在用の宿屋を回ったが、これも空振りだった。本格的にどこかの長屋に住んでいるか、全く記憶に留まらないかだが、そうなると長期戦になりそうだった。
 ヤクザや博徒にも見せたが、これも感触がない。裏の仕事はしていないということか。
「そもそも、本当に葦原の町にいるのでしょうか?」
 休憩のために入った飯屋で、ファンドラは疑問を口にした。
「友人や顔見知りがいるならともかく、なぜこの町に現れたんじゃろうのう?」
「回れ右して町に入らなかった可能性もあるわけですしね……」
 いるはずだ、という前提で動いているが、もしいなかったらこの仕事は徒労に終わる。ファンドラとしては、復讐という観点で仇討ちには同情できるため、ぜひ成就させたいと思っていた。
「少し、範囲を広げますか」
 ファンドラが立ち上がった拍子に、似顔絵が落ちた。それを男の足が踏みつける。
「おっと、すまねえ」
 男はぱっと足をどかし、似顔絵を拾った。――と、その顔が軽く歪む。
「見覚えが?」
「――ああ。どっかで見たなあ、こいつ」
「どこで!?」
「ちょっと待ってくれ。こんな目立たない顔――ああ、そうか。芝居小屋だ」
「え?」
「さっきよ、芝居小屋の前を通ってきたんだが、その辺で見かけたんだ。あそこは目立つ顔が多いから逆に覚えてた。前髪が長いんで、ちょっと雰囲気違うけどよ、似てるな。別人かもしれねえが」
「その小屋は!?」
「染之助一座だ。――おい、あそこは今日、やってねえぜ?」
 飛び出す刹那とファンドラの背に、中年男はそう声を掛けた。


 刹那たちから連絡を受けた健吾は、卓兵衛と千夏を連れ、繁華街へ向かった。三人だけだ。契約者たちには伝えなかった。
 だがその途中、三人の前に立ちはだかる者があった。
「いよぉ……兄貴の仇討ちねぇ……いいねぇ、そういう奴は嫌いじゃねぇぜ、俺は」
「何者だ!!」
 健吾と卓兵衛が素早く抜刀する。
「ククッ。だが、残念だなァ! 今回の依頼者はそういうのが嫌いみてぇだな! つーわけで、死んでくれや。野木坂健吾よォ!?」
【ヒロイックアサルト】で強化した大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)の【抜刀術】は、速さ、切れ味共に群を抜いている。健吾は目の前に襲い来る刃を避けることが出来なかった。

 ガキィ!!

 火花が散った。
「何をやってるんだ、おまえらは!!」
 健吾の前に飛び出したのは、匡壱だった。三人が抜け出したのに気付き、追ってきたのだ。
「かたじけない!!」
「下がってろ!!」
「相手にとって不足はねぇ……」
 鍬次郎は舌なめずりをし、「大和守安定・真打」を正眼に構えた。
「手を出すなよ、てめえら!!」
 それを聞いた斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は、ぷうっと膨れた。
「つまんない。ハツネにもやらせてよ。……じゃ、ハツネはこっちのお兄さんたちを壊すね」
 ハツネの袖の下から、何十何百もの鎖が飛び出し、健吾と卓兵衛へ向かった。まるで蛇の如くうねり、二人に襲い掛かる。避ける間もなく、健吾たちは鎖分銅に縛られてしまった。
「健吾様!!」
 千夏の悲鳴が上がった。
「あなたのお相手は僕ですよ」
 気が付くと、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が千夏の傍にいた。【麒麟走りの術】だ。そして【その身を蝕む妄執】をかける。
「――!!」
 千夏の目が大きく見開かれた。
「いやああああああ!!」
「ああ、いい悲鳴ですね」
 葛葉はうっとりと呟いた。