リアクション
第二十試合 『お待たせしました、試合再開です。まずは、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)選手の登場です』 「頑張れエヴァっち〜。相手に怪我させるなよ〜」 観客席から桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)の声援がとんだ。またぞろエヴァ・ヴォルテールとエリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)が、どっちが強いかで口論となり、決着をこの武闘大会でつけるということになっている。 「軽く捻りあげてくっから」 自信満々で桐ヶ谷煉に応えて、頭に紙風船を載せたエヴァ・ヴォルテールが武舞台に上がった。だが、そこで待っていたのは意外な男だった。 『対するは、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)選手です』 「待ちかねたぞ」 シャレード・ムーンに紹介されて、ブリーフを頭から被った猪川勇平がゆっくりと口を開いた。 「パンツ四天王ブリーフ番長、猪川勇平、参る! 俺を恐れぬなら、このブリーフをみごと脱がしてみせるがいい」 そう言い放って、高らかに笑い声をあげる。 「もうやだ帰……っちゃったら、エリスと決着がつかないか……。そこのふざけたお前、蜂の巣にしてやるからさっさとかかって来な」 エヴァ・ヴォルテールが銃を構えて挑発する。だが、まだゴングは鳴っていないし、猪川勇平は高笑いを続けたままである。 「早くゴング鳴らしな」 放送席の方を振り返ってエヴァ・ヴォルテールが叫んだ。あわてたようにゴングが鳴らされる。 「行くぜ、紅の烈閃撃!」 その瞬間、猪川勇平が白竜鱗剣「無銘」から錬獄斬を放った。 ふいをつかれたエヴァ・ヴォルテールが銃を乱射して応戦しようとするが遅かった。剣の軌跡のままに広がった炎が、エヴァ・ヴォルテールをつつむ込む。頭の上で、紙風船が燃えて灰となった。 「こ、こんなブリーフ野郎に、あ、あたしが負けるだとぉー!?」 「ふはははははは。ブリーフの力を甘く見たな!」 がっくりと崩れ落ちるエヴァ・ヴォルテールとは対照的に、猪川勇平が勝ち笑いをあげた。 『勝者、ブリーフ番長』 第二十一試合 『えー、次はパンツのでない試合が行われることを祈りましょう。アーシュラ・サヴェジ(あーしゅら・さう゛ぇじ)選手対、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)選手です』 「アーシュラ、頑張れー」 客席から、ニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)の声援が飛ぶ。荒っぽいことは性に合わないので、今日はアーシュラ・サヴェジたちの応援だ。 「行ってきます」 ニーナ・フェアリーテイルズに声をかけると、アーシュラ・サヴェジは武舞台への階段を上っていった。 ふくらんだその左のつけ袖には、掌大の大きな缶バッジがシンボルとして留められている。 「アーシュラ・サヴェジと申す、我が名にかけて騎士として誇り高き戦いをこの剣に誓おう!!」 両手で持った剣を胸の前で上にむけて掲げながら、アーシュラ・サヴェジがよく通る声で呼ばわった。 「儀礼正しき名乗り、恐れ入ります。では、私も、全力で礼をお返ししましょう」 ウィングソードを抜くと、アルディミアク・ミトゥナもそれを掲げて応えた。もう一方の手には、ウィングシールドが携えられている。共に、飛行能力を有する剣と盾だ。シンボルは、ゴチメイ隊のホワイトを示すミニシルクハットに紙風船をつけている。 『さあ、試合開始です』 ゴングが鳴るなり、二人が激しく剣と剣をぶつけ合った。 だが、まっこうからつばぜり合いをするとなると、ロングソードであるアルディミアク・ミトゥナは小回りが利く代わりにパワー不足だ。対するアーシュラ・サヴェジはグレートソードを力を込めて打ちつけてくる。 一撃目で互いの剣が弾かれた後、二撃目はアルディミアク・ミトゥナはシールドでグレートソードを受けとめるのがやっとに見えた。