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君が迎える冬至の祭

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君が迎える冬至の祭

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第6章 冬至の祭


「というわけで、トゥプシマティはもう此処に戻って来ない。
 ヴリドラもナラカに降りると言って別れた。ガキ連れて行くらしいぜ」
 トゥレンの報告に、選帝神イルダーナは、そうか、と小さく息を吐いた。
「手出しすんな、って言われてたから、本当に手出ししなかったけど、これで良かったのか?」
「俺が口出しすることはねえ」
 それでも、少し心配そうな表情に見えるのは気のせいだろうか。
 結構面倒見のいい人だよなあ、とトゥレンは思う。
「ま、折角生きてるのに、あんな酷い所に戻らなくて済んで良かったんじゃねえの」
 トゥレンは肩を竦めた。
 そうだな、とイルダーナも答える。
 本来、生者と死者は、交わってはならないものなのだから。
「……あの神殿、俺一番乗りだったぜ。兄サンだったら、あの迷宮で迷った?」
「多分な」
「あら。見かけによらず」
 あっさりと認めて、トゥレンは苦笑する。イルダーナは軽く肩を竦めた。
「迷わずに進めたことなんざひとつもねえよ。
 既に終わったことにも迷う。あの時の選択に間違いはなかっただろうかと。
 きっと一生、迷い続ける」
 けれど選択肢が現れた時、迷いなど無いような顔をして、すぐさまに選択をしてみせるのだろう。選帝神として。
「俺なんて、皆体験したっていう、ぼんやりも何か変な感じも全然なくて、あっさり礼拝堂に辿り着けちゃったのにね」
 おどけて言うと、イルダーナは深々と溜息を吐いた。
「…………お前は馬鹿だろう」
 その言葉に含められているものを知っている。
 優しい人だな、と、トゥレンは口には出さずに思い、ふと窓の外を見た。
「……もうすぐ、祭だね」


◇ ◇ ◇


 休暇に、何処か変わったところに旅行に行ってみよう、と言いだしたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の気まぐれに、多少面食らいながらも、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はそれに付き合う。
「何処にしようかしら」
と、考えた末に、訪れた場所はエリュシオンのルーナサズだった。

 到着早々、宿に荷物を投げ込むようにして、二人は観光を楽しむ。
 大都会のような派手さはなくとも、祭の賑わいに、セレンフィリティの心は躍った。
「うわー、何か胡散臭そうなお店もある! 何かしらあれ怪しげだけど」
「もう……セレンったら、はしゃぎすぎ」
 大通りに並ぶ露店を冷やかしながら歩くセレンフィリティに、置いていかれそうになって、それってどうよとセレアナが思った時、くるりとセレンフィリティが振り返る。
「早く早く!」
 楽しそうにセレアナに手を差し伸べ、指を絡めるようにして、手を繋いだ。

「うわあ、このリボン、すごく可愛い!」
 色々なリボンを売っている露天で、二人は足を止めた。
「ふふ、余所から来た人かい? これは、祭の篝火で燃やすリボンよ」
「え? これ、燃やしちゃうの? すごく手が込んでで綺麗なのに」
「勿体無い……」
 ひとつひとつ柄が違う、編みこみや刺繍などで色とりどりに作られたリボンは、祭の篝火にくべる薪に結びつけて幸運を祈るものだった。
「そりゃそうよ。幸運を祈りながら、思いを込めて丁寧に作るものだもの。貴女達もおひとついかが?」
 売り子の女性は、二人が繋ぐ手を見て、ふふふと笑った。
「大切な人がいるならね、一本ずつ買って、相手に贈るのよ」
「おばさん、商売上手ね……」
 苦笑しながらも、二人はリボンを選ぶ。
「でも、これ、端がほつれてない?」
「それはね、最後の一針を、買った人に仕上げて貰う為よ。
 自分で自分のリボンを作る場合は、ちゃんと最後まで作るのだけど、売り物の場合はこうして仕上げを残しておくの」
 なるほど、と頷きながら、二人は売り子の女性が渡してくれた針を借りて、選んだリボンを仕上げた。
「篝火の所に薪が積んであるからね。
 一本選んでリボンを結んだ後、相手に渡して、火に投げ込むのよ」
「有難う」
 礼を言って、二人は龍王の卵岩へと向かった。



 ルーナサズに行ってみたい、と言ったパートナーのフィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)の望みを、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、物理的に叶えることができなかった。
「金が無い」
「ルーナサズでは、お祭、あるんですねえ。
 フィーアはルーナサズに行ったことないですし、どんな祭なのか興味があるですぅ」
 ちら。
「そんな目で見ても連れて行かないからな。頼むならリューグナーにしろ」
 げんなりと溜息を吐いた燕馬に、リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)もまた深々と溜息を吐いた。
「やれやれ、とんだ甲斐性なしですわねぇ」
 てめえがそれを言うか! と叫びたい気持ちを燕馬はぐっと堪える。
 この前、他でもないそのルーナサズ観光で、自分から散々巻き上げた女の言う台詞だろうか!

