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終りゆく世界を、あなたと共に

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1.触手大魔王VS秘密結社VSロボット+目玉

タイトル『どうか夢でありますように! 来た! 世界が終わる日!』

「きゃあー!」
「むっ!?」
 突然、衣を引き裂くような女性の悲鳴が聞こえコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は振り仰ぐ。
 そして、目を見開いた。
 巨大な触手を生やした物体が2人の女性にその触手を巻き付け、謎液体で衣服を溶かしながら襲い掛かっていた。
「あれは……人々を触手で絡め取り、快楽と恍惚の狭間でビクンビクンさせながら世界を終末に導くという伝説の怪物……『触手大魔王』!」
 必要以上に説明がかった台詞と共にポーズを決めるコア。
「見過ごすわけにはいかぬ……蒼空戦士ハーティオン、参る!」
 言うが早いかハーティオンは大空へと飛び立った。
「大丈夫か!?」
「あっ!」
「きゃあっ!」
 ひとまず、2人の女性を救い出す。
「君達はそこで見ているんだ。今、触手大魔王に止めを……」
「待って……」
「待ってください!」
 しかし、救われた女性……まだ少女と見紛う2人は、今にもその身からはらりと落ちそうなほどただれた服も気にせず、慌ててハーティオンを止めようとする。
「どうした?」
「あれは……」
「あの、触手の正体は……!」

「未来。下ガッテイルノダ」
「お、お父さん……」
 夢宮 ベアード(ゆめみや・べあーど)は、自身に縋りつく夢宮 未来(ゆめみや・みらい)の肩をそっと抱いた。
「でも、このままじゃハーティオンさんもあいつに敵わないかも! あたしがハーティオンさんの代わりに……」
「イヤ。ハーティオン亡キ今、オ前ヲ守レルノハ我輩ダケ……」
「お父さんハーティオンさん死んでないよ」
「我輩ノ真ノチカラデ触手大魔王ヲ討ツ!」
 ベアードはずずいと前に進み出ると、失われし大いなる呪文を唱え始める。
『エーライヤッチャエーライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ……(注:失われし大いなる呪文)』
 と、みるみるうちにベアードは巨大化していく。
「触手大魔王ヨ! コノ『大怪球バグベアード』ノチカラ……受ケヨ!」
「お父さん……カッコイイ! ガンバレー! お父さんー!」
「オォオオオ……!」
 未来の声援を受け、ベアードは触手大魔王に向けて転がっていく。
「あっ、駄目です!」
「待って、兄さんが……っ!」
 少女の声も聞かず、触手大魔王に直撃する。
 どごっ……すぽーん!
 衝突した勢いで、触手大魔王が分離した。
 吹っ飛んだその一端に、先程まで触手に襲われていた少女たちが駆け寄る。
「兄さん!」
「ハデス様!」
「……ククク、ハーッハッハッハッハ! 見たか我が発明品の力……ではなく、おのれ触手大魔王め……よもや我らが取り込まれるとは!」
 触手大魔王から現れたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)
 襲われていた少女は高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)だった。

 ――1時間前。
「どうやら、オリュンポスの真の目的を明らかにする時が来てしまったようだな」
 世界の終末に直面したハデスは、秘密結社の構成員を前に語り出す。
「我らオリュンポスは、来るべき世界の終焉(ハルマゲドン)に対処するために、密かに結成された秘密結社なのだ!
「ええっ!」
「えーっ!」
 最終回にしてついに語られるオリュンポスの真意!
「今まで疑っててすみませんでした、兄さん! 私も微力ながら、秘密結社オリュンポスの一員として、 最終決戦(ラグナロク)に協力します!」
 ハデスの言葉に衝撃を受けながらも、咲耶の目には、世界を救う強い意思が宿っていた。
「兄さんが私を改造人間にしたのも、この日のためだったんですね! 今まで嫌がっていてごめんなさい!」
 咲耶は魔法少女へと変身する。
「悪の秘密結社オリュンポスが、正義の組織だったなんて…… わかりました、今回は、この正義の騎士アルテミスも協力しましょう!」
 アルテミスもまた、最終決戦(ラグナロク)を前にオリュンポスへの協力を誓う。
「さあ、今こそ、我らの任務である最終決戦(ラグナロク)に出撃するのだ!」
「了解シマシタ、めかはですニ合体シマス」
 ハデスの命令を受け、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)はハデスと合体を果たす。
「我が力、見るがいい!」
「たーげっとえらー。敵味方ガ識別デキマセン」
 が、お約束通り即座に暴走した。
 触手を蠢かせ、謎の光や謎の吹雪を発しながら進むその姿はまさしく触手大魔王。
 世界の終末を救うものにして世界の終末そのもの、それがハデスの発明品だった。

