天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

魂の器・第2章~終結 and 集結~

リアクション公開中!

魂の器・第2章~終結 and 集結~

リアクション

 
     〜2〜

 リーン達は外に出て、壁沿いに装置を探していく。
「発電装置……。あるとしたら、外か屋上よね。使える状態で残ってればいいけど」
 そうして歩いていると、正面の角からメティスが曲がってきた。お互いに「あ」という感じで立ち止まり、リーンが話しかけた。先に一組ここに来ている事は、後で合流するだろうから、とモーナ達から聞いている。
「メティスさんよね? 私達も、この研究所にエネルギーを溜める方法を探しに来たの。でも、パソコンの電源がつかなくて……。今、発電装置を探しているんだけど、どこかで見なかった?」
「電源、ですか……」
 メティスは、少し驚いたようだ。
「私もそれを探していたんです。2階のパソコンの中を確認しようと……」
「2階? 2階にもパソコンがあるの?」
 3人は、そこでお互いに情報交換をする。それが終わると、先に外を回っていたメティスが言った。
「建物の周囲は一通りまわったと思います。後は……」

「……ありました」
 自家発電装置の外蓋を外し、中を改める。屋上には蔦は這っているが、モンスターの姿は無かった。まあ、モンスターとしても屋上に来ても大したメリットは無いのだろう。おかげで、隣接するように設置されている貯水タンクもこの発電装置も、使用に耐えられる状態だった。……水は飲まない方が良いかもしれないが。
 発電装置の中には、建物内に電力を供給する為のコード類、それに、1階にあった巨大な機械にもあったようなぽっかりとした穴が開いている。
「ここに機晶石を入れれば、もしかしたら……」
 持ってきた機晶石を入れる。
 その途端、自家発電装置の各部が青白く光り――
 研究所に電気が通り始めた。

                           ◇◇

 その少し前。
「……構想段階とか、一部の人だけでやってた研究の資料は、個人で管理してたかもしれないからな。そういうのって、プライベートな部屋に置いてあったりするかもだし……あ、あった」
 一緒に来た2組より一足早く2階に上がった樹達は、研究者の名の入ったプレートが貼られた部屋を見つけた。ご丁寧に、『寝室』とも記されている。ということは、他に仕事部屋――書斎のような場所も在るのだろう。というか、在る。
「煙草臭いな」
 中途半端にドアの開いた室内に入ると、フォルクスが率直な感想を漏らした。中は、喫煙室独特の匂いで満ちていた。徘徊する獣達もこの匂いが苦手で入らないのか。過剰に荒らされた形跡は無い。ベッドの脇の灰皿には、吸殻の山が築かれていた。
 探索を開始し、樹は早速机の中を確認しながら明るい口調で言う。ちょっとわくわくしているようだ。
「鍵のついた引き出しとか、本棚の奥とか、ベッドの下とかは怪しいよな!」
「……何か根拠でもあるのか?」
 そう聞くフォルクスは、棚に並んだ書物のタイトルを眺めつつ中身を確かめていた。機晶技術に関する研究書も幾つかあったが、8割方は小説だ。SFが多いだろうか。
「特に根拠は……ないけど。へそくりやちょっとえっちな本なんかを隠しそうなトコを挙げてみただけ」
 ……なにを探しにきたんだ。
 フォルクスはそれを聞いて手を止め、微かに小さな笑みを浮かべた。
「……ほう、樹はそのような場所にそのようなものを隠しているのか。戻ったら調べておこう」
 恋人の新情報を手に入れて、からかって楽しむような雰囲気で。しかし、樹はそれをあっさりと否定した。
「いや、俺は本は隠してないよ。持ってないしそんなの」
「……持ってないのか」
 フォルクスは少し拍子抜けした。裏がない。ごまかしているようなニュアンスが残念ながら全然ない。……まあ、実際に持たれていては「………………………………」となってしまう気もするし健全でまことによろしいのだが。
(本は、ということは……へそくりはあるんでしょうか?)
 2人のやりとりを聞きながら、セーフェルは内心でそんな事を考えていた。言葉には出さないが。帰ったら……いや、多分探しはしないけど。
 そんな雑談をしつつ、3人は真面目に室内を探索する。えっちな本とかが実際に何冊かあったが、それは三点リーダーと共に見なかったことにした。やがて、樹が言う。
「……そういえば、ファーシーさんの中にはルヴィさんの銅板があるんだよな。あれにエネルギーを送ってるってことはないのかな?」
「銅板か……そういえば組み込まれていたのだったな」
「……なんか、ふと思ったんだ……。機晶姫も子供を産めるなら、もしかしたら2人の子供が……、新しい魂がそこに宿ることもあるんじゃないかって。おとぎ話みたいな発想で、ちょっと恥ずかしいけど」
「「…………」」
 2人はぴたりと動きを止めた。いきなり何を、と思うのが数秒。
(……子供か……)
(子供……)
 と、それについて考えるのにまた数秒。先に口を開いたのはフォルクスだった。
「魂の誕生や維持にエネルギーが使われているのではないか、ということだな? 今までの経緯もかなり規格外だからな。発想としてはありかもしれん」
「胎児を育てるのと同じように、その魂に栄養……エネルギーを送っているかもしれないということですか? 確かに、御二方の魂も一度は銅板に宿っていた訳ですし……その想いから生まれた魂が宿っても不思議ではないかもしれません」
 セーフェルも言い、樹は安心と照れが混じったような顔で笑った。
「そうか。あり……な考えなのかな」
「……ふむ。戻ったら相談してみるか?」
「うん。モーナさんに言って、確認してもらおう……あれ?」
 机の一番下にある大きな引き出しを調べていた樹が声を上げた。膝のまわりに、チェックの終わった書類が大体一定の高さで積まれている。そして手に持っているのは――

