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第三章 楽しいお仕事・2


 浜辺。

「おいおい 海に潜るから水着はわかるけどなんか恥ずかしないかそのビキニ?」
 水着姿の上條 優夏(かみじょう・ゆうか)は着替えを終えて現れたフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)の姿にツッコミを入れた。
「変? 優夏だって男の子だからこういうの好きじゃないの?」
 フィリーネは水色のビキニで抜群のスタイルを惜しげもなく披露していた。
「……好きかどうかはともかく。変やないよ」
 優夏はもう一度スタイル抜群をアピールするフィリーネを見て照れながら感想を一言。
「それなら良かった。それじゃ、早速夏の自由研究課題をしよう! 確か……」
 優夏の反応に嬉しくなった後、フィリーネは改め本日の目的を思い出した。
「うまく剣と魔法を効率よく同時に使う理論完成させて厨二技実現や」
 優夏の夏の自由研究課題を達成させるためと優夏のニート癖を直すために海に来たのだ。実はそれは建前で本来の目的は優夏は遊ぶため、フィリーネは優夏とデートをするためだったりするが。
「そうそう。理論としては面白いから手伝いたいけど。何を先にする? 技の実験か課題素材の採取をする? それともビーチバレーをしながら魚竜が捕獲されるのを待つ?」
「先に採取や。魚竜の牙はあとでこっそり貰ったらええ」
 これからの予定を訊ねるフィリーネに優夏は即答した。
 その時、
「魚竜の牙が欲しいんだ?」
 優夏達の話を耳にしたウララが声をかけてきた。
「ん、あぁ、そうや。自由研究課題で必要なんや」
 優夏が簡単に自分達の事情を話した。こっそりのはずだが知られたからには話さないわけにはいかないので。
「へぇ、大変だねぇ。そういう事なら会長に頼んであげるよ。許可が出たら知らせるから」
 ウララはあっさりと素材を優夏に譲り渡す事を約束し、会長に頼みに行った。
「助かったね。早速、行こう♪」
 フィリーネが優夏をリードし海に潜ったり自由研究課題の素材集めをしたり浜でビーチバレーをしつつ魚竜捕獲の様子を窺ったりと忙しく動いた。端から見たら二人の様子は完全にデートである。
 それに気付いた優夏は
「HIKIKOMORIのはずなのにリア充になってしもた……!?」
 思わず声高に。
「いいじゃないリア充、状況楽しんじゃいなさいよ☆」
 フィリーネは夏の暑さにも負けぬ素敵な笑顔で優夏に抱き付いた。それに対して優夏は顔を真っ赤にしてフィリーネから顔を背けた。
「優夏、顔が赤いよ?」
 フィリーネは抱き付いたまま理由を知りながらも悪戯っぽく優夏に訊ねる。
「それは夏やからや。それより、実験をするで」
 優夏はごまかし話題を変える。照れているのは丸分かりだ。
「了解♪」
 フィリーネはそう言って優夏から離れ、歩き始めた。その後ろを慌てて優夏が追いかけた。

 何はともあれ準備は整い
「フィー、頼むで」
 優夏は超弩級竜剣ヴィクトワールを構えてからフィリーネに合図を送った。
「任せて!」
 フィリーネが『天の炎』を海の向こうに放つと同時に優夏は『正中一閃突き』を繰り出した。標的は架空の敵かと思いきや釣り人と接戦を繰り広げている魚竜にヒットし、釣り人達を手伝った。

 浜辺。

「弾さん、絶好の機会ですよ。ここで海の男になって巨大魚竜を見事狩るのです。そうすればアゾートさんも感謝と羨望の眼差しで胸がときめくこと間違いなしですよ。弾さんなら必ず出来ます! 援護は私がしますから」
 ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)は時々姿を見せる魚竜に目を向けながら風馬 弾(ふうま・だん)とアゾートの関係を進展させようと奮闘する。
「……やってみようかな」
 ノエルにおだてられ上手く騙された気はしつつも素直に従う事にする弾。相手が巨大でもアゾートの役に立ちたいという思いはそれ以上に大きいから。
「それでは行きましょう。もう準備は整っていますから」
 いつの間にか準備を整えていたノエルは弾を少し離れた場所へと案内した。