 とにかくそんな訳で、リューグナーとフィーアはルーナサズを訪れた。
 フィーアがルーナサズに行きたいと思ったのには、理由があった。
 燕馬達からの土産話で、ルーナサズには、ポータラカの八竜、ヴリドラがいるという話を聞いた。
 そして、そのことを、ポータラカ人であるリューグナーが気にしていることに気が付いたからだ。
「どうしましたの?」
 街を歩きながら、そわそわと周りを見渡すフィーアに、リューグナーは訊ねる。
「ヴルーアイズさんは、お祭にはいらっしゃらないでしょうか?
 ええと、そうですねえ、お城に行けば、会えるかもしれないですぅ」
「…………『ヴリドラ』と『青い瞳』をもじったんでしょうけど、そのアダ名は公言を控えるべきですわ」
 リューグナーは、呆れたように言ったが、フィーアは話を逸らせなかった。
「一度だけ、一度だけでもウッソーはヴルーアイズさんに会ってみるべきだと思うですぅ」
「そのアダ名を聞いた反応見るためにですの?」
 せせら笑ったリューグナーを、フィーアはじっと見た。
「前に来た時は、責められると思ったから、ツバメちゃんをダシにして逃げた。……違うですかぁ?」
「……くふふ、何のことかさっぱりですわ」
 笑って誤魔化して、リューグナーは、さて祭に来たのなら卵岩ですわね、と話を逸らす。

 城に行ってみようという誘いには、乗らなかった。
 それでも、前回ルーナサズに行ったのは、そして今回ルーナサズに来たのは、と、そうフィーアは思う。
(そうですわね……。
 もしも、もしもトゥプシマティ達を見かけたなら)
 ポータラカ人を目の前にしたヴリドラの反応に、興味が無いと言えば嘘になる。
 前をよく見ずに走る子供を演じて、接触事故を起こしてみてもいい。
 そんなことをリューグナーは考える。
(…………そう、これは興味本位に過ぎませんわ。
 自分が、断罪を待つ罪人のように感じるのは、気のせい)



 去年は、アスコルド大帝の崩御の為に祭は行われなかったが、今年行われる冬至の祭は結局、卵岩の上で直接篝火を焚くことになった。
「結局それかよ」
 投げやりな処置だなとトゥレンは笑ったが、民や特に子供達には好評なようだ。
 近づくことはできなかったが、篝火の場所からかなり離れたところに、トゥレンの龍が横になって寝ている。
 祭には背を向けるような格好だったが、それでも衆目を集めていた。
 櫓のようなものが組まれて、炎が高々と聳えている。
 子供達が、篝火を囲んではやし歌を歌っていた。


 トネリコ
 ハンノキ
 ヤナギ
 サンザシ

 冬よ、早く去れ
 春よ、早く来い

 ヒイラギ
 ハシバミ
 エニシダ
 ハコナギ

 冬よ、早く去れ
 春よ、早く来い


 冬を追い払い、春を呼ぶ炎は、丸一日勢いを絶やさないよう、絶えず何処からか薪が投げ込まれていた。
「これもどうぞ」
 薪の山からセレンフィリティとセレアナが一本ずつ拾うと、近くにいた人がリンゴを渡した。
「この棒に刺して、火の近くに刺しておきな。五分くらいで美味しく焼けるよ」
「ありがとう」
 好意に礼を言って、そして二人は、リボンを結んだ薪を一緒に炎にくべる。

 これからも、こうして一緒にいられるように。

 願う祈りは、同じだった。




E N D

 
 
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 
メリークリスマス!
皆様、当シナリオにご参加ありがとうございました。


今回は、
トゥプシマティの記憶が戻る場合と、戻らない場合の、全く違う二つの展開を用意し、
記憶を戻すか戻さないかはPCさんのアクションに委ねる、
というシナリオでした。

多数決ではありませんでしたが、戻らない方がいいと働きかける(或いは戻った後引き戻す系の)アクションはありませんでしたので、トゥプシマティは記憶を戻し、カナンの巫女に戻ることになりました。

その為、ヴリドラがパラミタに居る理由もなくなり、ナラカに帰りましたが、
そしてそれにぱらみいもくっついて行きましたが、
二人?とも、とても好きなキャラ達ですので、また機会がありましたら出して行きたいと考えています。


それでは、
皆様、良い年末年始をお過ごしください!