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一会→十会 —アッシュ・グロックと秘密の屋敷—

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【宮殿へ――!】


「こんな綺麗な場所で……許せないよ!」
「つーか世界遺産でバトルしていいのか?」
 ティエンの言葉に陣が疑問で返すのに――
「弟と妹以外に大事なものなんてないよ」とベルテハイト。
 その隣では、シーサイド・ムーンがドリルで銅像へ穴を開けるという暴挙に出ている。そもそもシーサイド・ムーンはパートナーから「アレ君の力になってこい」なんて仰せつかっていた訳だし、世界遺産……知らないなぁ、だってムーン兵器だもん♪ という具合だ。更には――
「だから何? そんなの知ったことじゃないわよ!」と、『壊し屋セレン』ことセレンフィリティは、きっぱり言い捨てる。そして言葉通りに銅像に超スピードで接近し、拳を叩き込み粉微塵にしてしまった。
 そんな彼女に加護のスキルを送っているパートナーのセレアナは、頭が痛い顔だ。
「そんなこと言って、後で請求書見て蒼くなるのはどこの誰なのよ!」
「どうせいつもの異世界転移でしょ? なら、ここで美術品とかブッ壊したりしても現実世界じゃ何の影響もないって!」
 セレンフィリティが蹴り出した銅像の腕を銃身で斜め下へいなして、ハインリヒはそのまま銃弾を打ち込み、砕け散る音に「だといいよね」と被せている。
 それぞれが武器や己の身体を振るう中、グラキエスは巨大な狼の背に乗り、敵の動きを探っていた。
[聞いてくれ。恐らく植物の動きは三つに分けられる。
 弾丸のように種を出す植物は、機動力が無い。
 蓮の葉はこちらの邪魔をしてきているが、攻撃自体はしてきていない。
 それからあの切ってくるやつは、射程が短いようだ]
 ベルクが作り出した球体の魔力の塊に植物や銅像が引きつけられている間に、グラキエスが与えたこの情報を聞いたお陰で、契約者達の動きが計算されたものに変わっていく。

 そんな戦闘の中で、アレクはシーサイド・ムーンに背中を任せ、最低限の動きで宮殿を観察していた。 
 と、そんな彼の横にユピリアが立った。
「責任者出てこーい!
 ……なんて言っても出てこないだろうけど。
 このタイミングでって、よっぽど知られたくない事があるのかしら。
 アッシュが原因というより、アッシュを知る『誰か』が一連の出来事に関わってるって考えるべき?」
「『誰か』にとって都合の悪い『何か』が宮殿にあるって事か」
「何って――」
 言いかけてユピリアはハッとする。

