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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 6 変態課長とえっちな本……もとい、日記回収

 チェリーに変装したシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)は、キリカ・キリルク(きりか・きりるく)にサイドカーから護衛をしてもらいつつ軍用バイクを運転していた。既にオートガードとオートバリアがかかっている。彼女達の左斜め後ろに輝石 ライス(きせき・らいす)の軍用バイク、上空を緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)が乗るヘリファルテが行く。
 現在位置はツァンダとキマクの中間、アトラスの傷跡の手前辺りである。そして、岩が多く突出した地帯に入ったときにシグノーが言った。
「……何かくるっス!」
 殺気看破の反応に従い、シグノーは素早くバイクの方向を変えた。直後に飛んできた銃弾を、キリカがヴァーチャープレートで弾く。弾の軌道は、寸分の狂いも無くシグノーを狙っていた。
「上空から探しましょう」
 ディテクトエビルで策敵しながら、遙遠が静かに高度を上げる。
 シグノー達は時速80キロ程の速さで走っていた。ここまで正確に撃ってきたのだ。敵が狙撃銃を使っていたとしても、遠い場所から狙い撃ちではなく、この近くにいるはず。
「……彼ですね」
 ほどなく、丸い岩の陰に隠れた男の姿が確認出来た。スーツを着た、サラリーマン風の垢抜けない男だ。何となく小者臭がするのは気のせいか。少し離れた、気持ち程度に木々が生えている場所にスパイクバイクが停まっている。あれに乗ってきたのだろう。
 男は、襲撃の失敗と同時にバイクへと走り出した。
「あそこだ!」
 後ろにまわりこみ、霞憐が上からほぼピンポイントで指差して位置を教える。声に反応した男は咄嗟に振り向き、そこを、いち早くバイクから降りたライスがアーミーショットガンで攻撃した。まずはスプレーショットで注意を引きつけながら近付き、再びこちらに正面向いたところでシャープシューターで襲撃者の手元を狙う。話を聞きたいので、気絶するような怪我を負わせる気は無い。
「ちっ!」
 相手の得物は銃剣の付いたライフルだった。それを撃ち落とされ、攻撃者は踵を返す。スパイクバイクに走り寄り、男はそこから火炎放射器を出して構えて攻撃してきた。
 襲ってくる火炎を、追いついてきたキリカがフォーティテュードで緩和する。そこに、シグノーが機晶ロケットランチャーで一気に爆風を放った。血と鉄、封印解凍で攻撃力を上げ、クロスファイアを付加した対イコン用武器の攻撃は男に直撃し、男はスーツを殆ど吹き飛ばした恥ずかしい格好で乾いた土の上を転がった。ライスが銃を使い、スパイクバイクをパンクさせる。
「やったっス! 倒したっスよ!」
「……イコン用の武器とか……卑怯だ……」
 垢抜けないサラリーマン風の男は、垢抜けない火傷まみれの変態男になった。よく見ると、なかなか良い体をしている。腐っても寺院、というところか。燃え残った布で、男は下半身を必死に隠している。
「うわぁ……」
 少し気の毒そうに、しかしまじまじと身体を見ながら霞憐が言う。遙遠が、男に近付いて行く。火炎放射器を拾い上げて仕様を確認する。新兵器とかではなく極普通の火炎放射器のようで多少残念はあったが、とりあえず没収しておくことにした。
「ここにチェリーはいないぜ! 彼女は変装した偽者だ」
 ライスが言うと、男は半信半疑の目でシグノーを見た。
「に、偽者だと……?」
「そうっス! 服を交換したっスよ!」
 シグノーはかつらを取る。金色の短い髪と、ボーイッシュな風貌が現れた。
「なるほど、違うな……しかし、女装に騙されるとは……!」
 悔しそうに男は言う。その悔しさが負けた事から来るのか、騙された事から来るのかは定かではないが。そして女装ではないが。彼らの前に出て、遙遠が男に質問する。
「あなたは何者……は、愚問ですね。チェリーさんを狙ったその目的を教えてください。ただの口封じですか?」
「ただの、か。しかし、ただの、という事ほど大事なことは無い。そうだ、口封じだな。会社としては、これから何をやらかすか分からない女を野放しにする訳にはいかんのだよ」
「……チェリーさんは、もう寺院と関わるつもりはありません。お互いに縁を切る。それで問題無いのではありませんか」
 キリカが言うと、男は拗ねたようにそっぽを向いた。
「それを私に言われてもな……。部長に言ってもらわないと」
「部長……。まるで会社のようですね。ということは、あなたはその部下……。命令で動いただけということですか? 自分の意思ではない、彼女に特に私怨は無い、と」
「……そうだ。鏖殺寺院に所属する一つの会社で、私は課長だ。部長の命令には逆らえない。クビになるからな」
 ……山田太郎といいなんといい、世知辛い世の中である。部長に言ったら専務に言え、専務に言ったら社長に言えと言われそうである。しかし、私怨が無いのならこの男は与し易いだろう。
「チェリーさんがバイクで移動するというのは、どこからの情報ですか?」
「それは、別にチェリーを監視していた部下から聞いた」
 面白いようにぺらぺらと喋る。愛社精神はあまり無いタイプらしい。恥ずかしい格好にされてヤケになっているのか。こんなに喋ったら今度はこの男が口封じされそうな気もするが。
「そうですか……。ちなみに課長さん、この件にアクアさんは関わっているのですか? つまり、アクアさんが直々に部長さんに命令を出したということは?」
「アクア? ああ……それは無い。アクアからは何の連絡も入ってはいない。それに、アクアにそんな地位は無い」
 ということは、アクアはまだチェリーの裏切りを知らないということか。
「地位は無い……。では、あなたの会社は、現在アクアさんに対してどういった処遇をするつもりなのでしょう」
「……特に、何も考えてはいないだろう。アクアは傀儡だ。何も出来はしない。今回のデパートの件も、山田太郎とチェリーが勝手に行った事だと結論づけている」
「…………」
 男の話をまとめるために、皆はそれぞれに沈黙する。やがて、霞憐が言った。
「その会社は、まだチェリーを狙ってるんだな。完全に縁を切るには、どうしたらいいんだ?」
「……そうだな、チェリーが絶対にこちらの情報を漏らさない事が確認出来れば、無罪放免も有り得るだろう。所詮、小者だ。会社も、いつまでも1人の獣人に係っていられるほど暇ではない。
 それか……自分で何らかの落とし前をつけること、だな」
 彼女が小者かどうかは兎も角、相手側にそう思われているのは好都合といえるだろう。霞憐は考える。どうすれば、チェリーがこれから安心して暮らしていけるのか……。
「じゃあ、僕達と一緒に来ないか? 僕達はこれから、チェリーと合流してアクアに会う予定なんだ。そこで、今後チェリーが寺院と関わらないとはっきり分かれば、問題無いんだろ? ほら、課長さんも服が無くて困ってるなら何処かで調達してもいいし」
「…………」
 課長は半裸のまま暫く黙っていたが、ここに放り出されるのも勘弁して欲しかったのだろう。間もなく了承し、一行には半裸の変態課長が1人増える事となった。