 ホッチキスで止められた紙束の表紙には、ちょっと洒落た感じの腕輪のような物の絵が印刷されていた。上部に太字で『チャージリング』と書いてある。フォルクス達も歩み寄ってきて樹の両脇で中腰になり内容を確認する。
 細かい図と共に難しい事が色々と書かれているが、それを簡単に要約すると、こういう事のようだ。
『このリングは外部から充填されるエネルギーを一時的に蓄え、質や波長を個体に合った形に変換して供給するアダプターの役割をする。指輪・腕輪・足輪の3タイプがあり、エネルギー量などに応じて装着位置と数を変えられる。充填されるエネルギーの種類は問わない』

「……これ、ファーシーさんに使えるんじゃないかな、おしゃれだし。とりあえず、持って帰ってみようか」
「……あ、こんな所に居たのか」
 そこに、隼人がひょっこりと顔を出した。樹の持っている紙束を見て近付いてくる。
「何か見つかったのか?」
「あ、うん、この資料なんだけど……」
 樹が紙束を渡し、それを受け取った隼人は1枚1枚めくっていく度に真剣な表情になっていった。最後まで読み、詰めていた力を抜くと彼は言う。
「外部からのエネルギーを蓄えて変換……。俺が探していたタイプの研究資料だ」

                           ◇◇

「電気は復旧したようだな」
 リーンと政敏、メティスは、まず屋上から2階に降りて書斎に入った。彼女達に気付き、木製のアームチェアに座っていたレンが腰を上げる。何かのレポートのようなものを読んでいる最中だったようだ。床に散らばっていた書類は全て回収されていた。電気については、現在明かりがついていない所を見ると、スイッチをつけて試してまた消したのだろう。
「はい。これでパソコンの中が見られるはずです」
 電源ボタンを押す。レンとメティス、リーンがパソコンが立ち上がるのを見守っている中、政敏は書斎を見回した。研究者の視点ではなく、住んでいた者の気持ちで。
 書斎というだけに机と本棚、パソコンと、煙草のカートンにカップ麺の空き容器。これだけでも随分と生活臭がしていて充分に事足りるようにも見えるが、この部屋にはベッドが無い。仮眠用のソファも無い。仕事机とベッドが同じ部屋にあるというのは、素晴らしく仕事の妨げになる。おそらく、寝室は別にあるのだろう。書斎に食料やコーヒー、煙草が多いのは、研究に1日の殆どを使っていたからか。
「それにしても、この部屋にはモンスターの気配が無いのね。特に来てる感じもしないし」
 眠りを妨げられたパソコンがOSをのろのろと準備している中で、リーンも室内を見回している。その彼女に、政敏は言う。
「ヤニくさいからモンスターも来ないんだろ?」
 めちゃくちゃなのかそうでもないのか判断のつかないその言葉に、リーンは思わず笑ってしまった。
「何、その理由。でも、本当によく煙草吸ってたのね、ここの人」
「煙草も一つの安定剤だからな」
「そういうもんなの?」
「だろ」
「ふーん……よく分かんないわね」
