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君が迎える冬至の祭

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君が迎える冬至の祭

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第2章 迷い、怖れて
 
 
 トゥレン達が、西カナンの遺跡、天命の神殿に向かうという話を聞きつけて、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も興味を示した。
 パートナーのメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)もまた、古代の神殿遺跡に興味を示し、まずはイルミンスールの大図書室で、天命の神殿や、覚りの巫女について調べてみることにする。
「彼等とは、現地集合で問題ないだろう?」
「そうだね」
 そうして、二人が調べた結果は、以下の通りだった。

 天命の神殿を守護する巫女は、覚りの巫女と呼ばれた魔道書だった。
 女神イナンナに仕える覚りの巫女は、人々の迷いを正確に見抜き、導きの必要な者には導きを与えた。
 けれど愚かな者にとっては、そこはただの迷宮に過ぎず、故に天命の神殿は、神殿ではなく迷いの迷宮とも呼ばれた。
 ある時、エリュシオンの刺客によって巫女が殺された。
 守護者を失った神殿はやがて朽ち果て、朽ちた神殿を抱く町もまた、ゆっくりと滅びていった。

「迷いの迷宮、か。中が迷路になっているのかな?」
 エースの言葉に、メシエは否、と応じた。
「神殿とされ、迷宮“とも”呼ばれた、という表現が成されているのだから、構造的に迷路ということではないだろう。
 これ以上のことは探れないようだ。
 大した情報とも言えないが、知り得たことは、皆に伝えるのだろう?」
「勿論だよ。少しでも助けになれればいいけど。
 ……あと、植物達は沢山いるかな」
「全く、ブレないな、エースは」
 楽しみだ、とわくわくしているエースに、メシエは肩を竦めた。


◇ ◇ ◇


 花妖精、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)は困っていた。
 以前、ヴリドラに「トゥプシマティが契約者から受け取った何か食べ物を失くしてしまい、同じものを探している」と聞き、探すと約束したのだが、未だ見つかっていないのだ。
(リイムは、本当にいい子だ)
 一生懸命探しているリイムを見て、パートナーの十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、やはり俺の教育方針に間違いはなかった、と一人悦に入る。
 そんな様子を見て一人にやにやしているのも変態なので、コンビニで買えるものならいいんだがなあと思いつつ、手伝ってやることにした。

「お願いでふ、コアトーちゃんにも手伝って欲しいでふ」
「みゅー、仕方ないなあ」
 リイムは、蛇型もふもふギフト、コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)に協力を請う。
 コアトーは、【御託宣】によって探ることができないかと試してみた。

「……大きな三つ首の龍に、誰かが乗ってる。皆が説得しようとしてる……」
 ナラカより来たりて、凱旋の為にユグドラシルに現れた、リューリク帝とトゥプシマティ、そしてヴリドラ。
 説得しようとした一人が、トゥプシマティに何かを渡す。
 それは――

「メロンパン? 探してるのってメロンパンなのか?」
 通信を受けて、宵一は訊き返した。
 契約者に貰ったものだというから、エリュシオンには馴染みの無い食べ物なのだろうとは思っていたが。
「お兄ちゃん、買ってきてくれる?」
 コアトーの言葉に、宵一はよし、と頷く。
「それならコンビニに売ってるな。
 よし、急いで買って、ルーナサズに行こう」

 そしてルーナサズに行ってみると、トゥプシマティ達は西カナンに行ったという。
 宵一達は、彼等の帰りを待たずに後を追うことにした。


◇ ◇ ◇


 また、トオル達も、ぱらみいを伴ってルーナサズを訪れていた。
「またすれ違った」
 ぱらみいとトゥプシマティを会わせてみてはどうか、という友人の助言に従って、以前にも一度ルーナサズを訪れたのだが、その時は、トゥプシマティは丁度、オタハイト島の船旅に参加していて留守だった。
 トオル以外は一旦戻って、今回改めてルーナサズに来たのだが、今回も、トゥプシマティはカナンに出かけたという。
「今回は、後を追ってみるか。カナンなら帰り道の途中だし」
 そうしてトオル達も天命の神殿へ向かうことにした。


◇ ◇ ◇


 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、その後もトゥプシマティのことを気に掛けていた。
 今回ルーナサズに赴いてみると、トゥプシマティの過去絡みで、西カナンに向かうことになったという。
 心配なので、同行することにした。
 かつてトゥプシマティは、西カナンの巫女だったという。
 しかし今の彼女は、リューリク帝を拠り所としている。色々と、悩むところだろう。

「ヴリドラは、分身がパラミタとナラカに分かれていても、情報が遮断されないのか?」
 西カナンに向かう道中で、呼雪はトゥプシマティの肩に乗るヴリドラに訊ねた。
 ポータラカの八龍であるヴリドラは、本来三つ首の巨大な龍だが、三つの身体に分かれることができ、大きさの比も自在に変えられる。
「遮断サレナイ」
「……なるほどな」
 ならば、今回のトゥプシマティの過去に関する情報は、リューリク帝からのものか、と納得する。
 イルダーナは今回の件について多くを語らなかったが、恐らく、知っていて言わないでいることがあるのだろう。
 それを今ここで聞き出そうとは思わないけれど。

 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、試練に挑むような表情のトゥプシマティに笑いかけた。
「何か怖い?」
「え……」
 はた、とヘルを見て、トゥプシマティは俯くようにする。
「……そうですね。怖いです」
 正直に、そう答える。
「……私は、何が怖いのでしょう」
「そうだね……。
 選んだ結果で何かが変わってしまうかもしれないし、思い出したら戻れないかもしれない。
 それは怖いことかもね。
 なくしちゃった過去の記憶は、今の自分とは全く別人かもしれないし」
 ヘルの言葉に、トゥプシマティは頷く。
「私は過去、どんな人物だったのでしょう? 知りたいような気もするけれど……怖い」
 胸がざわめく。誰かが呼んでいるような気がする。その呼び声が、何故か怖ろしい。
「ティちゃんは、リューリクさんのことが好き?」
「はい」
「他にも色々……今忘れたくないとか、心に強く残ってるものを大切に護りたい気持ちがあれば、きっと何を思い出しても大丈夫だよ。
 僕も、今を選んで昔のこと色々忘れちゃったけど、大切なものはちゃんと残ってたからね」
 トゥプシマティは、じっとヘルを見た。
「貴方は、過去を捨てたのですか」
「そうなるかな。でも、後悔してないよ」
 迷いの無い表情で、ヘルは笑顔を返す。
「ねぇ、ティさん」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、堅い表情のトゥプシマティに声を掛けた。
 振り返ったトゥプシマティに、はいっ、と一粒のチョコを差し出す。
 ファルの大好きな、とっておきの高級チョコレートだ。
「食べてみて!」
「……ありがとう」
 受け取ったトゥプシマティは、包みを開けて、食べてみる。
 ほわ、とその表情が和らぐのを見て、ファルはぶんぶんと尻尾を振った。
「美味しいでしょ、このチョコ!」
「ええ」
「甘いもの食べると、ほわ〜ってするよね!」
「そうね。美味しい。ありがとう」
 微笑んで礼を言ったトゥプシマティに、不安や緊張が、少しでも和らいでくれるといいな、とファルは思った。