リアクション
第二十七試合 『続いては、立川 るる(たちかわ・るる)選手の登場です』 シャレード・ムーンに呼ばれて、ケスケミトルを着た立川るるが、モデル歩きでつかつかと武舞台に上がってくるりとターンした。 『対するは、カリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)選手です』 名を呼ばれて、黒いコートを着たカリギュラ・ネベンテスが、赤い薔薇をつけたヴァイオリンを奏でて返事代わりにした。 『それでは、試合開始です』 「さあ、デュエルスタートよ。オシャレコンジュラーカード、ドロー! ドクター・ロバートを場にセット」 立川るるが、持っていたカードを一枚引き抜いて見えない鎧の腕に装備した。 「何をしているんやか。だが、ボクのヴァイオリンは一味違うで。武器としても、よっぽど使えるんや」 立川るるの攻撃方法がよく理解できず、カリギュラ・ネベンテスがヴァイオリンを弾き始めた。いや、はっきり言って、こっちの戦闘方法の方が謎である。 「うきゃあ、何この音。音楽じゃなあいよお。ええい、ドクターロバートの効果発動! 運勢アップで次の攻撃は決まるハズ!」 そう叫ぶと、何かがみっちりと詰まったエコバッグを振り回して、立川るるが突っ込んでいった。 「そんな攻撃、この弓一本で……なんやなんや!?」 突っ込んでくる立川るるをヴァイオリンの弓で払いのけようとしたカリギュラ・ネベンテスが、突然身体が動かなくなって焦った。 観客のコンジュラーたちの目には、カリギュラ・ネベンテスを羽交い締めにしているドクターロバート形態のノーホエアマンの姿が見えていたことだろう。 「るるアターック!! トマトになりなよ」 「げぼっ!」 振り回されたエコバッグの直撃を受けて、あっけなくカリギュラ・ネベンテスが倒れた。放り出されたヴァイオリンから花弁が散っていく。 『勝者、立川るる選手です!』 第二十八試合 『それでは、第二十八試合、秋月 桃花(あきづき・とうか)選手です』 「いけいけ、それいけ、桃花っ!」 観客席の前にあるお立ち台で、チアガール姿の芦原 郁乃(あはら・いくの)が、ボンボンを振り回して応援をしている。 『応援も熱を帯びて参りました。左胸に桃の花のコサージュをつけた秋月桃花選手、今武舞台に立ちます』 「凄いぞ、強いぞ、桃花っ!!」 もう熱が入りすぎて周囲が見えない芦原郁乃の応援に、秋月桃花がちょっと頬を赤らめた。 『対するは、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)選手です』 「よろしくう、お願いしまあすう」 ミニシルクハットの先に紙風船をつけたチャイ・セイロンが、お辞儀をした。 「こちらこそよろしく……」 「L・O・V・E・桃花っ!!」 挨拶を返そうとした秋月桃花の声が、芦原郁乃の絶叫でさえぎられる。 『ええっと、試合、開始したいと思います』 シャレード・ムーンの言葉と共に、秋月桃花がヴァーチャースピアを構えた。 「そういう戦い方ですかあ」 チャイ・セイロンが、ステッキでトンと床を叩く。 「桃花、参ります」 秋月桃花が、ライトニングランスで突っ込んでくる。迎え撃つチャイ・セイロンが、再びステッキで床を突いた。その場所から、次々に火柱が噴きあがって秋月桃花にむかって行く。 火柱にかすめられながら、秋月桃花がランスを突き出した。避けるチャイ・セイロンの紙風船が突き刺されて破裂する。だが、同時に秋月桃花のコサージュも燃え落ちていた。 「ああっ、おっしいー。でも、よくやった。桃花ぁ〜っ! あらためて惚れなおしたぞぉ〜っ!!」 挨拶を交わして武舞台から下りてきた秋月桃花を、芦原郁乃がだきしめて叫ぶ。 