リアクション
◇ ◇ ◇ 清泉 北都(いずみ・ほくと)は、西カナンを冒険中に発見した遺跡の、発掘調査をしていた。 「宮殿……いや、この建物跡だと、神殿、かな」 神殿を中心にして、街があったようだが、全ては廃墟と化している。 それも頑丈だったと思われる建物だけが今に残り、殆どが風化してしまっているので、随分古い時代のものなのだと推察された。 ざわざわと大勢の気配が近寄るのに気付いて、北都は顔を上げた。 「お仲間かな?」 自分の他にも、この遺跡を調べたいと思ってきた冒険者だろうか。 出迎えようかな、と北都は喧騒の方へ向かう。 訪れたのは、トゥプシマティ達だった。中には見知った顔もある。 彼等に事情を聞いて、北都も彼等に付き合うことにした。 雑草だらけだな、と、エースは思う。 寿命が短く、頻繁に生え変わる植物達に、此処がいつの時代からの遺跡なのかと問うてみても、実になる返事はない。 それでも、自然に根強く生きる植物達は、元気そうなので、良かったと思う。 ちょっとこの遺跡を見学させてね、と話しかけた。 どきり、とトゥプシマティの胸が高鳴った。 ようやく、と、心の中で誰かの声がする。 ようやく、帰ってきた。 (……誰か? いいえ、) 「あ、え!?」 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が声を上げた。 「カーリー、あれ見てっ……!」 一同は、驚いて遺跡を見た。 「何だっ……!?」 それまで、この神殿は、土台と僅かな柱しか残らない、朽ちた遺跡だった。 突然、空間が何かに彩られるように、何かがそこに現れて、唖然として見ている間に、それは、荘厳な建物となったのだ。 「…………天命の神殿?」 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が、現れた神殿を、呆然と見つめる。 「何これ、どういうこと?」 「大尉、あそこ、よく見ろ」 経堂 倫太郎(きょうどう・りんたろう)が、地上に接する部分を指差した。 うっすらと、先刻まで見ていた廃墟が見えている。 「ということは、この神殿は幻像か何か?」 倫太郎は神殿に歩み寄り、手を触れてみた。 触れる。実体がある。 「どういうことだ? 実体のある幻像なのか」 トゥプシマティは、呆然と神殿を見上げていた。 見憶えがある。遠い遠い昔。 「どうするの? 入ってみるんでしょう?」 北都の声に、はっと我に返った。 「え、ええ……」 「不安みたいだけど、折角の、過去を知るきっかけなんだから活かすべきだよ。 いつまでも、もやもやしたものを抱えたままじゃ、すっきりしないでしょ。 キミは何故ここにきたの? 過去を知ったら、リューリクさんへの気持ちが揺らぐの?」 「そんなことは、ないです」 トゥプシマティの言葉に、北都はふと笑って頷く。 過去を知らないからこそ、一途にリューリクに仕えていられたのかもしれない。 それでも、本当に大切なものは、過去に何があっても変わらないものだと、北都は思う。 「まあ、強要はしないけどね。決めるのはキミ自身だよ。 ちなみに、キミが行かなくても、僕は行くけど」 「オレはここまでだ。オレは中には行けない」 立ち止まったフェイミィに、歩き出しかけたリネンとトゥプシマティの足が止まった。 此処は、迷いある者には進めない迷宮である、ともいう。 ならば自分は進めない。外で、リネン達が出て来るのを待つしかない。 「フェイミィ」 「だって……だって、今は駄目だ。 オレは絶対に辿り着けない。……まだ迷い続けてる」 嫉妬に狂うべきなのか。 笑顔で見送るべきなのか。 「さっき……リネンが話してただろ。 一緒した奴って、フリューネだよな。……オレも初めて聞いた話だし」 フェイミィはリネンが好きだった。今も好きだ。 けれどリネンは、フリューネ・ロスヴァイセと想いを遂げた。 好きだから、おめでとうと笑ってあげたい。けれど、けれど好きだから。 「あんな話……聞いたら、心が乱れる。 忠誠の誓いさえ揺れる……まだ、そんな気持ちなんだ……だから、行けない。……すまん」 リネンは、口を開きかけて、閉じた。何を言うこともできない。 トゥプシマティが、フェイミィに歩み寄って、ぎゅっとその手を握った。 「ありがとう」 「……?」 「私も、迷っています。どうしたらいいのか、解らない。 ……でも、私は中に行かなくてはならない、そう思う」 「ああ」 「皆さんが、励ましてくれて、嬉しかったけれど、少し不安でした。 ……皆、自分に迷いの無い人ばかりだから」 ふ、とフェイミィは複雑な気持ちで苦笑する。 「人も迷うことがあるのだと……。 私は、貴女の話が聞けて、一番安心しました」 「そりゃあ、そうさ。 たまたまここにいる連中は、潔い奴等ばっかだけど、人は迷うもんだぜ」 「はい。 ありがとう。行ってきます」 「ああ」 リネン達と共に、神殿に入って行くトゥプシマティを、フェイミィは見送った。 |
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