                           ◇◇

 実験データも無事にコピーし終わり、リーンはパソコンの電源を切ってUSBメモリをメティスに渡した。
「はい、メティスさん」
「ありがとうございます」
 メティスはそれを、大事に仕舞った。アクアの身体データ、そして実験データがあれば、機体を元に戻す事もきっと出来る。それで、彼女の『これまで』を消すことは出来ないが、彼女が『これから』を始められると信じて、私はこれをモーナ達に託そう。

 ――書斎での調査は終わった。それを見て取り、政敏が言う。
「ちょっと寝室に寄ってみねーか? 何か、他にも見つかるかもしれない」

『チャージリング』
 これなら、魂に干渉せずにファーシーを歩けるようにすることも可能だろう。
「後は、外部からのエネルギーをどうするか、だな」
 資料を樹に返し、4人でそんなことを話していると、そこに政敏達がやってきた。
「ここが寝室か……」
「お疲れさま、何か見つかった?」
「ああ、ファーシーの修理に役立ちそうな研究データがあったぜ」
 全員が集まった所で、それぞれが手に入れた情報を交換し、整理する。一方、政敏はベッドの下に手を入れていた。
「こういう所に、良く……」
 良く何があるのか。彼の様子を見て、樹達が「あ」という顔をする。そういえば、えっちな本とかへそくりについて話すだけ話し、まだ実際には調べていなかった。というか、調べる前にリングの研究資料が出てきたのだが――
「……あった」
 どこぞの通販サイトから届きそうなサイズの、蓋無しのダンボール箱。その中には――
 よれた白衣を着た男性の写真と、数冊の大学ノートが入っていた。