 少し首を傾げつつ、リーンはパソコンに向き直る。それを見ながら、政敏は思った。
(……後で、寝室を探してみるか)
 この部屋には、寂しさと共に主の緊張感も残っている。もう少し力を抜いた人間くさい所に、気持ちを吐き出したノートや日記があるかもしれない。
「アクアの過去の実験データが残ってるかもしれないわ……って、パスワード入力か……」
 リーンは銃型HCを出した。接続ケーブルでパソコンと繋げ、ダウンロードしておいた解析ツールで吸い出せないかと試してみる。
「これでダメなら、HDDごと引っこ抜いて持って帰るしかないわね」
 割と乱暴な手段をさらりと言いつつ結果を待つ。表示された文字は――

『aqua』

「「「「…………」」」」
 パスワードを見た4人が、同じアルファベット4文字を見て沈黙する。4人を代表するように、メティスが呟いた。
「これは……」
「とにかく、中身を見てみるわよ」
 素早くパスワードを打ち込み、中身を片端から精査していく。初めに見つけたのは、この書斎に入り、レンが最初に注目したアクア・ベリルのパーソナルデータ。印刷されていたもの以外に、古王国時代から現在までの研究者達の名前の羅列。彼女に施されて外されていった、数々の武装の『成功例』。
「……アクア・ベリルのデータ……やっぱり、アクアの最後の研究者とライナスさんの知り合いは同一人物だったんだわ。鏖殺寺院……」
 リーンはそう言って、画面をスクロールしていく。
「アクアの製造者は、ウェルス・メリック。最後の……この研究所に住んでいた人は……ユウキ リョウ、か」
 研究者の名前は漢字で結生 遼と書くようだ。
「最近の実験データは、結構詳細に残っているわね」
「アクアさんの身体データはありますか?」
 メティスに聞かれ、リーンは更にデータを探す。
「……ええ、残ってるわ」
「では、そのデータを持ち帰りましょう。ここに未使用のUSBメモリがあります。これだけ容量があれば足りるでしょう」
「そうね。後は、メールが気になるわ」
 データをコピーする傍らでメールソフトを開き、データを一件一件確認していく。作業をしながら考えるのは、チェリーの事だった。政敏が今回の依頼について説明を求めた時、ライナスは、遼が親会社から施設を任されていたと言っていた。寺院の研究者である遼の親会社とアクアは組織として繋がっている。もし、アクアがチェリーの裏切りを知ったら、親会社に連絡を取るかもしれない。
 メールの内容は、どれも実に事務的だった。当然といえば当然だが――。内容も、その日の実験が成功したか失敗したか、取得したデータの報告、など簡素なものである。
(親会社の存在がある以上は、チェリーさんもまだ安全じゃない。メールの経由元は……)
 確認し、銃型HCにその情報を移していく。
「ラスにもこの情報、伝えておいたほうがいいわね。一応、連絡先も教えてきたし……」
 だが、携帯電話は圏外だ。ここは大荒野。もう絶対に、間違いなく圏外だ(前回ミスったので強調してみました)
「……ライナスさんの所から送ろっかな……」