「ヒャッハー! 綺麗サッパリ燃やしつくしてやるぁ!」
 抗いがたい終末を前に、マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)は火炎放射器を両手に持つと周囲の物を燃やし続ける。
「燃えろ燃えろ燃えろぉぉぉぉおお! ヒャッハぁぁぁアア!」
 その目にあるのは狂気か絶望か。
 家を車を目に入るもの全てを燃やし爆破し破壊する。
「駄目……止めるんだ!」
 カル・カルカー(かる・かるかー)はそんなマイトをなんとか押し留めようとするが、マイトの耳にカルの言葉は届かない。
「くっ、仕方ない…… なら、教導団員として僕ができることは……っ」
 マイトの暴走を止められないと悟ったカルは、周囲に少しでも被害が広まらないよう、人と交通の整備を始める。
 マイトだけではない。
 暴徒、そして触手大魔王から少しでも人を守るために。
 ――いや、少しでも心穏やかに「最後の時」を迎えることができるように。
「――あなたは、怖くないの?」
 カルの隣に立ったアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)が問う。
 その手にあるのは、買い物袋。
 日常の象徴だ。
「これまでさまざまなもめ事を解決するために、やむを得ないとはいえ、多くの暴力でもって対応をしてしまいました。強力な兵器でもあるイコンで、自らそうありたいとあってそのようになったのではない、あわれなものどもをうちはらい、塵に戻しました」
 アリアンナの隣では、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が終始何かをぶつぶつと言い続けていた。
 そんなロレンツォを気にすることなく、アリアンナはカルを見る。
「みんなで一緒に迎えることですから。……だから、怖くなんかないですよ」
 周囲に、そして自分自身に言い聞かせるようにカルは答えた。
 しかしその手は僅かに震えているようにも見えた。
「あの、あなたは……?」
「私?」
 あまりにも平然とした様子のアリアンナに、カルは問い返す。
「そうね……だからといって、特になにをどうしようって気にはならないわね」
 アリアンナは買い物袋を抱え直す。
「自暴自棄になってもいいけど、クレジットカード使いまくって買い物しまくってもいいけど、もし明日『世界の終わりが、きませんでした』ってことになったら、全部自分で責任ひっかぶって借金まみれにならなきゃならないもの」
 ふふ、と笑ってみせる。
「……かれらとて、やむに已まれぬ事情で暴力という手段に訴えてしまったであろうに。人ならざるものとはいえ、多くの命を散らし刈り取ってきました。込み合った電車の中で、お年寄りが前に来たのに寝たふりをしていたことがあります……」
 その隣では、未だ止むことなくロレンツォが懺悔を続けている。
 この世界が終わり、「次の世界」で善き者として受け入れられてもらうため、彼は現世で行った悪事を告白し、悔い改めていたのだ。
「拾った500円玉で、暑かったからついアイスクリーム食べてしまったのもごめんなさい。5個しかないワッフルを3個半たべたのも、むしゃくしゃしたときにアリさんいじめたのも私です……」
「さてと。明日の朝ごはんは何にしようかしら」
 アリアンナの横に、触手大魔王が破壊した家の破片が落ちる。
 しかし彼女は全く気にすることなく、歩き出した。
「何事にも、最終回はある。それはそれで、仕方のないこと。だから私は普通に過ごすの。普通の――普通におかしい日常を」

 そんなアリアンナの頭上では、普通でない非日常……ある意味日常茶飯事なのかもしれないが……が、繰り広げられていた。
「たーげっと、『えろOK!』」
「きゃぁあああ!」
「いやぁあああ!」
 暴走し触手大魔王となったハデスの発明品は、ハデスと分離した後も暴れ続けた。
 エロOKのターゲットを探して。
 その触手は再び咲耶とアルテミスを捕え、服を、鎧を溶かしてゆく。
 そして見つけたエロOKのターゲットは……
「う、むっ!?」
「ナ……アァアッ!」
 そう、今まさに触手大魔王と交戦中のコアとベアードだった!
 暴走状態なままの触手がコアとベアードを捕えた。
 体に絡まり、侵食し……
「オ……オォオーッ!」
「グ……み、未来、見ルデナイ……」

「……いや、夢オチだよね」
 一部始終を眺めていたラブ・リトル(らぶ・りとる)は思わず突っ込んだ。
「っていうか絶対夢オチにしてよ!?」
 突っ込みというよりも、最早願望。
「こんなのが蒼空のフロンティアの最後のシーンしかもリアクション冒頭だなんて絶対イヤよあたし!」
 既にメタすぎる発言が飛び出す。
「こんな……こんなアホがアホらしいことをアホらしくしながら滅んでいく世界なんて認めるわけないじゃないのよー! ゆめー!、 早く覚めろー! おーねーがーいー!!」
 ラブの叫びが、世界中に響き渡った。


「ヒャッハーヒャっ――はっ!?」
 がばりとベッドから飛び起きると、そこは見慣れた風景だった。
 新居の壁、泣き妹の写真、そして隣で眠っている妻――
 マイトは深く深く深呼吸する。
「夢か……?」
 夢。
 そうだ、全ては夢だったのだ。
 世界の終りも、触手大魔王も。
「……おやすみ」
 マイトは妻を抱き寄せる。
 寝言を言っている妻の頬にキスをすると、抱き寄せたまま二度寝をするのだった。
 いつもと変わらぬ日常のように。