銀の鏡で建物を照らして。望むものが得られます

 その言葉を思い出していた彼女の代わりに口を開いたのは、アレクの頭の上でコンピュータを駆使して何かを調べて居たポチの助だ。
「アレクさん『銀の鏡』は宮殿の中です!」
「Heinz!」
「Ja.」
「『お前が一番早い』――!」
 上官の声に反応して、ハインリヒが走り出した。ユピリアは慌ててその背中を追い掛ける。
「サポートするわね。あ、銅像は避けるから、その時はよろしくね★
 だって陣に怒られたくないんですもの」
 冗談めかした言葉に、ハインリヒはくすりと笑ってユピリアの手を引いた。
「ごめんじゃあ本気で走るよ」
「分かっ――きゃああああああッ!!!」
 コマンダーのトップスピードに引き摺られるユピリアの悲鳴が響く中、アレクは近くに居た翠をつかまえて、ハインリヒとユピリアに向かって『放り投げた』。
「Cover!(米*援護しろ!)」
 アレクの声に反応したのは、何だ彼んだ言っても実はアレクの手伝いにきていた縁の銃弾だ。翠へ向かって飛んでくる弾丸植物の種を、斬り裂く葉を、正確に撃ち抜いていく。
「魔弾というのはこうやって穿つのだよ!」
 弾丸植物に対抗心を燃やす声にふっと笑って、アレクは飛んでいく翠へ叫んだ。
「翠、切り開け!」
「わかったよアレクおにーちゃん!」
 空飛ぶ翠のデビルハンマーのフルスイングが、彼等に襲いかかる植物と銅像の間に『道』を作る。
「サリア! 瑠璃!」
 横から伸びてきた緑をアレクの指示を聞いたサリアが『朱の飛沫』で、瑠璃が『ファイアストーム』で燃やし尽くして行く。
 葵の生み出す念力の波動が荒れ狂うため、それらは勢いを増しているようだ。
 連携の中伸びて行く『道』をハインリヒがどんどん進んで行くのに、ユピリアはスキルで懸命に素早さを上げているが、それではどうも間に合わないようだ。
「策敵だけお願いするよ。後ろは集中出来ない」
 言うが早いがハインリヒはユピリアを横抱きに抱き上げて走り続ける。
 宮殿の庭園をお姫様抱っこで駆け抜けるカップル――見た目だけはロマンチックだ。スピードを考えなければ。或は隣で焼け落ちる草木が無ければ。または背後に響く銃声が無ければ。
 ユピリアにはその『或は』や『または』が見えていないらしい。
「駄目! 私には陣が!!」と、彼女は言っているものの、当の陣と言えば
「いいからさっさと扉に辿り着いてくれ!
 銅像避けて戦うのキッツイんだよ!!」と、植物を焼き払うのに必死なようだ。
 炎を吐き続ける彼等の額には汗が滲むが、ティエンの歌が彼等の力を内から呼び起こし、支え高めている。
 炎で抑えきれない銅像は、皐月の『天のいかずち』と、ウルディカの援護を受けながらゴルカイスがその巨体に見合わない軽い身のこなしで攻撃を叩き込んで破壊した。
 考古学を修めるグラキエスはパートナー達が破壊した銅像を見下ろして苦い表情だが、口を出しはしなかった。
 何かいうよりも自分で行動した方が良いと、氷で銅像の前に壁を作り、重力を操って動きを鈍らせる。
 連携に行きは2、30分掛かったルートを、帰りは数分でという具合で、宮殿はみるみる近付いていく。
「六時の方向! 四時! 後ろ、左! ええと八時!!」
 ユピリアが指示する方向に宙に浮いたカービンことスヴァローグが、正確な攻撃を撃ち込んでいる。そんな風に順調に進む中で、彼等の目の前に無数の蓮が葉を広げ立ちふさがった。
 と、ハインリヒが突然ユピリアを地面に降ろし、彼女の耳を両手で塞ぎ声を上げた。
「Feuer!!(*撃て)」
 主人の命令に呼応して、数百に分裂したスヴァローグが前方へ一斉に銃弾を放つ。植物の葉は、蜂の巣の状態からやがて跡形も無く消え去った。
「…………な……」
 ユピリアがそんな風にぎょっとしていたのもつかの間、ハインリヒはまた彼女を抱えて走り出す。
「忙しねえなあ」
 斬り裂く植物を根元から『伐採』しつつ、カガチが呟いた。
「ああ、だが御陰様であとちょっとだ!」
 ニッと――何処か楽しげに口の端を上げたアレクが、パートナー達が何か仕出かさないようにと大人しめのスキルばかり使用していたミリアへ向かって手を伸ばす。
「はぁ……えーっと……」
「いいから!」
 言われるのに諦めて手を取ると、アレクは空いた片方の手を背中へ向ける。
 直後。ミリアは自分が猛スピードで『道』の中を飛んでいる事に気がついた。
 自ら作り出した氷壁を蹴る勢いでもって、アレクが跳んだらしい。異常な能力に混乱しているミリアに、アレクは跳びながら説明する。
「落ちたら剣を使え」
「はい!?」と、言葉を交わせたのは此処迄。
 気付けばミリアは敵のまっただ中、植物達の葉の上に立っていた。
 一体此処で、何をどうしろというのか。
 ミリアが恨めしい顔で見上げるのに、一つ高い位置の葉の上でアレクが後ろを指差した。
 それでミリアの目に飛び込んできたのは、サリアと瑠璃が散撒いている炎が、異形と化した植物……だけでなく、庭園の美しい花々や芝生を包んでいくまさにそのシーンだった。
「ミリア。
 急がないと、お前のパートナー達が世界遺産で『火事を起こす』ぞ」
 言葉の次の瞬間、ミリアは『機晶魔剣・雪華哭女』を宙でぐるりと回して勢いを付け、そのまま植物に向かって突き立てる。
 柄を握る拳から彼女の力が振動していくように、刃から絶対零度の冷気が植物を襲った。
 それらは根から根へと伝わって行き、やがてハインリヒとユピリアの居る場所に立ちふさがる植物まで到達する。
「全部凍っちゃったわ……」
 目を丸くするユピリアの耳に、上から上機嫌な声が降ってきた。
「Super!(*やったね!)
 僕スケート得意なんだ!」
 それはブレードの方か、ボードの方か、ユピリアが質問する間はやっぱり与えられなかった。
 凍った植物を駆け上がったハインリヒが、宮殿へ向かって氷の上を一気に滑り降りる。
 可哀想なユピリアの悲鳴が遠くから木霊してくるのに、契約者達は同情していいのか吹き出していいのか分からず、眉を顰めたまま口角をあげるという変な顔で、一斉にケラケラと笑い出した。