リアクション
第三十四試合 『さて、気をとりなおして参りましょう。続いての登場は、ネクロ・ホーミガこと鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)選手と、執事君こと彩九龍選手です』 「ははははははは」 名前を呼ばれて、武舞台そばに立てられた照明灯の上に立った人影が笑い声をあげた。 『貴仁、ちょっと、ここは高すぎるんじゃ……』 「ええっと、俺も怖いから、すぐ下りるから」 鬼鎧となっている鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)にそう答えると、鬼龍貴仁が照明灯から武舞台にむかって飛び降りた。 『ちょ、ちょっと、これ下りると言うより落ちて……。きゃあああああ……』 ぐゃんと、鬼龍貴仁が武舞台に激突した。ちょっと嫌な音がする。 『ええと……』 さすがに、シャレード・ムーンとしても声が出なかった。 だが、一呼吸おいて、ゆらりと鬼龍貴仁が立ちあがった。リジェネーションとナノ治療装置がフル稼働したらしい。 「ネクロ・ホーミガ……参上……!!」 『なんと、鬼龍貴仁選手、生きてます。では、試合を始めましょう』 「おばあちゃんが言っていた。正義とは俺自身、俺が正義だと。あ、そして、最初に言っておく、俺は、かーなーり、強い。あ、ちなみにこれ、パクリじゃないから、リスペクトだから。てなわけで、そこのお前、この俺にやられとけ」 「はあ、それは承りかねます」 鬼龍貴仁の口上にちょっと呆れながら、執事君がいつもの癖で深々とお辞儀をした。 「そこ」 容赦なくその瞬間にゴッドスピードで近づいた鬼龍貴仁が、執事君の頭の上の風船をペチッと割った。 「あっ……あああ!!」 しまったと執事君が叫ぶが、もう遅い。 「すまんな。だが、これも勝負の結果だ」 当然の結果だと、鬼龍貴仁が勝ち誇る。 「馬鹿か、あいつはあ!!」 試合を見ていたお嬢様が、観客席で叫んだ。 「大丈夫。まだわたくしがおりますから。あいつは後でシメますので」 なだめるように、メイドちゃんがお嬢様に言った。 『勝者、鬼龍貴仁選手です』 第三十五試合 『続いては、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)選手対、神戸紗千選手です。毒島大佐選手、シンボルのカチューシャを頭につけて武舞台の中央に進みます……、が、ちょっと影が薄くありませんか、あれ。対する神戸紗千選手、堂々と中央で背中にシンボルの熊ちゃんバッグを背負って待ち構えます』 「神戸紗千、タイマンはらせてもらうぜ」 特攻服の裾を風に激しくはためかせながら、眼光鋭く神戸紗千が毒島大佐に言った。 試合開始のゴングが鳴る。 「まあ、そんな野蛮な。まずは握手から始めましょう。ねっ♪」 完全な裏声で言いながら、毒島大佐が手をさし出した。 「おいおい、もう試合は始まってるのよ」 「いやーん。こわーい」 きゃぴるーんと怖がる毒島大佐に、神戸紗千がキレた。 「いいかげんにしろ!!」 思いっきりパンチを繰り出すが、その瞬間に毒島大佐の姿が忽然とかき消える。 「ミラージュか!」 「あははは、死ね!」 武舞台の隅から聞こえた声に神戸紗千が振りむいた瞬間、背中の熊ちゃんバッグが無残に燃え千切られた。 高速ですれ違った、フラワシ、ソリッド・フレイムの仕業である。 「あははは、や、やったあ」 武舞台の角っこに膝をかかえてガクブルしていた毒島大佐が、光学迷彩を解いて姿を現した。 『勝者、毒島大佐です!』 第三十六試合 『アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)選手の不戦勝です』 第三十七試合 『さあ、続いては涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)選手対、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)選手です』 「かーれーんー、頑張れ、頑張れ、かーれーんー!!」 イルミンスールの校章の描かれた巨大な応援旗を振り回しながら、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が叫んだ。 場所が限定される武舞台での戦いではレールガンが撃ちにくいと言うことで、今回はカレン・クレスティアの応援に徹している。 「一応、魔法の修行は怠ってはいなかったようだからな。頑張って成果を見せてもらわねば困る」 成果を期待して、ジュレール・リーヴェンディがつぶやいた。 肝心のカレン・クレスティアは、目深にローブを被って顔を隠し、空飛ぶ魔法でふわふわと宙に浮かびながら武舞台に進んで行った。 「我の血肉となる贄はお主か?、我を満足させてくれるとよいが……」 顔を見せず、あくまでも謎の恐ろしい魔法使いを演出しながら、カレン・クレスティアが言った。胸には、黒真珠のペンダントが下げられている。 「ええっと、同じ学校の人だから、カレン君だったかな」 サイコロを二つ繋げたペンダントを首から提げた涼介・フォレストが訊ねた。 「な、なぜ、その名前を……」 カレン・クレスティアが焦る。それに対して、涼介・フォレストが、カレンの名を連呼しているジュレール・リーヴェンディの方をスッと指し示した。 「あちゃー」 頭をかかえたカレン・クレスティアがフードを跳ね上げて顔を顕わにする。 「悪いね……でもこれが、ボクの伝説の始まりなんだ。宿り樹に果実のコーヒー回数券はいただいたよ!」 空中から見下ろしながら、カレン・クレスティアが言った。 「誰が、回数券を出すと言いましたか!」 聞いてないと、涼介・フォレストが叫んだ。 『さあ、魔術師同士の戦いとなるのでしょうか。試合開始です!』 「門にして鍵、一にして全、全にして一たるモノの力を以て我が魔力を開放せん」 「このみなぎる魔力、全て開放するよー!」 涼介・フォレストとカレン・クレスティアが、同時に禁じられた言葉を使って魔力を開放する。 「万物の根源たるマナよ、凍れる炎を以て我が敵を討て! フロストフレイム!!」 「纏めて、吹っ飛べー!!」 凍てつく炎と風術がまっこうからぶつかり合った。拮抗した魔力が、互いに敵の力を跳ね返して左右に飛び散って消えた。その爆発にも似た魔力の余波に、空中のカレン・クレスティアが激しくゆられ、地上の涼介・フォレストが思わず身をかがめる。 『おおっと、のっけから、激しい魔法勝負になりました。では、両サイドのインタビューをお聞きいただきましょう』 二人が態勢を立てなおす間に、シャレード・ムーンがリングサイドレポートを入れる。 『ええっと、が、頑張ってほしいです』 かちんこちんに緊張したジュレール・リーヴェンディが、エクス・ネフィリムにむかって答えた。 『頑張ってねー。負けたら晩御飯なしですよー』 応援に来ていたミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が、にこやかにディミーア・ネフィリムに答えた。 『さあ、両選手、新たな魔法の詠唱に入りました』 カレン・クレスティアの足許には、地獄の門の魔方陣が浮かびあがり、次の一撃を強化し始めた。 涼介・フォレストの方も、英知の精霊を呼び出して、必殺の一撃のタメを作る。 「今度は押し切る!!」 再びカレン・クレスティアが風術を、涼介・フォレストが凍てつく炎を放った。 再び二つの魔力が真正面からぶつかり合う。瞬間、力と力が鬩ぎ合い、押し引きが続いた後に、突然均衡が破れた。無理に押し出された魔力が、反発し合って術者に戻る。 「ちょ、ちょっと、やり過ぎ!?」 「押し切れなかったか!?」 自らの魔法に吹っ飛ばされて、二人共に武舞台の外へと弾き飛ばされる。 『両者リングアウト、相討ちです。今日の夕御飯が心配になります』 |
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