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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 10 廃研究所から持ち帰った物

     〜1〜

「緊急時の避難経路と隔壁の位置か……」
「これがわからないと、どうやって防衛したらいいかわからないからね」
「分かった、少し待っていてくれ」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)に研究所の防犯システムについて訊かれ、ライナスは所内の詳しい地図を取りに部屋の隅にある棚に歩いていく。彼が戻ってくるのを待ちながら、藍玉 美海(あいだま・みうみ)は沙幸に言う。
「沙幸さん、具体的にはどういう風に護衛する予定ですの?」
「うーん、そうだね……、それぞれの通路を順番にまわればって思うけど、1人で1日中ずっとって訳にもいかないし午前中は私、午後はねーさまって感じで見回るのがいいと思うんだもん!」
「時間交代制ですか。沙幸さんは午前中……ということは、まずはわたくしが見回ることになりますわね」
「ねーさま、がんばってね、私は仮眠するんだもん!」
「…………仮眠、ですか……」
「研究所の見取り図だ」
 ライナスが戻ってきて応接テーブルの上に地図を広げ、ボールペンで各位置を指し示していく。
「通路はこのように繋がっている。イコンパーツの研究室は地下にあるが……、室内に非常口が5つ設けられている。避難経路は……こうだな。隔壁を示す記号は、これだ」
「ふーん……結構しっかりしてるんだね」
「この辺りは野盗も多いからな」
「あと、非常ベルみたいなものとかはあるのかなっ? 何かあった時にみんなにお知らせできるようなのとか」
「ああ、その印はこれだな。使ったことはないが……多分、鳴るだろう」
「技師や助手の皆さんの中に、戦闘の出来る方はいらっしゃいますか?」
 防衛の際には、研究所のスタッフにも協力してもらった方がいいだろうと考え、美海が言う。避難誘導をする時や、技師達を直接護衛する人員も必要だろう。
「ああ、そこそこ出来る者が多いが……」
「出来れば、紹介していただきたいですわ」
「……そうだな、あそこの助手に案内、面通しさせよう」
 そうして、ライナスは助手に指示を出す。沙幸達は彼について部屋を出て行った。洗濯籠を抱えたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、彼女達を見送ってフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)に言う。
「鏖殺寺院関係の人達が来る可能性は否定し切れませんよね……。私達もその点だけは注意しましょう〜」
「そうですわね。ここに来る時も何事もなく、とはいきませんでしたから」
 フィリッパは洗濯機に液体洗剤を入れながら柔らかに答える。
 洗濯機がごいんごいんと稼動を始めたところで、メイベルとフィリッパは籠を持って外に出た。以前もここに来た彼女達にとっては勝手知ったる他人の家、という所で動きに迷いが無い。2人は屋上に上がり、洗濯物を一枚ずつ干していく。
「野盗の類でしたら少々数が多くても研究所に残った人たちなら十分対応できるでしょうけれど、先日起きた事件も寺院の人の犯行だったようですし、ここには原因であるバズーカがありますから〜」
 ライナスやモーナの命を狙ってくる者が居ないとも限らない。
「これまでの事からすると、発掘が終わったら絶対、ピノちゃんもラスさんについてきそうですよねえ。ファーシーさんがいらっしゃるまで無事に過ごせるといいのですが……」
 この3人が、後でこんなことが有ったよねと笑って思い返せるようにしたい、とメイベルは思った。
「勿論、杞憂に終われば一番ですぅ」
 そこで、ポーリアが屋上に上がってきた。どこか申し訳なさそうだ。
「お2人共、ありがとうございます。家事はなんとか、私がやっていたんですけど……」
「気にしないでくださいですぅ。お世話になっているのですから、せめてこのくらいのことはいたしませんと。特にポーリアさんは身重ですから、あんまり動くと体に障りますぅ」
「これだけ人数が増えますと、1人では賄いきれない部分も多くなってくると思いますから、無理しないで大丈夫ですよ」
 ポーリアはふ、と下を見て苦笑する。
「ふふ、本当に賑やかに……。わかりました。じゃあ、よろしくお願いしますね」
「適度な運動になる程度にお手伝いしてもらえればと思いますぅ」
 彼女が戻った後で、フィリッパは改めて気合を入れた。
「彼女に負担をかけないためにも、頑張りませんとね」

「あ、ポーリアさん!」
 下に戻ったポーリアに、厨房からセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が顔を出した。良い香りが漂ってくる中に入っていくと、お鍋の中でぐつぐつと野菜や肉が煮込まれている。
「これからメインも作っていこうと思ってるんだけど、このスープ、ちょっと味見してほしいなって。前と同じ味付けにしてみたけど、ライナスさんの好みとか変わってるかな?」
 小皿にスープを入れて味見してもらうと、ポーリアはにっこりと微笑んだ。
「とても美味しいですわ」
「そっか、良かった!」
 セシリアは笑って次の支度に取り掛かる。食材の下ごしらえをしながら、彼女に言う。
「一気に騒がしくなったと思うけど、ライナスさん、満更嫌ではなさそうだね」
「……そうですね。研究なさってる時はいつも難しい顔をしていましたけど……、なんだか少しいきいきなさっているような……」
「うん、1人が好きみたいだけど、こういうのもいいよね」
 冷蔵庫の中身を覗きながら言い、セシリアはそこでうーんとうなった。
「これだけで、僕達がいるあいだ間に合うかな? 必要なら、ここの周辺で取れる食材を調達してくる必要があるかも」
「食材……狩り、ですか?」
「狩り、だね。食べられる野草とかもあるといいかも」
 そう言ってから、セシリアは笑った。
「まあ、何とかなるように工夫しないとね」
 そこも、料理人の腕の見せ所かなー、と考える。
 廃研究所から8人が戻ってきたのは、そんな時だった。