だが、そのあまりの衝撃に、持っていた剣をすっぽぬかせて手放し、盾を構えたまま後ろへと弾き飛ばされる。 「そのまま場外まで押し通す!」 攻撃の手を休めずに、アーシュラ・サヴェジが力を込めてグレートソードを振り下ろしてきた。今や両手で盾を構えたアルディミアク・ミトゥナがかろうじてそれに耐える。 さらに攻撃を加えようとアーシュラ・サヴェジが剣を振り上げたとき、彼女の缶バッジが斬り裂かれて宙に舞った。 パシンと、戻ってきたウィングソードをアルディミアク・ミトゥナがつかみ取る。 「わざと剣を手放したのですか……」 迂闊だったと、アーシュラ・サヴェジが唇を噛んだ。 『勝者、アルディミアク・ミトゥナ選手です!』 第二十二試合 『次は、日堂 真宵(にちどう・まよい)選手……』 シャレード・ムーンが、パチンとマイクのスイッチを切った。 「おのれ、バイトの召喚命令をすっぽかして大会に参加しているなんて……」 「オー、そういえば、真宵、見かけませんでしたネー」 いまさらながらに存在を思い出したかのようにアーサー・レイスが言った。 「とりあえずシメるのは後にして、今は実況を続けるわよ。マイクオンにして」 シャレード・ムーンがアーサー・レイスに指示をする。 『さて、対するは、ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)選手です』 シャレード・ムーンに呼ばれて、漆黒の鎧に身を固めてフランベルジュを背負ったペコ・フラワリーが武舞台に登ってきた。今回はガチのようだ。鎧の胸には、青い薔薇の花をつけている。 「や、やばい……。むこうマジじゃね?」 シンボルの髑髏マークのバッジをつけた魔女の帽子にチャイナドレスというミスマッチな格好の日堂真宵が、ペコ・フラワリーを見てガクブルした。ノコギリ状に刃が波打ったフランベルジュは、切り口がスパッと綺麗に切れるのではなくギザギザになるので凄く痛そうだ。 『さあ、試合開始です』 「それでは、掃除させていただきます」 すらりと大刀を片手で背中から抜いたペコ・フラワリーが、日堂真宵の方に切っ先をむけて言った。 「ええっと……、の、呪っちゃうんだからね!!」 言うなり、日堂真宵が持っていた人形を床に投げ捨てた。 「うっ!」 思わず、ペコ・フラワリーが顔を顰める。 人形には、今さっき書いたばかりの汚い字で「ペコちゃん」と書いてあった。 「呪います、呪うとき、呪えば、呪え! とにかく呪うのよー!!」 なんだか鬼気迫る様子で叫びながら、日堂真宵が人形をゲシゲシと踏みつける。 「ぐっ、いいかげんに……」 大剣を持って日堂真宵に斬りかかろうとするが、ペコ・フラワリーは苦しんだままで動くことができない。 「き、効いてる? よっしゃあ! げしげしげし!!」 攻撃が効いてると分かった日堂真宵が、嬉々として人形を踏みつけた。 「いいかげんに……しろ!!」 ペコ・フラワリーが、ブンと大剣を横薙ぎに振った。その刃をつつみ込んだ爆炎波が、剣から飛ばされて日堂真宵の踏んでいた人形をかすめる。 「ううっ!」 その身を焼かれるように痛みに、ペコ・フラワリーが膝をついた。 「へへっ、何やってるのよ。自爆だなんて、馬鹿みたい」 日堂真宵が勝ち誇る。 「はたして、そうかな」 剣を杖にして、ペコ・フラワリーがゆっくりと立ちあがろうとした。 「へっ?」 日堂真宵が見ると、人形の名札だけが爆炎波の炎で焼かれている。今の人形は名無しだった。 「やっばー!!」 「覚悟!」 なんとか立ちあがったペコ・フラワリーが、フランベルジュを大上段に振り上げた。 「わわわわ、えい!」 焦った日堂真宵が、水晶髑髏の足枷から水晶髑髏を外して投げつける。 そんな物、投げ石にもならないはずであったが、突如その髑髏が口を大きくあげてペコ・フラワリーの胸の薔薇を食い千切った。いつの間にか、式神化していたのだ。 「しまった……!」 日堂真宵の脳天にまさに振り下ろされようとしていた大剣を、寸前でペコ・フラワリーが止めた。 「ひっ」 両手で頭を押さえで防御の態勢になっていた日堂真宵が、ほっとしたように顔をあげた。これが、ココ・カンパーニュだったら、日堂真宵は試合に勝ってもお星様になっていただろう。 『勝者、日堂真宵選手』 |
||