 少し離れた場所。

「ここに海の家で借りた小舟とロープがあります。相手は巨大ですから餌も巨大でなければいけないという事で弾さん、お願いします」
 ノエルの話し通り小舟には長めのロープが用意されていた。
「それはつまり僕が餌という事だよね」
 遠回しだがノエルが何を言っているのか悟った弾は遠い目になっていた。
「ですね。大昔の地球では、鯨に小舟で近づきモリやナイフで直接攻撃して狩っていたそうなので大丈夫ですよ。必ず立派に海の藻屑と消え……いや、立派に海の男になれます。回復技もありますから死ぬことはないと思いますよ……多分」
 いともあっさり弾の言葉を認め、ノエルは淀みなく話した挙げ句、とんでもない言葉で最後を締めくくった。
「多分?」
 不穏な言葉に思わず聞き返す弾。
 ノエルが何かを口にする前に
「二人が話しているのが見えて来てみたんだけど。もしかして魚竜釣り?」
 アゾートがやって来た。浜辺で他の採取者と作業をしていた所弾達を発見したのだ。
「そうです。弾さん自ら魚竜の体内に侵入し、内部から仕留めるそうです」
 ノエルは笑顔で弾がまだ返事をしていない作戦を話した。
「……それって餌になるという事だよね。大丈夫?」
 アゾートも瞬時にノエルの発言の意味を知り、心配そうに弾に訊ねた。
「大丈夫です。必ず仕留めて来るのでアゾートさんは待っていて下さい。ノエル、行こう!」
 弾は引き締まった表情でアゾートに答えた。好きな子の前なので格好いい所を見せたいのだ。
「行って来ますね、アゾートさん」
 ノエルはアゾートに挨拶をしてから弾に続いて小舟に乗った。
「無茶はだめだよ。危険を感じたらすぐに戻って来るようにね」
 アゾートは無事を願いつつ弾達を見送った。
 この後、アゾートはこの近辺で素材探しをしつつ弾達の様子を見守っていた。

 海上。

「弾さん、頑張って下さい。ほら、アゾートさんも見守っています」
 ノエルは自分達を見守るアゾートに手を振りながら弾に言った。
「……アゾートさんと会うのがこれで最後にならないように頑張るよ」
 アゾートを見ながらもどこか遠い目をする弾。
 弾はアゾートの姿を目に焼き付けた後、ロープを自分の腰に巻いてノエルの『パワーブレス』で攻撃力を強化して貰ってから勢いよく海にダイブした。
 ノエルはロープから目を放さず、何か起きた際に対応出来るように待機する。

 開始後、しばらく。
「……(早速、来た。このまま食べられたら死んじゃうから口の中を狙って攻撃だ)」
 海中の弾は向かって来る巨大な魚竜に緑竜殺しを構え迎撃の準備を整えた。
 そして、迫る魚竜に攻撃するも易々と回避され、
「……(避けられた。やっぱり大きな相手は体内から攻撃をしないといけないのかな。それなら)」
 弾はノエルの提案通り、大人しく魚竜に食べられる餌になる事にした。食べられる瞬間、『ブレイドガード』で牙から身を守った。
 魚竜は弾を飲み込んだ勢いのまま飛び上がり、海から姿を現した。
 その瞬間、魚竜は不意の攻撃を受け、体の半分を焼かれて貫かれると同時に閉じた口が弾の『一刀両断』で真っ二つにぶった切られ、そのまま体ごと切り裂かれた。弾は小舟に着地した。まだ体内までいってはいなかったのだ。
「……助かったよ、ありがとう」
 弾は思わぬ援護に礼を言った。
「援護というか、偶々や。魚竜に当たるとは思わんかったよ」
 援護をしたのは自由研究課題に勤しんでいた優夏だった。
「キミも魚竜狩り?」
「いいんや、俺は夏の自由研究課題のためや。魔法と剣技の同時に敵に命中させる実験をしてたんや」
 弾の質問に優夏は首を左右に振りながら答えた。
「いるのは魚竜の肝よね?」
 フィリーネが駆けつけ、海面に浮かぶ魚竜に視線を落としながら訊ねた。
「そうですよ。何か肝以外で必要な素材があるのでしたら持って行って構いませんよ」
 フィリーネの質問の意図を察したノエルは相応しい対応をした。
「それじゃ、牙を貰うで。一応調薬友愛会の方に頼んではいるんやけど、返事待ちやから。助かったで」
 そう言いつつ優夏は手早く牙を回収した。まだウララからの報告が無いのだ。
「ありがとう。優夏、行こう」
「そやな」
 フィリーネは礼を言い、優夏と共に自由研究課題の続きに戻った。しばらくして許可が下りた事を知らされた。
 弾達も一度、浜辺に戻る事にした。

 浜辺。

「弾さん、お見事でした」
「……一時はどうなるかと思ったよ」
 陸に戻るなりノエルは弾の勇姿を褒め称え、弾は生きている事にほっと胸を撫で下ろしていた。
 そして、
「怪我とかは無い? 魚竜が海から顔を出した時は驚いたよ」
 一部始終見守っていたアゾートが二人の元に駆けつけた。
「ありません。その、心配をかけてしまって……」
 優夏達の援護もあって無傷だった弾はアゾートに随分心配かけた事を謝ろうとするが、
「それは半分だけだよ。もう半分は大丈夫だと思っていたよ。キミなら出来るだろうって。見事な釣りっぷりだったよ」
 笑顔のアゾートの言葉に遮られてしまった。心配はありつつ弾は無事で帰還出来る腕を持っていると信じていたのだ。
「そう言ってくれると嬉しいです。疲れが吹き飛びました」
 弾は嬉しさですっかり照れていた。疲れなんぞすっかり癒されたようだ。
「……弾さん、良かったです」
 ノエルは弾の嬉しそうな様子にそっと喜んでいた。
 肝をアゾートに渡してから弾達は再び魚竜狩りに戻った。