『両者相討ちとなりました』 第二十九試合 『さあ、次は、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)選手対、ランちゃん選手の対戦です』 「さてと……」 観客席にいたエリシア・ボックが、重い腰をあげた。 『応援しています、頑張ってください!』 携帯を操作すると、エリシア・ボックは、さっき御神楽 陽太(みかぐら・ようた)から送られてきたメールをもう一度見た。 「おねーちゃん、頑張ってー!」 ゴーレムの肩という特等席に乗ったノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、お菓子をかかえながら手を振っている。 「まったく、相変わらずですわね」 箒に横座りに乗ると、エリシア・ボックはスーッと武舞台の上へと移動した。マントを翻しながら、ふわりと武舞台の上に降り立つ。胸には、真っ赤な薔薇の花が飾られていた。 「きちんと挨拶したいと思います」 ランちゃんが、抱負を述べた。頭の上には、紙風船を載せている。 『試合開始です!』 「さあ、いきますわよ。わたくしが相手ですわ」 エリシア・ボックが、魔法の詠唱に入る。 「そーれ」 その瞬間、ランス姿になったランちゃんが分裂して床のあちこちに突き刺さったように見えた。 「魔女の炎は特別製ですわ!」 「わきゃあ。こ」 エリシア・ボック渾身の火術を、ランちゃんが受けたが、倒れたランちゃんとは別のランちゃんがまだ武舞台をピョンピョンと跳ねて走り回っていた。いくつものランスが、ビョンピョンしているのも、奇妙奇天烈な風景ではある。 「まさか、ミラージュ? でも、見切りましたわよ?」 「うわーい。ん」 次は雷術だったが、これもランちゃんを倒すが、別のランちゃんが健在だ。 「凍てつきなさい」 「おっと。に」 氷術で凍る床にランちゃんがつかまるが、それも本物ではなかったらしい。 「甘いですわ!」 「えっと。ち」 光術の光弾がランちゃんを貫いたが、本物ではない。 「吹っ飛ぶがよいですわ」 「やだやだやだ。は」 真空波が飛んだが、それもランちゃんの偽物を吹っ飛ばしただけであった。 「こうなったら、全て吹っ飛ばしてあげますわ!! トドメですわ!」 業を煮やしたエリシア・ボックが、天のいかづちでただ一人残っていたランちゃんを狙った。 「うきゃあ!」 「はうあ!」 命中して、人間の姿に戻ったランちゃんが吹っ飛ぶ。 華麗なる連続魔法を披露してゼイゼイと肩で息をしていたエリシア・ボックのおでこに、すぐ近くから飛んできたランちゃんのおでこが激突した。 ほとんどとばっちりのように気絶したエリシア・ボックの薔薇の花が、身体の下で潰れる。 『なんと、両者相討ちです。ええっと、一体、今何が起きたのでしょうか』 『多分、剣の結界で自分のダミーを作ってエリシア選手の目を欺いたんでしょう。その他種族だからできる実に卑怯な特殊技です。よい子はまねしてはいけないよ』 シャレード・ムーンに振られて、湯上凶司が適当に解説した。 「大丈夫、今治療するよ」 戻ってきたエリシア・ボックの額のたんこぶを治療しながら、ノーン・クリスタリアが御神楽陽太に『負けちゃったみたい』とメールで報告した。すぐさま、『報告ありがとうございます』というタイトルでメールが戻ってくる。 「えっと…おねーちゃん元気だして。おにーちゃんからメール来てるよ。ええとね、『えっと…あまり気を落とさないでください』だって」 「心配されてしまうとは、わたくしもまだまだですわね」 しょんぼりと、エリシア・ボックが言う。 「それでね、『明日の晩、空京ロイヤルホテルに来れますか? 俺と環菜とエリシアとノーン…みんなで美味しいディナーを食べましょう。もちろん、俺の奢りです』だってさ。いこいこー」 心はすでに夕食に飛んでいるノーン・クリスタリアが、エリシア・ボックにせがんだ。 |
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